サイト内の現在位置
コラム
EC売上高が20%以上UPした企業も
ウィズコロナ時代のオンライン接客最前線

UPDATE : 2021.05.14
新型コロナ禍と前後して、アパレルを中心とした小売業界でICTを活用した「オンライン接客」を採り入れる企業が増加しています。背景にあるのが、今も断続的に続く外出自粛要請で、「不要不急」の代表格とされる服飾品や化粧品、宝飾品、娯楽品を取り扱う店舗への来客が激減したからです。この記事では、そうした小売業界のV字回復に貢献するオンライン接客ツールについて紹介。オンライン接客で実現することや最新の事例を解説します。
INDEX
- コロナで窮地に陥った小売業を救うオンライン接客とは
- ICT活用したオンライン接客の手段 売上に直結する販売方法を解説
- チャット
- ライブコマース
- ビデオ通話
- VR
- アバター(サイネージ)
- アパレル業界だけじゃない 様々な企業がオンライン接客を活用
- 販売員のスタイリング投稿やライブ配信でEC売上高が25%UPしたアパレルショップ
- ビデオ通話によるブランド体験を追求 平均単価が5倍増加したジュエリーブランド
- VRとビデオ通話の活用 自宅でも不動産の物件探しが可能に
- チャットとビデオ通話を使った引っ越しのオンライン見積
- 販売員の感染予防や人手不足解消に効果的 アバターが接客するペットショップ
- まとめ
コロナで窮地に陥った小売業を救うオンライン接客とは
「オンライン接客」とは、ビデオ通話や動画配信、チャットなどのデジタルツールを駆使してお客さまとコミュニケーションする接客手段の総称。インターネット上で行われることから「Web接客」と呼ばれることもあります。
そんなオンライン接客が今、これまで以上に注目を集めているのは新型コロナ禍で売上が低迷する小売業界の新たな販売手法として活用できるからです。2020年4月に全国で緊急事態宣言が発令された際は、飲食料品、医薬品などをのぞくほとんどの小売業者が大幅な売上減を記録。とりわけ「織物・衣服・身の回り品小売業」は4月の売上が半減し、その後も長く苦戦を強いられています(経済産業省『2020年上半期小売業販売を振り返る』より)。この損なわれた売上をオンライン接客でV字回復させようというわけです。
オンライン接客への注目が高まっていく中、IT企業各社がオンライン接客ツール、ソリューションの展開を強化。オンライン接客ツールを有効活用することで、販売機会の損失が減り、売上や客単価の向上が実現しやすくなると言います。事実、店舗売上が激減したにもかかわらず、オンライン接客ツールの導入でEC売上高が前年比40%増、平均客単価も5倍以上になった企業もあります(具体的な成功事例は後ほど紹介)。
オンライン接客のメリットは店舗側だけに留まりません。2020年10月~11月に実施されたアンケート調査(ライフネット生命調べ)によるとオンライン接客を経験した人の多くが「家でも接客を受けられるのが便利だから」(42.6%)、「電話や対面よりもオンラインの方が気軽に相談しやすいから」(38.5%)と、オンライン接客の手軽さを評価しています。

