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人事・総務コラム 戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏・第9回第3回目:DX時代における人事の役割と価値とは何か コラム執筆者:戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏  掲載日:2020年3月13日

前回の第2回目は、デジタル技術を利用した人事の働き方と社員の働き方について解説しました。DX(デジタルトランスフォーメーション)時代において、企業の一般業務にも高度なデジタル技術が、一気に浸透してきました。デジタル化によって企業のビジネス・モデルそのものが全面的に変わってしまうことも理解しました。今、まさに、ビジネス・モデルを全面的に見直す時期に入っています。本質的な問題を発見し、そこに変革をしなければならないことを意識しておく必要があります。

最終回となる第3回目は、DX時代における人事の役割と価値を解説します。

DX時代における人事の役割と価値とは何か

「ひと」の戦略を担う人事の責任

会社が「長期的に持続可能な成長のビジネス・モデル」を再設定し、新しいビジネス・モデルに向けて、現状を変革しなければなりません。そうしないと、会社の存続は厳しくなる時代になりました。今、世界の優良企業では、既にDXへの対応を数年前から取り組んでいます。日本企業は、数年遅れで対応が始まりました。

DXに向けて会社が取りかかる時、人事としても全面的に対応することが求められます。新たなビジネス・モデルを創造し、それを実現する適任者を採用、または、育成し、確保しなければなりません。新しいビジネス・モデルを創造することができるのは、「ひと」次第だからです。社内で適任者(「ひと」)がいなければ、外部から採用をする、または、社内の誰かを選んで戦略的に育成する、などを検討が必要です。
人事は、持続可能なビジネス・モデルを創造できる人の特性を分析し、言語化する必要があります。また、一方では、変革をリードする人の特性、そして、過去の成功体験や商習慣の常識にも囚われないで、ゼロリセットできる人の特性を分析し、言語化し、人材を見極めなければなりません。
これらの特性を持った人材は、「非認知能力」を持っています。認知能力の高い人材を採用することに慣れた人事は、新たなチャレンジとなります。認知能力とは、学力と呼ばれているように、資格や専門知識など測定可能な能力を言います。一方、非認知能力とは、意欲や粘り強さ、創造性、コミュニケーション能力、忍耐力など測定が困難と言われている能力を言います。
人事は、候補者の非認知能力を見極めることが重要となります。例えば、採用面接時において良好な質問力が必要で、「あなたには創造性はありますか?」と質問して、「はい、あります」と回答があったとしても、「あなたは創造性がありますね」とはなりません。創造的活動の体験を確認し、気になる点をさらに深掘し、本質を分析しなければなりません。新しいプロジェクトを仮定し、どのようにその創造性を発揮するのか、も確認する必要があります。本気で言っているのか、本当のことなのか、ごまかしはないか、も同時に判断しなければなりません。

戦略的な手法で、今後は採用をすることが必要となります。そのためには、人事として、会社がこれからどのようなビジネス展開をしていくのか、経営方針や経営戦略を理解することは必須です。また、現場の状況・状態を把握すること、企業を取り巻く外部環境と内部環境の変化を読むこと、数年先まで予測してみるなど、人事の役割で分析をすることが必要となります。
今まで、人事は、事務的な運用を担う役割であったかもしれません。そこには戦略的な役割はあまりなかったと思われます。しかし、今後は、戦略的に人材確保を行い、労働生産性を変革するための取り組みなど、もっと高度な役割を務めて行くことが必要となります。こうなると、人事機能も役割、責任も大きなチャレンジとなります。経営陣と対話ができる人事、現場とも対話ができる人事、への変革が必要となります。

経営のパートナーとして、現場マネージャのパートナーとなる

戦略的人事に役割が変わった事例を紹介します。
東証一部上場の小売業界A社(創立して58年、従業員1,800人)は、DX時代に向けた「持続可能な経済成長ビジネス・モデル」を、全社を巻き込んで半年かけて作成しました。欧米の優良企業500社の研究と、倒産した企業の分析をすることによって共通項を見出し、ビジネス・モデル構築における重要参考資料としました。欧米優良企業500社の人事は、その全社が戦略的な人事であり、しかも人事自身が変革の必要性を感じ、変革を促し、現在の戦略的人事になったこと、を熱心に研究しました。

