人事・総務コラム

人材不足の嵐を乗り越える
2024年問題の戦略

コラム執筆者:坪 義生氏掲載日:2024年10月4日

人材不足の嵐を乗り越える2024年問題の戦略

はじめに

2024年、企業が直面する最大の課題の一つが「人材不足」などに代表される2024年問題です。この問題は、人口動態の変化、業種別の需要と供給の不均衡、技術革新による職種の変容、高齢化社会の進行、そしてリモートワークの普及といった多様な要因によって引き起こされています。物流・運送業界、建設業界に限らず、様々な産業に深刻な影響を及ぼしています。

1.2024年問題とは

2024年問題とは、働き方改革関連法により2024年4月から一部の業界で猶予されていた時間外労働の上限規制の措置期間が満了し、それによって生じる人手不足などの問題のことを意味します。

時間外労働に対する上限規制は、原則として2019年4月から(中小企業については2020年4月から)施行されています。しかし、運送・物流業界、建設業、医療業界などは、特殊な業務内容や従来の慣習を考慮して、5年間、適用が猶予されていました。

2024年3月をもってこの猶予期間が終了し、上限規制が全面的に施行されることになります。これにより、該当する業界では、労働力を維持しつつ規制に適応する方法を模索することが急務となっています。

2.2024年の人材不足の主な原因

人口動態の影響

2024年の人手不足問題は、人口動態の変化に大きく起因しており、高齢化の進行による労働力人口の減少が最も顕著な要因です。特に、産業界全体で若年層の減少と高齢者人口の増加が続いており、これが労働市場における供給不足を招いています。

業種別の需要と供給のバランス

一方で、業種別に見ると、特定の産業での需要と供給のバランスの乱れも人手不足を引き起こしています。物流業界は、オンラインショッピングの普及による荷物の輸送需要の増加が続いており、特にドライバー不足は深刻化しています。

技術革新による職種の変化

技術革新、特にAIやDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速は、多くの産業における人手不足の一因となっています。これらの技術は効率化やコスト削減に寄与する一方で、AIを管理・開発するエンジニアなどの特定の技能を持つ人材の必要性を高めています。

高齢化社会による労働人口の減少

日本では、高齢により退職する人の数が、労働市場に新たに参入する若者の数を上回っています。特に、物流業界や建設業界では、トラックドライバーや現場作業員などの肉体労働を伴う職種で人手不足が顕著です。労働時間の長さや厳しい労働環境が若者の業界離れを促しており、これが人手不足をさらに悪化させる懸念があります。

リモートワークの増加による対応不足

新型コロナウイルスの影響で、リモートワークが急速に普及しました。多くの企業がリモートワークを導入したことで、従業員の働き方に柔軟性が生まれました。しかし、リモートワークの普及は、特に物流業界や運送業界における人手不足の問題を浮き彫りにしました。リモートワークが可能な職種とそうでない職種が明確に分かれ、後者、例えばドライバーや倉庫作業員などの人手不足がより深刻化しています。

3.人材不足が顕著な業種別の現状

上述の通り、2024年の人材不足は、どの業界においても大きな課題として取り上げられています。すでに数年前から人材不足が叫ばれている業界にとっては、より厳しい状況です。そういった業界の現状と課題について説明します。

4.人材を確保するための適応策

リモートワークの推進と活用

働き方の多様化
働き方改革関連法や時間外労働の上限規制など、労働環境を改善する政策がリモートワークの普及を後押ししています。企業にとっても、オフィス維持費の削減や従業員の満足度向上など、多くのメリットがあります。結果として、働き方の多様化は人材確保の幅を広げ、業種を問わず企業の競争力を高める要因となっています。

生産性の向上
リモートワークは、従業員の生産性向上にも寄与しています。通勤時間が削減され、個々の従業員が最も集中できる環境で仕事ができるため、作業効率が上がることが報告されています。また、デジタル化推進(DX)の一環としてリモートワークを活用することで、業務プロセスが見直され、無駄な会議や手続きの簡素化が進んでいます。しかし、生産性の向上を実現するためには、適切なツールの選定やコミュニケーション方法の確立が重要となります。

