モーダルシフトとは? 物流におけるCO2削減の切り札が進まない理由 | NECソリューションイノベータ

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コラム

モーダルシフトとは?
物流におけるCO2削減の切り札が進まない理由

UPDATE : 2021.10.08

すべての企業に環境負荷軽減への取り組みが求められるようになった昨今、物流業界で注目を集めているのが「モーダルシフト」です。長距離輸送時の一部区間をより環境負荷の低い方式(モーダル)に転換(シフト)するというこの取り組みは、CO2削減のみならず物流業の課題解決に有用だと言われています。しかし期待される取り組みではあるものの、進めるのが難しい側面もあるようです。
この記事ではモーダルシフトのメリットと進まない理由、そしてモーダルシフトを推進し課題解決に至った先進事例を解説します。

INDEX

物流業の課題解決の切り札として期待される
モーダルシフトとは

近年、物流業界で注目を集める「モーダルシフト」とは、自動車を使った輸送手段をほかの輸送手段に転換し、貨物輸送時に発生する環境負荷を極力小さくしようとする取り組みです。具体的には、長距離輸送時の一部区間をCO2(二酸化炭素)排出量が大きいトラックから、CO2排出量の小さい鉄道や船舶にシフトすることで、環境負荷を低減します。

モーダルシフトは省エネルギー対策として1980年代に登場し、1991年には運輸省(現 国土交通省)から物流業の労働不足対策として推進が提言されました。その後、1997年に地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議において2010年までにモーダルシフト率を40%から50%に引き上げる方針を決定。しかし思うように進展せず、2006年以降は数値が公表されていません。時代とともに目的の変化が見られるモーダルシフトですが、近年ではSDGsの観点からも注目を集めています。

また、モーダルシフトをすればトラックの移動距離が短縮されるため、効率的な輸送が可能となります。ドライバー不足の課題を抱える物流業においては、有用な策の一つとなり得るでしょう。

こうした点から、現在、国が積極的に推進している「グリーン物流」の中でも特に実効性が高い取り組みとして関心が高まり、国土交通省によるモーダルシフト推進事業などによってさらなる加速が期待されています。

モーダルシフトの効果とメリット

モーダルシフトによってどのような効果やメリットがもたらされるのでしょうか。具体的に解説します。

CO2排出量が削減される

国土交通省によると、輸送手段ごとの「輸送量当たりの二酸化炭素の排出量」は、トラック(営業用貨物車)が225g- co2/t・kmなのに対して、船舶では41g-co2/t・km、鉄道では18g-co2/t・kmです。CO2排出量がトラックに対して、船舶では約6分の1、鉄道では約11分の1となっており、大きく抑えられることが分かります。ここからモーダルシフトは環境対策に有効な手段であることが言えます。

ドライバー不足の解消につながる

モーダルシフトでは輸送ルートが拠点間で細分化されるため、トラックドライバーが神経をすり減らしながら、日本列島を縦断する形で貨物を運ぶ必要がなくなります。昨今では過酷な労働の代表選手として語られることも多く、結果として人手不足が深刻化していたトラックドライバーですが、モーダルシフトが普及すれば労働環境の改善が見込まれ、ドライバー不足の解消につながることが期待されます。

長距離輸送のコストが削減できる

一度に大量の貨物を輸送できる鉄道や船舶は、大規模な輸送の際などは長距離トラックを利用した場合よりコストを大幅に削減することが可能です。港や駅などの転換拠点でトラックへの荷物の載せ替えが発生しますが、500kmを超えるような長距離輸送では大きなコスト削減が期待できます。

補助金が交付される

国土交通省および一部の地方自治体はかねてより、モーダルシフトを推進する事業者に向けて補助金の給付を行っています。たとえば国土交通省の「モーダルシフト等推進事業」では『総合効率化計画策定事業』『モーダルシフト推進事業』『幹線輸送集約化推進事業』を対象に、上限500〜1000万円規模の補助金が交付されています。

期待の大きいモーダルシフトが進まない理由

環境負荷の低減に効果が見込まれ、国や自治体による補助も行われているモーダルシフトですが、推進が順調とは言い切れません。ここではモーダルシフトが進まない理由について解説します。

小口輸送に不向き

モーダルシフトの要となる鉄道や船舶は、その性質上コンテナ単位での取り扱いとなるため、小口の輸送には向きません。対してトラック輸送は、1台単位の小口輸送が可能で、時間や頻度を調整しやすく利便性に優れいています。

