AI活用で11兆円もの経済効果が期待 ~中堅・中小企業 AI活用事例7選~ | NECソリューションイノベータ

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コラム

AI活用で11兆円もの経済効果が期待
~中堅・中小企業 AI活用事例7選~

UPDATE : 2021.05.21

企業が抱える様々な経営課題を解決する手段として、近年AIの活用が進んでいます。導入の手間やコストなどの面からAIは大企業が活用するものと思われがちですが、必ずしもそうとは言い切れません。むしろ、AI活用で得られるメリットは、中堅企業や中小企業の方が大きいと言えるのです。

経済産業省は、中小企業のAI導入により2025年までに11兆円の経済効果が生まれると予測。多大な経済効果が見込めるため、政府は中小企業のAI導入を促進するための様々な施策を展開しています。安価なAIツールの登場も、AI導入のハードルを下げる一因と言えるでしょう。

本記事では、資金力や人的リソースの少ない中堅・中小企業におけるAI活用の成功事例を紹介します。

INDEX

中堅・中小企業の経営課題の解決にAIが最適な理由

中堅・中小企業こそAIを導入すべき最大の理由は、将来訪れる可能性が高い労働人口不足に対処するためです。厚生労働省は、日本の労働人口は2017年と比べて2040年までに約20%減少すると予測。一方、昨今の学生は安定志向が強く、大企業と比較して知名度の低い中堅企業や中小企業は学生が集まりにくい傾向にあります。新型コロナの影響で景気の先行きが不透明となった今、学生の大手志向は今後さらに強くなるでしょう。

こうした背景から中堅・中小企業こそ不足しがちな労働力を補う手段としてAIの活用を進めるべきだと言えるのです。また、今は中堅・中小企業がAIを導入しやすい環境も整いつつあります。以下に、その理由を2つ紹介します。

安価で導入しやすいAIツールの登場

技術の進化により、昨今は低価格で導入できるAIツールが増えています。AIの導入や運用には、高度な技術力と高額な費用を必要とするケースが多く、適用範囲が広い高性能なAIだと数千万から数億円と莫大なコストがかかることも。

しかし、AIが適用される機能を限定したり、安価なクラウドを活用したりすることで、今は数十万円程度で利用できるAIツールも続々と登場しています。経済産業省は「AI導入ガイドブック概要」で製造業の外観検査における「AI導入に必要な機材の一覧と、価格の相場」を公表。そこでは導入初心者向けの費用は10万円〜、経験者向けは20万円〜と例示しています。

AI導入に必要な機材の一覧と価格の相場(製造業の外観検査)※出所:経済産業省「AI導入ガイドブック概要~AI導入に必要な機材と一覧と、価格の相場を例示」を基に作成

図はあくまでも製造業の外観検査におけるAI導入で最低限必要となる機材の費用です。既存機材の活用や機材構築を外注するなど状況次第で、AI導入に必要な費用は大きく異なります。しかし、導入コストがわずか数十万円程度ですむのであれば、潤沢なIT予算がない企業でも許容範囲と言えるでしょう。

国がAI人材の育成や支援に積極的

AIの活用は大きな経済効果を生み出すと期待されているため、政府はAI人材の育成や中堅・中小企業のAI活用を積極的に推進しています。

例えば、経済産業省は公式サイトに中小企業のAI活用を促進するための「AI導入ガイドブック」や「課題解決事例」を公開しています。中小企業庁では中小企業・小規模事業者向けに、「AI活用のための補助金」や「AI活用融資:日本政策金融公庫の特別貸付」について解説したリーフレットを公式サイトに掲載。その他にも、総務省が実施している「I-Challenge !」など、AI活用を支援する仕組みは数多く存在します。

国のガイドブックや補助金などを上手に活用すれば、中堅・中小企業でも大きな負担をかけることなく、AI導入に踏み切れるでしょう。

関連情報:AIはもはやエンジニアだけのものではない 全社員を“AI人材”に育成し自社AI活用を加速せよ

【AIによる需要予測】
余剰在庫の軽減や売上アップを実現

ここからは実際にAIを導入して経営課題を解決した企業の活用事例を紹介します。まずは需要予測にAIを活用した成功事例を見ていきましょう。

(城南電機工場)受注数量予測にAIを活用
誤差率が最大52%から24%に改善

自動車用照明機器類・樹脂成形の製造及び販売を行う城南電機工業(従業員数119名:2021年4月時点)では、発注前に顧客からもらう発注内示数と最終的な納入数の違いで、余剰在庫や欠品リスクが発生する課題を抱えていました。

これらの課題を解消するため、製品ごとの発注予告数と実際の受注情報をAIに学習させ、受注数量の予測精度を向上させるための検証を実施。AIを活用したことで、受注数量の予測精度の誤差率は最大で52%から24%へと大幅に縮小されました。誤差率の改善幅は製品で異なるものの、全体的に受注数量の予測精度が短期間で劇的に改善されたため、同社は大きな手ごたえを感じています。

(カブク)AIによる3Dプリンタ需給マッチング
依頼から製品量産化を1.5か月で実現

製造業向けに特注品や量産品などのオンデマンド受託製造サービスを提供するカブク(従業員数50名:2021年4月時点)は、3Dプリンタを利用したい事業者と3Dプリンタを保有する委託業者をマッチングするオンデマンド製造プラットフォーム「Kabuku CONNECT」にAIを活用。

試作品や少量生産を行いたい事業者は、適切な3Dプリンタのノウハウがないため、希望条件を満たす委託業者の選定が容易にできない課題を抱えていました。一方、3Dプリンタの委託業者は、稼働率が低く思うように有効活用できない問題がありました。