海外からの人材確保とマイグレーション問題の解消
IT業界や専門職の分野では、世界中から優秀な人材をリモートで雇用することが増えており、国境を越えた人材流動が活発になっています。多様な文化的背景を持つ従業員から新しいアイデアを得る機会を提供し、企業のイノベーションを促進しています。さらに、海外の人材を現地で雇用することで、マイグレーションに伴う法的・社会的な問題を回避しやすくなり、グローバルな人材確保戦略の柔軟性が高まっています。

AIと自動化の利用拡大

生成AIの利用拡大は、人手不足解消に向けた企業の適応策の一つとして注目されています。物流業界や運送業界におけるルート最適化、建設業におけるプロジェクト管理の自動化、さらには医療分野での診断支援システムなど、利用分野は多岐にわたります。一方、AIの導入と効果的な活用には、適切な知識とスキルが必要であり、従業員の研修や教育も重要な施策となります。

女性、シニア層、外国人の労働力活用

女性の活躍推進による労働人口の増加
現在、多くの企業では柔軟な勤務体系の導入、テレワークの推進、育児休暇の取得推奨など、女性が長期にわたり働き続けられる制度が整備されつつあります。女性の職場復帰やキャリア継続を促し、結果的に企業の人手不足解消に貢献するとともに、女性の管理職への積極的な登用は、組織全体の多様性を高め、新たな視点での問題解決につながります。

シニア層の再就職・再雇用の促進
定年後も働きたいと考えるシニア層が増えている今、フレキシブルな働き方の提供、スキルアップ研修の実施、健康管理のサポートなどを通じて、シニア層の長期的な職業生活を支援することが重要です。企業は豊富な経験と知識を持つシニア層の力を引き続き利用できるだけでなく、若手社員への知識伝達の橋渡し役としても彼らを活用できます。

外国籍労働者の受け入れと多様性への対応
外国籍労働者の受け入れ拡大は、多様性を受け入れる企業文化の醸成と人手不足解消の両方に寄与します。多文化共生の促進、言語や文化の違いに対する理解の深化は、グローバルな視野を持つ企業にとって不可欠です。また、外国籍労働者への支援体制の構築、例えば日本語教育の提供やビザ手続きの支援など、彼らが新しい環境で生活しやすくするための対策も求められます。

教育体制の改革とスキル習得の重要性

企業が人手不足問題に効果的に対応するためには、教育体制の改革と従業員のスキル習得の重要性を認識する必要があります。近年のビジネス環境では、技術の進化が加速しており、特にデジタル化(DX)や人工知能(AI)の導入が進んでいます。これらの変化に対応するためには、従業員が新しい技術や手法を習得し、適応する能力が不可欠です。そのため、企業は継続的な学習と成長を支援する教育プログラムの導入に力を入れるべきでしょう。

5.まとめ 2024年の人材不足解消へ向けた適応策を今すぐ実行しよう!

人材不足の問題に立ち向かうため、企業はリモートワークの推進、AIと自動化の利用拡大、女性やシニア層、外国人労働力の活用、教育体制の改革とスキル習得の推進といった多面的な戦略を展開する必要があります。これらの取り組みは、働き方の多様化、生産性の向上、グローバルな人材の確保といった直接的な効果をもたらすだけでなく、企業文化の変革と持続可能な成長への道を開くことにもつながります。2024年度を迎えるにあたり、人事担当者はこれらの適応策を積極的に取り入れ、未来への準備を進めることが重要です。

執筆者プロフィール

坪 義生

坪 義生

じんじ労務経営研究所代表

じんじ労務経営研究所代表(社会保険労務士登録)、労働保険事務組合 鎌ヶ谷経営労務管理協会会長、清和大学法学部非常勤講師、「月刊人事マネジメント」((株)ビジネスパブリッシング)取材記者。
社会保険診療報酬支払基金、衆議院議員秘書、(株)矢野経済研究所、等を経て、91年、じんじ労務経営研究所を開設。同年より、企業のトップ・人事担当者を中心に人事制度を取材・執筆するほか、中小企業の労働社会保険業務、自治体管理職研修の講師など広範に活動。
著書に『社会保険・労働保険の実務 疑問解決マニュアル』(三修社)、『管理者のための労務管理のしくみと実務マニュアル』(三修社)、『リーダー部課長のための最新ビジネス法律常識ハンドブック』(日本実業出版社、共著)などがある。

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