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コラム
ストレスチェック制度の義務化とは?
罰則や導入方法について
UPDATE : 2022.09.02
2015年12月から常時労働者が50人以上いる事業場に対し、ストレスチェック制度が義務化されました。しかし、自分が社内で担当者にあたるものの、「実際に何をすればいいのかよくわからない」という人も多いのではないでしょうか。そこで、今回はストレスチェック制度の概要や行わなかった場合の罰則の有無、導入方法など担当者が知りたい具体的な事項について解説します。
INDEX
- ストレスチェック制度とは
- ストレスチェック制度が義務化された背景
- ストレスチェック制度の対象となる企業
- ストレスチェック制度の対象者
- ストレスチェック制度の実施状況
- ストレスチェック制度による罰則について
- 実施後の報告を怠ったら?
- 安全配慮義務違反に該当する可能性も
- ストレスチェックを実施する担当者
- 産業医や保健師
- 外部委託機関
- ストレスチェックを実施する手順
- ストレスチェックの内容や方針を決める
- ストレスチェックの実施
- 面接指導
- ストレスチェックを実施するときの注意点
- まとめ
ストレスチェック制度とは
ストレスチェック制度とは、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止し、より健康的に働くことのできる労働環境に改善することを目的としたものです。ここでは、制度が義務化された理由や、対象企業、対象者について解説します。
ストレスチェック制度が義務化された背景
ストレスチェック制度は、2014年6月に労働安全衛生法が改正されたことで、2015年12月から始まりました。厚生労働省が公表している2013年度の「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」によると、精神障害の労災請求件数は過去最多の1,409件(前年度比152件増)でした。つまり、過重労働や仕事による強いストレスが原因となって精神障害になってしまう労働者が増加していることがわかります。
こういった背景を踏まえてストレスチェック制度の義務化に至っているのです。そのため、従前よりも職場のメンタルヘルスケアが重要視されるようになっています。企業が労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止したり、問題を改善しながらメンタルヘルス不調を起こさない健全な労働環境を整備したりすることが大きな目的です。
ストレスチェック制度の対象となる企業
年1回以上のストレスチェック制度が義務づけられたのは、「常時労働者が50人以上いる事業場」です。ここでいう労働者とは、正社員に限らずパートやアルバイトといった非正規雇用の労働者も含まれています。また、常時労働者とは「事業場の営業時間に常時労働している」という意味ではなく、継続的に雇用されている労働者すべてを指す点は押さえておきましょう。例えば、パートやアルバイトで週1回、週3回といった勤務でも継続的に雇用されている労働者であれば常時労働者です。
また、従業人が50人未満の事業場の場合、ストレスチェック制度は努力義務とされています。つまり、法的な拘束力や罰則はなく制度自体は強制的に義務づけられているものではありません。しかし、積極的に努力することは義務づけられています。最終的に、ストレスチェックを行うかどうかは、それぞれの事業場の裁量に委ねられているわけです。
ストレスチェック制度の対象者
前述したように、ストレスチェック制度の対象者は、正社員だけではなくパートやアルバイトなどの非正規雇用労働者も含まれます。しかし、すべての非正規雇用労働者が対象ではありません。基本的な考え方としては、期間の定めのない労働契約によって雇用されている労働者が対象です。具体的にいうと、年1回以上のストレスチェック制度が義務づけられる事業場の労働者のうち、労働の契約期間が1年未満の労働者は対象外となります。また、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の労働者も対象外です。
この条件に当てはまらず、勤務期間・勤務時間の要件を満たしている非正規雇用労働者は、ストレスチェック制度の対象者となります。また、この制度の対象者は労働者となるため、労働者ではなく労働者を雇用して使用する立場の企業役員は対象外です。
ストレスチェック制度の実施状況
ストレスチェック制度が義務づけられて以降、実施状況はどのようになっているのでしょうか。2017年6月末時点で、厚生労働省衛生課によって「ストレスチェック制度の実施状況」の調査が行われました。ストレスチェック制度を実施した事業場は、報告書を所轄の労働基準監督署に提出する義務があります。同調査でストレスチェック制度の実施を義務づけられた事業場のうち、実施報告書を提出した事業場の割合は約83%でした。
事業場の規模別に結果を見ると、1,000人以上の規模の事業場だけを見れば、実施報告書を提出した割合は99.5%です。ほとんどの事業場がストレスチェックを実施していることがわかります。しかし、事業場の規模が小さくなるにつれて提出率は下がり、50〜99人規模の事業場では提出率が78.9%でした。また、業種別の実施状況を見ると、金融・広告業、通信業などで90%を超える実施率が見られます。逆に、接客業や清掃業などの業種では60%後半の実施率です。全体的に見て、デスクワークが多い業種ほど実施率が高いことがわかりました。
ストレスチェック制度による罰則について
ストレスチェック制度を実施しなかった場合の罰則についても確認していきましょう。
実施後の報告を怠ったら?
