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「会社目線になっていませんか?」柳川教授との勉強会で気づかされたバイアス。
社員目線の“人的資本経営”とは


2023年3月、NECソリューションイノベータは自社初の「人的資本レポート」を公開しました。自社の人事評価の仕組みなどを詳しく紹介した、会社生活に直結した内容となっています。その後もステークホルダーとの対話や試行錯誤を重ね、このたび、さらに踏み込んだ内容の「人的資本レポート2024」を2024年6月に公開しました。制作の過程では、経済学の第一人者である東京大学大学院 柳川範之教授との勉強会も実施。その内容や、「人的資本レポート2024」のポイントを紹介します。
「会社目線を連想させてしまうのはもったいない」
社員のWell-beingの最大化が目標
人的資本レポートを公開する背景には、社員や求職者をはじめとする全てのステークホルダーに、NECソリューションイノベータが人事制度改革を進めていること、また、人事マネジメントに真摯に取り組んでいることを知ってもらうという目的がありました。そこでレポートでは、自社の人事評価の仕組み、役職の種類や選定のプロセス、福利厚生など、人事に関する情報を余すことなく公開しています。
「人的資本レポート2024」の制作・公開にあたって、昨年発行した第1回のレポートを軸に、社員や社外有識者などのステークホルダーと対話を重ねながら準備を進めていきました。 レポートの作成を担当した人財企画部主任の竹谷は、今年のレポートのテーマを語ります。
「2回目のレポートを発行するにあたり、“社員一人ひとりがWell-beingを向上させ、人生そのものに充実を感じることが、会社・組織のバリュー向上・ひいてはお客様や社会への提供価値につながる”と掲げました。当社の資産は人であり、社員のWell-being(人生そのものの充実)が何よりも大切だと考えています。健康、成長、働きがいに着目し、心身ともにいきいきと働けるような健康のサポート、キャリアを見つめなおすことで成長につながる仕組み作り、会社生活だけでなく日々の生活においても、ワクワクを感じるような、働きがいを育む取り組みなどの推進を行っていきます。このように、当社が人的資本経営で目指す姿は『社員一人ひとりが日々の営みに喜びを感じる”Well-being“が起点となって、最終的にお客様へ提供できる価値や社会課題の解決力向上を目指すこと』であると、レポート上で明言しています」(竹谷)
作成の過程では、人的資本経営にとどまらず経済学の専門家として、東京大学大学院経済学研究科・経済学部の柳川範之教授を迎え、全3回の勉強会を実施。当社からは竹谷とともに、人財企画部 主席主幹の丸岡晶、人財企画部 I&D推進室長の佐野寛子が出席しました。2024年5月に行われた2回目の勉強会では、人的資本レポートの草案についての説明を進めるうちに、柳川教授から「会社目線の語り口になっていないか?」との指摘を受けました。


「御社の人的資本経営は、社員個人の健康、成長、働きがいをもってWell-beingを推進する、としていますが、現状想定されている施策が具体的にどのように社員の『Well-beingの推進』につながるのか、さらには『個人のバリュー向上』につながるのか、整理されていない部分があるのでは。 また、会社生活だけに留まらない人生の充実としてのWell-beingを基にした内容となっているか、これは長期的に取り組むべきテーマではないでしょうか」(柳川教授)
社員個人のWell-beingを向上させることを掲げながら、実際にはまだ会社目線になっていた部分があると竹谷は振り返ります。
「求職者の方や社員の目線で人的資本レポートを出すと宣言しておきながら、私自身が人事ということもあり、経営寄りの考えが染み付いていたのかもしれません。 ”社員にどう当社に貢献してもらうか"という会社側の目線になってしまっていたことに気づかされました。仕事を通して得るスキルや経験は個人に蓄積されていくもので、その蓄積されたものを会社に活かしてもらうためにはどのような仕組み作りをすべきか。それが人的資本経営の基本になっていく、と今回あらためて理解しました」(竹谷)
柳川教授からは「次の段階として、個人のWell-being・バリュー向上を会社・組織のバリュー向上にどのようにつなげるのかという課題が出てきます。これを解決するためには、個人のWell-being向上を会社・組織のバリュー向上にまで引き上げる仕掛けが必要です。さらに、個人のWell-being向上がお客様の満足度を高め、それが会社・組織のバリュー向上になるという絵が描けると理想ですね。そのための会社としての工夫が求められていくと思います」との提言がありました。
情報開示によって求職者に興味を持ってもらいたい
1回目のレポートとの大きな違いは、できる限り、NECソリューションイノベータでの会社生活をイメージしやすい情報を盛り込んだ点です。たとえば今回から、全社平均に加えて、年代別や階層別の総実労働時間、年次有給休暇取得率、研修受講時間、エンゲージメントの数値といった、かつては開示を見送っていた詳細データまで公開しました。また、視認性を重視し、1ページに1テーマのレイアウトにして、読み手に情報がより伝わるような工夫を施しています。
NECソリューションイノベータは非上場企業なので、本来、人的資本の情報開示は義務付けられていません。それでも昨年に続いて人的資本レポートを公開する理由は、「外部に向けてしっかりと情報を出すことで、求職者の方や社員に広く当社の取り組みを知っていただき、多様な方に入社していただきたい、活躍していただきたいという想いがあるから」と竹谷は話します。
「会社が制度を考えるうえで軸とするポイントは各社それぞれだと思いますが、当社は社員が会社に合わせていくのではなく、さまざまな選択肢を用意し、自分に合うものを選んでもらうようにしています。たとえば、当社の人材の中心はシステムエンジニアですが、技術者としてキャリアアップし続けたい人には専門職キャリアという道を、マネジメント業務を希望する人には組織長キャリアという選択肢を用意しています。社員の成長をサポートする支援制度はもちろん、多様な経験ができるよう兼職制度も採用、また社内の人材公募制度として『ジョブチャレンジ制度』を導入し、社員の自律的なキャリア形成や適所適材での活躍を推進しています。人材関連情報を1つのデータベースに集約した“私のキャリア”と名付けたツールでは、社員一人ひとりが個々の経験や培ってきたスキルを閲覧できるようにしています」(竹谷)

