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専門家コラム
ロボットは物流倉庫の救世主となるか?
~物流ロボットの最前線~
- 【執筆者】角井亮一氏
- 株式会社イー・ロジット代表取締役社長 兼 チーフコンサルタント
UPDATE : 2021.05.28
あなたの会社の倉庫は機械化されていますか?
物流倉庫は長らく「3K」と呼ばれる職場でしたが、今はその評価も変わりつつあります。従来人に頼っていた倉庫作業を、物流ロボットが代わって行う倉庫も増えてきているからです。特に、EC利用が増えている今、生産性を上げ出荷処理件数を増やさなければ、消費者のニーズに応えることができません。人による「カイゼン」活動も生産性を向上させる施策のひとつですが、更に変革をするためには、24時間稼働できる物流ロボットの導入は重要な選択肢です。
まだまだ機械化には縁遠い現場があることも事実ですが、今回は、多くの企業が抱えている現在のリアルな物流倉庫の課題を見つめ直し、その課題を解決し得る最新技術や倉庫の在り方をお伝えします。
物流倉庫のリアルな課題
コロナ禍の影響もあり、EC市場が大きく伸びています。その成長を支えているのは、宅配ドライバーや物流倉庫のスタッフ達で、宅配ドライバーの大変さはニュースなどで見かけることがあるものの、当然ながら、倉庫現場にも負荷が掛かっています。
宅配ドライバーと同じく物流倉庫も人材不足感のある職場であり、また、人材の定着が難しいところも多くあります。その一方で、経験が長くノウハウのあるスタッフが固定され仕事が属人的になり、業務フローの改善や変更が難しい現場もあります。
人に関わる問題が多い物流現場ですが、昨今「物流のDX」という言葉をよく耳にするのではないでしょうか。「DX」の定義は人それぞれで少しずつ違うのですが、一般的に「システム化・機械化を進めることでビジネスに変革をもたらす」という解釈で使われています。
人材不足を解消するためには、物流業界にとって「DX」は救世主のように思えますが、それでも全体的に「DXは難しい」と捉えている企業、人が多いと感じます。特に中小企業が多い業界ですから、ロボットや機械など、大きな投資を伴う変革が難しいことも一因に挙げられます。
しかし、技術の進化でロボットの実用化が進み、費用が低価格化すれば、中小企業へのロボット導入は現実的なものとなります。既に、月数万円の無人搬送ロボットのリース契約やレンタルサービスも登場しており、随分と身近になってきています。
画像認識AIで検品レス!
物流倉庫ではこれまでバーコードで商品管理を行うことが一般的でした。バーコードが付いていない商品は目視で管理したり、オリジナルのラベルを貼るなどしたりして大変手間がかかっていました。
ところが、画像認識AIが発達したおかげで、商品そのものを認識・識別することが可能となっています。
新商品が入荷したとき、物流倉庫では品名や外観、入数、内装の外観、重量、容積、といった情報を倉庫管理システム(WMS)の商品マスターへの登録が必要です。上流のメーカーや顧客から商品マスターに登録する情報を電子データでもらえればよいですが、商品を1つひとつ確認して人手で登録している現場も少なくありません。
そのような商品情報を画像認識AIは、搭載した機械に入れるだけで、商品の重量や3辺の長さ、外観を自動的に記録してくれるまで進化しています。AIを通して一度コンピューターに商品のデータを取り込んだ後は、次回以降の入出荷時に、バーコードが無くても、その商品が正しいかどうかをAIが検品してくれるのです。
さらに、多品種を扱うEC物流に携わっている企業は、人手に頼らざるを得ない梱包工程の効率化に悩みを抱えている経営者も多いと思われます。そこで、画像認識AIを用いれば、取り込んである商品外形3辺の長さのデータにより「どのサイズの段ボールを使うか」や「効率的な詰め方」といったノウハウが必要な作業を、自動で作業者に指示することも可能です。
人は動かずモノが動く!
