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コラム
地方創生とは?
交付金や取り組み事例、IT施策について解説
UPDATE : 2023.02.24
地方創生とは、人口減少や地域経済の衰退といった問題を解消し、地方および日本全体の活性化を目指して取り組む一連の政策のこと。現在、地方創生推進交付金をはじめとする諸施策の後押しを受け、地方自治体や企業がITを活用した地域活性化に取り組んでいます。
そこで本記事では、地方創生の基礎知識や各種交付金、地方自治体や企業の取り組み事例などについてわかりやすく解説します。
INDEX
- 地方創生とは
- 地方創生が重要な理由
- 地方創生の現状
- 地方創生政策の方向性
- 4つの基本目標
- 基本目標の見直しと新たな視点の追加
- 環境変化への対応
- 地方創生関連の主な施策
- 交付金による地方創生の財政支援
- 地方創生における人的支援
- 魅力的な地域をつくるための支援
- 自治体による地方創生の取り組み事例
- 【自治体事例①】富山県富山市
- 【自治体事例②】岡山県真庭市
- 企業による地方創生の取り組み事例
- 【企業事例①】株式会社小松製作所
- 【企業事例②】株式会社LIFULL
- 企業が地方創生に取り組むメリット
- 地方創生とIT活用
- まとめ
地方創生とは
地方創生とは、日本国内の多くの地域が直面している人口減少および経済縮小の抑制を目的とした一連の政策です。地方で「まち」「ひと」「しごと」を生み出して循環させ、東京圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)への一極集中を打開することで、地域格差の解消による日本社会全体の活性化を目指しています。
地方創生は、2014年の第2次安倍晋三改造内閣で掲げられた政策です。同年9月に「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、同年11月に「まち・ひと・しごと創生法」と「改正地域再生法」が成立しました。そして、翌年には地方創生に向けた5か年計画である第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」がスタート。現在は、2020年からの新たな5か年計画となる第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が展開中です。なお、総合戦略とは、地方創生の方向性や具体的な目標を定めた計画のことで、「まち・ひと・しごと創生法」に基づいて策定されます。
地方創生が重要な理由
国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口』(平成29年推計)では、2065年に総人口が9,000万人(出生率中位・死亡率中位を仮定)を割り込むと推計されています。また、生産年齢人口(15~64歳)に至っては、2056年に5,000万人(出生率中位・死亡率中位を仮定)を割り込むと見積もられている状況です。
こうした深刻な人口減少は、国家および地域、そして個人の持続可能性を脅かします。地域で人口減少が進むと、生活関連サービス産業の縮小や、税収減による行政サービス水準の低下、地域公共交通の撤退、地域コミュニティの機能不全などを引き起こします。それらが雇用の減少や地域の利便性および魅力の低下につながってしまうと、都市部へのさらなる人口流出を招くという悪循環になるのです。やがては、この流れが地方から都市部へと広がり、日本全体で活力を失ってしまうとも危惧されています。
地方創生が始まる以前も行政による地域活性化の取り組みは実施されていましたが、複雑で構造的な問題を抱える地域の人口減少や経済縮小を根本から解決するのは困難を極めました。今なお人口減少等の問題が続いている理由として、過去の取り組みは「府省庁ごとに縦割りで展開された施策」「地域特性を考慮しない全国一律の施策」「効果検証が伴わない施策」「対症療法的で短期的な施策」であったと指摘されています。
そこで「まち・ひと・しごと創生法」に基づく地方創生では、計画的で長期的な政策の推進体制が構築されました。例えば、同法では「人口の現状及び将来の見通しを踏まえている」ことと「総合戦略の実施状況に関する客観的な指標を設定する」ことを総合戦略の条件として規定しています。また、都道府県や市町村による「地方版総合戦略」の策定が努力義務として盛り込まれている点も、従来施策と異なる特徴です。
地方創生の現状
地方創生がスタートして数年が経過した現在でも、東京圏への人口集中は止まっていません。総務省『住民基本台帳人口移動報告』によると1996年から2022年までの27年間連続で、東京圏は転入超過が続いています。