売る側、買う側双方にメリットが大きいことから、新型コロナ禍収束以降もオンライン接客が活用されていくことは間違いありません。ウィズコロナ時代の新たな販売スタイルとして、定着・拡大していくでしょう。
ICT活用したオンライン接客の手段
売上に直結する販売方法を解説
今後、多くの小売業にとって必須の取り組みとなるオンライン接客ですが、一口にオンライン接客といっても様々な手法があります。ECサイトの売上を確実に向上させるためには、自社の業態やお客さまの購買動向に合わせた適切な手法を選ぶ必要があります。
以下では、オンライン接客の代表的な手法について解説します。
チャット
ブラウザやアプリのチャットツールを用いて、お客さまとテキストベースで1:1の双方向コミュニケーションを行う手法です。問い合わせにすぐに返答されることがお客さまのメリットとなります。幅広い業種ですでに活用が進んでおり、店舗側にとっても1人のオペレーターが複数の顧客に対応できるメリットがあります。
昨今ではお客さまの問い合わせ窓口にAIチャットボットを活用する店舗も少なくありません。これまで窓口に寄せられた会話履歴を学習したAIチャットボットが、お客さまからの質問に対し、音声やテキスト、ときには画像を用いて適切な回答を返します。より踏み込んだ購買サポートには、人間のオペレーターが対応する有人チャットと併用することで、お客さまの購買意欲を促し、ECサイトの売上アップに成功した店舗も増えています。
ライブコマース
タレント性のある販売員を司会進行役(ファシリテーター)に据え、ライブ動画(番組)形式で自社商品のアピールを行う1:N(多数)方式のオンライン接客手法です。すでにブランドに対して愛着を持つファン層に向けて発信されることが多く、特定の商品を強く訴求できます。
番組に企画性を持たせたり、拡散力のあるインフルエンサーをゲストに招いたりするなど、いかにして盛り上げ、没入させるかが成否のポイント。同時に数百から数万のお客さまに働きかけることができる反面、視聴者が有益な情報でないと感じると即座に離脱されてしまうシビアな側面もあります。
ビデオ通話
ビデオ通話ツールなどを使い、お客さまと販売員が実際に顔を見ながら1:1でコミュニケーションする、最も実際の店舗に近いオンライン接客手法です。服飾品、化粧品など、お客さまの装いを確認しながら接客をしたい業界で多く活用されています。販売員に相談しながら購入を検討したいお客さまに適した接客方法です。ライブコマースと異なり1:1の双方向コミュニケーションとなるため、より深くお客さまのニーズを引き出すことが可能です。従来の接客スキルを活かしやすいメリットもあります。
VR
VR(仮想現実)技術を駆使し、まるで自分がそこにいるかのように感じられる、あるいはまるで商品が目の前にあるかのように感じられる手法です。住宅や自動車、家具など、実際に商品を見てみたいというニーズをVR技術で補完。販売員はVR空間の操作と音声で接客します。商品体験のリアリティが大きく向上するメリットがある反面、他のオンライン接客手法と比べて、店舗側にはVR空間を制作する労力とコストがかかるデメリットも。お客さま側にもVRゴーグルなどのハードウェアを用意していただく(あるいは設備のある店舗までお越しいただく)必要があります。
関連記事:VRとは?仮想空間を体験できる仕組みやARとの違いなどVRの基礎知識を解説
アバター(サイネージ)
実際に店舗を訪れたお客さまに直接対面することなく、店頭のサイネージ(大型モニター)に表示されたアバター(CGキャラクター)を通してオンライン接客する方式。店頭スタッフでは対応しきれない深い質問に対し、専門知識が豊富なコンシェルジュが回答するなどして、お客さまの購買を後押しします。人数の限られる専門的人員を効率的に配置できるメリットがあり、化粧品販売から銀行窓口業務などまで、昨今、幅広い業界で導入が進んでいます。
アパレル業界だけじゃない
様々な企業がオンライン接客を活用
アパレル業界を中心に導入が加速しているオンライン接客は、今やそれ以外の幅広い業界でも活用されるようになりました。ここではそうした活用事例を幅広い業界からピックアップして紹介します。
販売員のスタイリング投稿やライブ配信で
EC売上高が25%UPしたアパレルショップ
「GLOBAL WORK」「LOWRYS FARM」「niko and...」など、国内外で30以上のブランドを展開するアパレル企業アダストリアは、新型コロナ禍による大幅な売上減をカバーするべく自社ECサイト「.st(ドットエスティ)」の売上拡大に注力。2018年から始めていた全国ショップスタッフが、自らのスタイリング、コーディネート写真を投稿する「STAFF BOARD」の参加メンバーを約1.5倍に拡充したほか、動画SNSを利用したライブコマース施策も強化しました。
結果、2020年3-5月期(第1四半期)のEC売上は前年同期比25.7%増となる134億円に大幅アップ。全売上におけるEC比率も前年同期比を23ポイントも上回る42.8%となりました。同社はこの成功を受けて、投稿コンテンツをアーカイブ化してECサイトと連携させる「.st CANNEL」を2020年5月に開設。さらにオンライン接客の活用を加速しています。