リードタイムが伸びる

納入元(工場)から納品先まで直接トラックで輸送するのと比べ、モーダルシフトを利用した輸送では転換拠点への移動や貨物の載せ替えが発生します。さらに鉄道や船舶のスケジュールに合わせる必要があるため、トラック直送と比べて大幅にリードタイムが伸びるデメリットがあります。

長距離以外はコストが増大する

前段で「長距離輸送時のコストを削減できる」と述べましたが、それは物流全体の10%程度と言われている500kmを超える長距離輸送時に限られます。鉄道や船舶を利用した輸送はトラックと比べてコスト高なため、輸送距離が500km未満では逆に費用がかさむ問題があります。ただしこれについては補助金を活用することで補填することが可能です。

災害や天候不良の影響が大きい

地球温暖化の影響によって、台風やそれに伴う水害などの被害規模が年々増大しています。これらはすべての輸送に悪影響を及ぼしますが、特に鉄道は災害による障害に弱く、復旧に時間がかかるケースが多くみられます。

それでもモーダルシフト推進は
物流業に必要な取り組み

ここまで説明したようにデメリットも無視できないモーダルシフトですが、だからといってこのままで良いということはありません。温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「脱炭素社会」実現への動きが始まっている中、物流に関わる企業においても、これまで以上にCO2削減について取り組む必要があります。もう一方で、輸送の現場で働くドライバー不足問題や労働環境の改善なども、喫緊の課題です。モーダルシフトはこうした課題の解決に大きな可能性を持っています。

デメリットを克服するには、企業単独での取り組みでは限界があるかもしれません。複数の企業による連携や協働によって、実現する可能性が高まります。経済産業省や国土交通省などが主催する「グリーン物流パートナーシップ会議」は、グリーン物流普及の促進を目的に複数事業者間での協働による取り組みを支援しています。優良事業者(複数事業者間の協働)を表彰する取り組みなども行われているので、こうした事例を参考にすると良いでしょう。また、リードタイム縮小など輸送の効率化を図るには、最新の物流システムを活用することで実現できるでしょう。

モーダルシフトは物流業界の課題解決に大きなポテンシャルを持っています。CO2削減やドライバー不足などの問題・課題を持つ企業にとって、モーダルシフトは必要な取り組みと言えます。

モーダルシフトを推進し課題を解決した先進事例

ここでは実際の現場でモーダルシフトがどのように行われ、どのような成果を生み出したのか、具体的な先進事例を2つ紹介します。

製品輸送を海運モーダルシフト
トラックドライバーの運転時間を74%削減

製紙大手の王子製紙は、同社がかねてより推進しているモーダルシフトの一環として、これまで長距離トラック輸送に頼っていた愛知県内の工場から埼玉県内の加工場向け製品輸送について、船舶を利用した海運モーダルシフトを実施しました。商船会社が所有のRORO船(貨物を積んだトラックやトレーラーごと輸送する船舶)を用いたバラ積輸送を行うことで、大ロットでの船舶輸送を実現。これにより、CO2排出量を73.5トン/年、前年比33%もの削減に成功しました。トラックドライバーの運転時間も4,815時間(前年比74%)削減することができました。

この取り組みは「グリーン物流パートナーシップ会議」で高い評価を受け、令和2年度 国土交通省公共交通・物流政策審議官表彰を受けています。

工場近くにVMIセンターを構築
鉄道モーダルシフトで積載率100%を実現

京都府内に工場を構える部品ベンダーでは取引先の要望を受け、静岡県内にあるメーカー工場への納品について鉄道モーダルシフトを実施しました。リードタイムが大幅に伸びてしまうという弱点を解決するため、納品先工場近くに「VMI(Vendor Management Inventory)センター」と呼ばれる在庫拠点を配置。迅速な納品と、エコな物流の両立に成功しました。

従来はメーカーからの発注を受け、都度トラックを運行していたため、ケースによっては積載量60%程度でも便を出さねばならず原価率増加の課題を抱えていました。ところがVMIセンター設立後は定期的な在庫補充ができるようになったことにより、コンテナ積載率100%での輸送が可能に。京都・静岡間は500kmに満たない、本来であればコスト面でのメリットは見込めない輸送距離ですが、こうした効率化によってコスト面でも大きなメリットが生まれたと言います。

まとめ

すべての企業がこれまで以上に積極的に取り組むことが期待されている環境対策。物流業界においてはモーダルシフト推進が強く求められるようになりました。しかし、単に長距離トラック輸送を鉄道・船舶輸送に切り換えただけでは、モーダルシフトを適正に持続可能な形で運用していくことはできません。モーダルシフトのメリットを享受しデメリットを最小化するためにも、ICTを駆使して自社の物流システム全体を見直すことが重要です。