なお、2021年の統計では、2014年以降で初めて“東京23区”が転出超過になりました。これには、新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークという働き方が認知され、地方移住への関心を高めた影響が考えられます。しかしながら、一時的な趨勢であることや移転先が東京市部や近隣3県であることも推測され、楽観視できる状況ではありませんでした。事実、新型コロナウイルス感染症による行動制限の緩和が徐々に進んだ2022年には、東京都市部へ向かう人々の動きがあったためか、東京23区は再び転入超過となっています。
地方創生では、環境変化が与える社会への影響を考慮に入れ、総合戦略を調整することが重要です。環境変化を引き起こした代表例としては、「ニューノーマル(新しい常態)」という言葉を一般化させた新型コロナウイルス感染症があります。この環境変化の結果、インバウンドや外食需要が減少し、地域の観光業・飲食サービス業は特に厳しい景況となりました。当然、雇用情勢にも影響を与え、新規学卒者を除きパートタイムを含む有効求人倍率(季節調整値)は、2019年12月が1.57倍であったのに対し、2020年12月は1.06倍へと下げています。
地方創生では、こうした社会情勢の変化を踏まえた対応が求められます。「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」は、環境変化を考慮した新しい取り組みの代表例です。そのほか、昨今はグローバルな課題としてSDGsの観点が重要視されている点もポイント。時代に合わせ、SDGsの理念に沿って地方創生を推進する「地方創生SDGs」という取り組みもスタートしています。
地方創生政策の方向性
2015年度からスタートした「まち・ひと・しごと創生総合戦略」。ここでは、現在に至るまでの政策の方向性について解説します。
4つの基本目標
地方創生の戦略をまとめた第1期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、以下の4つが国家レベルの基本目標として設定されました。
【基本目標①】 地方における安定した雇用を創出する |
地方で若者の安定した雇用を生み出せる地域産業の競争力強化に取り組むと同時に、安心して働ける職場づくりや労働市場環境の整備を進める。地方の中核となる中小企業の経営支援、観光業・農林水産業の活性化・付加価値向上支援、地方の人材育成・定着・雇用対策支援、イノベーションにつながるICTの利活用推進などを行う。 |
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目標値:若者雇用創出数(地方)2020年までの5年間で30万人/若い世代の正規雇用労働者等の割合 2020年までに全ての世代と同水準/女性の就業率 2020年までに73% | |
【基本目標②】 地方への新しいひとの流れをつくる |
東京圏から地方への移住促進や地方出身者の地元での就職率を向上させ、東京に一極集中する人の流れを止める。地方移住希望者への情報共有や相談支援、テレワーク勤務の支援、企業の地方拠点強化、政府機関の地方移転、地元学生の定着支援などを行う。 |
目標値:地方・東京圏の転出入均衡(2020年) (地方→東京圏転入 6万人減 ・東京圏→地方転出 4万人増) | |
【基本目標③】 若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる |
地域の実情に合わせた、結婚・出産・子育てをしやすい環境整備を推進する。地域の若い世代の経済的安定を目指した雇用対策、子育てを包括的に支援する窓口の設置、子育ての経済的な支援、子育てと仕事を両立できる多様な働き方の推進などを行う。 |
目標値:安心して結婚・妊娠・出産・子育てできる社会を達成していると考える人の割合 40%以上/第1子出産前後の女性継続就業率 55%/結婚希望実績指標 80%/夫婦子ども数予定(2.12)実績指標 95% | |
【基本目標④】 時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する |
健康的に安心して生活できる環境と持続可能な都市経営を実現するための、地域に合った「まち」づくりを推進する。コンパクトなまちづくりの推進、地域公共交通の活性化、地方の中心市街地活性化施策、地域資源を活かしたコンテンツによる地域活性化などを行う。 |
目標値:立地適正化計画を作成する市町村数 150市町村/立地適正化計画に位置付けられた誘導施設について、市町村全域に存する当該施設数に対して、都市機能誘導区域内に立地する当該施設数の占める割合が増加している市町村数 100市町村/市町村の全人口に対して、居住誘導区域内に居住している人口の占める割合が増加している市町村数 100市町村/公共交通の利便性の高いエリアに居住している人口割合 (三大都市圏:90.8%)(地方中枢都市圏:81.7%)(地方都市圏:41.6%)/地域公共交通再編実施計画認定総数 100件 |
基本目標の見直しと新たな視点の追加
