採用の効率化や優秀な学生確保に貢献 新卒採用のAI活用事例6選 | NECソリューションイノベータ

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コラム

採用の効率化や優秀な学生確保に貢献
新卒採用のAI活用事例6選

UPDATE : 2021.05.28

コロナ禍の影響もあり、採用活動のオンライン化が加速。その流れに合わせるかのように、2020年以降は新卒採用にAIを活用した事例が多数報告されています。

採用活動のオンライン化は時間と場所の制約がなくなるため、企業がより多くの学生と出会う機会が得られるメリットがあります。一方で、コロナ禍で景気の先行きが不透明な今、企業は採用予定人数を確保するよりも、学生の質を重視する傾向が強くなっています。しかし、たくさんの応募者の中から、自社にマッチする優秀な学生を探すのは容易ではありません。採用活動の効率化と優秀な学生を採用する有効な手段として、現在AIが注目されています。

本記事では、新卒採用にAIを活用するメリットやデメリットを解説。あわせて最新のAI活用事例を6つ紹介します。

INDEX

量より質を重視する昨今の就活事情
AIの活用が有効な理由

コロナ禍で景気の先行きが不透明な状況下において、新卒採用は学生の「量よりも質」を重視する傾向が鮮明になりました。人材サービス・採用コンサルティングのディスコが2021年2月に実施した「新卒採用に関する企業調査-採用方針調査」によると、2022年3月卒業予定者における採用活動のスタンスは「採用予定人数の確保よりも、学生の質を優先」が85.6%。2018年以来4年ぶりの80%越えとなりました。

ディスコ「2022年卒・新卒採用に関する企業調査-採用方針調査(2021年2月)より作図

多くの学生の中から、自社の採用基準にあった優秀な人材を発掘するのは、大変な時間と労力、そしてコストがかかります。採用の合否を決定するのが人間である以上、主観や思い込みによる採用のミスマッチが発生するケースも珍しくありません。これらの問題を解消する手段として、AIは有効であると考えられています。AIが採用活動にどのようなメリットを与えるのか解説しましょう。

入社後の活躍を期待できる学生の母集団形成が容易

大量に届く応募書類の中から、採用条件に見合う人材を探し出すのは至難の業です。しかし、過去に採用した人材の応募書類と採用後の活動状況をAIに学習させれば、会社の将来を担ってくれる可能性が高い人材の母集団を効率良く形成できます。採用担当者の負担を大きく減らすと同時に、書類選考から面接までの時間を大幅に短縮できるため、他社に先駆け優秀な人材を確保できる可能性が高まります。

人間よりも公平な判断で採用できる

どれほど明確な採用基準を定めたとしても、採用担当者の間で生じる認識のズレを完全に埋めることはできません。また、部署や職種で求める人物像も異なります。人間の判断は主観や好みに左右されるので、完全に公平な判断を下すことは困難です。もしかすると、過去に採用担当者の好みに合わないという理由で、会社の将来を担えた優秀な人材を逃してしまっていたかもしれません。

AIに過去のデータを学習・分析させることで「将来活躍する可能性が高い人材」を客観的なスコアとして可視化されるので、採用の合否が採用担当者の「好み」に左右されにくくなります。その結果、採用業務における属人化の解消や採用のミスマッチによる離職を防げるでしょう。

二次面接、最終面接と重要な選考に時間を費やせる

前述したように、AIを活用すれば書類選考から面接までの時間を大幅に短縮できます。空いた時間を二次面接や最終面接など重要な選考に費やせば、より質の高い採用活動が可能となるでしょう。AIの分析結果は、面接で学生に質問する際の参考資料としても有効活用できます。また、選考過程で蓄積されたデータは、研修や配属先の決定など、人事部門の重要な業務の判断材料にもなりうるのです。

デメリットやリスクはあるのか?
新卒採用にAIを導入する際の注意点

AIは採用活動に多くのメリットをもたらすものの、適切に運用しなければ十分な効果を発揮できません。以下では、新卒採用にAIを導入する際に注意すべきポイントやデメリットを解説します。

