サイト内の現在位置

「正解のない未来」への問い。AI時代にNECソリューションイノベータが挑む「人間理解」の実験場

2026年1月27日、NECソリューションイノベータ本社にて社内イベント「イノベラボDAY2025」が開催されました。今年のテーマは「AIで人の力を引き出し、社会価値を創造する」。会場には、研究成果や事業開発プロジェクトの展示が並び、開場直後から多くの社員が足を運びました。本イベントを主催したのは、「ひとを知り、ヒトの可能性を広げる、人間中心ラボ」の理念を掲げるイノベーションラボラトリ(以下、イノベラボ)。
近年の、AIの急速な進化により、ビジネスにおける価値創造の源泉は「答えを出す力」から「問いを立てる力」へとシフトしています。この変化に対し、企業はどう向き合い、どのような未来を描くべきか──。
本記事では、イノベラボの1年間の集大成でもある本イベントと、所長の福井知宏へのインタビューを通じ、NECソリューションイノベータが目指す「技術と人が共創する未来」の姿をお届けします。
未来の技術を実装する。イノベラボが担う実験場という役割
イノベラボは、単なる研究部門ではありません。これからの時代を見据え、新たな技術と事業を創出する専門組織として、大きく2つのミッションを担います。1つは、会社として獲得すべき技術を中長期視点で見定め、確実に獲得すること。もう1つは、「NECソリューションイノベータ 2030 Vision」に掲げた「バリュープロバイダ(VP)事業」、すなわち従来のSIモデルにとどまらないサービスなど、新たな事業を創出することです。
その活動は現在のお客様や社会の要望に応えるだけではありません。「2030年、さらにその先に向けてNECソリューションイノベータが持つべき技術とは何か」「社会に提供すべき価値とは何か」。常に未来への“問い”から出発する点が特徴です。
組織の規模は約150名。研究者、エンジニア、事業開発、デザイナー、ブランディングなど、多様な専門性を持つメンバーが集まっています。IT企業でありながら、DNAを扱うバイオ研究者や、行動科学・心理学の専門家が在籍。スタートアップのように大胆な仮説を立て、Jカーブ(先行投資型の急成長モデル)を前提とした事業開発に挑戦するチームもあります。技術の獲得から研究、事業化、エンジニアリング、ブランディングまでを一気通貫で推進できる体制こそが、イノベラボが「未来の実験場」として機能するための土台となっています。
AIは脅威ではなく「機会」
基調講演に登壇した福井がまず触れたのは、AIをめぐる現在地です。
「AIはSEを駆逐するものではありません。機会の塊です。思考を拡張するために積極的に使いこなしていけばいいのです」
急速に進化するAIを前に、不安や危機感が先行してしまうことも少なくありません。しかし福井は一貫してこれを「機会」として捉える姿勢を示しました。直近のAIの性能は1年前のAI版ムーアの法則(AIの処理能力が指数関数的に向上するとされる法則)での予測を超えるスピードで向上し続け、エージェント化も必然的に加速していく。その前提に立った上で、「NECソリューションイノベータとしてどう考えるのか」が問われています。

イノベーションラボラトリ 所長

講演の中で示されたキーワードは「Why」「How」「What」。中でも福井が最初に掲げたのが「Why」、すなわち「なぜ私たちがAIを通じて研究開発や事業開発に取り組むのか」という問いでした。その軸として語られたのが「人間理解」です。福井は次のように話します。
「AIの急速な進展を“脅威”ではなく“機会”と捉え、人間理解を深めながら、人を中心に据えた持続可能で創造的な未来社会を、デジタル技術との融合によって実現していく。それがイノベーションラボラトリのビジョンです」
イノベラボが向き合っているのは「正解のない未来」です。
「“正解のない未来”とは、予測困難な社会変化と、それに伴う価値観の大きな転換が進行する世界です。人の多様な価値観がより重視され、それがゆえに複雑で多面的な問題・課題を包含してしまう。既存の枠組みや経済合理性による判断基準では、正解を特定できません」
だからこそ必要になるのが、自分なりの仮説を置き、実験を通じて検証していく姿勢です。明確な答えがないからこそ問いを立て、試し、学び続ける。その思想こそが、イノベラボの活動の原動力となっています。
「複雑なものを、複雑なまま」扱う。人間理解を軸とした新たな研究
イノベラボの研究開発の中核にあるのが「人間理解×デジタル」という視点です。高度経済成長期以降に形成された中央集権的な社会構造から、個人が中心となる成熟社会へと移行する中で、人が何を考え、何に動機づけられ、何をすれば幸せなのかを探究する。そのために、バイオテクノロジーを用いたセンシング、行動科学や心理学を組み合わせたアプローチ、さらにシミュレーションという概念を取り入れ、多角的に人間を捉えようとしています。
福井は講演で、「単一ターゲットのセンシング精度を上げるアプローチだけでなく、複雑なものを複雑なまま扱うことにチャレンジしたい」と語りました。例えばバイオの分野では、従来は免疫、ストレスといった特定のターゲットを検出していました。今後は、人間の老化や腸内フローラ、口腔内フローラ、自然や生態系のように多様な要素が絡み合いながら相互に影響を与える対象を、個々に検出するのではなく「複雑な構造」を「分布・バランス」として捉えようとしています。

