サイト内の現在位置
コラム
CDOとは?
DX推進の成功事例に見るCDOの役割
UPDATE : 2021.10.15
DXが待ったなしと言われている昨今、注目を集めているのが「CDO」という役職です。「チーフ・デジタル・オフィサー(Chief Digital Officer)」の略称で、DX推進におけるデジタル分野の統括責任者であるこの役職がどういうものなのか、設置することでどういった成果が上がるのか、どのような人材をCDOに据えるべきなのか、などを実際の成功事例も踏まえて解説します。
INDEX
- CDOとは? 経営側でDX推進を担う「Chief Digital Officer」
- CDOが必要とされる理由 DX推進の中心となる存在が不可欠
- デジタル技術を活用した新規ビジネスの創出
- 全社的に組織を横断したデータ活用
- DXを力強く推進していくリーダーが必要
- CDOが中心となったDX推進事例
- 段階を追ってDXをシフトアップし企業価値を向上(味の素)
- ベテラン社員の経験と勘をデータ化したAIを開発(出光興産)
- 自治体DXでふるさと納税額が20倍に向上(福島県磐梯町)
- CDOに求められる役割とスキル
- DXによる企業価値革新とビジネスモデルの創造
- 情報発信力とコミュニケーション力も必須
- まとめ
CDOとは?
経営側でDX推進を担う「Chief Digital Officer」
近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しようとする企業の間で「CDO」という役職が注目を集めています。CDOとはChief Digital Officerの略で、最高デジタル責任者の意。経営者側の立場で、自社のデジタルシフトやビジネスモデルの変革など組織のDX推進を担う役割です。
近しい役職として「Chief Data Officer/最高データ責任者」も「CDO」と呼ばれますが、こちらはビジネスに関するデータ分析やデータ戦略の策定などデータマネジメントを担う役割です。また、情報技術(IT)の責任者であるCIO(Chief Information Officer/最高情報責任者)が存在しますが、こちらはICT活用による既存業務の最適化や情報リスクマネジメントに重きを置くケースが多く、 “攻めのCDO”、“守りのCIO”と表現されることもあるようです。
DX推進のキーマンとなるCDOですが、総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)によると、国内のCDO設置率は諸外国と比べて明らかに低く、英国企業の27.4%、米国企業の16.8%が自社にCDOを設置しているのに対し、日本企業では5%に留まっています。
CDOが必要とされる理由
DX推進の中心となる存在が不可欠
日本では認知も実際の設置率もまだまだ低いCDOですが、その必要性について、3つの観点から説明します。
デジタル技術を活用した新規ビジネスの創出
ICTなどのデジタル技術活用は、何も今、急に言われ始めたことではありません。20年以上前からその重要性が声高に訴えられ続けています。しかし従来のデジタル化とは、あくまで既存業務をデジタル技術によって効率化・最適化していくというものでした。ところがこれからのデジタル化とは、最新のデジタル技術を活用して新しいビジネスを創出することが求められます。
ICT活用による自社業務の最適化やリスクマネジメントなどが主だったCIOに対し、ICTを活用し新たなビジネスを創出するため自社全体に働きかけるリーダーがCDO。CDOが“攻めのCDO”と表現されるのはそのためなのです。
全社的に組織を横断したデータ活用
デジタル技術を活用し新しいビジネスを創出するためには、先進の情報システムによるデータに基づいた意志決定が必要となります。しかし従来の情報システム活用では、既存業務の効率化・最適化を重視していたことや機密性の確保という観点から個別の組織内で運用されていることが多く、部署を越えたデータ活用ができていないという問題がありました。
この壁を打ち破り、より自由で活発なデータ活用を促していける全社的、組織横断的な環境作りが必要な点も、CDOが求められる理由のひとつと言えます。
DXを力強く推進していくリーダーが必要
デジタルを活用した新規ビジネス創出、組織を横断したデータ活用など、DXを推進していくためには企業の組織改革が必要となります。最新デジタル技術を有効活用しようとすると、これまでとは業務プロセスが大きく変わり、組織全体で行っていく必要が生じてきます。これを可及的速やかに実現していくためには、社内全体の意識改革はもちろんのこと、経営サイドに強い権限をもった責任者、リーダーが不可欠です。
こうした理由から、CDOは他の役職と兼務するのではなく選任であることが望ましいとされています。兼務の場合、もう一方の役職の都合に引っ張られてしまい、大胆な判断ができなくなってしまうことがあるからです。先の総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)によると、CDOを設けている企業のうち、この役職を選任で設けている企業は、日本を含む多くの国でおよそ6割前後となっています。
