「自動運転」がもたらす物流の未来 AI需要予測や宅配ロボットと組み合わせ「無在庫」が実現可能に | NECソリューションイノベータ

サイト内の現在位置

専門家コラム

「自動運転」がもたらす物流の未来
AI需要予測や宅配ロボットと組み合わせ「無在庫」が実現可能に
【記事監修】下山 哲平氏
株式会社ストロボ代表取締役社長 / 自動運転ラボ発行人

UPDATE : 2021.05.21

EC市場の隆盛などを背景に、宅配需要が大きな伸びを見せている物流業界。過酷さを増す労働環境がドライバー不足に拍車をかけるなど、諸課題が顕在化しています。

サプライチェーンを通じた全体最適化など業界を挙げた変革が求められる中、各社も業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を図るなど、個別の取り組みが求められています。

DX化においては、AI(人工知能)による需要予測や自動運転技術を活用した宅配ロボットなどのソリューションが注目を集めていますが、こうしたソリューションを駆使した在庫の適正化、極論すれば「無在庫化」を目指す取り組みも進められています。

この記事では、無在庫化に向けた取り組みで活躍する各ソリューションについて解説していきます。

INDEX

収益最大化を図る上で「無在庫」の達成は欠かせない

製造業や小売業などにおいては、需要に対して過不足のない適正在庫が求められます。需要に対して在庫が足りなければ利益を逸することとなり、逆に過剰な在庫を抱えれば損失につながります。そして収益最大化を図る上で欠かせない在庫の適正化は、極論すれば「無在庫」を達成することと同義です。

EC市場の成長などを背景に物流倉庫の分散化も進み、販売チャネルの多様化とともに需要も複雑化する中、在庫の適正化は近年より難しくなっています。しかし、AIによる需要予測や自動運転技術を活用した宅配ロボットなどを導入すれば、無在庫化の実現に近づいていきます。

「無在庫」を実現するための各種ソリューションは?

実現に向けてカギとなるのが、各種ソリューションを事業者側が最大限活用することです。

AIによる需要予測

在庫の適正化、ひいては無在庫化を実現するためには、確度の高い需要予測が必要不可欠となります。製造業においては、市場の動向や過去の発注量などを基に「いつ」「どのタイミングで」「どれだけの量」の製品需要があるかを予測し、生産計画に反映させる必要があります。

小売業でも同様で、消費者ニーズをいかに把握し、周期変動や季節変動といった要素を踏まえながら適正な量の商品を確保する必要が生じます。

近年、こうした予測分野においてはAIが積極的に活用され始めています。さまざまな条件の下で需要変動要因が与える影響をAIに学習・分析させることで、人間よりも高い精度の需要予測を可能にします。

荷主と配送業者のマッチングシステム

需要に基づいて商品を拠点間で移動させる際には、配送業者が必要になります。そして、無在庫を目指すのであれば、配送業者が荷主側の細かな配送ニーズに都度応じられるようでなくては実現できません。しかし、非常に難しいのが現状です。

その理由の1つは、配送業界は人手不足であること。そしてもう1つの理由は、小ロットの商品を迅速に配送するために積載率が低い状態でトラックを走らせれば、採算が合わなくなってしまうからです。

こうした中で注目されているのが、荷主と配送業者を結ぶマッチングシステムです。まだ積載量に余裕がある別のトラックがさまざまな配送ニーズを受け止められるようになれば、人手不足や効率の問題が緩和されます。

さらにこのマッチングシステムにAIが導入され、AIが最適なマッチングを実現してくれれば、配送効率はさらに高まります。

自動運転による宅配ロボット

物流拠点から配送先までの「ラストワンマイル」は、小口多頻度化によるドライバー不足が最も顕著となっている領域です。このラストワンマイルに自動運転技術で無人走行を可能にする宅配ロボットを導入することでドライバー不足を解消でき、なおかつ効率的で迅速な宅配が実現可能になります。

現在の日本では歩道走行を前提とした小型のロボットタイプの開発が主流ですが、アメリカなどでは車道を走行する自動運転車による宅配の実証実験も進んでいます。

トラック隊列走行(後続車無人)

