リスキリングとは?意味やリカレント教育との違い、助成金を解説 | NECソリューションイノベータ

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コラム

リスキリングとは?
意味やリカレント教育との違い、助成金を解説

UPDATE : 2022.11.11

リスキリングとは、企業が社会の変化に対応するために必要な、新しいスキルの習得を推進する取り組みです。社内人材の能力再開発・再教育となるリスキリングは、国家レベルで問題視されているデジタル人材不足の対策としても、期待を集めています。

そこで本記事では、リスキリングの意味からリカレント教育との違い、国の助成金、導入事例、導入手順までわかりやすく解説します。

INDEX

リスキリングとは

リスキリング(Reskilling)とは、「市場の変化に対応できる新しい職種・業務に就くこと」や「現職で求められるスキルの変化に適応し、持続的に価値を創出すること」を目的に、新しいスキルや技術の習得を推進する取り組みを指します。例えば、データ主導の販売計画実施を目指す企業においては、下記のケースがリスキリングに当てはまります。

  • 販売員がデータサイエンスのスキルを習得し、異動先でビッグデータの分析施策を展開する
  • マーケティング人材がAIのスキルを習得して、現職でより高度なプランニングを展開する

現在は、第四次産業革命(IoTやAI、ビッグデータによる技術革新)への対応が重要視されています。しかしながら、デジタル技術をビジネスで活用するハイスキル人材の不足は、国家レベルで問題視されている状況です。リスキリングによるIoT・AI・データサイエンスのスキル開発は、社内人材のデジタル人材化につながるため、官民で注目を集めています。

リスキリングとリカレント教育の違い

リカレント教育とは、個人にとって必要なタイミングで“学び直し”を行い、仕事に活かせる能力を向上させる取り組みを指します。英語の「Recurrent:繰り返す・循環する」の言葉通り、「就労→学習→就労→学習…」と、就労と学習のサイクルを繰り返す点が特徴です。仕事に活かすという目的で「語学・MBA・会計・法律・プログラミングスキル」などを学ぶために、大学に入り直すケースもあります。

リカレント教育は個人が主体的に選択する点で、企業主導の取り組みであるリスキリングと異なります。リカレント教育の学習分野は、個人の自発的な判断によって選択されるため、幅広いジャンルが対象となります。また、学習に集中するために一度仕事から離れることを前提としている点も、リスキリングとの違いです。リスキリングは、企業が人材戦略として展開する取り組みであるため、デジタル領域など持続的な企業成長に必要なジャンルが学習分野となります。加えて、リスキリングではスキル習得のための離職を想定していません。

リスキリングとアンラーニングの違い

アンラーニング(Unlearning)とは、日本語で「学びほぐし」とも訳される言葉で、古い知識や考え方・価値観を認識し、必要な見直しや修正・アップデートを取り入れることです。例えば、下記のように考え方を刷新します。

  • プロジェクトの進行手法における「ウォーターフォール型→アジャイル型」
  • 営業スタイルにおける「対面営業→デジタル技術を活用したインサイドセールス」
  • 購買意志決定プロセスモデルにおける「AIDMA→AISAS→ZMOT」
  • 顧客ニーズにおける「モノ消費→コト消費」

アンラーニングは自身が保有する知識やスキルを修正していく取り組みですが、リスキリングは現時点で保有していない新しいスキルや知識を習得する取り組みです。アンラーニングは、固定観念にとらわれず新しい学びを得るためにも欠かせない観点であるため、リスキリングを支える概念でもあります。

リスキリングとアップスキリングの違い

アップスキリング(Upskilling)とは、現職の延長線上でステップアップするために、スキルを向上させることを指します。例えば、アシスタントデータサイエンティストがシニアデータサイエンティストになるべく、機械学習の応用知識を習得するケースなどが該当します。

