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コラム
徹底した企業防災で事業継続計画を
防災事例や取り組みを紹介
UPDATE : 2021.09.24
国土交通省の調査によると、2009年から2018年にかけて全国の市町村で水害が起きていない地域はわずか2.8%と判明。震度6強の地震も過去10年で11回も起きています。自然災害から事業を守るための企業防災は、決して他人事ではありません。今回は、企業防災における具体的な対策やICTを活用した先進的な事例を紹介します。
INDEX
- 企業防災とは
- 企業における自然災害への対応状況
- 「防災」と「事業継続」の両面から考える企業防災
- 従業員や顧客の安全を確保する「防災」
- 事業の早期復旧を目指す「事業継続」
- 防災観点で企業がやるべき災害対策
- VRやARを活用した防災訓練
- 防災備蓄品・防災グッズの準備
- 防災マニュアルの作成
- オフィスの耐震対策
- 事業継続観点で企業がやるべき災害対策
- BCP策定
- データのバックアップ
- 業務システムのDR環境構築
- テレワーク環境の構築
- 緊急連絡・安否確認システムの導入
- ICTを活用した企業防災の事例や取り組み
- 熊本地震で迅速な事業再開に成功(サントリー)
- 東日本大震災の経験からデータの二重化を推進(マイヤ)
- IoTによるスマート防災の実証実験(八丈島)
- まとめ
企業防災とは
企業防災とは、企業が取り組む災害対策です。一般家庭の災害対策と違い、災害の被害を最小限に抑える「防災」と被災後の経営活動の維持、早期復旧を目的とする「事業継続(BCP)」の2つの観点で考えなければなりません。
防災と事業継続は、密接にかかわり共通した要素も多く存在します。まだ本腰を入れて災害対策に取り組んでいない企業は、防災と事業継続を同時に推進しましょう。
企業における自然災害への対応状況
2020年10月帝国データバンクが全国約2万社に「自然災害への対応状況」を企業規模別に調査したところ、以下の結果が判明しました。
全体で自然災害への「対応を進めている」と回答した企業は36.9%と少ないものの、大企業では54.9%が災害対策に取り組んでいます。一方、中小企業で「対応を進めている」と回答したのは33.0%。小規模企業では25.7%と3割に満たない数字です。
対応を進めている企業の具体的な取り組みは、「社内連絡網の整備」が61.5%と最も多く、「非常時向けの備品の購入」「飲料水、非常食などの備蓄」が40%以上。「非常時の社内対応体制の整備・ルール化」「防災・避難訓練の実施」が30%以上となりました。
近年多発する自然災害の影響で、多くの企業が防災意識を高めています。しかし、人材の少ない中小企業・小規模企業では大企業のように災害対策に十分な時間を割く余裕がありません。取引先の大企業と連携して災害対策を進めなければならないケースもあるため、中小企業・小規模企業は自社だけで企業防災に取り組むのは難しい側面もあります。
「防災」と「事業継続」の両面から考える企業防災
前述したように、企業防災を推進する際は、防災と事業継続の2つの観点を意識する必要があります。その理由を説明します。
従業員や顧客の安全を確保する「防災」
企業防災で「防災」の観点が必要とされる理由は、企業には従業員や顧客の生命を最優先しなければならない社会的責任があるからです。労働契約法第5条の「労働者の安全への配慮」でも記されているように、企業は事業継続を実現するためにも、従業員が安全に職務に従事できる環境を整える義務があります。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
関東弁護士会連合会がまとめた資料でも、東日本大震災の津波が原因で園児が3人亡くなった山元町の保育園や、12名の行員が死亡・行方不明となった七十七銀行女川支店に災害時の従業員や顧客の安全配慮義務を怠った判例として記録されています。災害時に従業員や顧客の安全を確保することは、企業の社会的責任として欠かせないのです。
事業の早期復旧を目指す「事業継続」
人的安全の確保と同時に、被災後にできるだけ早く事業を復旧させることが求められます。そのためには、いかに事業を継続させるか、どのような手段で早期復旧させるか、といった「事業継続」対策を事前に計画することが欠かせません。
東日本大震災の影響で、自社設備の損壊、取引先・仕入れ先の被災による原材料の供給停止などを理由に倒産を余儀なくされた企業が多く存在しました。2018年の西日本豪雨や2019年に発生した台風15号、19号などの影響で、2019年は天候不順倒産が前年と比べて2倍以上も増えています。災害が起きてから対応するのでは遅いと言えます。
