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学会・研究成果発表
Thanks Appと組織エンゲージメント調査票を使った実験の論文が採択されました
デジタル感謝と信頼構築
DATE:2022.04.12
研究テーマ:感謝、組織エンゲージメント
2021年7月、国際学会「Society of Open Innovation: technology, market, and Complexity」において、2019年に奈良県三宅町役場で行った「ありがとうキャンペーン」[1]のデータを分析した結果を発表しました。この学会で、「非常に興味深い」と好評をいただき、同学会が発行する論文誌「Journal of Open Innovation: Technology, Market, and Complexity」に論文「Digitalizing Gratitude and Building Trust through Technology in a Post-COVID-19 World—Report of a Case from Japan」を投稿し、2022年1月に採択されました[2]。

この論文では、Thanks App [3]を使いデジタル化された感謝と、組織エンゲージメント調査票[4]の各因子との関係性を分析しました。その結果、感謝ネットワークの複雑度が「同僚への信頼」因子と有意で強い相関を持つことが分かりました。
感謝ネットワークとは、デジタル感謝データをつなぎ合わせて形成される人間関係のネットワーク構造のことです。このネットワークの特徴は、純粋な感謝というポジティブ感情だけを使用し、ポジティブな関係性だけを抽出している点です。例えば、SNSの人間関係ネットワークはネガティブな関係性も含まれてしまいます。感謝ネットワークは、ネガティブな関係性を含まないため、ポジティブな関係性である「信頼」と強い相関が見られたと考えられます。
ネットワークの複雑度は、私達が新たに定義した指標で、有限ノードで形成される三角形ネットワークの密度を使用しています。詳しい人であれば、ネットワーク密度の拡張であることが、すぐに分かるかもしれません。
また、今回の論文では、組織エンゲージメント調査票[4]の信頼性と妥当性の検証結果も記載しています。信頼性と妥当性は、心理学の先行研究の尺度開発基準に則って検証しました。その結果、心理学的にも信頼性と妥当性が保証された調査票になりました。
論文出版後の追加調査によると、組織エンゲージメント調査票[4]の「同僚への信頼」因子は「心理的距離の近さ」を表していることが判明しています。Algoe氏の「Find-remind-and-bind」理論によれば、感謝を相手に表明する行為は、二人の関係性をより強固なものにします。「心理的距離の近さ」と「関係性の強さ」を同じものととらえれば、今回の論文の結果はAlgoe氏の先行研究と整合していると言えるでしょう。一方で、Algoe氏がアナログな感謝を使ったのに対し、私達はデジタルな感謝を使っています。このことから、デジタルな感謝でも、先行研究と同様の効果が見込めることが示唆されました。
最後に、今回の論文では感謝による信頼改善効果があるとは言えませんが、少なくとも1つの有用性が見えてきています。それは、Thanks Appを利用している限り、チームに存在する信頼感をリアルタイムに数値化・可視化できるということです。皆さんは、信頼を感じたことはあるでしょう。しかし、信頼を見たことはないのではないでしょうか?
もし信頼が見えれば、信頼をマネジメントすることもできるかもしれません。テレワークで顕著になったように、離れたチームメンバーとの協働作業では、信頼が今まで以上に重要になります。そんなとき、信頼が可視化されていると、とても便利なのではないでしょうか。
参考:
[1] https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/press/20190819/index.html
[2] https://www.mdpi.com/2199-8531/8/1/22
[3] https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/rd/thema/kansya/index.html
[4] https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/rd/thema/engagement/index.html
[5] Algoe, S. B. (2012). Find, remind, and bind: The functions of gratitude in everyday relationships. Social and Personality Psychology Compass, 6(6), 455-469.
担当者紹介
研究テーマ:エンゲージメント
担当者:山本 純一 Ph.D.
コメント:科学と技術と経営学と心理学と組織開発の融合分野を研究しているみたいです。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーション推進本部
