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コラム
教えて!会社が推し進めるべき労働時間の管理法
働き方改革が推進される中、労働時間はどう管理すべきなのか?
UPDATE : 2022.07.27
2018年7月に公布された「働き方改革関連法」では、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の確実な取得などが定められ、働き方に対する新たな施策が早急に求められることとなりました。これに伴って、リモートワークやワーク・ライフ・バランスが推進され、労働時間に関する各企業の考え方も大きく変わってきていきます。そこで気になるのが、企業側はどのように社員の労働時間を管理しているのかということ。社労士と行政書士の資格を持ち、IT支援も行う「はやし総合支援事務所」の代表・林雄次さんに、これまで支援を行ってきた企業の動向や、リモートワークでの従業員の管理法について教えていただきました。
プロフィール
林 雄次(はやし ゆうじ)さん
はやし総合支援事務所 代表
社会保険労務士、行政書士、中小企業診断士、情報処理安全確保支援士等、120を超える幅広い資格の知見で企業や士業の支援を行う。大手IT企業のシステムエンジニアとして1000社以上の業務改善に従事。数名のスタートアップから、数千人の上場企業まで幅広いクライアントに対し、手続代行・給与計算等の社労士業務や、業務そのものの改善支援を行っている。DX時代を先取りしたIT社労士として、士業向け「デジタル士業」オンラインサロンも運営。
INDEX
働くことに対する意識がどんどん変わっている
これまで「働く」ということは、イコール「会社にいる」ということでした。しかし、働き方改革をはじめ労働に関する考え方が変わる中で、会社にいることだけが働くことではない、という実態が分かり始めてきました。そして現在では、「そもそも働くとは何だろう?」という本質的な疑問を従業員一人ひとりが考えるようになっています。
それに伴い、就業規則の見直しを検討する会社が増えています。労働時間の是正や副業の許可などこれまでも多方面から見直しは行われてはいましたが、「とりあえず就業規則には追記した。さて、これをいかにして使わずにすむか」と、抜け道を探すようなケースが多くありました。それが、現状どんどん変わりつつあると肌で感じています。
労働時間が是正されにくい理由と長時間労働のデメリット
これまで長時間労働が常態化していた理由は、残業代を多少支払ったとしても、アウトプットの量が増えるのであれば会社にとってメリットが大きいと信じられていたからです。労働時間を少なくすれば売上が下がってしまう、それは会社として是ではない、との経営層の解釈があったのです。そして同時に、従業員も仕事を任されているという責任感から頑張りすぎてしまう面がありました。
いろいろな会社を支援する中で、日本の多くの会社員は良くも悪くも会社への帰属意識が強いと感じています。「終身雇用制度」や「新卒一括採用」などの制度によって一度入社すれば定年まで同じ会社で働く人も多く、まるで親と子のような、家族的な関係性がそこには出来上がっているのです。そして、自分を犠牲にしてでも会社をよくしなければならない、と従業員自身も思ってしまっています。
しかし、長時間労働のデメリットは決して無視できないほど大きいもの。以下に具体的に挙げてみましょう。
①従業員の健康を害する恐れがある
体を休める時間が短くなることは、体力的にも精神的にもよくありません。良い人材に長く働いてもらうためには、健康でい続けてもらう環境作りも大切です。
②従業員のモチベーション低下
せっかく良い人材を確保できたのに、長時間労働によりモチベーションが低下すればすぐにほかへと移ってしまいます。
③保険料の上昇
業務上で健康を害すれば政府労災への請求件数が増加し、保険料が上昇します。また使用者賠償への訴訟リスクも増大するでしょう。
④行政からの指導
働き方改革以降、行政の監督強化が実施されています。監査に対応する時間が余計にかかったり、働き方改革法などによる刑事罰の対象となる場合もあったりと、さまざまなリスクがあります。
これらのことから考えても、長時間労働はすぐにでも是正させなければなりません。会社存続のためにもしっかりと取り組んでいきたいです。
リモートワークにおける労働時間の問題点