こうした視点は、人と人の関係性にとどまりません。人とAI、さらにはAIとAIの関係性へと広がっています。福井は「AIやロボティクスの進化の先にある、人とAI・ロボット、AI・ロボット同士の関係性や社会性についても議論を拡張する必要がある」と指摘します。
一方で、AIを活用することでリサーチや思考の高速化が進む中で、「アウトプットが平均的で意外性が生まれにくくなる」という課題も感じているといいます。だからこそ、これから人間に求められるのは、「解くべき本質的な問いの設定」や「ワクワクすることにフォーカスすること」です。人間の知恵の使いどころを見極めながら、研究のあり方そのものを変革していく必要があると強調しました。
実証と事業創出で社会価値を形にする
事業開発においても、イノベラボの姿勢は一貫しています。短期的な損益を重視するのではなく、仮説を立て、試し、育てていく──実証実験を重ねながら成長を描く、Jカーブ型の事業創出を志向しています。初期段階は投資が先行し、赤字であることも織り込んだうえで、5年後を一つの目線として、利益率の高い事業モデルを複数創出する考えです。その積み重ねによって、会社全体のポートフォリオを中長期で変革することを目指します。
その成果の一つが、現在急成長している観光DXプラットフォームです。直近の2年間で契約社数が500%という高い成長率を維持し、事業規模は数億円に拡大しました。「第9回ジャパン・ツーリズム・アワード」で経済産業大臣賞を受賞するなど、外部からの評価も高まっています。
イノベラボDAYの展示では、チャットで指示を入力すると、Web用の紹介ページ(LP)を自動生成するAIエージェントのデモが紹介されました。Web分析からコンテンツ・画像・HTML生成までを自動化する仕組みは、AIを前提に設計する「AIネイティブ」な事業開発の象徴的な事例です。

もう1つの象徴的な取り組みが「白浜リビングラボ」です。10年以上にわたり関係性を築いてきた和歌山県白浜町を実証フィールドとし、住民や現地事業者と対話しながら社会実装に向けた実験を高速で回しています。AIで生成した観光向けWebページが地域や利用者に受け入れられるかを検証する取り組みや、環境保全と観光の両立、教育領域でのAI活用など、テーマは多岐にわたります。
研究で終わらせず、実際の社会という「現場」で試す。この循環がイノベラボの実験場としての性格を際立たせています。

ひとりひとりの「らしさ」を広げる人間中心ラボの未来
講演の最後に福井は、「基本的にはコラボしながら楽しくやっていきたい」と締めくくりました。その言葉には、思想や研究だけでなく、人との関係性を大切にするイノベラボの姿勢がにじんでいます。
そして、イノベラボの目指す未来についてこう述べています。
「私たちは、ひとりひとりが持つ『らしさ』を探究し、その可能性が無限に広がる社会の実現を目指します」
「ひとを知り、ヒトの可能性を広げる、人間中心ラボ」。この言葉は単なる理念にとどまりません。AIの活用が前提となった今だからこそ、人間の本質に向き合い、問いを立て続けることに意味がある。正解のない未来に対して、仮説を置き、実験し、学び続ける。イノベーションラボラトリは、NECグループの中長期的な進化に向けた実験場として、これからも新たな問いに挑み続けます。人と技術の関係性を見つめ直しながら、ひとりひとりの「らしさ」がより発揮される未来へ向けて、歩みを進めていきます。
<関連リンク>