一方でリスキリングは、別の職種に就くためや新たな環境に適応するための、スキル・能力開発が求められます。例えば、営業推進担当者がデータサイエンティストを目指してデータ関連のスキル習得に取り組む場合が、リスキリングに該当します。つまり、アップスキリングは現在の職務で付加価値を高める取り組みであり、リスキリングは新たな環境下で価値創出を目指す取り組みと言えます。

リスキリングとアウトスキリングの違い

アウトスキリング(Outskilling)とは、成長産業での就職に役立つスキルや、社会で需要の高いスキルの習得を短期で支援し、キャリア形成をサポートする企業主導の取り組みを指します。つまりアウトスキリングは、解雇の可能性のある社員が社外で就職するためにリスキリングする取り組みとも言えます。

リスキリング、アップスキリング、アウトスキリングの違いの解説図

アウトプレースメント(再就職支援)ビジネスとは異なり、成長産業でニーズのあるスキルの開発が伴う点がアウトスキリングの特徴です。退職者と良好な関係を継続しやすいため、将来的なタレントプールの構築につながる可能性もあります。また、ステークホルダーである社員に対しての責任ある行動の実践と評価されれば、企業ブランドの毀損や従業員ロイヤリティの低下を防ぐ効果も見込めます。

リスキリングが注目されている理由とは

リスキリングが注目されている理由として、下記の2つがあります。

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応
  • 人的資本の最適化

現在は、ビジネス環境の変化に適応すべく、データとデジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)が重要視されています。しかしながら、DXに必要なデジタル人材は世界的に不足しており、人材の獲得競争が激化している状況です。そのため、外部から獲得するのではなく、内部でデジタル人材を育成するリスキリングが期待を集めています。

DXを進めるにあたっての課題のグラフ。日本では人材不足を課題として認識している企業が多い。

DXによるデータ入力などの定型業務自動化や作業プロセスの機械化は、業務効率化や生産性向上をもたらします。ポイントは、デジタル技術の活用と同時に一部の仕事が機械に代替される点です。このように、技術の進歩により職を失う状況(=技術的失業)は、国際的に懸念されています。そこで重要視されたのが、リスキリングによる能力開発と人的資本の最適化。2020年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では、第四次産業革命に対応するべく「2030年までに全世界10億人をリスキリングする」と宣言されています。

リスキリングのメリット

企業がリスキリングを実施するメリットや効果として、下記の3つが期待できます。

  • ビジネス変革の可能性
  • 人材採用コストの抑制
  • 企業文化の継承

【メリット①】ビジネス変革の可能性

リスキリングで社員が習得したデジタルスキルは、企業のDX推進に役立ちます。DXの推進は、最新技術を活用したイノベーションにつながります。イノベーションは、時代の変化に対応した新規ビジネス創出やビジネスモデルの変革をもたらすでしょう。そのほか「データドリブンな意思決定」「定型業務や業務フローの見直し」による業務効率化や生産性向上も、リスキリングとDXのメリットです。業務の効率化で社員の負担を軽減できれば、より付加価値の高いタスクへ人員リソースを集中できます。

【メリット②】人材採用コストの抑制

現在は慢性的にデジタル人材が不足しているため、高度なデジタル人材の集客・採用の難易度とコストが高まっています。そのため、リスキリングでデジタル人材を内部で育成できれば、採用コストの抑制にも貢献します。また、リスキリングに伴う配置転換は、余剰人員の発生を防ぎ、人的資本の最適化につながります。

【メリット③】企業文化の継承

外部人材を採用する場合、「既存社員との軋轢」や「育んできた社風の軽視」などの問題が発生する恐れがあるでしょう。しかし、リスキリングであれば、既存の社員を失うことなく新しい技術や知識を取り入れられるため、培ってきた社風や文化を継承できます。また、社員にとってリスキリングは、スキルやキャリアを向上させ市場価値を高める成長機会となる点もポイント。成長を実感できる環境でビジネスを主導するという働きがいは、定着率やエンゲージメントの向上につながります。将来性のあるスキルを持つ人材の定着は、持続的な企業経営を支える基盤となるでしょう。

