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イノベータ’s VOICE
機械学習とディープラーニングの違いとは?
AI開発の専門家が事例を交えて解説
UPDATE : 2022.02.25
ビジネス分野でもAIを駆使したサービスが身近な存在となってきた昨今、自社ビジネスへAI活用を考える企業が増えています。導入の検討を始めたものの、じつは技術や用語についてよく分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、AI技術で代表的な「機械学習」や「ディープラーニング」について、具体的な内容やその違いなどを事例も交えて紹介。多くの企業に向けてAI技術を駆使したソリューションを提供しているNECソリューションイノベータの開発エンジニア亀山 篤志氏と佐々木 友謙氏が解説します。
INDEX
AIとは何か?:
AIが担うのは人間の「認識」する能力
--まずは「AI」とは何なのかについて教えてください。
亀山:AIとはArtificial Intelligenceの略、日本語に訳すとそのまま「人工的な知能」となります。ただ、正直なところ「知能」としてはまだまだなところがあり、現時点では、人間の知能が担っている仕事の一部を代行できるくらいのレベルとなっています。
--そんなAIの登場によって、人間の社会はどのように変わっていくのでしょうか?
亀山:昔から新しい技術が人間のやっていた仕事を肩代わりしていく、ということが起きていますよね。たとえば、機械が入ってきて「力仕事」の多くを担うようになりました。次に、コンピュータプログラムが登場して「事務処理」を担うようになりました。そして今は、AIに人間の「認識」の部分を担わせていこうという時点にいます。ただそのためには、AIに認識の仕方を学習させてあげなければなりません。
そこで今、話題になっているのが「機械学習」や「ディープラーニング(深層学習)」といった手法です。
機械学習とディープラーニングの違い
--「機械学習」と「ディープラーニング」、どちらもここ数年で急によく聞くようになった言葉ですね。
亀山:まず「機械学習」がどういうものなのかを説明します。たとえば、ある売店のアイスの売り上げを予測するとしましょう。人間が予測する場合は過去の売上データを見て、気温が25度くらいなら20個、30度なら40個売れると予測(場合分け)したり、ベースの個数を元に、気温が1度上がると4個ずつ売れる数が増えると予測(予測式)したりしますよね。それぞれ、自分の経験を元に予測の仕方を考えるわけです。
機械学習ではそれを機械(コンピュータ)にやらせます。具体的には、過去の売上や気温など大量のデータを与え、機械学習のための技術、アルゴリズムを駆使して、人間が考えたような場合分けの仕組みや予測式(数理モデル)を作らせようということです。ちなみに今、世の中で「AI」と呼ばれているものの多くはこの数理モデルのことを示します。
--気温を元に考えるだけなら人間でもできそうですが、天気や湿度など、参照する条件が複雑になっていくと人間の手には負えなくなりそうです。そうした膨大なデータの処理を機械に任せてしまおうというのが「機械学習」なんですね。
亀山:はい。ただ、人間でも考えられるシンプルな場合分けや予測式では、どうしても予測の精度に限界がでてきます。そこでより予測の精度を高めるため、単純な場合分け、予測式を超える、もっと複雑で正解に近い数理モデルを、より複雑な分析によって導き出していくのが「ディープラーニング」です。
--なるほど。ディープラーニングは機械学習をより複雑にしていったものなのですね。その線引きはどこにあるのでしょうか?
亀山:学習に使うアルゴリズム(学習モデル)の違いですね。ディープラーニングでは人間の脳を模したニューラルネットワークと呼ばれる仕組みで情報を分析していきます。それによって従来と比べて劇的に精度を高めることができたのですが、生み出される数理モデルが複雑で、できあがったものを人間が解釈するのが難しいという問題があります。
--より正しい予測をしてくれるものの、なぜその結果になったのかが分からなくなってしまうのですね。
亀山:はい、そうです。そうしたことから、AIをビジネスに導入する際には、精度と解釈性など、要件に応じてどちらの学習モデルを使うかを検討していく必要があります。
佐々木:「機械学習」と「ディープラーニング」の違いをもう少しシンプルに言うと、たとえば人間は犬と猫を簡単に見分けることができますが、「具体的な違いはどこにあるのかを挙げてください」と聞かれると、案外パッと言える人は少ないのではないでしょうか? 実は脳内でものすごく複雑な判断をしているのですが、それを条件分岐のようなかたちに落とし込むのはなかなか大変なのです。それをコンピュータが自分で見つけだしてくれるのがディープラーニング。機械学習はそれをもう少し人の手で繕う必要があります。
機械学習とディープラーニングの使い分け①:
機械学習は「解釈性」が求められる分野に向く
--機械学習とディープラーニングは要件に応じて使い分ける必要があるとのことですが、機械学習はどういった用途に向いていますか?
