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リモートワークはウェルビーイングを高めるのか?(後編)

潜在的なウェルビーイング課題

ハイブリッド・パラドクスを踏まえて、どのようなウェルビーイングが目指されるべきでしょうか。new windowギャラップ社はウェルビーイングの要素として次の5つを挙げています

  • Career Well-Being:費やしている時間。やりたいことができているか?
  • Social Well-Being:関係性や愛情
  • Financial Well-Being:経済状況
  • Physical Well-Being:健康状態
  • Community Well-Being:地域との結びつき

66%の人がこれらの領域のうち1つ以上でうまくいっていると回答している一方で、すべてうまくいっていると回答したのは7%でした。
ウェルビーイングかどうかを判断するのに客観的ウェルビーイングと主観的ウェルビーイングがあります。幸福度を測るために使われる指標としてGDPや所得、健康寿命などがあります。しかし、それらが高くても本人が「幸福ではない」と感じている、すなわち客観的幸福と主観的幸福が一致しないことがあります。そのなかで主観的幸福への注目が高まっています。new window世界幸福度調査によると書籍で「主観的幸福」が登場する頻度は1995年と比べて8倍に増加していると指摘しています。

時間に追われているビジネスパーソンの写真

またプレゼンティーイズムとアブセンティーイズムという考え方があります。アブセンティーイズムとは健康状態の悪化により休業してしまう状態を指します。プレゼンティーイズムとは健康状態がすぐれない状況でオフィスに出社することでパフォーマンスが下がり、生産性が低下する状態を指します。

このプレゼンティーイズムはさらに3つに分けられると思います。

  • ストレスを抱えている、体調が悪いが勤務できている状態
  • 明確ではないがなんとなく不調やストレスを抱えて勤務している状態
  • 不調やストレスはないが本当に自分がやるべき・やりたいことができているか?など、どこかにモヤモヤを持ちながら勤務している状態

健康経営やウェルビーイング経営など最初の状態を改善するような方策は探られつつあります。しかし、new window職場がホワイトすぎて辞めたいという記事も出たように3つ目のいわば潜在的なウェルビーイング問題への対応が企業にとっての今後のウェルビーイング経営の課題だと言えるでしょう

「越境」によるウェルビーイングの実現

潜在的なウェルビーイング課題の解消のためのヒントとして「越境」があります。例えば、いま私が進めている研究テーマであるワーケーションは「越境」のよい事例です。

ワーケーション(Workcation)とはワークとバケーションを重ね合わせた造語で、日本ワーケーション協会はワーケーションを「場所を変えて豊かに暮らし働く手段」と定義しています。2020年から広がりつつありますが、その背景には観光だけではなく地方創生や関係人口創出という文脈もあり、単純に休暇的な環境で働くだけではなく、さまざまな地域での社会活動を含むことも多くあります。

バルコニーでワーケイションを行っている女性の写真

ワーケーションを実践されているワーカーにお話を聞くと、普段の会社や地域とは異なるところに「越境」することで異なる価値観やつながり、コミュニティに出会ったり、あるいは自分が本当にやりたい、やってみたいことをする機会になっています。

別に現在の職場や職務に不満があるわけではないけれど、ワーケーションをすることで自分がやってみたい、やりたいことに取り組む時間もつくっています。彼ら彼女らの多くはワーケーションを「それはそれ、あれはあれを両立する現実解」と言います。

2022年に公開されたnew window人材版伊藤レポート2.0に代表されるように人的資本経営が叫ばれています。さらに同年に公開されたnew window伊藤レポート3.0ではSX(サステナリビリティ・トランスフォーメーション)として社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくことの重要性が指摘されています。ワーケーションは主観的ウェルビーイングを高める効用が期待できるだけではなく、SXのアプローチとしても有効なものになりえます。

「Yes」のウェルビーイングから
「Yes, and」のウェルビーイングへ

SXを踏まえると、ウェルビーイングは「Yes(今満たされている)」のウェルビーイングから一歩進んで「Yes, and(さらに・より活動できる・したい)」のウェルビーイングに踏み込むことが重要になります。

例えば、今の仕事を行うために十分な心身の健康状態と、今の仕事に加えて(複・副業や新規事業・企画など)新たなことに取り組みたいという健康状態とは似ているようでやや違います。
「Yes, and」のウェルビーイングを達成するためには企業や人事部門はそれをコストではなく投資であるという姿勢で臨むことが重要です。ウェルビーイングへの投資は言い換えると、カルチャーとテクノロジーへの投資でもあります。

カジュアルなオフィスで談笑する2人の女性の写真

逆に言えば、カルチャーとテクノロジーへの投資はきちんと社員のウェルビーイングにつながっているかを検討する必要があるでしょう。それがハイブリッド・パラドクスからハイブリッド・ハーモニーへ転換することにもつながるのです。

執筆者:松下慶太
関西大学社会学部教授。博士(文学)。専門はメディア論、コミュニケーション・デザイン。近年はワーケーション、デジタル・ノマド、コワーキング・スペースなどメディア・テクノロジーによる新しい働き方・働く場所を研究。近著に『ワーケーション企画入門』(学芸出版社、2022)、『ワークスタイル・アフターコロナ』(イースト・プレス、2021)、『モバイルメディア時代の働き方』(勁草書房、2019)など。

執筆者:松下慶太氏の写真

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