リスキリングで習得すべきスキルとは

ここでは、リスキリングで習得すべきスキルについて解説します。

非連続的なスキル

リスキリングにおいては、「非連続的なスキル」の習得が重要とされています。非連続的なスキルとは、現職の延長線上にあるスキルや知識ではなく、自社で確保していない新しいスキルのことです。OJT(On-the-Job Training)やジョブローテーションで習得できるスキルは、すでに企業に存在する「連続的なスキル」です。

既存事業の継続を前提としている場合は、連続的なスキルが人材戦略の要件に合うでしょう。しかしながらリスキリングは、企業が将来必要とする新しい仕事や業務を担うことを目的としているため、非連続的なスキルが求められます。リスキリングに取り組む際は、OJTの延長として捉えず、会社が必要とする非連続的なスキルの洗い出しから始めなければなりません。

DXで求められるスキルとは

技術革新が進んだ現在では、競争力の観点からもデジタル技術の活用を避けては通れない状況となりました。国家レベルでDXの推進は重要視されており、経済産業省も「産業界におけるIT人材の育成」施策をさまざまに展開しています。その中の1つが、2022年3月に策定された『DXリテラシー標準 ver.1.0』です。これは、DXを推進する人材に求められるマインドセットやスキルセットを整理したガイドラインで、リスキリングの指針としても活用できます。

DXリテラシー標準ver.1.0 における学習項目

スワイプすると表が横にスクロールします。

(出所:経済産業省『DXリテラシー標準ver.1.0』をもとに作成)
Why
DXの背景
社会の変化、顧客価値の変化、競争環境の変化
What
DXで活用される
データ・技術
データ 社会における
データ
データの種類、ビッグデータとアノテーション など
データを読む
説明する
データの分析手法、比較方法、可視化の方法 など
データを扱う データクレンジング、サンプリング、データベース など
データによって
判断する
仮説構築、分析アプローチ設計、モニタリングの手法 など
デジタル
技術
AI AIの歴史、AIを作るために必要な手法、AI社会原則 など
クラウド クラウドの仕組み、クラウドサービスの提供形態 など
ハードウェア
ソフトウェア
ハードウェアの構成要素、ソフトウェアの構成要素 など
ネットワーク ネットワークの仕組み・装置、インターネットサービス など
How
データ・技術
の活用
活用方法
事例
データ・デジタル
技術の活用事例
企業事例(配膳ロボット、バーチャル試着サービス) など
ツール活用 ノーコード・ローコードツールの知識・活用方法 など
留意点 セキュリティ セキュリティの3要素、セキュリティ技術・対策 など
モラル ネットトラブルの事例、データ活用における禁止事項 など
コンプライアンス 個人情報保護法、著作権、特許権、GDPR、CCPA など
マインドスタンス 顧客・ユーザーへの共感、常識にとらわれない発想、反復的なアプローチ、変化への適応、コラボレーション、柔軟な意思決定、事実に基づく判断

なお『DXリテラシー標準』は、既存のDX関連資格である「ITパスポート」「G検定」「データサイエンティスト検定」などと重なる部分も多いガイドラインです。より専門的なスキル獲得を目的とする場合は、それぞれの資格取得を推進する方法も効果的です。ポイントは、資格の取得や講座の受講をゴールとせずに、業務で活用するために実践レベルのスキルを習得することです。

国を挙げて推進されているリスキリング

スイスの国際経営開発研究所(IMD)が公表している『世界デジタル競争ランキング 2022』において、日本の順位は63カ国中29位でした。4年連続で順位を落としており、国際競争力の低下が懸念されています。総務省の『令和3年版 情報通信白書』では、日本がデジタル化で他国に後れを取っている原因として、下表の6項目を解説しています。