亀山:「解釈性」が1つのポイントだと考えています。改善したことと(例:食生活を改めた)、それによる結果(例:体重が減った)の因果関係が分からないと意味がないような予測には機械学習が向いているでしょう。
--なるほど。では、実際に機械学習を使ってどういうことが行われているのか、NECソリューションイノベータの事例を聞かせていただけますか?
亀山:NECソリューションイノベータでは、機械学習を使った法人向けソリューションとして『NEC健診結果予測シミュレーション』を提供しています。これは多くの方が毎年受けている健康診断の結果と生活習慣をデータとして蓄積し、機械学習を使って数理モデル化したもの。ここに従業員の健康診断結果と、この1年間どういう生活をしてきたかを入力すると、1年後、2年後、3年後にどうなるか予測結果を表示してくれます。その際、生活習慣の見直し、たとえば煙草を止めるとか、間食を控えるとか、運動をすることでどれくらい予測値が変化するのかを教えてくれるところがポイントです。
--どう生活習慣を改善するのが最も効果的なのか、機械学習を使ったシミュレーションで確認できるのが面白いですね。
亀山:そうなんです。こちらはNECグループ全体に導入され、58,000人の社員が利用しているほか、岡山県倉敷市の倉敷中央病院 予防医療プラザなど、実際の予防医療の現場でも使われているんですよ。
--その他に、機械学習を利用した取り組みがありましたら教えてください。
亀山:自治体向けに提供している『公債権徴収率向上支援ソリューション』にも機械学習の技術が活用されています。「公債権徴収」という言葉は一般の人には耳馴染みがないと思うのですが、未納になっている税金を自治体が徴収することを指します。電話をかけて納付を催促する際に、「いつこの人に電話をかければ繋がるか」を膨大な機械学習の結果から提示するのが『公債権徴収率向上支援ソリューション』です。
--健康診断のほうは学習データが明確で分かりやすかったのですが、こちらはどのようなデータを学習させているのでしょうか?
亀山:過去の納付状況のほか、督促の電話応答率などさまざまな対応履歴、住民情報などを学習させています。そこからこういう人は電話したら収めてくれた、こういう人は電話にも出てくれなかったといった傾向をつかみ、本人が応答してくれやすい曜日・時間帯を予測します。実は税金を滞納する方は「うっかり払い忘れた」という方が多く、大半の住民は電話をすることで忘れていたことに気づき、払ってくれるのです。そのため、電話をかけることはかなり有効性の高い方法であり、この予測をすることは重要です。実際に導入された自治体は、応答率がアップしています。
--担当職員の人数が限られている以上、そういった効率の追求は大切だと思います。そして、これはもう実際に導入されているのですね?
亀山:はい。すでに静岡県浜松市などの自治体にご導入いただいています。
--ちなみに一般企業向けにはいかがでしょうか? 身近なビジネスで機械学習をどのように活用できるのかも教えてください。
亀山:一般企業ではやはり事業予測に使われることが多いですね。冒頭でアイスの売り上げ予測の話をしましたが、こうした予測の精度が低いと過剰発注や機会損失に繫がってしまうので、ここに機械学習を用いたAI技術が活用できると考えています。
機械学習とディープラーニングの使い分け②:
ディープラーニングは人間の「目」の役割を担う
--では、続いてディープラーニングについて聞かせてください。まずは、ディープラーニングがどういった用途に向いているのか教えてくれますか?
佐々木:ディープラーニングは膨大な画像データや数値データから自ら特徴を見出して分類したり、異常を検知したりということが得意です。
--具体的にどのように活用が始まっているかを聞かせてください。
佐々木:NECソリューションイノベータでは『NEC AI・画像活用見える化サービス』というサービスを提供しています。これは主に製造工場のライン上に配置されたカメラの映像とディープラーニングを使って、ラインを流れる製品の質や進捗をリアルタイムに解析・可視化することに使われています。
たとえば、ビスケットの製造工場では、ラインを高速に流れていくビスケットの中から不良品を見つけ出して除外せねばならないのですが、現状、人の目で検品・除去をしているケースが多いです。こうした製造現場ではすでに人手不足が深刻な問題になっています。また、良品と不良品のボーダーラインがチェックする人に依存してしまうという問題がありました。
--ある人がチェックしている時は不良品扱いになるビスケットが、別の人がチェックしている時は良品扱いになってしまうということですね。
佐々木:そうなんです。ただ、そのボーダーラインを明確な基準としてルール化するのはとても難しい。そこで、このケースではディープラーニングの技術を使って、良品・不良品判定を自動化・均一化しました。現状は判別のみを行っていますが、将来的には不良品だけを機械で弾くといったことも考えていきたいですね。もちろん、それ以前にそもそも不良品が出にくい工程にするという工夫も必要になります。
--『NEC AI・画像活用見える化サービス』はそうした製造工程の中で、不良品を見つけだす「目」としての役割を担っている、と。
佐々木:その通りです。
--この技術は、製造ライン以外にもいろいろなことに使えるように思えるのですが、NECソリューションイノベータでは、何かそういった事例はありますか?