2015年度から2019年度までの5か年で実施された第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、地方の若者の就業率改善や、農林水産物・食料の輸出額向上など、一定の成果が得られました。一方で、東京圏の転入超過は続き、地方創生施策のさらなる強化推進が求められました。2020年度からスタートした第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、以下のように基本目標が見直されたうえ、新たに横断的な目標が2つ追加されています。
- 【基本目標①】稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
- 【基本目標②】地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
- 【基本目標③】結婚・出産・子育ての希望をかなえる
- 【基本目標④】ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる
基本目標①においては、「稼ぐ地域をつくる」という文言が追加されました。単に雇用を創出するのではなく、若者の価値観やニーズを踏まえ、“賃金”や“やりがい”の点で魅力を感じられる「しごと」の重要性を考慮しています。続く、基本目標②では「地方とのつながりを築く」という観点が追加。仕事や趣味などを通じて地域と継続的に関わる「関係人口」の創出と拡大が強調されました。関係人口の増加が地域のイノベーションや将来的な移住者増加につながることを見込んだ設定です。さらに、基本目標④では、「ひとが集う」「魅力的な」という文言を追加。自然や文化などの地域資源を活用して「まち」に新たな価値を創造する方向性を強調しています。
- 【横断的な目標①】多様な人材の活躍を推進する
- 【横断的な目標②】新しい人材の流れを力にする
第2期から新たに追加された「横断的な目標」は時代の要請を受けた価値観が尊重されています。例えば、横断的な目標①では、ダイバーシティ&インクルージョンの概念が強調されています。若者・女性・高齢者・障がい者・外国人などさまざまな属性の人材が活躍できる環境づくりを推進する方向性です。横断的な目標②では、Society5.0やSDGsなどの新しい技術や価値観を取り入れることを目指しています。例えば、Society5.0の観点では、IoTを活用した見守りサービスやオンライン医療などを実現し、住民の生活利便性を高め地域の魅力づくりに貢献することなどが想定されています。
環境変化への対応
第2期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は、新型コロナウイルスの影響を受け、2020年末に改訂版が公表となりました。翌年公表の「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」では、新たな生活様式や行動の変容を踏まえ、地方創生戦略にヒューマン・デジタル・グリーンという3つの視点が追加されています。
ヒューマン ―地方へのひとの流れの創出、人材支援― |
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地域の人材に加えて、関係人口にあたる地域外の人材や、女性、高齢者、STEAM人材など、多様な「ひと」が活躍できる環境を整備して地域課題を解決する。テレワークの推進、企業の地方移転促進、関係人口の創出・拡大施策、結婚・出産・子育てしやすい環境の整備などに取り組む。 |
デジタル ―地方創生に資するDXの推進― |
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、農林水産業や観光業など地域における主要産業の生産性向上や、地域住民の利便性向上を実現し、魅力的な地域づくりにつなげる。5Gやローカル5Gなど情報通信基盤の整備、デジタル領域の人材支援、地域におけるデータ活用の推進、DXによる地域課題の解決(スマート農業や遠隔医療)などに取り組む。 |
グリーン ―地方が牽引する脱炭素社会の実現― |
脱炭素化の取り組みを推進し、国際的に求められている脱炭素社会の実現と地域活性化および地域課題の解決につなげる。再生可能エネルギーの導入支援、再生可能エネルギーを活用した新規ビジネスの創出、グリーン領域の人材基盤の整備などに取り組む。 |
地方創生関連の主な施策
ここでは、地方創生の目標を達成するために実施されている具体的な施策について紹介します。
交付金による地方創生の財政支援
現在、地方自治体や地方企業に向けて、以下のような財政支援政策が実施されています。
● 地方創生推進交付金
地方創生推進交付金は、各地方自治体が策定する地方版総合戦略に準じた自主的・主体的・先導的な取り組みを対象に付与される交付金です。交付の対象となるには、地域再生法に基づき作成された地域再生計画が、内閣総理大臣から認定されなければなりません。なお「縦割りの取り組み」や「効果検証の伴わない取り組み」から脱却するため、以下のような認定要件が設定されています。
- 具体的なKPIの設定およびPDCAサイクルの構築