(出所:総務省『令和3年版 情報通信白書』 第1部 序章「我が国におけるデジタル化の歩み」をもとに作成)
日本がデジタル化で後れを取った理由
ICT投資の低迷 過去の成功体験
業務改革等を伴わないICT投資 デジタル化への不安感・抵抗感
ICT人材の不足・偏在 デジタルリテラシーが十分ではない

国際競争力の観点からも、デジタル人材の不足は、国家レベルで対策すべき重要課題として認識されています。そのため、経済産業省や厚生労働省が中心となり、企業のリスキリング支援施策が展開されています。

経済産業省のIT人材育成支援

経済産業省は、先に紹介した『DXリテラシー標準』をはじめ、企業のデジタル人材育成推進に役立つ施策を実施しています。

【マナビDX(デラックス)】

経済産業省が開設したデジタル人材育成プラットフォームで、『DXリテラシー標準』に基づいたデジタルスキルの学習コンテンツを提供しています。初心者向けの基礎的な講座から、ある程度基礎を学んだ人向けの実践講座まで幅広く網羅しており、審査済み外部講座の紹介もあります。そのほか「マナビDX Quest」という、地域の中小企業と協働で進める現場研修型プログラムにより、実践力の養成もサポートしています。

【第四次産業革命スキル習得講座(リスキル講座)認定制度】

第四次産業革命スキル習得講座(リスキル講座)認定制度とは、雇用創出が見込めるIT・データ関連の成長分野において、高度な専門スキル習得によるキャリアアップを支援する講座を経済産業大臣が認定する制度です。対象となるのは「AI・IoT・データサイエンス・クラウド・高度なセキュリティやネットワーク」や「IT利活用」分野における専門的・実践的な教育講座。実践性を特に重視しており、カリキュラムの半分以上を実習・実技・演習・発表などにあてることが、認定要件の1つになっています。

【ITスキルの見える化施策】

経済産業省は、スキル習得や人材育成の指針となる資格や指標などの整備も進めています。国家試験である「情報処理技術者試験」「情報処理安全確保支援士」は、IT・デジタル人材の育成・確保を目的とした資格です。そのほか「iコンピテンシ・ディクショナリ」「共通キャリア・スキルフレームワーク」「ITスキル標準」「情報システムユーザースキル標準」「組込みスキル標準」などの体系的な指標の策定・提供も推進しています。

厚生労働省および自治体の助成金・補助金

厚生労働省や自治体では、助成金や補助金という方向から、企業のリスキリング推進をサポートしています。

【厚生労働省:人材開発支援助成金(人への投資促進コース)】

人材開発支援助成金は、社員のキャリア形成支援を目的に実施した、専門知識・スキル取得の訓練費用や、訓練期間の給与の一部を助成する制度です。2022年4月に追加された「人への投資促進コース」では、IT未経験の社員を対象としたITスキルの訓練に適用可能な「成長分野等人材訓練」という費用助成コースを設けています。

【厚生労働省:キャリアアップ助成金(正社員化コース・障害者正社員化コース)】

キャリアアップ助成金は、非正規雇用社員のキャリアアップ促進を目的に、正社員化や処遇改善を実施した事業主を助成する制度です。「正社員化コース」では、有期雇用労働者の正規雇用転換や直接雇用をした際に事業主を助成。人材開発支援助成金(人への投資促進コースも対象)と組み合わせると、助成金額が加算されます。

【自治体:デジタル人材育成に関する助成金・補助金制度】

助成金や補助金制度は、自治体レベルで実施されている場合もあります。例えば、東京都の「DXリスキリング助成金」や、山口県の「デジタル人材育成支援補助金」があります。いずれも中小企業などを対象に、社員がデジタル技術(IoT、AIなど)に関する訓練講座受講でかかった費用の一部を負担する制度です。なお、東京都では学習プログラムを提供する「DX人材リスキリング支援事業」も実施しています。

