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行動を変える7日間
シリコンバレー発・イノベーション人材育成プログラム「Innovation Boot Camp」

NECソリューションイノベータが2020年より実施している研修プログラム「Innovation Boot Camp(イノベーション・ブートキャンプ)」は、30代以下の若手社員がアメリカ・シリコンバレーに1週間滞在し、現地ならではのイノベーション文化に直接触れることで、“自ら考え、行動する力”を養う人材育成プロジェクトです。
2025年は、選抜された20名が参加。講師や起業家との対話、現地でのフィールドワークを通じて、大きなマインドセットの転換を図りました。
研修の企画・運営を担うイノベーションラボラトリの市川大輔と2名の参加者に、現地で何を感じ、どのような気づきや変化があったのかを聞きました。

イノベーションは“人”から始まる

NECソリューションイノベータでは、2020年よりアメリカ・シリコンバレーでの研修プログラム「Innovation Boot Camp」を実施しています。当初は管理職層を対象にしたものでしたが、2023年からは、『未来のイノベーション人材を育てる』ことに軸足を移しました。現在は、30代以下の若手社員を対象に、起業家の視点やマインドセットを体得することを目的としています。
2025年3月に行われた第4回のプログラムでは、選抜された20名が現地に1週間滞在。価値観を揺さぶられるような多様な人々との出会いを通じて、視野を広げ、自らの行動を変えるためのきっかけをつかんでいきました。

市川 大輔 (いちかわ・だいすけ)
イノベーションラボラトリ シニアプロフェッショナル
芝浦工業大学の機械工学科を卒業後、1999年に日本電気ソフトウェア(現、NECソリューションイノベータ)に入社。プロダクト開発やシステムインテグレーション業務に従事し、2014年にはサイバーセキュリティの新規事業立ち上げをリードした。2019年、イノベーション専門部隊への社内転職をきっかけに、シリコンバレーを活用したオープンイノベーション推進を会社へ提言し、同年11月にNEC Corporation of Americaのサンノゼ拠点に赴任。NECソリューションイノベータにおけるマーケットリサーチ、スタートアップ協業によるオープンイノベーション、および、シリコンバレー発の人材育成を推進している。2022年、MBAを取得。

この研修の発起人であり、現地で企画・運営を担っているのが、イノベーションラボラトリの市川大輔です。入社以来、セキュリティエンジニアとしてキャリアを積み、海外プロダクトの導入やチームマネジメント、エンジニアの育成など幅広い経験を重ねてきました。
2019年11月にシリコンバレーに赴任した市川の主なミッションは、スタートアップとの協業を通じた新規事業開発の推進でした。しかし、あるサミットへの参加が、重要な視点をもたらす転機となったといいます。

「赴任直後、当時の社長とともにスタンフォード大学で開かれたサミットに参加しました。三菱商事様、鹿島建設様、スズキ様の3社による“日本をもう一度変革するイノベーションを”という対談で、『全社を変えるにはまず2割の人材が変わらなければならない』という言葉に衝撃を受けました。仕組みよりも“人”の変化が、真の変革を生む。そう強く実感したのです」(市川)

新規事業の創出を見据えてスタートアップとの連携に取り組む中で、市川は「人材育成の重要性」をあらためて実感。この気づきが、Innovation Boot Campの立ち上げの出発点となりました。

シリコンバレーでしかできない“マインド転換”体験

Innovation Boot Campは、事前・現地・事後という3つのフェーズで構成されています。

事前:オリエンテーションで準備と意識づくり

出発前には、日本で参加者同士の顔合わせや目的共有を行うオリエンテーションを実施。イノベーションを生み出すのに必要なマインドや異文化理解の基礎を押さえながら、期待と緊張を胸に現地研修に備えます。

現地:シリコンバレーでの集中プログラム(DAY1〜DAY5)

現地では、異なる部署から集まった20名の参加者が4〜5人のチームに分かれて活動。同じ部署や職種が重ならないよう編成され、互いに異なる考え方や視点に触れられる環境を用意しています。研修は基本的に英語で行われるため、TOEIC600点以上が参加条件。言語や文化の壁を越える覚悟と準備も求められるプログラムです。

到着初日は自由行動を含む“チームビルディングの日”として設定されており、現地の空気を肌で感じながら、自らのアンテナを高めていきます。この日、自動運転車「Waymo」に乗車した参加者は、「誰も乗っていない車が目の前を走っている様子に、ただただ衝撃を受けた」と振り返ります。