前述したように、ストレスチェックの実施と報告書の提出を義務づけられた事業場のうち、報告書の提出までを行った事業場の割合は約83%でした。裏を返せば、約17%の事業場はストレスチェック実施後に報告書を提出していないことになります。ストレスチェックは、実施するだけでなく結果となる報告書を労働基準監督署へ提出するところまでが義務です。
ストレスチェック実施後に報告書を提出しないと、最大50万円の罰則金が課せられます。報告書の提出時期は、各事業場の事業年度の終了後など事業場ごとに設定することが可能です。しかし、提出忘れを防止する意味でもストレスチェックを実施した後は、速やかに報告するほうが良いでしょう。
安全配慮義務違反に該当する可能性も
ストレスチェックの未実施に関しては、安全配慮義務違反にあたる可能性があるので注意が必要です。安全配慮義務とは、2008年に労働契約法第5条に記載されている「労働者の安全への配慮」に関する義務を指します。同法同条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と明文化されています。つまり、従業員が安全・健康に労働できるようにするため、企業は義務を負っているというわけです。
安全配慮義務には、従業員が安全に作業のできる労働環境の整備や、使用者による従業員の健康管理などが含まれています。ストレスチェックの実施も、従業員の健康管理に含まれるため、未実施であれば安全配慮義務の不履行とされる可能性があるのです。また、安全配慮義務は労働契約法の一つとなるため、労働契約法違反とみなされる可能性もあるでしょう。この罰則については、労働契約法の条文には書かれていませんが、それぞれのケースに対して損害賠償が生じることはあります。
ストレスチェックを実施する担当者
実際に、ストレスチェックは誰が実施するのか、ストレスチェックの担当者にはどんな人が適しているのかについて解説します。
産業医や保健師
事業場の中でストレスチェックを行う場合、まず実施についての計画や管理を行う担当者を社内で決めることが必要です。ストレスチェックは、労働者一人ひとりの機微な個人情報を取り扱うことになるため、ストレスチェック制度の担当者や実施者は分けます。ストレスチェックを行うにあたり、労働者は使用者に気がねなく正直な気持ちで回答できることが大切です。例えば、ストレスチェックの結果が人事権を持つ人に不当利用される可能性があるため、事業場の中で人事権を持つ人は担当者にはなることはできても、実施者にはなれません。
ストレスチェックの実施者になれるのは、法令で定められた医師(産業医)、保健師、精神保健福祉士などの資格者のみとなります。多くの事業場で実施者を務めるのは、事業場内の産業医や保健師です。特に、産業医は労働者の健康管理に関する専門家となるため、このようなストレスチェックや面接指導を行う実施者として最適な立場だといえるでしょう。
外部委託機関
「ストレスチェックを実施したいが事業場内に産業医や保健師がいない」といった場合は、外部機関に委託することも可能です。民間でストレスチェックのサービスを総合的に行ったり、産業医の紹介サービスを行ったりしている企業もあります。そのため、自社で信頼できる業者を選定して必要な業務を依頼することも選択肢の一つです。事業所内に産業医がいる場合でも、ストレスチェックの実施をすべて行うのが難しければ、産業医に外部機関と連携を取ってもらい、共同実施者としてチェックを行うこともできます。
これは、外部業者にストレスチェックを丸投げしてしまうのが心配なときに有効な方法です。もし、産業医がいない場合には、社内でストレスチェックの実施規定を作成するといいでしょう。ストレスチェックの目的や内容、実施体制、情報の管理に関する規定を作っておけば、ある程度ストレスチェックについて把握している人が社内にいることになります。すべてを外部任せにするのではなく、社内でもストレスチェックに関するノウハウを蓄積していけるような体制を構築しておくとよいでしょう。
ストレスチェックを実施する手順
ストレスチェックを実施するために必要な具体的な3つの手順について解説します。ストレスチェックの内容や方針を決める
