AUTOSAR(オートザー)とは?
AUTOSARとは、欧州自動車メーカーを中心に、車載ソフトウェアの共通化を目指し2003年に設立された団体のことです。また、車載ソフトウェアの共通化を実現するためのプラットフォームの仕様名称でもあります。
近年、自動車の電子化が大幅に進み、自動車開発をする際にソフトウェアは欠かせない存在です。AUTOSARでは、自動車に搭載される機能が年々高度になっていく影響で規模が拡大・複雑化するソフトウェア開発を標準化し、開発の簡易化やソフトウェア資産の適切な管理を目指しています。企業の垣根を超えたパートナーシップで標準化活動を行っており、標準化の範囲は、ソフトウェア構造だけではなく開発手法なども含まれています。
参画企業は2021年時点で317社となっており、そのうち9社はAUTOSARの設立時から支えているコアパートナーです。コアパートナー以外にはプレミアムパートナープラス(PREMIUM PARTNER PLUS)から出席者(Attendee)まで5つの会員ランクがあります。
AUTOSAR設立の背景と目的
自動車に搭載されるシステムは年々高度化し、ソフトウェアの大規模化・複雑化が進みました。これに伴い開発コストが増大しています。また、生産性や品質の低下も問題視されています。このような課題に対し、ソフトウェアの標準化が解決策として挙げられ、AUTOSARはこれを実現するために設立されました。
ソフトウェアの大規模化・複雑化
近年、ECU(Electronic Control Unit)による自動車の電子制御が進み、制御系S/Wの開発が大規模・複雑化しました。これに伴い、開発規模(工数)は、20年で1000倍程度へ増大しています。AUTOSARは、これらを簡素化するのを目的としています。
コストの増大や生産性・品質の低下
自動車の電子制御により発生した開発規模の増大と複雑化が、生産コスト自体の増大を招いています。また、市場で発生した不具合のうちS/W起因の事例が増大しており、品質面も問題視されてきました。これらを防ぎ、管理することを目的としてAUTOSARが設立されました。
AUTOSARを構成する企業・団体
AUTOSARへ加入し車載S/Wの標準化を進める中核企業・団体について紹介します。また、5つの会員ランク別の役割についても解説します。
Core Partner (コアパートナー)
Core Partner (コアパートナー)とは、AUTOSARを設立時から支えており、標準化の定義をする中心企業のことです。トヨタをはじめ、BMWやフォードなど世界トップクラスの自動車メーカーおよびコンチネンタル(Continental)やボッシュ(BOSCH)などエンジニアリング企業が中心となり、9社が加入しています。
Premium Partner Plus (プレミアムパートナープラス)
Premium Partner Plus (プレミアムパートナープラス)とは、標準化推進をサポートする企業のことです。
現在、DENSOとVECTORの2社が加入しています。
Premium Partner (プレミアムパートナー)
Premium Partner (プレミアムパートナー) とは、コアパートナー・開発パートナーと協力しAUTOSAR標準の設計し、使用する企業のことです。VOLVO・NISSANなどの自動車メーカーやPanasonicなどの電機メーカー、HUAWEIなどの電子機器メーカーなどを中心に58社が加入しています。
Development Partner (開発パートナー)
Development Partner (開発パートナー) とは、AUTOSAR規格を定義するために、コアおよびプレミアム パートナーと協力する企業のことです。現在、名古屋大学のNCESなど76社が加入をしています。
Associate Partner (加入パートナー)
Associate Partner (加入パートナー) とは、AUTOSAR がすでにリリースしている標準仕様を使用する企業のことです。
富士通や三菱、YAMAHAをはじめ、159社が加入しています。
Attendee (出席者)
Attendee (出席者) とは、AUTOSAR規格の定義をサポートする大学や非営利団体のことです。
大学や研究所など37の団体が加入しています。
AUTOSAR(オートザー)のメリットは車載ソフトウェアの3つの標準化
「開発方法」「アプリケーションインターフェース」「レイヤードアーキテクチャ」の3つを標準化することで、コストが削減され、開発効率が上昇します。また、共通の理解のもとで、海外の部品供給メーカーとも対等な立場で話し合いができ、顧客のニーズに幅広く対応することができるメリットもあります。
開発方法の標準化
開発方法を標準化することで、車両全体のアーキテクチャや各ECUの設計が、統一された記述形式で開発できるようになります。これにより、ECUの違いを気にすることなく開発ができ、開発効率の向上につながります。
アプリケーションインターフェースの標準化
アプリケーションインターフェースの標準化とは、アプリケーションを構成する各機能のSW-C(Software Componet)間インターフェースを標準化することです。これにより、抽出作業などの時間を削減し開発効率を大幅に上昇させることができます。
レイヤードアーキテクチャ(ソフトウェアアーキテクチャ)の標準化
レイヤードアーキテクチャ(ソフトウェアアーキテクチャ)の標準化とは、アプリケーションを再配置、再利用するためのソフト構造を標準化することです。これにより、コストの削減ができます。また、これまで毎回ソフト構造を変換していた時間をアプリケーションの開発にあてることができるため、開発効率が上昇します。
