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< 第2回 >
人の行動を
事前に試せるという価値

[事業成長のためのエンジン]

環境から社会へ広がる
HDTの可能性

[事業成長のためのエンジン]

環境から社会へ広がるHDTの可能性

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< 第2回 >

人の行動を
事前に試せるという価値

左から
株式会社三菱総合研究所 先進技術センター 主任研究員 但野 紅美子 様
明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授 後藤 晶 様
イノベーションラボラトリ プロフェッショナル 日室 聡仁
以下敬称略

環境施策に限らず、利用者の協力を前提とする取り組みでは「どのような伝え方が人の行動を変えるのか」を事前に見極めることが難しく、複数の案を比較・検証する機会が限られるという実態があります。南三陸町で行った実証実験でも、ポスター案の検討において関係者の経験や勘に基づいた判断に頼らざるを得ない場面が少なくありませんでした。
施策は実施後に効果検証を行うことが一般的ですが、実際の地域での施策は準備や調整に多くの時間と労力を要するため、簡単にやり直しや比較検証を行うことができません。そのため一度の実施結果に依存した検証となり、改善の機会が限られてしまうという側面があります。
こうした経験を通じて日室は、施策の実行前の段階で、複数の選択肢を比較しながら効果の見通しや改善点を把握できる手法の必要性を強く感じるようになりました。

そこで取り組みはじめたのが、ヒューマン・デジタルツイン(以下、HDT)を活用した実証実験です。HDTとは、人の心をデジタル化してサイバー空間に再現し、シミュレーションやサービス設計に活用する技術です。
これまで、リアル空間に存在する対象物から情報を取得し、サイバー空間上の対象物のモデルに反映する「デジタルツイン」が、工場や都市など、現実の「モノ」や「環境」をデータで再現し、効率化や最適化に役立てる技術として広がっていました。HDTはその対象を「人」にまで広げ、心理や判断、行動の変化を仮想空間で再現しようとするものです。

これまで難しかった事前検証を行うことを目的に、南三陸町で実施した生ごみ分別回収の取り組みをHDT上で再現しました。生成AIを用いて1,163人分の仮想住民を設定し、情報の伝え方を変えた場合に行動がどのように変化するかを分析しました。
その結果、分別への協力率は59%から71%へと高まり、実社会で見られた傾向に近い結果を確認することができました。日室は「事前に行動の傾向が分かれば、改善点を見極めたうえで、より実効性の高い状態で現場に臨むことができます」と話します。

もちろん、仮想空間で得られた結果が、すべての現実を保証するわけではありません。人数が多くなると再現が難しくなることや、集団規模が大きくなると「自分が行動しなくても全体には影響しない」と考え、協力しない人が増えるなどの課題も見えてきました。
そこでNECソリューションイノベータでは、心理学や行動経済学の実験データを追加で学習させることで、より現実に近い日本人の行動を再現できるよう、HDTの研究を進めています。
人による現場での確認は、今後も欠かせません。しかし、その前段階でこの技術を活用すれば実効性の高い施策を実施することができ、精度を高めた状態で実装に臨むことができます。試行錯誤にかかる負担を抑えながら、より確かな判断につなげていく。その可能性が、今、具体的なかたちとして見えはじめています。

次回は、環境分野にとどまらず、HDTが社会全体へどのように広がっていくのか、その可能性と課題についてご紹介します。

プロジェクトのポイント

気候変動や資源循環といった環境問題は、社会全体で解決すべき重要なテーマです。しかし、環境に配慮した行動は一人ひとりに委ねられており「重要性は理解されていても、なかなか行動に結びつかない」のが実情です。そのため自治体などでは、行動を促す様々な施策(制度や仕組みづくり)を講じていますが、どの施策が本当に効果的なのかを見極めることは難しく、実施してみるまで成果が分からないという課題があります。
NECソリューションイノベータは、こうした課題を解決するため、仮想空間で人の行動を再現するヒューマン・デジタルツインを活用し、行動変容を促す施策の効果を事前に検証する新たなアプローチに取り組んでいます。

UPDATE:2026.04.21