本格的な研修は以下の4つのカリキュラムで構成されます。

  • DAY1:シリコンバレー・マインドセット
    - 批判的思考(クリティカルシンキング)とユーザーファーストの視点に触れ、実践する
    - 多様な価値観や意見を受け入れ、対話を通じて思考を深める演習
  • DAY2:未来志向シナリオプランニング
    - 未来に起こりうる変化の兆しを見つける「シグナル思考」を用い、数年後の社会を描く演習
    - 日常業務では意識しにくい「未来起点」の発想法を学ぶ
  • DAY3:起業家セッション
    - 現地在住の起業家たちが「困難をどう乗り越えたか」を語るセッション
    - アントレプレナーのリアルな思考と行動に触れる
  • DAY4~5:デザイン思考+フィールドワーク
    - スタンフォード大学「d.school」の講師から、発想を形にする手法を学ぶ
    - 現地住民への街頭インタビューとプロトタイピングを繰り返し、アイデアのブラッシュアップを実践

事後:行動宣言とリフレクション

それぞれの気づきや学びをまとめ、何をどう変えたいと思ったのかを自らの言葉にする「行動宣言」を行います。
帰国後に、チーム単位での振り返りや社内共有を行い、学びを職場全体へと広げていきます。

こうした一連のカリキュラムを経て、参加者たちは大きな刺激を受け、それぞれに変化を感じ始めていました。

シリコンバレーで得た視点──“1-(-α)”と“Yes, and”

では実際に、現地で何を感じ、どんな気づきを持ち帰ったのでしょうか。参加者の中から城戸孝二(公共ソリューション事業部門)と北澤はるか(医療ヘルスケア・スマートシティ事業部門)の2名に聞きました。

部分最適の発想から、全体最適の視点へ
城戸 孝二(きど・こうじ)
公共ソリューション事業部門 首都圏住民情報ソリューション統括部

「私は普段、自治体向けの住民情報システムの導入や保守を担当しています。研修を通して未知の事柄に挑戦する怖さもありましたが、それ以上に、今までにはない学びが得られるかもしれないという期待があり、立候補しました」(城戸)

参加前はタスクをきちんと理解できるのか、スピード感のあるプログラムについていけるのかという不安もあったといいます。

「参加者の年齢や役職、所属などは明かされずに研修が始まりました。同じ研修を受けていても、受け取るものや気づきがまったく違う。それを肌で感じました。DAY1の講師の方の『アウトサイダーの意見は本当に大事だ』という言葉から、それを受け入れる姿勢こそがイノベーションに必要だと感じました」(城戸)

研修の中で、城戸の心に強く残ったのが“1-(-α)”の考え方でした。

「私たちはつい、既存のサービスに新機能を追加するといった“1+α”の発想にとらわれがちです。でも、それは部分ごとに機能を強化していく部分最適の発想です。シリコンバレーでは、ユーザーの不満を取り除く“1-(-α)”という視点を重視していて、それが本質的な顧客満足度につながっていくことを学びました。
お客様自身も気づいていない“違和感”に目を向けて、全体最適の発想でアプローチしていく必要がある。それが腑に落ちました」(城戸)

街中でプロトタイプを手にインタビューする実践的なカリキュラムも、強く記憶に残っていると話します。

「英語にはある程度自信があったものの、街頭インタビューはプレッシャーがすごかったです。ですが、失敗を恐れずにまずやってみて、フィードバックをすぐ反映していく。この“試して改善”のサイクルが、まさにデザイン思考なんだと実感しました」(城戸)

研修後は、お客様の何気ない発言の背景を掘り下げるようになったと言います。

「お客様自身が諦めてしまっていることに、私たちが気づいていけるようになりたい。“1-(-α)”の視点は、そういうところから始まるのだと思っています」(城戸)

“Yes, and”で広がった自分の可能性
北澤 はるか(きたざわ・はるか)
医療ヘルスケア・スマートシティ事業部門 デジタルヘルスケア・未来都市統括部

「私は、自治体向けのデジタル健康手帳をはじめ、疾病予防支援のプロダクト開発に携わっています。技術を活用して、人にどんな体験を提供できるかを考えることに関心があり、この研修の内容にとても魅力を感じました」(北澤)

英語でのコミュニケーションには不安があったといいますが、現地での体験がそれを一変させました。

「いざ現地に着いて、Waymoに乗ったとき、『本当に未来に来た』と感じました。自分が最先端技術の中心地にいるという高揚感が、一気に不安を吹き飛ばしてくれましたね」(北澤)

とりわけ北澤の印象に残っているのは、研修後半で取り組んだデザイン思考と、“Yes, and”でアイデアをつなげるワークです。

「新しいアイデアを生み出すには、まず大量にアイデアを出すことが重要だと学びました。研修では、4,000個くらいのアイデアを出せば、使えるものが2~3個見つかるという考え方を教わりました。そのためには、誰かの意見を否定せずに“それもいいね、そして…”と発想をつなげていく“Yes, and”の姿勢が欠かせません。“Yes, and”は、挑戦を後押ししてくれる“場のルール”なんです。誰も否定しないからこそ、自分の発言に自信が持てたし、どんどんアイデアも出せました。心理的安全性って、こういうことかと実感しました」(北澤)

