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< 第1回 >
住民の行動変容を起点とした
環境施策の検証
[事業成長のためのエンジン]
環境から社会へ広がる
HDTの可能性

| プロジェクトのポイント |
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気候変動や資源循環といった環境問題は、社会全体で解決すべき重要なテーマです。しかし、環境に配慮した行動は一人ひとりに委ねられており「重要性は理解されていても、なかなか行動に結びつかない」のが実情です。そのため自治体などでは、行動を促す様々な施策(制度や仕組みづくり)を講じていますが、どの施策が本当に効果的なのかを見極めることは難しく、実施してみるまで成果が分からないという課題があります。 |
環境から社会へ広がるHDTの可能性

- 第1回 住民の行動変容を起点とした環境施策の検証
- 第2回 人の行動を、事前に試せるという価値
- 第3回 環境から社会全体へ—HDTが描く未来
住民の行動変容を起点とした
環境施策の検証

情報コミュニケーション学部 准教授
後藤 晶 様

先進技術センター 主任研究員
但野 紅美子 様

プロフェッショナル
日室 聡仁
以下敬称略
ここでは、HDTに至る背景として、実際の地域で行われた環境施策の検証事例を紹介します。
環境問題に対し、ごみ分別や資源循環の促進など、地域ごとに住民の協力を前提とした様々な施策が行われています。しかし、制度や仕組みを整えただけでは、住民の行動が期待どおりに変わるとは限りません。また、施策の成果が見えるまでには時間がかかり、どの取り組みが有効だったのかを判断することも難しい。それが、環境施策に共通する課題です。
こうした課題意識のもと、取り組みを進めてきたのが、NECソリューションイノベータ イノベーションラボラトリの日室聡仁です。日室は「環境問題は排出量削減などの結果指標で語られがちだが、本当に重要なのは、一人ひとりの行動そのものに目を向け、環境に配慮した取り組みを後押ししていくことだ」と考えてきました。
この考えを具体的に検証するため、NECソリューションイノベータは宮城県南三陸町において、生ごみの分別回収を促すための「情報の伝え方」が、住民の分別行動にどのような影響を与えるのかを検証する実証実験を行いました。
この実証には、行動科学やコミュニケーション研究を専門とする明治大学 情報コミュニケーション学部の後藤晶准教授も参画し、南三陸町内における生ごみの回収方法の違いや住民の意識を考慮しながら「何を、どう伝えれば住民行動が変わるのか」 を、学術的な観点から確認しました。
南三陸町では生ごみ分別回収を推進するために、“可燃ごみの処理に年間約4,200万円のコストがかかっている”ことを、スーパーなどの売り場に掲示するポスターで伝えました。自分の生ごみの出し方と、可燃ごみの処理にかかる行政コストとの関係を具体的に実感してもらう狙いです。
その結果、分別に協力する人の割合が徐々に増加していきました。

さらに、分別への協力に対する感謝の言葉も掲示したところ「感謝されてうれしい」といった声が寄せられ、分別への参加を継続しようとする意識の高まりもうかがえました。このことから、行動変容には経済的な合理性だけでなく、誇りや愛着といった感情への働きかけも重要であることが分かってきました。
後藤准教授は「他の自治体で成功した施策をそのまま当てはめるのではなく、南三陸町における生ごみ分別の意義を住民自身が理解し、自発的な分別行動へと促す働きかけ(「教育的な観点」を踏まえたナッジ)を取り入れた点が重要だった」と振り返ります。この取り組みは外部からも評価され、本実証は環境大臣賞(ベストナッジ賞)を受賞しています。
一方で、この実証には多くの準備と調整が必要でした。役場への相談や許可取得、ポスターの掲示先となる店舗への協力依頼、データの回収や分析など、様々な工程を一つひとつ積み重ねて、ようやく実施できる状態となります。
さらに、結果を把握できるまでに時間がかかるため、日室は本当に成果が出るのか不安を抱えながら、試行錯誤を続けたといいます。
加えて「情報の伝え方」の方法にも工夫が必要であることが分かりました。例えば、可燃ごみの処理コストといった金額情報だけを強調すると、必ずしも意図したとおりに受け取られない場合があります。伝え方を調整しながら実効性を高めていくことが欠かせませんでした。
「自治体などの施策担当者が、自身の経験や勘、関係者内の多数決などに頼って施策を決めるのではなく、住民の行動変容につながるかどうかを、より確かな見通しを持って、かつ効率的に検討する方法はないのか」
この問題意識が、次のアプローチであるHDTの活用へとつながっていきます。
次回は、人の行動を事前に検証できるHDTの仕組みと、その価値についてご紹介します。
UPDATE:2026.04.21