ストレスチェックを実施する際は、事前に内容や方針を決めておきましょう。また、ストレスチェック制度の担当者や実施者、実施事務従事者、面接指導を担当する医師なども選定します。ストレスチェック制度の担当者とは、事業場内でストレスチェックの計画をし、進捗管理などをする人のことです。一方で、実際にストレスチェックを行うのが実施者となります。さらに、実施事務従事者とは、実施者の補助を行ったり個人情報を取り扱う業務を行ったりする人のことです。面接指導を担当する医師とは、ストレスチェックを受けた労働者の中で、特にストレスが高いと評価された労働者に対し面接指導を行う医師を指します。
実施期間や質問内容、評価基準、データの保存方法などを具体的な内容が決定した後は、社内規程として明文化し、従業員にもその内容を知らせておきましょう。ストレスチェックに使用する質問票は、以下の3つの項目が含まれていれば特にそれ以外の指定はありません。
- ストレスの原因に関する質問項目
- ストレスによる心身の自覚症状に関する質問項目
- 労働者に対する周囲のサポートに関する質問項目
どんな質問を作ればいいかわからなければ、国が推奨する57項目の「職業性ストレス簡易調査票」があるため、活用してみましょう。
厚生労働省の推奨している「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」
ストレスチェックの実施
質問票が完成した後は、労働者に配布し記入してもらいましょう。回答の記入された質問票は、中身の見えない封筒などに入れて実施者や実施事務従事者が回収します。また、ITシステムを利用してオンラインで回答してもらうことも可能です。回答が集まったら、回収した質問票を見て、実施者がそれぞれの労働者のストレスの評価を行います。その中に、高ストレスと評価された労働者がいれば選定しておきましょう。この評価結果は、実施者からそれぞれの労働者本人に直接通知をするため、企業には知らされません。本人の同意なしに事業者側がストレスチェックの結果を見るのは不可能です。
また、ストレスチェックの結果は実施者が保存をすることになるため、第三者に閲覧されることがないよう、鍵やパスワードを使って厳重に保管する必要があります。
面接指導
実施者が「高ストレス」と評価した労働者には、ストレスチェックの結果とともに医師の面接指導の要否が通知されます。労働者本人から「面接指導を受けたい」という申し出があった場合には、実施者が医師に依頼して面接指導を行うことが必要です。医師が労働者に面接指導を行った後1カ月以内であれば、事業者側はその医師に意見聴取をすることができます。労働者本人が自分で解決できない労働環境などの就業上の措置の必要がある場合は、その意見を参考にして必要な措置を実施するようにしましょう。
ストレスチェックを実施するときの注意点
実施者から「高ストレス」の評価を受けて医師の面接指導が必要な労働者の中には、事業者に内容を知られたくないため、面接指導を希望しないケースもあります。そういった労働者は、特にメンタルヘルス不調のリスクが高まる可能性が高いでしょう。しかし、これではストレスチェックを行った意味がないため、事業者側で策を講じることが必要です。
まず、事前に事業者側が面接指導について労働者に十分に説明し、勧奨するのが望ましいでしょう。面接指導を受けたいと申し出て、実際に面接指導を受けた場合でも、「労働者に不利益なことは決して起こらない」といった内容を丁寧に説明することが大切です。面接指導を受けたい人の負担を増やさないためにも、申し出はなるべく簡単な手続きかつ誰にも知られずに行えるような配慮も欠かせません。また、メンタルヘルスケアについての正しい知識を日ごろから朝礼や社内報などの場で以下のような内容を共有しておくことも大切です。
- メンタルヘルス不調は、決して特別なものではなく誰にでも起こり得るもの
- 風邪をひいたときに病院に行くのと同じようにメンタルヘルス不調に正しく対処することの重要性
従業員に正しい知識を理解してもらえるように、事業者側がメンタルヘルスの重要性を周知させることを常に心がけておきましょう。事業者側は、ストレスチェックを義務づけられていますが、従業員へ強制することはできません。もし、スムーズにストレスチェックを行いたい場合は、業務の繁忙期を避けて実施するなどの配慮も必要となります。
まとめ
2015年12月から常時労働者が50人以上いる事業場でストレスチェック制度が義務づけられ、年1回以上のストレスチェックを実施し報告書を提出する必要があります。労力やコストはかかりますが、労働者の健康管理も企業の義務となるため、定期的に実施して職場の環境を整えていきましょう。