AIが効果を発揮するのは採用の初期段階

AIが得意なことは、大量のデータから傾向を探り出す分析作業です。新卒採用においては、応募者(データ数)が多い書類選考や適性検査など、採用の初期段階での利用が効果的です。逆に、応募者が絞られてくる二次面接以降では明確な傾向があらわれないケースもあり、必ずしもAIの利用に適しているとは言えません。

書類選考と違い、面接ではその人の表情や仕草など、単純なデータだけで判断できない部分もあります。しかし、昨今は画像解析や音声認識などを用いて面接時の感情を可視化する試みも加速。一次面接では、AIに選考を任せる企業も徐々に増えています。

創業から日が浅い企業は成果を得にくい

AIで期待する分析結果を出すには、学習用データが欠かせません。データの量が多ければ多いほど、分析精度は高まります。言い換えれば、学習用データが十分にそろわないと、期待する効果は得られません。具体的には、設立間もないベンチャー企業や応募数が少ない中小企業などが当てはまります。ただし、使い続けていけば徐々にデータは蓄積されるので、分析精度は着実に上がっていくでしょう。

個人情報の取り扱いに注意が必要

応募書類に記載されている内容は個人情報であるため、取り扱いには十分な注意が必要です。採用活動にAIを活用する際は、応募者に「個人を特定できる情報を除いた上で、分析に活用する可能性がある」旨を伝え、許可を得なければなりません。もし、応募者の同意を得ていない過去の採用データがあれば、それをAIで解析するのは避けたほうがいいでしょう。

【書類選考・適性検査】
採用工数の削減と優秀な人材を効率的に抽出

ここからは新卒採用にAIを活用した具体的な事例を紹介。まずは、書類選考や適性検査の工数削減と公平な評価を両立した事例を2つ案内します。

AI活用で書類選考の時間を7割削減(横浜銀行)

神奈川県全域に展開する横浜銀行は、2019年度の新卒採用から数千件にもおよぶエントリーシートの選考に「KIBIT」(人工知能AI)を活用しています。実運用前に入行後10年目の現役行員約300人を対象に、採用時のエントリーシート上で「同行への理解」「熱意」などが最も表れやすい項目を「KIBIT」で分析。その結果、現在高いパフォーマンスを発揮している行員は、「KIBIT」の分析で高いスコアがつく傾向があると判明し、既存の適性検査で測れない新たな採用基準も示せるようになりました。

「KIBIT」のスコアから志望度の高い学生とそうでない学生のエントリーシートの選別が容易になり、客観的でより公正性の高い評価ができるようになったと言います。最終的な合否判定は必ず人の目を通すものの、書類選考にかかる所要時間を約7割削減しました。

学生の本質を浮き彫りにする
コンピテンシー検査を実施(ピジョンホームプロダクツ)

洗剤・化粧品・医薬部外品の製造販売を行うピジョンホームプロダクツでは、これまで新卒採用においてグループワークと既存の適性検査を実施していました。一般的な適性検査を実施していたため、受験前に学生から対策を講じられていることが悩みの種だったと言います。さらに、コロナ禍の到来で従来の選考が不可能に。

代替手段として2021度の新卒採用では、AI面接とゲーム型コンピテンシー検査を組み合わせたAI採用ソリューション「inAIR」を活用。「inAIR」は、脳科学の研究論文約400本相当のデータや他社の部長クラス以上の採用担当者200人以上の判断データ、49社から提供された約6800名の在職者の成果データを学習済みで、応募者自身が把握していない性格を分析できます。「inAIR」を導入した同社は、既存の適性検査や面接では把握できなかった学生の素の性格を分析できたことを高く評価しています。

【自己PR動画】
AIが表情や声から応募意欲の強さを判定

近年、新卒採用の効率化を図るために、大企業を中心に自己PR動画を選考に取り入れる企業が増えています。ここでは、自己PR動画による選考でAIを用いた事例を紹介します。

学生の社会人基礎力をAIが公平に判断(阪急阪神百貨店)