ビデオ通話によるブランド体験を追求
平均単価が5倍増加したジュエリーブランド
スワロフスキージュエリーやアクセサリーの輸入販売を行うスワロフスキー・ジャパンは、2020年10月より、ビデオ通話ツールを利用したオンライン接客「SWAROVSKI ONLINE APPOINTMENT(スワロフスキー・オンラインアポイントメント)」でプレミアムカスタマーへのリーチを強化。旗艦店・スワロフスキー銀座の知識豊富なスタッフがお客さまの相談に乗るかたちで適切な商品を提案する、完全予約制サービスです。
自分だけの、プライベートな空間でじっくりとコミュニケーションできることや、銀座店でしか扱っていない商品を確認できるためお客さまの評価は上々。顧客満足度が80%以上、購入率が約80%と高い数値をマークし、結果として顧客単価が通常店舗の平均顧客単価の約5倍という極めて高い成果を上げることに成功しています。

VRとビデオ通話の活用
自宅でも不動産の物件探しが可能に
これまでも多くのVRシステムを開発・販売してきたVR開発会社ナーブは、VR技術を駆使した不動産業者向けのオンライン接客ツール「おうちでVR内見」で、在宅での不動産内見を実現しました(2020年3月末リリース)。お客さまが不動産会社に物件の内見を申し込むと、ナーブがお客さまにVRゴーグルとタブレットを送付。
VR空間に映し出された物件を体感しながら、ビデオ通話で不動産会社の担当者に質問や相談が行えます。VR内見は物件の場所に縛られないため、お客さまが物件を気に入らなかった場合でも、即座に別の物件を提案することが可能。より多くの物件を内見したいお客さまの満足度向上に寄与します。
チャットとビデオ通話を使った引っ越しのオンライン見積
引っ越し大手のアート引越センターは、面倒な引っ越し前の見積作業をビデオ通話ツールで行う「次世代オンライン見積 ミライ」を2020年8月よりスタート。ビデオ通話機能を備えたチャットボット型マーケティングツールを活用することで、担当者がお客さまの自宅に立ち入ることなく見積を完了できるようにしました。
オンライン見積(要予約)当日は、お客さまがご自身のスマートフォンで宅内の家財等を撮影し、担当者が見積額をその場で算出します。お客さまの訪問対応の負担を軽減するほか、担当者が見積先を訪れるコストとリスクを大幅に削減できます。
販売員の感染予防や人手不足解消に効果的
アバターが接客するペットショップ
イオングループの総合ペットショップ、イオンペットは新型コロナ禍の影響が深刻な関東エリアを中心とした一部店舗にて、顧客対応にアバター(サイネージ)方式のオンライン接客を活用しています。店頭に大きなモニターを設置し、そこに表示されたアバター=バーチャルスタッフを介して、お客さま対応を実施。
バーチャルスタッフとして接客を行うのは、イオンペットに商品を展開するメーカー各社の販売スタッフで、実演ライブのようなかたちでお客さまに商品の魅力を解説したり、ペットの悩みの相談に乗ったりします。店舗側は常駐する販売員の人数を最低限度に抑え、メーカー側はスタッフが自宅などから自由に配信できます。そのため、アバターによるオンライン接客は従業員の感染予防対策や人手不足解消に有効です。

まとめ
かねてより先進的な企業の間で利用が始まっていたオンライン接客ですが、新型コロナ禍に伴うリアル店舗の苦戦を受けて、多くの小売業者が続々と導入を開始。適切な運用をしたケースではEC売上高が増加し、リアル店舗売上減を埋めて余りあるほどの成果を上げています。こうした成功を受けてオンライン接客ツール、ソリューションも大きく進化、充実しており、新型コロナの流行が収まった後も積極的に活用されていくでしょう。今や、ECサイトの運用にオンライン接客はなくてはならないものになっているのです。