- 「官民協働」「地域間連携」「政策間連携」「事業推進主体の形成」「地方創生人材の確保・育成」「デジタル社会の形成への寄与」の視点から、取り組みの先導性が評価できること
同様に地方版総合戦略および地域再生計画に基づいた施設設備の整備を支援する場合は、地方創生拠点整備交付金が対象となります。
● 移住支援金・起業支援金
地方創生推進交付金の代表的な用途とされているのが、地方創生移住支援事業および地方創生起業支援事業です。これらは、東京圏から地方へ移住して就業・起業する人を対象に移住支援金・起業支援金を支給する事業で、財源負担の割合は、国が1/2、都道府県が1/4、市区町村が1/4となっています。
就業のための移住では「“ふるさと求人"のマッチングサイトに掲載されている仕事に就いての移住」などの条件を満たすことで、世帯の場合最大100万円、単身者の場合最大60万円を支給。さらに、帯同する18歳未満の世帯員1人につき最大30万円が加算※されます。起業のための移住の場合は「起業地での居住」などの諸条件を満たすことで最大200万円が支給されます。
※2023年度からは、帯同する18歳未満の世帯員1人につき最大100万円が加算されることになりました。
● 新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金
新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止と、感染拡大の影響を受けている地域経済や住民生活の支援を目的に創設されました。燃料費の負担軽減や、テナントに対する家賃支援など、地域の実情に合わせて活用されています。なお、同交付金のポータルサイトである『地方創生図鑑』では、注目事業例や交付金に関する分析データを紹介。交付金の活用を促進するべく、WEBコンテンツによる広報・PR活動を展開しています。
● 地方創生テレワーク交付金
地方創生テレワーク交付金は、テレワークを推進して、地方へ向かう「ひと」の流れを創出するための交付金です。地方自治体を対象とした制度で、サテライトオフィスの整備やビジネスマッチングなどのプロジェクトを推進する目的で活用されています。なお、同交付金の地方自治体負担分については、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金での充当も可能です。
● 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)
地方創生応援税制は、企業が寄付を通じて地方自治体による地方創生の取り組みを支援すると、税額控除を受けられるという制度です。「企業版ふるさと納税」とも呼ばれています。企業にとっては、税負担軽減というメリットがあるほか、社会貢献による企業イメージアップや地方自治体のプロジェクト主体との関係構築も期待できます。
地方創生における人的支援
地方創生のための支援は交付金だけではありません。人材支援、情報支援というかたちで以下のような取り組みが行われています。
● プロフェッショナル人材事業
プロフェッショナル人材事業は、各道府県に設置された「プロフェッショナル人材戦略拠点」が関係機関と連携し、地域企業におけるプロフェッショナル人材の採用を支援する取り組みです。拠点のスタッフが、地域の金融機関などと連携して、地域企業の課題抽出や人材ニーズの発掘を支援します。さらには、民間人材ビジネス事業者や、パートナーシップを結んでいる都市部の大手企業とも連携。地域企業とプロフェッショナル人材のマッチングや、採用後のフォローアップなどを実施します。
● 地方創生カレッジ
地方創生カレッジ事業は、地方創生の推進に必要な人材を育成・確保することを目的にした事業です。具体的には、地方創生の推進に役立つeラーニング講座や交流掲示板を提供する『地方創生カレッジ』というプラットフォームを提供しています。eラーニング講座では「プロジェクトの資金調達」「地域におけるソーシャルビジネスの立ち上げ」「企業の魅力を伝える求人票制作講座」などの実践的・専門的なコンテンツが受講でき、2016年から2022年9月末までの受講者全体数は38,297人に上っています。なお、官民連携講座では、eラーニングではないスクーリングによる実地研修も開かれています。
● 地方創生人材支援制度
地方創生人材支援制度は、地方創生への取り組みが積極的な市町村に向けて、意欲および能力のある国家公務員・大学研究者・民間専門人材を市町村長の補佐役として派遣する制度です。原則として、半年から2年間の派遣期間でシティプロモーションやブランディング施策などに取り組みます。2022年度からは、脱炭素の推進などの「グリーン分野」と、スマートシティの推進などの「デジタル分野」の専門人材派遣も始まりました。
● 地方創生コンシェルジュ
地方創生コンシェルジュとは、地方自治体に向けた相談窓口制度です。相談内容に適した担当省庁が不明な場合には全体の窓口としても機能するほか、省庁横断的な施策に関する相談にも対応しています。なお、地方創生コンシェルジュを担当しているのは、内閣府・内閣官房・警察庁・個人情報保護委員会・金融庁・消費者庁・復興庁・総務省・法務省・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・気象庁・環境省・防衛省の職員です(2022年10月1日時点)。