リスキリング推進の企業事例

ここでは、国内・海外企業のリスキリング事例をピックアップして解説します。

【国内企業事例】 ヤフー株式会社のリスキリング

ヤフー株式会社は、ポータルサイトの「Yahoo! JAPAN」を中核に、メディア事業、広告事業、Eコマース事業などを展開する国内最大手のインターネット企業です。同社は全社的なリスキリング施策を進めており、約8,000名の全社員が2023年度までに業務においてAIを活用できる状態を目指しています。また、日本リスキリングコンソーシアムにも参画しており、リスキリング・パートナーとして各種トレーニングコンテンツを提供しています。

なお、同社の親会社であるZホールディングス株式会社は「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニー」を目指して、企業内大学のZアカデミアにてリスキリングを推進。特にAI領域を重視しており、Zアカデミア内に新設された「Z AIアカデミア」では、非エンジニア人材や文系人材からのAIプロフェッショナル育成も視野に入れています。

【海外企業事例】 米Amazon社のリスキリング

世界最大規模のEコマース事業を展開する米Amazon社は、2019年に7億ドルをかけて10万人の社員をリスキリングする「Upskilling 2025」計画を公表しました。その後、2021年に計画を拡大し、30万人を対象に12億ドルを投じるとしています。下の表は、同社が取り組んでいる人材育成施策の一部です。

Amazon Technical Academy 非エンジニア系社員のソフトウェアエンジニア職へのキャリア移行を支援する制度。
AWS Grow Our Own Talent 非エンジニア系社員を対象にAWSデータセンターの技術者としてのキャリア形成を支援する制度。
Machine Learning University コーディングに関するスキルを持つエンジニア社員を対象に機械学習スキルの習得を支援する制度。
Career Choice Program 時給で勤務する社員向けの教育訓練支援プログラム。医療看護や法律などへのキャリアもオープンになっており、アウトスキリングとしても機能している。

リスキリング導入の手順とポイント

ここでは、リスキリング施策の導入手順を解説します。リスキリングを進めるのに必要なステップには、下記の4つがあります。

  • STEP① 習得すべきスキルの特定
  • STEP② プログラムと教育環境の整備
  • STEP③ プログラムの実行と進捗管理
  • STEP④ 実践環境の用意と継続的な改善

【STEP①】習得すべきスキルの特定

リスキリングは、企業が今後どのようなスキルセットを必要としていくかを特定するところから始まります。「DXなどの事業戦略実現のために必要なスキルは何か」「社会の変化に対応していくために必要な能力は何か」などの観点で、必要なスキルを洗い出します。また、現在保有しているスキルの可視化もポイント。現状と理想のスキルギャップの把握は、達成までの時間やコストの算出に不可欠です。

【STEP②】プログラムと教育環境の整備

必要なスキルを特定した次は、教育プログラムの手配です。教育プログラムには、社外研修や在籍出向など、さまざまな手法があります。場所や時間に縛られないオンラインの学習環境である、eラーニングも有効な手法です。また、就業時間内に“業務として"スキル習得を可能にする制度の設計は、社員が周囲からの理解を得るためにも重要です。教育プログラムを用意するだけでなく、リスキリングを推進する制度づくりと啓蒙活動も行い、全社的にリスキリングを後押しできる企業風土を醸成します。

【STEP③】プログラムの実行と進捗管理

環境整備後は、プログラムの実行と進捗管理のフェーズです。プログラムスタート後は、進捗状況を確認しながら、確実にスキル習得へ導けるようにフォローアップする必要があります。学習管理システムは、学習ペースや習熟度等を可視化できるため、進捗管理に役立ちます。また、デジタルの証明書となるオープンバッジの採用も、スキル習得状況の可視化を助けるでしょう。オープンバッジは市場価値の証明にもなるため、社員の学習モチベーション向上効果も期待できます。

【STEP④】実践環境の用意と継続的な改善

リスキリングは、習得したスキルを新しい職種や業務で発揮できている状態を目的としているため、スキルの習得や能力開発で施策を終わらせないことがポイントです。もしも、スキルを習得する中で実務経験が足りていない場合は、社内インターンから現場で経験を積めるようにするなど、柔軟な人材配置を考慮します。