これらの課題は、「Kabuku CONNECT」が一挙に解決。事業者は設計した図面や3Dデータを「Kabuku CONNECT」にアップロードすれば、世界各地の約300の工場から希望条件を満たす工場をAIが自動的に選定します。そのため、最適な委託先を探す手間と時間が大幅に軽減され、委託業者が保有する3Dプリンタの稼働率向上にも寄与します。「Kabuku CONNECT」を活用し、通常約2年かかる自動運転EVの量産化を約1.5か月で実現したケースもありました。

(ゑびや)AIの来客数予測により
売上が5倍増加した大衆食堂

伊勢神宮のおはらい町通りに店舗を構える大衆食堂「ゑびや」(従業員数44名:2019年12月時点)の経営判断は、長年の「経験と勘」に頼る不安定なものでした。団体客の来店などの予想がつかず、売り切れによる機会損失や廃棄ロスが発生することも。来店客数が予測できないため適切な人員配置が行えず、従業員は休暇が取得しづらい労働問題を抱えていました。

これらの問題を解消するために、同社ではAIを用いた需要予測の仕組みを導入。天候や近隣ホテルの宿泊人数、過去の売上などの関連データをAIが分析し、「時間帯別の来客数」や「注文メニュー」などの項目を95%超の精度で事前予測できるようになりました。AI導入から5年後の店舗売上高は5倍、利益率は10倍に増加。従業員の有給取得率も80%以上となり、労働環境の改善にも効果を発揮しています。コロナ感染防止策の一環として、2020年から店舗混雑状況の予測にAIを活用しています。

【AIによる業務自動化】
属人化の解消で業務効率が劇的に向上

続いて紹介するのは、AIによる業務自動化で劇的な業務効率の向上に成功した企業の事例です。

(プラポート)図面からAIが自動で見積りを作成
業務の属人化を解消

プラスチック・樹脂の加工を生業とするプラポート(従業員数100名:2021年4月時点)では、図面から見積りを作成できるのが担当営業のみで、見積り業務が属人化する課題を抱えていました。

業務の属人化を解消するため、図面から加工難易度を判断して見積りを自動算出するAIシステムを導入。自動的に見積り金額が算出されるようになったため、担当営業以外でも見積り業務に対応できるようになりました。図面を受け取ってから見積り金額を回答するまでの時間も最大約1/3に短縮され、見積り算出にかかる時間は5分程度と大幅にスピードアップ。業務の属人化だけでなく、業務効率も劇的に向上しました。

(I&R ビジネスアシスト)AI-OCR×RPAによる業務自動化
1社あたりの作業時間が1分に

会計・経理業務のアウトソーシング業務を行う I&R ビジネスアシスト(従業員数35名:2021年3月時点)では、顧客から届く書類が遅く、納期厳守で作業しなければならない業界特有の課題を抱えていました。

この課題を解決するため、AIの画像解析で書類をデータ化する「AI-OCR」と、単純な作業を自動化する「RPA」を組み合わせたシステムを導入。手作業で行っていた領収書や請求書などの処理自動化で、これまで1社につき1〜2時間かかっていた作業が最大1分程度と、大幅な短縮に成功しました。課税対象かどうかなどの判断は人間が行うものの、全体的な業務効率化に成功したと言います。

【AIによる工数予測・検品作業】
人手不足解消や生産性向上に貢献

最後に、AIの活用で人手不足の解消や生産性向上に成功した事例を紹介します。AIの活用は、近い将来に訪れる労働人口不足を補うのに非常に有効な手段です。

(水上印刷)工数予測にAIを活用
工数精度の誤差減少に成功

水上印刷(正社員 236名 非正社員 350名:2019年10月時点)では、生産部門における工程予測(日々の予定組み)のズレや余剰時間が発生するなどの課題を抱えていました。それぞれの工程にかかる作業時間が正確に分かれば、生産機械の無駄な空き時間が減り、効率よく業務が進められます。

そこで同社では、過去の生産情報と作業時間のデータを用いたAI予測のモデル実証を約2か月間実施。その結果、従来と比較して工数予測の誤差が大幅に下回る結果となりました。工数予測の精度が上がれば現場の稼働率も高まるので、少人数においても生産性向上が期待できます。

(ヨシズミプレス)検査時間を約40%削減
従業員数18名の町工場が実践したAI活用

ヨシズミプレス(従業員数18名:2021年4月時点)は、金型設計からプレス加工までを行う「町工場」です。同社では、月当たり50万個の製品を約10日かけて6名の検査員が目視で検査していました。品質基準の厳しさから、検査員はわずかな傷や変形を見落とさないよう神経を使いながら検査していたと言います。心身の負担が重い作業であったため、検査員の負担軽減が課題となっていました。

この課題を解決するため、同社ではAIの画像解析を用いて1次検査を行い、不良品と分類された製品のみを検査員が目視検査する手法に変更。その結果、検査員が目視検査する製品数が月2万個と従来に比べ95%も削減され、検査総時間の約40%削減に成功しました。目視検査の時間が大幅に削減されたため、空いた時間は生産性を改善する作業に割り当てています。

まとめ

中堅・中小企業のAI導入事例で、期待する導入効果が出た企業を7社紹介しました。その中には、ITとは無縁に思われがちの産業分野も多く含まれています。

もはやAIは、一部の限られた企業や人員しか扱えない技術ではありません。その気になれば誰もが扱える身近な存在となりつつあります。しかし、AIの効果を発揮するには、大量の学習データが不可欠です。AIは活用する時間に比例して学習データが蓄積されていくため、いち早く活用することで精度が高まり、絶大な効果が発揮できるのです。

現在、容易に解決できない経営課題を抱えている中堅・中小企業は、AIの活用を検討してみてください。