また、近年ICTの発達でビジネススピードが加速しているため、自然災害による事業停止は取引先や仕入れ先にも多大な影響を及ぼします。有事に備えた事業継続への取り組みは、対外的な信頼性を高めるためにも不可欠なのです。
防災観点で企業がやるべき災害対策
ここからは、防災の観点で企業がやるべき災害対策を解説します。
VRやARを活用した防災訓練
定期的な防災訓練は、企業防災における重要な取り組みです。これをおろそかにすると実際に災害が起きた際、迅速な避難ができず命を守れないといった事態が起こり得ます。近年、IT企業各社が提供する自然災害を疑似体験できる防災用VR・ARでは、煙や炎の恐怖、地震の揺れや家具倒壊、ガラス飛散などを体感できます。災害の怖さを事前に体験することで、いざという時に落ち着いて行動できる可能性が高まります。
防災備蓄品・防災グッズの準備
災害で帰宅困難となった従業員のオフィス待機の可能性も考え、事前に用意しておくべき防災備蓄品や防災グッズについて紹介します。
水・食料品
災害直後は道路寸断や交通規制などで、公的物資がすぐに届くとは限りません。長期保存が可能な水や食料品を従業員1人につき最低3日分は備えておきましょう。被災者は災害のストレスで心身ともに疲弊します。物資が不足する被災中の食事は栄養も偏りがちです。従業員の健康を守るためにも、備蓄用の非常食を選ぶときは栄養バランスも考慮しましょう。
寝袋・毛布
災害当日、オフィスで寝泊まりする人が増えることを想定して、寝袋・毛布も常備しておくべき防災グッズです。東日本大震災では、鉄道などの交通網が麻痺。首都圏で約15万人の帰宅困難者が発生し、オフィスで寝泊まりする人も大勢いました。東京都はこの事態を重く考え、2013年4月に「東京都帰宅困難者対策条例」を施行。災害発生直後の混乱を避けるため、条例では施設内の安全を確保したうえで従業員をオフィスに待機させることを推奨しています。
医薬品・救急セット
災害時は医療機関の受診が容易にできない恐れもあります。従業員の健康維持やケガをした場合の応急処置のためにも、医薬品や救急セットは用意しておきましょう。
その他防災グッズ
オフィスの衛生状態や従業員の健康を保つための衛生用品もそろえておきましょう。水道や電気などのライフラインが断絶する可能性もあるので、非常事態に備えた防災グッズも欠かせません。
防災マニュアルの作成
被害を最小限に抑えるためにも、行動指針や役割分担を明確にした防災マニュアルを作成しておきましょう。他社のマニュアルをそのまま流用するだけでは、適切な行動がとれません。以下4つのポイントをおさえて、自社に最適な防災マニュアルを作成しましょう。
〇防災マニュアルに不可欠な4つのポイント
- 災害時の役割分担(リーダー、総務担当、情報担当、消火担当、救護担当)
- 災害発生時の情報収集の手段や活用方法
- 緊急連絡網
- 災害発生時の初期対応や従業員の避難経路・場所
また、防災マニュアルは完成したら終わりではありません。作成後は全従業員に周知し、社内の体制や業務内容の変更に応じて、定期的に内容を更新しましょう。
オフィスの耐震対策
オフィスの耐震対策も必要です。東京消防庁の調査によると、近年発生した震度6以上の地震でケガをした人の約30~50%が家具類の転倒・落下によるものと判明。オフィスの耐震対策を怠ると、従業員が大けがをする恐れがあります。また、事業の早期復旧にもつながるため、これを機に本格的な耐震対策を行いましょう。
〇オフィスの耐震対策の一例
- 避難経路の導線がよい地震に強いレイアウトに変更
- オフィス家具、複合機、キャビネットなどを固定
- 窓ガラスの飛散防止など
事業継続観点で企業がやるべき災害対策
次に、事業継続の観点で企業がやるべき具体的な災害対策を解説します。
BCP策定
BCP(Business Continuity Planning)とは事業継続計画のことで、企業が緊急事態に遭遇した際に、事業継続や早期復旧のための方法や手段を決めておく計画を言います。緊急事態については、自然災害をはじめパンデミック、テロや紛争、事故、サイバー攻撃などが考えられます。そのような脅威が発生した際にどのように対応するかを策定しておくことは、事業を守るだけではなく、取引先として選ばれやすくなるなど企業競争力を高めることにもつながります。
データのバックアップ
企業にとってデータは大事な経営資産。災害でデータが消失した場合、企業経営にもたらす損害は計り知れません。大事な経営資産を守るためにも、遠隔のデータセンターやクラウドなどに定期的にバックアップを取る仕組みを構築しましょう。
業務システムのDR環境構築