魅力的な地域をつくるための支援
財政支援や人的支援のほかに、地域の魅力づくりをサポートする以下のような施策も行われています。
● 地方創生SDGs
地方創生SDGsとは、SDGsの理念に基づき地方創生を推進する一連の取り組みを指します。その施策の1つである「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」では、持続可能なまちづくりに向けて優れた取り組みを展開している地方自治体を“SDGs未来都市”として選定しています。さらに、とりわけ先導的な取り組みを進めている地方自治体は“自治体SDGsモデル事業”に選定し、地方創生SDGsを推進する取り組みの普及と発展を促しています。
そのほか「地⽅創⽣SDGs 官⺠連携プラットフォーム事業」では、地方自治体と関係省庁、民間企業のマッチング支援や官民連携事例のPRを進めています。
● 観光地域づくり
観光庁では、観光による地域活性化を促すため、伝統工芸品事業の後継者育成や需要開拓、観光資源である街並みの景観整備、海洋周辺地域における訪日観光コンテンツづくりや受け入れ環境の整備などを支援しています。
そのほか、観光地の経営やマーケティングを支援する法人である「観光地域づくり法人(DMO:Destination Management/Marketing Organization)」の形成および活動支援も実施。観光地域づくり法人が地域の環境事業をリードする役割を担えるように、戦略策定や観光コンテンツ造成、情報発信やプロモーションをサポートしています。
● 生涯活躍のまち
「生涯活躍のまち」とは、あらゆる人々が居場所と役割をもってつながり、生涯にわたって健康的かつアクティブに活躍することで活性化していくコミュニティづくりを目指す施策です。従来は、中高年齢者層を対象にした移住施策と位置づけられていましたが、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」で、より多様な世代や人々の活躍やつながりが重要視されたことで見直されました。
国の支援施策としては、『「生涯活躍のまち」づくりに関するガイドライン』の策定や、導入事例・補助金などに関する情報発信、官民連携した中間支援組織の構築、不動産・金融・医療福祉などの専門知識を有する「生涯活躍のまちアドバイザー」の活用推進などがあります。
自治体による地方創生の取り組み事例
ここでは地方自治体による先導的な地方創生の取り組みを2つ紹介します。
【自治体事例①】富山県富山市
富山市は、コンパクトシティの形成やスマートシティの推進など、先進的なまちづくりにより地方創生を先導していることで知られています。コンパクトシティの形成では、次世代型路面電車(LRT)「富山ライトレール」と環状線化された市内電車「セントラム」などにより公共交通を活性化。さらに、都市部および公共交通沿線に居住推進地域を設けて住宅取得を助成することで、当該地域への転入超過を達成しています。同市の取り組みにおけるポイントは、住民基本台帳情報とGIS(地理情報システム)を組み合わせて人口動態の可視化を実現している点です。データに基づいて、各施策のPDCAサイクルを回しています。
スマートシティの領域では、省電力広域エリア無線通信(LPWA:Low Power Wide Area)とIoT技術を活用した「富山市センサーネットワーク」を構築。児童の登下校の見守りや鳥獣被害対策に活用しています。そのほか、産学官民の交流およびオープンイノベーションを促進する「Sketch Lab(スケッチ ラボ)」という拠点づくりや、市の統計データを二次利用可能な形で公開する「富山市オープンデータサイト」の開設など、データ利活用を推進する環境整備にも取り組んでいます。
【自治体事例②】岡山県真庭市
岡山県北部、中国地方の中央に位置する真庭市は、中山間地域における地方創生のモデルケースとして注目を集めています。木材資源に恵まれた同市では、バイオマス資源の循環による地域経済の活性化を企図。真庭バイオマス発電事業、木質バイオマスリファイナリー事業、有機廃棄物資源化事業などを展開し、農林水産省の「バイオマス産業都市」に選定されています。そのほか、CLT(繊維方向が直交するように積層接着した木質パネル)という建材を市営住宅や公共施設などに積極活用して、その需要拡大と産業育成も後押ししています。
なお、同市は2021年度から2025年度の5か年計画である「真庭市dX化戦略(第4次真庭市情報化計画)」を策定しています。基本方針として「地域dX」「経済dX」「行政dX」を掲げ、デジタル技術を活用したスマートヘルスケアの推進やスマート農林業の深化、行政手続き改革などを進めています。
企業による地方創生の取り組み事例
地方創生には、企業が主体的に関わっているケースがあります。ここでは企業による地域活性化の取り組み事例を2件紹介します。
