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エンゲージメント研究
一般的なエンゲージメント研究について紹介します
エンゲージメントとは?
2つの対象の結びつきの強さのこと
エンゲージメントを最も広く定義するとすれば、「2つの対象の結びつきの強さ」と定義できることでしょう。現在、多くの場面でエンゲージメントという文言を目にしますが、これらは「2つの対象」を置換することで表現することができます。例えば、次のようなエンゲージメントがよく使われています。
- 婚約(エンゲージメント)… 男女
- 顧客エンゲージメント … 顧客と商品
- ブランドエンゲージメント… 消費者とブランド
- 個人エンゲージメント … 役割と個人(Kahn,1990)
- ワーク・エンゲージメント… 仕事と労働者(Schaufeliら, 2002)
- 従業員エンゲージメント … チームとメンバー(Harterら, 2002)
- 組織エンゲージメント … 組織と成員の結びつき(Saks, 2006)

個人エンゲージメント
仕事の役割に全身全霊を傾けた状態
Kahn(1990)の個人エンゲージメントは、仕事に関するエンゲージメント研究の始祖にあたり、産業組織研究におけるエンゲージメント概念を創造しました。- 個人エンゲージメント
- 組織メンバーの自己を仕事の役割に活用(harnessing)すること;
エンゲージメントでは、人は役割遂行の際に、身体的、認知的、感情的に自分自身を使い、表現する。
- 個人ディスエンゲージメント
- 仕事の役割から自己を切り離す(uncoupling)こと;
ディスエンゲージメントでは、人々は役割遂行中に身体的、認知的、感情的に引きこもり、自己を守る。(Kahn, 1990)

ワーク・エンゲージメント
仕事に対するポジティブで充実した心理状態
ワーク・エンゲージメントは、提唱者であるSchaufeli博士(ユトレヒト大学)によって、次のように定義されています。- ワーク・エンゲージメント
- 仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる。そのエンゲージメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である。
(Schaufeli, et. al, 2002)
定義からすれば、ワーク・エンゲージメントは「充実感」という説明が最も近いと考えられます。特徴である「活力・熱意・没頭」は、「充実感」に影響する要因と考えた方がよいかもしれません。

従業員エンゲージメント
行動ベースのグループレベルの満足度
従業員エンゲージメントは、ギャラップ社のHarter博士らによって開発された尺度Gallup Workplace Audit(GWA)が測定している概念に対してつけられた用語です。- 従業員エンゲージメント
- 従業員エンゲージメントという用語は、個人の仕事への関与と満足度、および仕事への熱意を指す。総合的な満足度の項目は別として、GWAの12項目は、ワークグループの上司またはマネジャーが行動可能なプロセスや問題を測定するものである。(中略)より一般的な理論的構成要素である “職務満足度 "から、これらの実行可能なワークグループレベルの側面を区別するために、従業員エンゲージメントの尺度と呼ぶ。
(Harter, et. al, 2002)
GWAは、行動ベースの尺度(どんな行動をとったかを尋ねる質問群)であり、心理状態を尋ねる尺度ではありません。現在、GWAはQ12としてよく知られています。

組織エンゲージメント
組織の一員として役割に意義を感じている状態
組織エンゲージメントは、従業員エンゲージメントが大きく2つ(仕事と組織)に分けられることから導入されました。- 組織エンゲージメント
- このモデルの核となるのは、従業員エンゲージメントの2つのタイプ、すなわち職務エンゲージメントと組織エンゲージメントである。これは、エンゲージメントが役割と関連しているという概念化から導かれる。ほとんどの組織メンバーにとって最も支配的な2つの役割は、仕事の役割と組織の一員としての役割である。したがって、このモデルでは、仕事と組織の両方のエンゲージメントを含めることで、このことを明確に認めています。
(Saks, 2006)
実際、役割外行動の1つで、組織の潤滑油としての役割を担う組織市民行動は、仕事のエンゲージメントとは無関係ですが、組織エンゲージメントと関係することが確認されています(Saks, 2006)。

エンゲージメントの効果
満足度の向上、離職率の低下
エンゲージメントの研究では、職務満足度(job satisfaction)、情緒的な組織コミットメント(organizational commitment)、退職意図(intent to quit)の3つが結果指標として頻繁に使用されます。そして、ほとんどの研究で、エンゲージメントは、職務満足度と組織コミットメントを高め、退職意図を減らす効果が確認されています。この他に、Harterら(2002)のメタ分析によれば、顧客満足(customer satisfaction)や生産性(productivity)と正の相関があることが確認されています。また、Saks(2006)の研究では、組織エンゲージメントには組織市民行動との性能相関が確認されています。
誤解を恐れずに言うと、エンゲージメントが高い人は本気で仕事に全力投球する人々なので、手を抜こうとは考えないため生産性が高く、仕事をやり遂げることが多いため職務満足度が高く、仕事の出来栄えも高品質になるため顧客満足度も高くなり、仕事が上手くいっているため退職しようとは考えないのでしょう。
ただし、従業員個人は「成長したい」「達成したい」と考えることはあっても、「エンゲージメントを高めたい」と考えることはめったにありません。エンゲージメントは状態にすぎないため、従業員のエンゲージメントが何に起因しているのかは、別の指標で測定しなければなりません。そのため、要因を網羅的に探るためのエンゲージメント・サーベイ・サービスがたくさん提供されています。

従業員満足度調査との違い
不満がないからといって、充実しているとは限らない
多くの従業員満足度調査では、不満に思っていること(例:人間関係、評価)や不足しているもの(例:福利厚生、給与)を尋ねるアンケート調査を行いがちです。このような調査は、「満足」=「不満がない」と無意識に定義していることになります。しかし、不満の解消はハーズバーグの衛生要因の解決にすぎず、動機付け要因の調査は怠っていることになります。言い換えると、いくら不満を調査して解消しても、充実するとは限りません。これに対して、提供各社で定義は異なるかもしれませんが、エンゲージメント・サーベイは基本的に「不満がない状態を、充実した状態にする」ことを目的として作られているはずです。サービスによっては、不満を聞く質問項目も含まれているかもしれませんが、その場合でも充実した状態も同時に測定していることでしょう。

組織エンゲージメント調査票
参考文献
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Kahn, W. A. (1990). Psychological conditions of personal engagement and disengagement at work. Academy of management journal, 33(4), 692-724.
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Schaufeli, W. B., Salanova, M., González-Romá, V., & Bakker, A. B. (2002). The measurement of engagement and burnout: A two sample confirmatory factor analytic approach. Journal of Happiness studies, 3, 71-92.
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Harter, J. K., Schmidt, F. L., & Hayes, T. L. (2002). Business-unit-level relationship between employee satisfaction, employee engagement, and business outcomes: a meta-analysis. Journal of applied psychology, 87(2), 268.
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Saks, A. M. (2006). Antecedents and consequences of employee engagement. Journal of managerial psychology, 21(7), 600-619.