長距離輸送の場面では、トラックの隊列走行の実用化に期待が寄せられています。複数の車両を通信でつなぐ「V2V」(Vehicle-to-Vehicle)技術によって、有人の先頭車両に無人の後続トラックを追従させることで、輸送の省力化を図る取り組みです。

後続車に人を乗せた状態での隊列走行は2021年にも実用化が始まる見込みで、以後、後続車無人での隊列走行も順次実用化されます。

商品搬送用のドローン

ラストワンマイル宅配においては、ドローンを活用した空輸の取り組みも盛んに進められています。ドローン配送は道路の混雑状況や地形などに左右されないといったメリットがあります。

すでに陸上輸送が困難な離島や山間部などにおいて、ドローンで生活物品や医薬品を配送する実証実験が実施されており、いずれは都市エリアにおいてもドローンが荷物配送で活躍していくことになるでしょう。

関連記事:日本の物流界の救世主となるか?「ドローン物流実用化」のための4つの課題

カギは自動運転、物流分野で取り組み盛んに

ここまでに紹介したさまざま物流ソリューションを効果的に組み合わせることで、配送需要に迅速に応じることができる物流ネットワークを構築することが可能になり、無在庫化の実現に大きく近づくことができます。

そして特にカギになるのが自動運転技術を活用したソリューションで、国内でもここ数年取り組みが盛んに行われるようになってきました。

自動宅配ロボットに関する国内の取り組み

まず自動宅配ロボットですが、国内ではこれまで法律や実証要件が未整備であったため、実証実験の主な舞台は大学構内や商業ビル内などの私有地でした。しかし実用化に向けて政府も本腰を入れ始め、2020年9月には「遠隔監視・操作」による自動走行ロボットの歩道走行を含めた公道実証ができる枠組みが整備されました。

以後、宅配事業者やロボット開発事業者などによる公道実証が大きく加速しています。例えばEC(電子商取引)大手の楽天は、連携協定を結んでいる神奈川県横須賀市で、注文されたスーパーの商品をロボットが公道を走行して配達する実証に取り組みました。

ロボット開発面では、早くから開発に着手していたロボットベンチャーのZMPに加え、パナソニックや名古屋大学発スタートアップのティアフォー、東京大学発スタートアップのTRUST SMITHなどが参入しており、熱気を帯び始めています。

海外製品を導入する動きも顕著で、実用化・市場化を見据えた開発競争などは今後も加速していく見込みです。

政府は、2020年12月に閣議決定した「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」の中で、自動配送ロボットの制度整備に向け2021年度早期に関連法案の提出を目指す方針を掲げています。宅配ロボット実用化に向けた取り組みは大きく動き出しているのです。

隊列走行(後続車無人)に関する国内の取り組み

トラックの隊列走行は、経済産業省と国土交通省を旗振り役に、官民総出で取り組みが進められています。2021年2月には、新東名高速道路の「遠州森町PA~浜松SA間」約15キロの区間において、後続車無人の隊列走行技術の実証が行われました。

安全確保のため助手席に保安要員を乗せましたが、運転席無人の状態で3台の大型トラックが時速80キロで車間距離約9メートルの車群を組んで走行することに成功しています。

「官民 ITS 構想・ロードマップ 2020」では、高速道路における後続車有人隊列走行を2021年、後続車無人を2022年以降に市場化する目標が掲げられています。こちらも実用化に向けた取り組みは大きく進んでいるようです。

■結び:率先して自社のDX化推進を

物流に関わる一元的なデータ基盤の構築など、業界を挙げた取り組みは今後間違いなく進んでいきますが、こうしたイノベーションに対応できるよう各社も率先してDX化を推進しなければ、後塵を拝すことになりかねません。

共同配送システムの構築など自社単独では困難な領域においては、横の連携をしっかりと図りつつ、無人配送が実現するであろう次世代物流に向け、自社のシステムを一から見直すことがイノベーションへの第一歩となりそうです。

記事監修

下山 哲平(しもやま てっぺい)

株式会社ストロボ代表取締役社長 / 自動運転ラボ発行人

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。