A社の変革前の人事というと、従業員の個人情報、機密情報を扱うため、人事を聖域化し、官僚的なものでした。「人事に逆らうと出世できない」と言う噂もありました。「人事がまた、勝手に制度をいじくった」と言う評価でも、「人事のことも知らない連中に何が分かる」という対応をとってきました。経営者からも、何回も「変革のリードをしてほしい」と依頼されても、「それは人事ではないでしょう」と言い返してきました。そのうち、管理職からも、従業員からも、人事への信頼も期待も徐々になくなってきました。 それに対して、人事は全く気付いていませんでした。
A社では、ついに、人事の存在価値が問われる状況にまで追い込まれ、「人事不要論」の議論も発熱しました。そこに、人事担当役員と人事部長交替が行われたのです。

新人事部長は、部内会議を開き、

  • • 人事の役割とは何か
  • • 人事の価値とは何か
  • • 人事のあるべき姿とは何か

を、数カ月に渡り意見交換や議論を繰り返し、人事の使命、役割、機能を明文化しました。しかし、あるべき姿は描いて見たものの、現状とのギャップが大きすぎ、何から手をつけていいか、その優先順位付けは相当に悩みました。

全ての課題を見える化し、重要性、緊急性、実現性の3つの軸で評価し、内製化で対応できる課題と、外部に頼らないといけない課題を明確にしたのです。
人事の新たな役割を社内に宣言し、改革への取り組みを進め、1年後の成果として、

  1. ① 経営陣に対する人事事項のアドバイスが積極的にできるようになった。それは、エビデンスとなる従業員データはもちろん、従業員の今の状態・状況も理解した発言で説明ができるようになったこと。そこには、人事が、現場に足を運ぶようになり、管理職や従業員との対話が始まったため。
  2. ② 経営陣と、経営戦略についても対話が徐々にできるようになった。
  3. ③ 経営戦略の腹落ちができるようになり、人事戦略立案の必要性が高まり、人事戦略に基づく、アクションが取れるようになった。
  4. ④ 経営陣の人事事項の判断を支援する材料を事前に想定し、資料検討ができるようになり、統計的な人事分析も徐々に行えるようになった。
  5. ⑤ 人事分析の結果に対する人事の意見、打ち手も幾つかの検討案を提案することができるようになった。
  6. ⑥ 従業員と人事との1on1の面談の実施が始まった。個人の状況・状態も把握できるようになった。
  7. ⑦ イントラネットで、人事部のミッション、ビジョン、年度計画を公開し、人事部長も含めた全員のチャレンジ目標と進捗、人事の仕事を公開(担当者別の紹介)し、見える化が始まった。

変革に終わりはない

A社における戦略的人事への取り組みとして継続しているものがあります。

  1. ① 人事戦略立案能力のバージョンアップ。
  2. ② 統計的思考の習得と統計手法の習得。
  3. ③ フィールド人事の機能の拡充(組織別に、人事の担当者を決め、毎週の定例会議に積極的に参加し、管理職の依頼を丁寧にヒアリングし、すぐに対応できるようにする)。

会社が生き残りの経営戦略を立て、変革への覚悟を決め、取りかかっている時、人事はこれまで通りの役割、責任だけ、すなわち変化したくないと主張をするならば、それは、「人事不要論」となってしいます。
人事部は、今こそ、自分達の役割、人事部の役割とは何か、を明確に言語化してほしいと思います。人事部の存在価値とは何か、存在意義とは何か、を人事部全員で腹落ちする議論は必要です。しかし、議論して何回かは、「採用するのが役割」などと、人事機能を役割とする発言に終始するかと思います。この場合、目的と手段を意識した議論が必要となります。人事部に変革を起こすためには、これまでの慣れた思考や行動、仕組み、姿勢において「思い込み」を捨てて見直しをしてほしいと思います。

執筆者プロフィール

鬼本 昌樹

鬼本 昌樹戦略人財コンサルタント 代表

京都大学理学部、カルフォルニア州立大学ロングビーチ校理学部卒。
日本オラクル、GEキャピタル、米国ニューバランスにて、人事部長、経営企画部長、人事役員、取締役副社長を経験。強い企業を作る人材の活性化、人事部の役割の高度化で貢献する。
現在、人材活性マネジメント、労働生産性、人事部の戦略的役割への変革支援を経営人事コンサルタントとしておこなっている。
タレントマネジメントは10年以上の実績を持つ。
中小企業診断士、社会保険労務士、ファシリテーター(米国資格)、行動心理学(米国資格)

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