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調査票の作り方

当社の組織エンゲージメント調査票の作成過程をご紹介します。

研究で保証された概念モデルを拡張

ワーク・エンゲージメント研究は、バーンアウト(燃え尽き症候群)の反対の概念の研究として始まりました。バーンアウトとワーク・エンゲージメントの間の関係を確かめるため、またそれらの要因と効果を確かめるため、仕事の要求・資源モデル(Job Demands-Resources Model, JD-Rモデル)が提唱されています。JD-Rモデルが成立することは、オランダ・スペインをはじめとする世界各国で確認されています。

JD-Rモデルによれば、①ワーク・エンゲージメントが高い人はバーンアウトになりにくいこと(反対の概念であること)、②ワーク・エンゲージメントが仕事のパフォーマンスに好影響を与えること、③仕事の資源(学習機会や上司同僚のサポートへの期待)がワーク・エンゲージメントを高めること、④仕事の要求(作業負荷や時間の無さ)はワーク・エンゲージメントと直接の関係がないことなどが分かっています。

しかし、ワーク・エンゲージメントと職場への影響が予想される組織風土や従業員のパーソナリティ(個人特性)、労働生産性との関係の研究は、世界でもわずかしかありませんでした。そこで、私達はJD-Rモデルに組織風土やパーソナリティ、組織市民行動(組織や同僚に自発的に協力する行動)、生産性の概念を追加し、バーンアウトやストレス反応を除外して「エンゲージメント」に焦点を当てたモデルを考えました。

研究で保証された概念モデルを拡張

研究で使用されるアンケートを収集

初期調査を行うにあたって、JD-Rモデルの研究で使用されたことがあるアンケートや、独自に追加した概念の研究で開発されたアンケートを学術論文から収集し、40種類の調査票をまとめた608問に及ぶ巨大なアンケートを作成しました。

収集したアンケート

  • ワーク・エンゲージメント
  • 組織風土
  • パーソナル・エンゲージメント
  • 組織公正性
  • 心理的エンゲージメント
  • 報酬的同僚関係
  • チーム・ワーク・エンゲージメント
  • 支援的上司関係
  • Big5
  • 褒賞・承認
  • 中核的自己評価
  • 役割の衝突
  • 心理資本
  • 役割の曖昧さ
  • プレゼンティーズム
  • 同僚の規範
  • 組織コミットメント
  • 疲労感とリフレッシュ
  • 職務満足度
  • 人間関係の対立
  • 退職意図
  • 組織の制約
  • 組織市民行動
  • 定量的作業負荷
  • 職務特性
  • 因子的裁量尺度
  • リーダー・メンバー交換(LMX)
  • 仕事の要求・資源

研究で使用されるアンケートを収集

1000人分の回答データを取得

調査会社の協力の下、作成した608問の巨大アンケートについて、1000人分の回答データを取得しました。しかしながら、質問数が膨大なことから回答の品質にばらつきが見られました。そこで、一定の基準を設けて品質を判断し、基準をクリアした599人分の回答を回答データとして採用しました。

回答データを標準化した後、概念間の関係を確認するために、偏相関分析を行いました。結果、エンゲージメントが個人と組織をつなぐ概念になっていることを確認しました。(日本経営工学会2017で発表)

1000人分の回答データを取得

回答データから10個の因子を抽出

次に、608問599名の回答データから、探索的因子分析を用いて、因子の抽出を試みました。このとき、妥当性として因子負荷量は0.4以上、信頼性としてクーロンバックα係数は0.8以上の因子の抽出を試みました。結果として、ワーク・エンゲージメントを含む17個の因子を抽出することができました。

その後、抽出した因子の平均値を用いて、偏相関分析を行ったところ、7個の因子はワークエンゲージメントと有意な相関が見られませんでした。そこで、相関が見られなかった7個の因子を除外し、ワーク・エンゲージメントを含む10個の因子をエンゲージメントに関する測定概念と定義しました。

回答データから10個の因子を抽出

アンケートを608問から43問に短縮

608問のアンケートは、とても実用に耐えられるものではありません。特定した10個の因子に関する質問に絞ったとしても200問以上あり、最小限の質問項目に短縮する必要がありました。

短縮にあたっては、項目反応理論の中で使用されるI-T相関(Item-Total相関、単項目と総合得点の相関)の考え方を利用しました。具体的には、1因子を構成する質問項目をI-T相関の大きい順に並べ、1問目と2問目の合計点と総合得点の相関、1問目から3問目の合計点と総合得点の相関、・・・と計算していき、相関係数が0.95以上となった項目数で打ち切ります。相関係数0.95は、2つのデータがほぼ同一とみなせる値です。これを繰り返すことで、43問に短縮することができました。

その後、43問のアンケートで1000人分の回答データを再度取得し、探索的因子分析を通じて、10個の因子が再現されることを確認しています。

アンケートを608問から43問に短縮

独自の質問項目へ置き換え

エンゲージメントに関わる因子と質問項目が得られたため、オリジナルの質問項目をすべて独自の質問項目に置き換えました。

オリジナル質問をもとに約3倍の独自質問を考案し、オリジナル質問と独自質問を合わせて1000人分の回答データを取得しました。得られた回答データに対して確証的因子分析を行い、オリジナル質問から得られる因子と独自質問から得られる因子の相関係数が0.95以上になるように独自質問を選定しています。

同時に、オリジナル質問の回答データを探索的因子分析を行うことで、10個の因子が抽出されることを確認しています。これによって、約1年の時間を隔てても再現性があることが確認できました。

独自の質問項目へ置き換え

データ分析に基づく「組織エンゲージメント調査票」が完成

このようにして、ワーク・エンゲージメントと組織風土を含む組織エンゲージメント調査票が完成しました。

主な特徴

  • ワーク・エンゲージメントと同等の要因を測定できます
  • 経験や勘によらずに作成されたため、作成者の主観に依存していません
  • 仕事と組織のエンゲージメントを同時に測定します
  • エンゲージメントと関連のある要因を含み、対策を考えやすくしています
  • 組織の網羅的調査ではなく、現場の原因や対策のための調査を行うものです
質問数  43問(所要回答時間:5分)
回答方法 リッカート式7件法

データ分析に基づく「組織エンゲージメント調査票」が完成