関西を拠点とする阪急阪神百貨店では、2022年度の新卒採用から既存のPR動画選考に「HireVue」AIアセスメントを活用。2018年度の新卒採用から同社では、書類だけではわからない「能力・情熱・人柄」を「言葉・表情・声色」から判断するために、デジタル採用プラットフォーム「HireVue」を導入していました。既存の「HireVue」の選考精度をさらに高め、応募者全員の社会人基礎力をより公平に選考するために、「HireVue」AIアセスメントの活用を決定したと言います。

「HireVue」AIアセスメントでは、社会人基礎力の中で特に重要度が高いとされる「学習意欲」「状況適応力」「達成意欲と主体性」「チーム志向」「コミュニケーション」の5大指標を算出。それに加えて、採用担当者がPR動画を目視チェックし、多様性のある人材の獲得を目指しています。

選考時間の約3割削減を狙う
自己PR動画のAI解析実験(キリンHD)

キリンホールディングス(キリンHD)は、2021年3月5日に2022年度の新卒採用における動画選考で、AIを用いた実証実験を行うことを発表しました。事前に許諾を得た上で、応募した学生のPR動画の表情や声などの印象をAIが定量化し、担当者の先入観で合否が決まらないよう評価精度の向上を目指しています。

同社では、AI活用でエントリーシートやPR動画選考にかける時間の約3割削減を期待。空いた時間は、応募者1人ひとりの選考時間の増加や、交流会、セミナーなど学生とのコミュニケーションを行う場を増やす狙いがあると言います。

【面接】AIが企業と学生の時間と費用の負担を軽減

最後に紹介する事例は、面接にAIを用いたケースです。書類選考や適性検査よりもAI導入のハードルが高くなるものの、企業側の採用活動にかかる負荷が軽減されます。学生側も移動の手間やコストが不要となるため、就職先の選択肢が広がるメリットがあります。

一次面接はすべてAIが判定
選考時間の7割削減を期待(ソフトバンク)

ソフトバンクでは2020年5月より、動画面接の判定にAIを導入しています。過去に実施したインターンシップの動画面接とベテラン採用担当者の評価データを学習したAIが、一次面接の合否を判定。AIの合格基準に達した者は次の選考に進み、基準に達しなかった者は採用担当者があらためてチェックした上で最終判断を行い、選考の精度を担保しています。

同社では2020年1月より学生の負荷を減らす目的で、選考会場への移動が必要な集団面接などを廃止し、動画面接による選考へと切り替えました。AI導入により、選考時間の7割削減を見込んでいます。AIで削減された時間は、体験型インターンシップの拡大や同社が求める人材へのアプローチなど、新たな採用活動に割り当てる方針です。

母集団増加のため国内初のAI面接導入
面接を受ける学生側にも高評価(アキタフーズ)

アキタフーズは、広島県に本社を構える老舗の食品総合メーカーです。同社は本社のある広島、東京、大阪の3拠点で採用活動を行うものの、年々同社に応募する母集団の数は減少傾向にあったと言います。同社は母集団を増やすために、2018年度の新卒採用から一次選考に時間と場所を選ばないAI面接を国内で初めて本格的に導入。

同社におけるAI面接の位置づけは、「あくまでも次の最終面接(二次面接)を有意義にするための手段」です。そのため、基本的にAI面接ではほとんどの学生を通過させています。AI面接は学生の移動負担を軽減するだけでなく、対人面接と比較して緊張を感じにくいメリットも。実際に面接を受けた学生からも「本音を話しやすい」と好反応を得ています。

まとめ

AIを新卒採用で効果的に利用するには、大量データの学習が欠かせません。そのため、現時点ではAIの精度向上に十分なデータを用意できる大手企業の初期選考段階において、大きな効果を発揮しています。しかし、ビッグデータの活用が広がり、AIの技術がさらに進化していけば、中堅・中小企業の新卒採用や二次面接以降での利用も広がっていくでしょう。

人間とAIによる客観的な判断を掛け合わせることで、採用の成功率が高まり、離職率の低下も実現します。日本における少子高齢化の現状を鑑みると、コロナ収束後の労働力不足はより深刻化するでしょう。将来起こりうる労働問題の解決や採用のミスマッチを減らすためにも、今のうちから新卒採用にAIの活用を検討しておくことをおすすめします。