佐々木:はい。ディープラーニングを活用した画像解析は、製造工場以外にもさまざまな分野で使われています。一例として『NEC やさい生育観測サービス』というソリューションを紹介させてください。
これはキャベツ畑の様子をドローンで上空から撮影し、育成状況をサプライチェーン上で共有できるようにするというものです。従来、キャベツの出荷数管理は生産者の勘に依存する部分があり、今現在収穫できる量を正確に集計するのは人的にも時間的にも難しいという課題がありました。
--そうすると、100個発注したのに蓋を開けてみたら50個しか収穫できなかったということが起こりうるんですね。
佐々木:はい。この見込み数と実際の数とのギャップが以前から問題になっていて、生産者とスーパーの間に入る仲卸業者が泣かねばならないということも多かったようです。そこでこのソリューションでは、ドローンを使った空撮画像を元にキャベツの数と大きさを画像解析して、より正確に収穫量を把握できるようにしています。
--なるほど。ちなみに先ほどのビスケットの話もそうなのですが、画像上の良品・不良品やサイズはどうやって学習させているのでしょうか?
佐々木:これらのケースでは「教師あり学習」という手法を用いており、あらかじめ良品のビスケット、充分に育ったキャベツなどの「正解」データ、あるいは不良品などの「不正解」データを与えることで、ディープラーニングがその特長を自動的に学習して判断してくれます。キャベツのサイズ推定については、AIで検出した後に画像処理でサイズ推定を入れています。これを機械学習でやろうとすると、人間が判断のために見るべきポイントを指示しなければならないので、現実的には不可能だと思います。
--ここまでで紹介していただいた活用事例はどちらも画像を使ったものでしたが、それ以外ではどのような活用が期待されているのでしょうか?
佐々木:一言でいうと「人の目」の代わりが求められる分野での活用が進んでいくと思います。たとえば、交通量調査における車両の検出などが一例として上げられますね。そのほか、医療・ヘルスケア分野で検査画像を分析して疾患を見つけだしたり、一般ビジネス分野でも膨大な量のビッグデータから消費動向を推測したり、といった使い方をされ始めているようです。
AIのこれから:
AIは人間の仕事を奪わない、寄り添っていく
--最後に、これからのAI技術がどのように進化・発展していくのか、聞かせていただけますか。
亀山:まず身近なところですと、技術的な側面では先ほど「解釈性」が低いと説明したディープラーニングに関して、その判断基準を人間がある程度まで把握できるような技術が登場し始めています。それによりディープラーニングの活用の幅がさらに広がるのではないか、ということがまず1つあります。
もう1つは、用途の側面で、今後、よりクリエイティブな方面でもAI技術が活用されていくのではないかと考えています。ゼロから画像を作ったり、文章を作ったりといったものです。
--たしかに最近、SNSなどでそういった研究成果やサービスが話題になっていますね。
亀山:冒頭で新しい技術が人間の力仕事、事務処理、認識を肩代わりしていったとお話しましたが、このままAIが進化していくと、それが何年後になるか分からないものの、最終的には思考のところまで行き着いてしまいそうです。でも、そうなったら本当に人間はやることがなくなっちゃうかもしれません(笑)。
佐々木:人間のやることがなくなるかはさておき(笑)、私もAIはこれからもどんどん進化していくと考えています。たとえば現在は、画像は画像、数値は数値というかたちでデータを学習させているのですが、最近ではマルチモーダルAIといって、画像と数値など複数の情報を組み合わせて何かを推定するというものが登場していますので、そのようにどんどんAIが拡張されていくと思われます。よく「2045年問題」(2045年にAIが人類の知能を超えるという説)が語られていますが、そこに向けて、加速度的に、相当な速度で進化していくのは間違いなさそうです。
--そうしてAI技術が進化していく中、NECソリューションイノベータはどのようなサービスを提供していくのでしょうか?
亀山:これまでのAI活用は大企業や自治体が中心に行われていたのですが、我々としては今後、より多くの方々にAI技術を使っていただきたいと考えています。中堅・中小企業はもちろん、個人レベルでもスマホを使ってちょっとした予測などができたら面白いですよね。
佐々木:かつて、人間の仕事がAIに奪われるのではないかという声がよく訊かれていましたが、実際にAIに取り組んでみるとそんなことは全くなくて、むしろ人とAIは共存・協調できるという実感が強くなりました。ここまで紹介した取り組みもすでにそうなのですが、我々としては今後も、人に寄り添っていくようなAIの研究・開発を続けて行きたいと考えています。
■解説者
亀山 篤志
NECソリューションイノベータ株式会社
デジタルソリューション事業部 第二グループ AIサービスグループ
シニアマネージャー