最近増えているリモートワークを見てみると、実はここにも労働時間に関する新たな問題が出てきています。会社への帰属意識が強すぎる従業員がリモートワークをすると、残業時間をつけずにたくさん働いてしまうという問題です。ここには組織・個人、両方の問題が潜んでいます。
まずリモートワークでの長時間労働による組織側のメリットとしては少ない経費でアウトプットが増えると考えられていること、そして個人のメリットとしては短時間で高いアウトプットであると判断され、実績だけ積み増せることです。
一見両者のメリットが合致してうまく回っているようにも見えますが、実際は従業員が帰属意識のもとでかなり無理をしている状態。「長時間労働のデメリット」でも提示した事態がいつ起こるか分からない綱渡りが続き、結果的に組織の負担へ繋がります。そうならないためには、「正しい時間で正しいアウトプット」が大切です。そうできない従業員が多数いるのであれば、会社として新たな施策を考えるべきでしょう。そして「正しい時間で正しいアウトプット」ができているかどうか把握するために、労働時間や業務内容をきちんと記録することがとても重要です。
ライトな勤怠管理ツールでまずは適切に評価する
とはいえ、テレワークは労働時間や業務内容が把握しにくいもの。把握することに躍起になってしまう管理職の方々も多くおられます。しかし、これまで会社でデスクを並べて働いていた時でさえ、従業員の勤務内容を一から十まで把握していたわけではないと思います。テレワークになったからといって、PC起動中は常に録画するように促したり、アプリで何の作業をしたか細かく記録したり等、急に厳しく制限し事細かに管理するのは管理職にとっても従業員にとっても負担です。
おすすめしたいのは、比較的ライトな勤怠管理ツールを用いること。そもそもテレワークの環境において、どんなに頑張っても労働時間の把握は100%できないのが現状です。まずそれを理解し、その状況の中で管理していることが示せる簡易的なツールを導入してみましょう。
電話やメールで業務内容を報告するといったアナログな管理方法からトライする企業もありますが、一つひとつ確認するだけでも通常業務を圧迫します。管理する側の負担が増えれば長時間労働に繋がり、悪いサイクルに入ってしまう恐れもあるでしょう。
ある程度業務内容の土台となるようなものが見えればよしとする。テレワークの取り組みの最初の一歩として、ライトなデジタルツールの導入は良いと考えています。
テレワークでもコミュニケーションをしっかり取っていく
その上で、従業員同士のコミュニケーションをしっかり取ることも大切です。これまでは目で見て判断でき、それほど声をかけなくともなんとなくコミュニケーションが取れていた組織も、テレワーク下においては放っておくと従業員同士の関係性が希薄になりがちです。「みんなで仕事をしている」感覚をしっかりと養い、チームとしての結束力を強めるようにしましょう。
だからといって、上長が急に「何でも言ってね」とざっくり伝えたところで、従業員から意見が出てくることはほとんどありません。まずは上長から積極的に話題を振ったり、発言できる場をしっかり設けたりと働きかけていくことが大切です。その中でだんだんとコミュニケーションが活発化し、何か問題が起きる前にまず“気づける”ようになります。
例えば、長時間労働になりがちな従業員がいた場合、コミュニケーションの文化が醸成されている組織ではいち早く発見できます。そして「なぜそうなるのか」を綿密に聞き取りしたり、その従業員に振る仕事を調整したりと、適切なケアができるようになっていきます。
管理職に求められる従業員の労働時間管理とケア
テレワークでのコミュニケーションにおいて、管理職は重要なキーパーソンといえます。これまでは部署全体でのアウトプットが管理職の職責になっている場合が多く、「部署での成績が上がればよし」とされていた部分もありました。管理という面においても、“会社にいる/いない”という判断基準があり分かりやすかったのではないかと思います。しかし、テレワークで従業員が見えなくなったことで、どのように従業員を管理すれば良いのか、ガラリと発想を転換させなくてはならなくなりました。
まとめ
働き方を積極的に変えたり、従業員の動向に気を配ったり、管理職にはいろいろなことが求められています。そうしないと会社という大きな単位でも悪い影響が出てくる可能性があるからです。まずは労働時間の管理をしっかりとすること。そしてメンバー間で円滑にコミュニケーションを取り合って問題にいち早く気づき、一人ひとりのアウトプットをきちんと把握すること。こういった一つひとつのことが重要ではないかと考えます。