CDOが中心となったDX推進事例
ここではCDOを設置した企業が、どのようにDXを推進し、どういった成果を上げているか具体例を挙げて紹介します。
段階を追ってDXをシフトアップし企業価値を向上(味の素)
『味の素』や『ほんだし』、『Cook Do』などの食品事業で知られる味の素株式会社は、2016年頃からの株価低迷(企業価値低迷)を受け、2018年にCDOを設置。社内を対象とした「DX1.0」から社会を巻き込んだ「DX4.0」まで4段階のステップを定義し、段階的にDXを実現していくことを目指しました。
取り組みを開始した当初は社内からの反発も大きかったのですが、経営トップ自らが内外にDXに取り組む姿勢を積極的にアピールし、短期的な売上至上主義から長期的に企業価値を高めていくパーパス経営を打ち出したこともあり、徐々に社内全体にDXが浸透。具体的には、製造や物流の現場をスマート化していくことで効率性、流動性の高い組織を実現しつつあります。
また、社内DX推進人材の育成も開始し、2030年までには全社員を「ビジネスDX人財」にしていくことなどを目指しています。こうした取り組みは市場から高く評価されており、2021年に入ってから株価が急上昇。2021年9月時点ではここ20年で最高だった2015年頃の株価を大きく上回る数字となっています。
ベテラン社員の経験と勘をデータ化したAIを開発(出光興産)
経済産業省が2021年6月に発表して話題となった「DX銘柄2021」。これは『企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を、業種ごとに最大1~2社ずつ選定して紹介する』というものです(国内28社が選出)。
その1社である出光興産株式会社は、新設されたCDOが旗振り役となり、まずは社内向けのDXからスタートしました。その中でも特に象徴的な取り組みが「AIによる配船計画の最適化」。配船計画のタンク在庫管理にNECのAI技術群「NEC the WISE」の異種混合学習技術を活用した「出荷予測システム」を開発し、ベテラン社員の経験と勘をAI化することに成功しています。
このほか同社では「製油プラントの保全オペレーションの効率化」プロジェクトなど、さまざまな取り組みを実施。基盤事業からDXを進めたことには、出光興産がDXに本気であることをアピールする効果もあったそうです。同社は今後もAI技術のさらなる活用や、デジタル人材の育成に力を入れていくとしています。
自治体DXでふるさと納税額が20倍に向上(福島県磐梯町)
3つめの事例は、企業ではなく自治体のCDOです。福島県会津地方中部に位置する磐梯町(ばんだいまち)は、2019年11月に日本初の自治体CDOを設置したことで話題になりました。
これまでの自治体はコストカットや人員削減などを主目的としてデジタル活用を行ってきましたが、磐梯町ではCDOを筆頭に住民サービスの向上を目的としたDXを実施。条例整備やデジタル環境整備などの地道な努力の末、町内行政の意志決定を行う審議会をYouTubeでライブ配信を実現。透明性が高く、スマートな町作りに成功しつつあります。
また、SNSなどで町内情報を発信するデジタルマーケティングも積極的に推進。こうした取り組みは日本全国から高く評価されており、ふるさと納税額が20倍になるといった驚きの成果も上がっています。
CDOに求められる役割とスキル
前段の事例のように、DXを大きく加速する立役者としての活躍が期待されるCDO。求められる役割とスキルについて解説します。
DXによる企業価値革新とビジネスモデルの創造
CDOに求められる最も大きな役割は、デジタル技術の活用による部門の垣根を越えた組織構造、文化の再構築、そして生まれ変わった新たな組織による新たなビジネスの創造です。そのためにはデジタル技術に関する知識だけでなく、幅広いビジネスへの知見と経験、そしてセンスが求められます。
情報発信力とコミュニケーション力も必須
大がかりな社内改革において、避けては通れないのが業務に従事する社員からの反発です。そのためCDOには経営幹部としての丁寧な情報発信力、コミュニケーション力も求められます。DXがなぜ必要なのか、どのようにして実施するのか企業の隅々にまで浸透させなければ、DXの効果を適切に引き出すことはできません。そのため、分かりやすく、粘り強く伝えるためのスキルも重要になるでしょう。
まとめ
DXがどうしても上手く行かない、思ったような成果を得られていないという企業は、DX推進のリーダーCDOの設置を検討すべきでしょう。CDOがDXをどのように実現していくか、ビジョンを示すことがDXの第一歩となります。ただし、CDOは誰でもなれるわけではありません。適切な能力を持った人材をCDOに任命し、そして充分な権限を与えることが重要です。