社員が必要とするのは、キャリア形成だけではありません。出社やテレワークの頻度をどうするか、テレワークも自宅やサテライトオフィス、ワーケーションなどさまざまな場所があるなか、どこで働くのか、また仕事と私生活をいかに両立・調和させるかなど、働き方という点でも多くの選択肢を用意しています。
「Well-beingの向上には、働く時間や場所も大きく関わってくると思いますが、当社ではコアタイムなしのフレックスタイム制度やリモートワーク、ワーケーションなど、さまざまな働き方ができるようにしています。このあたりのことも、人的資本レポートでかなり詳細まで紹介しています」(竹谷)
人的資本レポートのこれから
竹谷とともに人的資本レポートの作成に携わっている佐野は、「社員に一方的に伝えるというより、声を受け取ることが何よりも大事だと思っている」と話します。
「私たちは社員のWell-beingを大事にしていて、その考えをもとに“こういう制度がある”と提示していますが、社員から見ると“それじゃなくてこういう制度がほしい”という意見があるかもしれません。たとえ時間がかかったとしても、普段の業務ではなかなか接点が持てない職種の社員から内定者に至るまで、いろいろな属性の人に会って、そのあたりを掘り下げていきたいですね。Well-beingに関しては柳川教授とのディスカッションを通して整理することができましたが、具体的な施策の面ではまだまだWell-beingの文脈で語れていないものもあります。レポートの公開後は、そういったものを1つ1つ点検していく必要があると感じています」(佐野)

人的資本レポートは、発行して終わりではありません。2023年12月には、人事担当部門と社員が内容について話し合い、その様子を社内に公開するオープンミーティング を開催。そこで出た意見も参考にするなど、アップデートに取り組んできました。今回のレポート公開後も、人事の最高責任者(CHRO)が社員と直接対話をし、人的資本レポートの内容や背景を直接伝え、現場の声を吸い上げながら、さらなる人的資本経営の高度化を図っていく予定です。
当社の事業を支えているのは人にほかなりません。当社の資産は人で、競争力の源もまた人です。NECソリューションイノベータでは、これからも社員や求職者の方にとって魅力ある企業を目指し、探求し続けていきます。

【柳川範之教授 プロフィール】
柳川 範之(やながわ のりゆき)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
1963年埼玉県生まれ。中学卒業後、父親の海外勤務の都合でブラジルへ
ブラジルでは高校に行かず独学生活を送る
大検を受けたのち慶應義塾大学経済学部通信教育課程入学
同過程卒業後、1993年 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了
経済学博士(東京大学)
慶応大学専任講師、東京大学助教授、同准教授を経て、2011年より現職
新しい資本主義実現 会議有識者議員、内閣府経済財政諮問会議民間議員、東京大学不動産イノ ベーション研究センター長、東京大学金融教育研究センター・フィンテッ ク研究フォーラム代表等。
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UPDATE:2024.07.22