自動倉庫の発展も、人材不足の課題を抱える物流倉庫にとっては有難いソリューションのひとつです。今や、人は歩かずにその場に居るだけで、モノが動いてその人のところまで来てくれるのです。
ノルウェーで生まれた「AutoStore」は、「ビン」と呼ばれる専用コンテナがまるで小さなビルの様に隙間なく積上げられ、その上をロボットが縦横に動いています。出荷指示が飛んでくると、そのロボットが出荷する商品が入っているビンを掴み、作業スタッフの前に届けるしくみです。作業スタッフは、届いたビンの中にある商品をピックアップすれば良いだけなのです。
従来の自動倉庫はクレーンなどが通るスペースが必要でしたが、AutoStoreの場合、ロボットがクレーン上を走行するためそのスペースが不要です。製品や倉庫の構造で発生するデッドスペースも有効活用した高効率な保管も実現可能となっています。
更に、「Amazon Robotics」(旧KIVA)を代表とするような、下から棚を持ち上げて棚を移動させるAGV(無人搬送車)も複数の企業が開発・販売しています。AGVも、ピッキング作業スタッフの前まで、次にピックアップする商品を自動で持ってくるシステムです。
これまで、大きな倉庫ではピッキング作業のために、1日数万歩も歩かなければなりませんでした。今までの業務負担を考えると、自動倉庫の発展が倉庫現場をいかに人にやさしい職場に変えているか、お分かり頂けるでしょう。
完全な自動倉庫の形
さて、ここまで、画像認識AIと自動倉庫の最前線を紹介してきましたが、どちらも、物流の工程に人が介在していたことはお気づきでしたか?
隣国、中国EC市場は日本の10倍以上と非常に大きく、世界のEC市場の4割を占めているとも言われており、コロナ禍もあり更に拡大し続けています。
そのような中国EC市場のプラットフォーマーはアリババ(Tmall)と京東(JD.com)の2社が約7割を占め、これら2社はそれぞれ物流会社を持ち、物流・配送ネットワーク構築に相当な投資をしています。中国の消費者にとっては「デリバリー」は顧客満足を形成する重要な要因のひとつのため、出荷から配送まで、とにかく効率的に行わなければなりません。
中国EC市場の2位である京東は、広大な中国で、驚くことに約9割の荷物を当日~翌日までに配送しています。それを実現できている要因のひとつは、上海近郊に建てた全自動倉庫です。
その自動倉庫では、4人の従業員で、1日20万個を出荷できるといいます。商品が届き荷卸しされた後、デパレタイズ、入荷検品、入庫、保管、出庫、梱包、送り状の貼付、仕分け、の一連の作業がすべて機械化され、ロボットが行っているのです。
コンベヤに載せられた商品はアームでひとつずつ持ち上げられ、カメラでスキャンします。続いて保管をするビンに入れられ、天井の高さまである自動倉庫の中に納められていきます。出荷の際は、自動倉庫から搬出されたビンからアームが商品を取り出し、スキャン。スキャンした商品は梱包用の段ボールシートの上に置かれ、梱包機が封をし、送り状が貼られ、トラック別に仕分けされていくのです。
このように、複数のロボットがコンベヤで繋がり、無人で出荷することが可能となっています。また京東は、ドローンやAGVを使った無人配送にも積極的に取り組んでおり、自動倉庫と無人配送で、完全無人配達できる技術は揃っているといえるでしょう。
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■展望:機械による代替か、人との共存か
前段で、京東の自動倉庫を例に挙げましたが、当然、京東もすべての商品を自動倉庫で扱っているわけではありません。まだまだ、人に頼っている倉庫も多いと思われます。
現実的に考えると、倉庫現場では、人による作業を完全にゼロにするのは難しい部分があります。なぜなら、人は臨機応変に目の前にある商品をどうするのかを考え、実行できるからです。たとえば画像認識AIは、商品を包むフィルムが光で反射し商品名を読み取れずエラーになることがあるのですが、人間であれば手に持ち、光が当たる角度を変えて商品名を確認することができます。
しかしながら、先に挙げた、煩雑な管理が必要な商品や、ノウハウの要る新人には難しい仕事、身体的に負担のかかる作業など、様々な部分で人の負担を減らすことが自動化・ロボット化で可能となります。したがって、物流業界の中で機械の活用は増々拡がっていくことは間違いありません。
作業内容によっては機械の方が生産性は落ちるものの、機械は24時間働けるメリットがあります。一日あたりの生産性が高まり、また、夜間の人員採用を減らすことができます。
機械化の変革期に居る私たちは、機械が得意なこと・人が得意なことを見極め、うまく機械を活用していく必要があるのです。
■執筆者プロフィール
角井亮一氏
株式会社イー・ロジット代表取締役社長 兼 チーフコンサルタント
1968年大阪生まれ、奈良育ち。現在、東京人形町に在住。株式会社イー・ロジット代表取締役。2000年に設立したイー・ロジットは、倉庫面積4.3万坪の国内トップクラスの通販専門物流代行会社であり、約200社の企業組織イー・ロジットクラブを中心に物流人材教育研修を行い、リアル小売やEC企業などの物流コンサルティングを行う。2021年3月、ジャスダック上場。