【企業事例①】株式会社小松製作所
建築機械の製造で知られる株式会社小松製作所は、地方創生が始まる以前から地域活性化の取り組みを続けています。例えば、2002年には本社機能の一部を石川県小松市へ移転し、2011年にはJR小松駅前の小松工場跡地に「こまつの杜」という施設を建設しました。「こまつの杜」は、教育研修用施設や会議用施設のほか、「わくわくコマツキッズ館」や「げんき里山」など市民向けの体験施設も構え、地域の活性化を図っています。
また、同社の主力工場である粟津工場では、間伐材をエネルギー資源として活用するバイオマスボイラーを導入しています。発電に利用しているほか、その過程で生じる木質燃焼灰の肥料化にも成功しました。そのほか、農業の6次産業化支援も実施。1次産業者(生産)が、2次産業(製造・加工)や3次産業(サービス・販売)も手がける6次産業化により、1次産業者の収益拡大に貢献しています。
【企業事例②】株式会社LIFULL
不動産・住宅情報サイトの「LIFULL HOME'S(ライフル ホームズ)」を運営する株式会社LIFULLは、社是として“利他主義”を掲げ、地方および全国の空き家問題解決やテレワークの推進に貢献するための事業を展開しています。例えば、「LIFULL 地方創生」事業では、全国の空き家物件データの提供や、空き家を活用する人材を育成するための教育講座の実施、空き家活用の資金調達支援、空き家活用のプロデュースなどに取り組んでいます。
そのほか、「LivingAnywhere Commons」(以下、LAC)という場所にとらわれない働き方の実現を目指したコミュニティサービスも運営しています。LACは、全国50拠点(2022年末時点)の施設を月額のサブスクリプション型もしくは従量課金型の支払い形態で利用できるというサービスです。同社の社員は、オフィスへの出社勤務と在宅勤務に加えてLAC拠点での勤務が認められています。こうした取り組みで地方との新しいかかわり方を先導してきた同社は、政府と「地方創生テレワーク推進パートナー」としての包括連携協定を結び、地方創生テレワークに取り組む企業や自治体を支援しています。
企業が地方創生に取り組むメリット
企業主導の地方創生では、企業にとって以下のメリットが期待できます。
- 地域活性化による社会貢献と事業発展
- 社員の多様な働き方の実現
- BCP(事業継続計画)によるリスクの分散
スマートシティ形成など地域課題の解決につながる取り組みは、企業のイメージアップに直結しブランディングに貢献します。また、官公庁や自治体、大学などと連携した産官学民のオープンイノベーションが実現すれば、新規ビジネスを創出できる可能性も高まるでしょう。
テレワーク環境を整備すれば、地方に居住しながらリモート勤務するという働き方を社員に提案可能です。勤務体制に関して、社員にさまざまな選択肢を与えることで、定着率の向上や離職防止を図れます。また、勤務地の自由度を高められるため、地方の優秀な人材を雇用する機会も獲得できるでしょう。
本社の地方移転や地方拠点づくりは、BCPの観点からも重要です。地方拠点が機能すれば、災害など想定外の事態が発生してもビジネスを継続しやすくなり、顧客からの信用を高められます。また、地域経済の活性化および地域振興による社会貢献は、企業イメージの向上にもつながるでしょう。なお、現在は地方拠点強化税制やBCP実践促進助成金などの制度があり、BCPに取り組みやすい環境が整っている点も魅力になっています。
地方創生とIT活用
ITは、農林水産業や医療、観光など、幅広い分野で地域の課題解決に重宝されています。例えば、以下のような活用例があります。
- IoTのセンサーネットワークを活用した鳥獣被害対策
- オープンデータの活用を促すデータプラットフォームの実装
- クラウドを活用した医療関連情報の一元管理と連携
- グループウェアや勤怠管理ツールを活用したテレワーク
- AIチャットボットによるインバウンド観光客の対応
このようにデジタル技術の活用は、従来のビジネス慣行の抜本的な変革や新たなビジネスの創出につながる可能性があります。また、ITによる効率化で削減したコストを雇用機会の拡充にあてることもできるでしょう。
デジタル技術の導入や活用を進めるためには、悪質化・巧妙化するサイバー攻撃や、組織内部のデータセキュリティ違反に向けた対策が求められます。しかしながら、現在はITの専門人材が慢性的に不足している状況です。そのため、デジタル技術を最大限活用した地方創生に取り組む際には、ITベンダー企業と連携することも検討すると良いでしょう。
まとめ
地方創生は、国家の重要課題である人口減少や地域経済縮小を是正するために行われている一連の政策です。政策の後押しを受け、データに基づいてPDCAを回転させ、計画的にまちづくりを進める地方自治体も現れています。また、地方創生は企業のブランディングやBCPにつながる方法を取れる点もポイントです。自社の経営資源とデジタル技術を効果的に活用し、日本全体の活性化にビジネスで貢献する道を探ってみてはいかがでしょうか。