AUTOSAR Classic Platform(CP)とAUTOSAR Adaptive Platform(AP)の違い
AUTOSARでは、静的OS(OSEK/VDX OSベース)を用いた規格Classic Platform(CP)に加えて、2017年に動的OS(POSIXベース)を用いたAdaptive Platform(AP)が公開されました。従来の静的なOSをベースとしたCPでは実現が難しい、次世代自動車向けのプラットフォームが動的OSをベースにしたAPです。APはCPの上位バージョンではありません。それぞれ適材適所によって使い分けされるプラットフォームです。よって、APの登場によりCPがなくなるというわけではありません。
AUTOSAR Classic Platform (CP)とソフトウェア構成
CPは静的なOSEK/VDX OSベースになっており、リアルタイム性が求められるが、計算能力はそれほど必要とされないECU用のソフトウェアプラットフォームです。S/Wは上から順番に「Application Layer」「Runtime Environment(RTE)」「Basic Software(BSW)」の3つのレイヤー(層)で分かれています。
Application Layer
Application Layerは、ライトやワイパーなど、それぞれのECUに応じた様々なアプリケーションを配置します。
Runtime Environment(RTE)
Runtime Environment(RTE)は、上記アプリケーションと下記基本ソフトウェア(BSW)を接続する役割を担っています。
Basic Software(BSW)
Basic Software(BSW) は、ECUの基盤となる基本ソフトウェアで、様々な機能を提供する役割があります。さらに、「Basic Software」は4つの領域に分けられ、ハードウェアを段階的に抽象化します。
- Services Layer
Services Layer は、BSWの最上位のレイヤーで、基本的なサービスと基本ソフトウェアモジュールをアプリケーションに提供することが役割です。具体的には、OSやネットワーク、ECUの状態管理などの機能を提供しています。
- ECU Abstraction Layer
ECU Abstraction Layerには、下記のMCALのインターフェースとしての役割があります。ECUのH/W構成を抽象化し、周辺機器・デバイスへのアクセスを担うレイヤーです。
- Microcontroller Abstraction Layer(MCAL)
Microcontroller Abstraction Layer(MCAL)は、デバイスドライバーとして、外部デバイスに直接アクセスするためのソフトウェアモジュールです。マイコンの抽象化によりペリフェラル(周辺装置)の違いを吸収し、上位ソフトウェアレイヤーがマイコンに依存しないようにするためのレイヤーです。
- Complex Drivers
Complex Driversは、他レイヤーに分類できない機能や高いレスポンスを求められる場合に使用されるレイヤーです。上位レイヤーから直接マイコンにアクセスできる役割を担っています。
AUTOSAR Adaptive Platform (AP)とソフトウェア構成
APは動的なPOSIXベースで、演算能力が高いという特徴があります。そのため、自動運転などに活用されることが多く、世界トップクラスの自動車メーカーなどで採用されています。構成は、「Machine/Hardware」の上に「AUTOSAR Runtime for Adaptive Application(ARA)」があり、そこに「User Application」が載っているという形です。
Machine/Hardware
Adaptive Platformを動作させる部分。
AUTOSAR Runtime for Adaptive Application(ARA)
様々なアプリケーションを適切にシステムに統合するためのインターフェースが複数用意されています。ここには、ユーザーはネットワークマネージメントなどの基本的なサービスへのアクセスやECUを最大限に活用するためのメカニズムが用意されています。
User Application
ARAに乗る形で用意されています。APに準拠したApplicationと、準拠していないものの2種類に対応しています。
AUTOSARの導入方法:ソフトウェアサプライヤとの連携で実現可能
AUTOSARの導入にはいくつかの方法があります。ひとつは、AUTOSARのパートナーシップと連携し導入する方法です。その他に、サードベンダー製のAUTOSARコンフィギュレーションツールを使用し、車載システムを開発しているサプライヤと連携する方法もあります。
また、NECソリューションイノベータは「車載ソフトウェア事業」を展開しており、AUTOSARをはじめ様々なソリューションを提供しています。
自社の開発規模や課題によって連携するサプライヤを選択すると良いでしょう。
まとめ
AUTOSARは、車載ソフトウェアの共通化を実現するためのプラットフォームです。開発方法・アプリケーションインターフェース・レイヤードアーキテクチャの3つを標準化し提供しています。これにより、異なるメーカー、サプライヤ、開発者間でのソフトウェアの相互運用性が改善され、コストの削減や開発効率の上昇が期待されています。
NECソリューションイノベータの「車載系組込みソリューション」は、複数のAUTOSAR BSWパッケージやMCUを扱った実績を持ち、車載ECUシステムにAUTOSARを適用する際の様々な課題解決をサポートします。ぜひご利用をご検討ください。