また、社員のフィードバックを得られる仕組みづくりも大切です。施策の軌道修正や見直しにつなげて、スキルの陳腐化やテクノロジーの進化に素早く対応するためです。企業が将来必要とするスキルを習得・実践できるように、スキルの選定から教育環境の整備まで、常にアップデートする意識で取り組むべきでしょう。

リスキリング推進の注意点

ここでは、リスキリングを推進する際の注意点として、3つのポイントを解説します。

【リスキリング施策の負荷とコスト】

リスキリング施策では、教育プログラムの整備や学習管理システムの導入など、環境構築にコストが発生します。求められるスキルが高度になるほど、教育コストも高まります。加えて、リスキリングの教育訓練中は、労働力や生産性が減少するため、所属部署に負荷やコストがかかる点も留意すべきです。高度なスキルの場合は、教育訓練期間も長くなるため、相応の負担となるでしょう。

一方で、DXにより余剰人員が生まれている状況では、リスキリングを行わないことが結果的にコストの増加につながってしまいます。長期的な視野でコストを見極めて、リスキリングの価値を見積もることは、リスキリングに取り組む前提として必要です。

【実践力の養成・発揮が不可欠】

リスキリングでは、実践環境の用意はもちろんのこと、業務で実践されたパフォーマンスを評価する制度も必要となります。「収益データの自動収集と自動分析の実現」や「WEBサイトの拡張機能の実装」などの具体的な成果で、リスキリングの取り組みを評価することが肝要です。

もしも評価する中で、パフォーマンスが発揮できていない原因がスキル要件にあったと判明すれば、教育プログラムの見直しにつながるでしょう。リスキリングを機能させるためには、実践力を軸にPDCAサイクルを回していく姿勢が求められます。

【人材流出の危険性】

リスキリングで取得するスキルは、他社から見ても魅力的であるため、社員の市場価値を高めます。会社に対する社員のエンゲージメントが低い状態では、リスキリングが人材流出の機会を与えてしまう恐れもあるでしょう。離職を防ぐためには、リスキリングへの取り組みを公正・公平に評価する人事評価制度など、社員が会社と長期的な関係を築きたくなるような仕組みづくりが大切です。

外部リソースを有効活用するオープン志向の可能性

日本ではデジタル人材がベンダー企業に集中していますが、アメリカやドイツなどでは、ユーザー企業にデジタル人材が集中しているという特徴があります。現在は、スピーディに改革を実現している海外に追随するように、内部で人材を育成しDXを内製化する傾向にあります。

しかしながら、DXを内製化するためには、プロジェクトを主導する人材の確保や育成、設備投資など、難易度の高い課題をクリアしなければなりません。そこで、有望視されているのが、外部サービスやリソースを活用するオープン志向です。例えば、AIを活用したクラウド型のデータ分析サービスは、有用な外部サービスの1つ。ゼロからAIを開発する必要がないため、コストを抑えながらに迅速にデジタル技術を導入可能です。

なお、外部サービスの活用を検討する場合は、最新ITソリューションに精通しているITベンダー企業に協力を仰ぐと効果的です。協力してDXに取り組むことで、デジタル技術をビジネスで活用するビジョンの策定や、自社に合うデジタルサービスの選定・導入がスムーズになります。また、ITベンダー企業によっては、デジタル人材の教育サービスを提供している場合もあります。リスキリングで必要なITスキルの洗い出しと教育訓練の実施も、効率的に進められるでしょう。

まとめ

社内人材のスキル再開発となるリスキリングは、デジタル人材不足の打開策として注目を集めています。国家的にもリスキリング推進の動きは加速しており、リスキリングに役立つ学習プラットフォームや助成金などの取り組みが充実しています。流れに乗り遅れて競合に後れを取らないためにも、IT専門家と協力して、将来必要とするITスキルの整理から始めてみてはいかがでしょうか。