ヒューマンインターフェースロボットの開発スタイルを変えた革新のプラットフォーム。
他に類を見ない統合パッケージ
エンベデッドソフトウェア事業部
石田エキスパート
皆さんご存じのNECの「パペロ(PaPeRo)」は、ホンダの2足歩行ロボットやトヨタの楽器演奏ロボットのようなメカトロニクスがメインのロボットではなく、人との自然な対話やコミュニケーションを実現する音声対話を中核にしたヒューマンインターフェースロボットとして発展してきました。この「パペロ」用に開発されたプラットフォームアーキテクチャをどのようなロボットにも使える形に切り出して製品化し、機能部品(音声認識、音声合成、画像認識)をオプションとして加えてパッケージ化した、ロボット開発の基盤となるソフトウェア群がNECソリューションイノベータのRoboStudioです。
ロボットを新しく作りたいと思ったとき、音声認識、音声合成、画像認識といった機能を実現するプログラムはバラバラに多く売られています。しかし、ロボットを作成するのに必要なこれらの機能を統合制御するためのプラットフォームはほとんどありません。統一されたコンポーネントモデルに従うことで各機能が結合出来るものはあるのですが、ロボットに本当に必要な機能は結合したさらにその先の統合制御にあるのです。ここまで実現しているものは今のところRoboStudioだけではないでしょうか。
ロボット開発のフットワークを革新する
新しいロボットを作りたい企業がローコストで短期間にソフトウェアを開発できる、それがRoboStudioの大きな特長であり、活用メリットです。例えば、部屋の中を散歩しながら人を探したり人と対話するアプリケーションでは、障害物の検出と回避、人の研修と、音声対話、振り付け、ハードウェア制御など多くの処理を同時並行的に行う必要があり、アプリケーション開発にあたっては複雑で高い技術力とスキルを要します。実行環境と開発環境をハードウェア構成に合わせてカスタマイズ必要も出てきます。開発はもとよりメンテナンスにあたっても困難要因が多く、ロボット開発にあたってのハードルのひとつともなっていました。そのハードルを思い切り下げたのがRoboSudioです。ユーザはハードウェアにこのRoboStudioを組込むことで、多様なコミュニケーション機能を簡単に付加することができます。ロボットのアプリケーション開発を容易にするさまざまな工夫がなされた革新的なソリューションとして発売以来、多くの企業に興味を持っていただいています。
最大の特徴は専用のスクリプト言語
RoboStudioは、一旦は全てC言語でアプリケーションを組み上げたのですが、作ってみると非常に複雑で再利用性が悪く生産性が低いものになってしまいました。そこでわかったのは、ロボットのアプリケーションは普通のPCのアプリケーションのようにそれぞれが自分の処理だけをすればよいのではなく、全てのアプリケーションが階層化され融合されて機能しなければ装置全体として成り立たないということでした。そこで、アプリケーションの階層化と部品化を実現するのに最適なプラットフォームアーキテクチャを新しく設計し、そのアーキテクチャ上で動作する専用のスクリプト言語を開発しました。
具体的には、アプリケーションの階層構造をXMLドキュメントの構造を利用して記述し、複数ドキュメントの組み合わせでアプリケーション全体を構成します。実際の処理はスクリプト言語で記述しますが、その文法はプログラマに馴染みやすいと思われるC言語に似たものにしました。これにより再利用性とメインテナンス性を向上させ、プログラマは所望の処理だけに専念することができるようになりました。この結果として様々な事象に対しその時点で最適な処理を動的に選択して実行できるようになっています。例えば頭についているスイッチを押したという利用者の動作が1つの事象と言えますが、この時どのような意味解釈をし、どのような反応をするかはアプリケーションによっても違いますし、同じアプリケーションでも状況によって違っていたりします。プログラマは自分が処理するか、無視するのか、他のモジュールに任せるかを構造記述により自由にしかも簡単に決めることができます。
ロボット市場は9.7兆円へ成長
平成22年4月、経済産業省がロボットの将来市場予測を公表しました。それによれば、「ロボット産業は製造業を始めとした現在市場が形成されている分野の成長に加え、サービス分野をはじめとした新たな分野へのロボット普及により、2035年には9.7兆円まで成長すると予測されています」。
現時点のロボットはパソコンの黎明期とよく比較されます。何の役に立つのかよくわからなかったパソコンは、キラーアプリとして表計算とワープロを得ることで普及が進みました。ロボットのキラーアプリにNECの統合制御技術が組み込まれることにより、ロボットの活躍の場は大きく拡がると信じています。
現在、経済産業省の次世代ロボット技術開発のナショナルプロジェクトにNECを含むたくさんの企業や大学が参加し、NECソリューションイノベータもその開発担当として関与しています。多くの新しい技術が実用化されようとしており、新しい可能性に期待が高まっています。産業総合研究所が開発したRTMというコンポーネントモジュール機構に準拠することで参加者同士の機能は結合可能ですが、NECはRoboStudio開発での経験を活かしてこれらの機能の統合制御機構を提案しており、参加者から注目していただいています。
デジタルディバイド解消への貢献を
「ロボットって本当は一体何だろう?」私は開発中、この問いをいつも繰り返してきました。古くは「人の役に立つ存在、人のために働く存在」という定義もあったでしょうが、今はそれに「機械が人に優しく接するための存在」をつけ加えたいと思っています。性別、年齢、教育レベルなどに関係なく誰でも機械を操作し使えるようになり、急速に進歩するテクノロジーの恩恵を受けるためにロボット技術が必要だと考えていますし、最近言われている「デジタルディバイド」という格差の解消に少しでも貢献できればうれしいです。
エンベデッドソフトウェア事業部 石田エキスパート
1988年NECホームエレクトロニクス株式会社に入社。個人向けパソコンPC-88-VAや海外向けノート型PC-AT互換機のアプリケーション開発や商品企画に携わる。その後次世代情報家電の先行開発を行い、家庭向けSTB、インターネットTV、HDDレコーダなどのプラットフォーム開発やミドルウェア開発を手掛ける。2000年NEC移籍後は一貫してロボットの研究開発に関わり、ロボットに適した独自のプラットフォームを開発する。2003年以降はNECソリューションイノベータでロボットの商用化活動を中心に活動している。ロボットに必要なセンサ技術および認識技術に対して興味を持っており、ロボットだけでなく広く人と機械を近づけるための技術に育てるべく奮闘中。