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専門家コラム
1000兆円市場のSDGsビジネスとは
ICTを活用したクリーンエネルギー事業
- 【執筆者】江田 健二氏
- RAUL株式会社 代表取締役

UPDATE : 2021.11.05
現在世界規模でSDGsを新たなビジネスチャンスと考える動きが活発化し、その市場規模は1000兆円以上と言われています。特に目標7の「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の市場規模は大きく、800兆円以上の利益が見込めると予測されています。目標7が巨大マーケットとなる理由やICTを活用したクリーンエネルギー事業について、最先端技術で企業の環境活動とエネルギー自由化を支援しているRAULの江田 健二氏が解説します。
巨大マーケットを生み出すSDGsビジネス
SDGsがビジネスのシーンで語られることが多くなってきました。SDGsはSustainable Development Goalsの略称であり、持続可能な開発目標と訳されます。SDGsでは、持続可能な社会を実現するための17の目標を定めています。世界各国でSDGsを新たなビジネスチャンスにしていこうという動きも活発です。もともとSDGsは、世界が抱える社会課題をビジネスとリンクさせることで解決を加速させようという意図がありますので、この動きはとても良い流れだと思います。
2017年にデロイトトーマツ社が発表した「SDGsビジネス」の市場規模の試算結果は、目標1~17で合計3000兆円を超えると報告しています。これは非常に大きな市場規模ですが、その中でも目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、一番大きく800兆円以上になると推定されています。2番目の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」が400兆円程度です。目標7は目標9の2倍以上の市場規模ですので、やはり突出した市場規模です。では、なぜ、目標7の市場規模は大きいのでしょうか?


クリーンエネルギーの利用が莫大な利益を生む理由
目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」がひときわ大きな市場規模になる理由は、クリーンエネルギーの導入がほぼすべての経済、社会活動に影響するからです。皆さんが「エネルギーをクリーンに」という言葉から、まず思い浮かべるのはこれまでの石油や石炭などの化石燃料の利用を減らし、再生可能エネルギーに転換することではないでしょうか。確かにこの部分はとても大切ですし、これだけでも大きな市場になります。しかし実は再生可能エネルギーだけでは、「エネルギーのクリーン化」は全体の3~4割程度しか実現しません。
残りの6~7割を実現するには、私たちの自動車を含めた移動や物流の改善、モノの製造などについても新しい形に変えていかなくてはならないのです。例えば、自動車ではガソリン車からハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、水素自動車などへの転換が求められます。加えて自転車、電車での移動推進や輸送ドローンの活用など人やモノの移動全体の効率化も進めていく必要があります。モノの製造では、工場のさらなる省エネ化に加えて、水素などの新しいエネルギーの活用なども期待されています。
もう1点、市場規模が大きくなる理由は、これまで以上にエネルギーを利用する人が増えるからです。途上国では、生活が豊かになり、家電製品や自動車などを先進国並みに利用するようになるため、今後1人ひとりが利用するエネルギー消費量が増加します。しかも途上国では人口自体も増えています。1人ひとりの平均エネルギー消費量が増えると同時に消費する人自体も増えます。
日本原子力文化財団の最新調査によると、例えばインドに暮らす人の1人あたりの電力消費量は、アメリカ人の10分1程度との統計もあります。

インドのような成長著しい途上国では、年々生活が豊かになり、多くの建物が建設されます。こうした背景から、新しく生まれる都市やそこで使われる製品全体をクリーンなエネルギーで運用していくことが求められているのです。目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」を実現するためには、再生可能エネルギーの活用に加えて、移動や物流、製造、建物や都市などについても考えていく必要あります。
エネルギーのクリーン化にはデジタル技術は欠かせない
「エネルギーをクリーン」にしていくことの実現には、デジタル技術が役立ちます。先ほどの再生可能エネルギー、移動・物流、製造、建物・都市の4つの分野においてIoT、センシング、AI、クラウド、5G、蓄電池技術などのデジタル技術の活用が期待されています。
【再生可能エネルギー分野】
発電量の予測や計測にAIやIoTの活用が期待されています。
【移動・物流】
自動運転による物流の効率化やドローンなどの新しい配送などでデジタル技術が活用されます。
【製造業】
工場の省エネ化などには、IoT技術での計測が役立ちます。加えて、欧州で推進されているサーキュラーエコノミーの観点では、1つの製品を循環させていく中でIoT機器での製品の情報管理などが進んでいます。
【都市・建物】
エネルギー効率の高い建物や都市づくり、エネルギー利用データの見える化にデジタル技術が活用されます。建物に併設された蓄電池を活用したエネルギーマネジメントなども進んでいきます。
このようにデジタル技術を活用することで、各分野でのエネルギー利用の効率化が実現されます。近年「エネルギーのクリーン化」にデジタル技術を活用した事例や取り組みが多数報告されています。例えばNTTスマイルエナジーでは、2012年7月から事業者向けと家庭向けにクラウド型電力見える化サービス「エコめがね」を提供しています。日本全国の太陽光発電設備をIoTや通信技術を活用して遠隔監視するサービスです。2020年7月時点の導入件数は、72000件にも達し、国内の再生可能エネルギーのシェア拡大などに貢献しています。
また、アイ・グリッド・ソリューションズでは「エナッジ」という事業者向けに省エネ行動をアドバイスするAI搭載のエネルギーマネジメントシステムを提供しています。同システムでは、事業所のエネルギーを一元管理でき、相対比較により事業所個別の問題も発見しやすく設計されています。加えて、タブレット型端末による見える化と、行動経済学「ナッジ理論」に基づいた画面表示による省エネ行動促進で、無理のない現場マネジメントが可能に。全国5000以上の企業において省エネ活動の推進や従業員の意識改革に貢献しています。
長期的目標と考えるのがビジネス成功の秘訣
SDGsの目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は来年、再来年にすぐに実現できるものではありません。世界規模でのエネルギーの転換が必要となるので、これから10年、20年かけて進めていく取り組みになります。この800兆円という非常に有望なビジネス領域を自社においてビジネスチャンスとして取り込んでいくには、「守りと攻め」が必要になってきます。
守りとしては、まずは自社内のエネルギーのクリーン化です。これらはさらなる省エネの推進、再生可能エネルギーの活用、電化の推進などの方法があります。そして、攻めとは、自社の技術やサービスを活用したビジネスの開発です。デジタル技術は、守りと攻め両方で活用できるでしょう。新しいビジネス開発は、まだ時間が十分にありますので、一から新規事業として育てていくことも可能です。検討する際は、国内市場をターゲットにするのか、前段でご紹介した途上国をターゲットにするのかなどの市場分析を行ったうえで、自社の強みや可能性を勘案しビジネスモデルを設計してみてはいかがでしょうか?

■執筆者プロフィール
江田 健二(えだ けんじ)
RAUL株式会社 代表取締役 / 一般社団法人エネルギー情報センター理事
富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。大学卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を設立。「環境・エネルギーに関する情報を客観的にわかりやすく広くつたえること」「デジタルテクノロジーと環境・エネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること」を目的に執筆/講演活動などを実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員(2019年)などとして、主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動を支援。