普段利用する本番環境とは別に、業務システムのDR(災害復旧)環境構築も必要です。今や多くの企業が、複数の業務システムを活用してビジネスを成立させているため、業務システムが1つ停止するだけでも大損害を招く恐れがあります。現在はIT企業各社がAWSやAzureなどのクラウドにDR環境を構築するソリューションを提供しています。クラウドであればハードウェア不要かつ低コストでDR環境の構築が可能です。システムの運用保守に人員を配置する必要もありません。
テレワーク環境の構築
災害の状況や程度によりますが、テレワーク環境があれば、被災していない従業員は自宅から業務を継続できるため、事業継続や早期復旧の手段として欠かせません。テレワーク環境を整備するにはICTの活用が不可欠です。以下にテレワーク環境の整備に必要な代表的なICTツールをまとめているので、まだテレワークを導入していない企業は参考にしてみてください。
〇テレワーク環境を整備するのに必要なICT
- ビジネスチャット・SNS・ビデオ会議などのSaaSサービス
- シンクライアント端末
- ファイル共有・ストレージサービス
- インターネットVPNなどテレワークに必要な通信回線
緊急連絡・安否確認システムの導入
従業員の状況を迅速に確認できる緊急連絡・安否確認システムの導入も、事業継続では重要です。災害直後は電話やインターネットがつながりにくくなるケースも多々あり、基地局の停電や設備故障なども起こるでしょう。そのような中、企業は従業員の安否確認に加え、事業継続について早急に連絡を取る必要があります。
緊急連絡・安否確認システムは、気象庁の災害情報と連動し全従業員に安否確認メールを一斉配信するため、通信回線が混雑する前に安否確認できます。メールを受け取った従業員は、スマホのアプリから「安否状態」「出社不可理由」「同居家族安否」などの選択肢から該当する回答を選ぶだけで安否を知らせることが可能です。
ICTを活用した企業防災の事例や取り組み
多発する自然災害を受けて、近年ICTを活用した企業防災の事例や取り組みが報告されています。代表的な事例や取り組みを3つ紹介します。
熊本地震で迅速な事業再開に成功(サントリー)
サントリーは、2016年4月に発生した熊本地震において、現地工場の速やかな事業再開に成功しました。同社はグループ全体でBCP策定していたため、被災前から安否確認システムの導入や防災訓練の実施、災害直後に災害対策本部をすぐに設置できる状態にあり、万全な災害対策を行っていました。
熊本震災では被災直後に迅速に現地従業員の安全を確認。甚大な被害を受けたメイン工場の復旧に数か月かかるため、他地域の工場での代替生産も事業の早期再開に大きく貢献したといいます。
東日本大震災の経験からデータの二重化を推進(マイヤ)
岩手県や宮城県北部の海岸沿いを中心に約20の店舗を展開するスーパーのマイヤは、東日本大震災の教訓から内陸部にバックアップサーバを設置し、データの二重化を推進しています。しかし震災前、営業データなどは岩手県大船渡市の本部社屋のサーバに保存しており、外部にデータをバックアップしていなかったといいます。
大船渡市は東日本大震災で津波による被害が最も深刻な地域で、本部社屋の損壊で今まで蓄積してきた営業データがすべて消失。同社は営業データをもとに店舗の棚割りや商品投入計画を立てていたため、店舗再開後は販売計画の立案が容易ではありませんでした。震災の経験からデータの二重化を図り、将来大規模な震災に直面した際の事業継続体制を強化しています。
IoTによるスマート防災の実証実験(八丈島)
東京都八丈町は、応用地質、日本工営、みずほ銀行などと共同で2020年12月から土砂災害や田畑の冠水、水路の増水を防災IoTセンサで検知するスマート防災の実証実験を開始しました。八丈島は年間降水量が約3000mmと雨の多い地域で、島特有の複雑な地形と地質条件から土砂災害の危険個所が多く存在します。離島であるため、八丈町では島内の限られた人員と物資で迅速に状況を把握し、災害対応のためのリードタイムを確保することが課題となっていました。
防災IoTセンサを活用することで、土砂災害発生や増水のモニタリングデータをクラウドに収集し、事前に設定した基準値を超えると関係者にアラートで通知します。IoTの活用で、災害前後の警戒パトロールや住民・観光客の避難誘導が迅速にできると期待されています。
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まとめ
大型台風や地震などの自然災害が多発する日本では、万全な防災対策と事業継続計画の構築が、企業の社会的責任といっても過言ではありません。事前に十分な対策を取らず被災すれば、業績低迷や倒産に追い込まれるリスクが高まることに加え、取引先や仕入れ先にも多大な影響を及ぼすからです。
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