研修後は、”Yes, and”のインフルエンサーになるために、自ら動いているという北澤。

「心理的安全性を実感したことで、このマインドを周りにも広めたいと思いました。遠慮せず、どんどん意見を出し合える雰囲気が必要だと思うからです。そういうチームだからこそ、変化の早い社会にもスピード感を持って対応できる。参加前は『できないかも…』とブレーキをかけていた自分が、今では『まずやってみよう』に変わった。できるかもしれない──、そんな前向きな気持ちを持てるようになりました」(北澤)

行動変容の出発点――シリコンバレーでの気づき

この研修で、市川が目指すのは「体験の提供」にとどまりません。参加者が、自身の行動の変化をきっかけに、職場や組織のカルチャーにも少しずつ影響を広げていく。そのための仕掛けを提供することも重要です。

市川がこだわるのは、「行動宣言」という小さな一歩。

「研修の最後に、必ず、自分は職場に戻ってどんな行動を起こすのかを言語化してもらいます。ほんの数行でも、自分の言葉で約束することに意味がある。何をどう変えるのか、未来への意志がはっきりと形になります」(市川)

実際に参加者たちは、それぞれの想いを宣言という形で残しています。

城戸は「この研修を広めるためのアクションをしたい」と語り、業務では「お客様が見過ごしている違和感にしっかりと目を向け、課題の本質を掘り起こしたい」と意欲を示します。

北澤は「自分は“できるという感覚”を信じて、まずやってみる。学んだ顧客視点を自分の仕事にしっかり取り入れていきたい」と決意を語り、「自分のように、一歩踏み出したい人にこそ、この研修を受けてほしい」と言います。

日本国内にもさまざまな研修プログラムがあるなかで、市川はなぜシリコンバレーという場所にこだわるのでしょうか。

「経営コンサルタントの大前研一氏の言葉に、『人間が変わる方法は3つしかない。時間配分を変える、住む場所を変える、つきあう人を変える』というものがあります。まさにこの研修は、それらをすべて備えている。見知らぬ土地に身を置き、言語も文化も違う環境に飛び込むことで、人は緊張感と集中力を高め、学びを吸収する体勢になります」(市川)

さらに、シリコンバレーという土地の持つ「空気感」も重視しています。

「シリコンバレーは、世界中からテクノロジーも人も集まる“イノベーションの聖地“です。多様な文化や価値観が交差するこの場所に身を置くこと自体がインスピレーションにつながります。街頭インタビューをしても、日本よりはるかにポジティブな反応が受けられます。イノベーションへの理解やフィードバックをして応援する文化が根付いており、インタビューを断られることは少なく、前向きに応じてくれる人が多い。『聞くことに価値がある』と実感できる場所なんです」(市川)

イノベーションを企業文化にしていく

現在は若手社員を対象に年1回実施しているInnovation Boot Camp。市川は今後の展開についてこう語ります。

「これからは、役員層向けのプログラムや、年に複数回行うライト版も検討しています。イノベーション人材は、新規事業を生み出すだけではなく、組織の文化を変えていく存在。だからこそ、より多くの人に体験してもらいたいのです」(市川)

これまでの参加者の中からは新規事業が芽を出すなど、着実に成果が生まれつつあります。
たとえば、第1期の参加者は、本研修で得たマインドと“Yes, and”の姿勢をベースに、地域経済の活性化を目指す「NEC 応援経済圏構築プラットフォーム」の立ち上げを牽引しました。このプラットフォームは、大阪・関西万博の独自電子マネー「ミャクペ!」の基盤としても活用されています。

一方で 市川は、参加者の変化だけで終わらせないための仕組みづくりの重要性にも目を向けています。

「研修を終えて帰国すると、今までと変わらない職場環境の中に戻ることになります。変化した自分と、変わらない周囲とのギャップに戸惑う参加者も少なくありません。イノベーション人材が孤立せずに行動を継続できるように、橋渡し役やサポート体制が必要だと感じています」(市川)

周りを巻き込んで何かを変えようとする時だけではなく、自らが変わろうとする時にも、本人の努力だけでは難しいケースも多くあります。研修の効果を一過性のものにして終わらせないために、企業文化や全社の体制に働きかける仕組みとして進化させていくことが、今後の課題です。

「日々の業務の中でも変化を起こせる人材を増やしたい。門戸を広げて、1人でも多くのイノベーション人材を育てていくことが、これからのNECソリューションイノベータの強みになると信じています」(市川)

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UPDATE:2025.6.9