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インタビュー
UPDATE : 2022.03.02
2017年より「Sense &
Innovation(以下S&I)」をスローガンに全社的な組織風土改革に取り組んできた株式会社ポーラ。2029年に迎える創業100年をターニングポイントと考えたときに、“このままではいけない、変わらなければならない”と如実に感じたことが本スローガン発動のきっかけです。
のべ3年、個人及び組織の変革を続けてきた中で起こった変化とは。人事戦略部で率先して本スローガンの具体化に取り組んできた大城さんに、お話を伺いました。
インタビューに答えてくれた方
大城 心(おおぎ こころ)さん
株式会社POLA 人事戦略部 ワーキングイノベーションチーム リーダー
2004年株式会社ポーラに入社。販売企画部で店舗営業支援、その後ビジネスパートナーやオーナー教育、さらに営業リーダー育成を担当。
2年間の産休・育休を経て2018年から人事戦略部にて採用・要員管理、組織風土改革・人事制度運用、働き方改革・ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む。
INDEX
創業100年のビジョン達成のためには変わる必要がある
―まず「S&I」について教えていただけますでしょうか?
大城さん:90年以上続く企業として、いい意味で伝統的であり、一方で思考が凝り固まっている部分がありました。トップダウン型の組織でもあったので、経営の方針に沿ってみんなで進めていこうとする向きがあって。トップダウン型は一致団結できるので目標に向かって進めやすいのですが、各個人の意見が出やすい環境では正直ありません。
私たちが創業100年のビジョンとして掲げた「私と社会の可能性を信じられる、つながりであふれる社会へ。」と、行動指針である「 We Care More. 世界を変える、心づかいを。」に合わせて変わる必要がある、という中で立ち上がったのが「S&I」です。感受性を高め共感力を生み出そうとする力「Sense」と、価値を生み出すための創造力「Innovation」を大切に、組織視点ではなく市場視点で一人ひとりがありたい姿を描き実現に向けて取り組んでいきました。
―2つのキーワードはどのように誕生したのでしょうか?
大城さん:ポーラの各地域の拠点に経営陣が直接訪れ、一緒に食事をとりながら「正直、今の会社ってどう?」と聞いていくことからスタートして。当時は個人の意見を組織として拾い上げにくい環境でしたが、直接話を聞くと「こういう会社にしていきたい」「お客様に対してこんなアプローチをしたい」と社員から具体的な案がいろいろ出てきたようです。世の中のスピードが恐ろしく早くなっている中で経営陣が正解を知っているわけではもちろんないし、社員一人ひとりの多様な価値創造に努めるべきではないか、という流れの中でS&Iが生まれていきました。
―“このままではいけない、変革しなければならない”との思いは、もともと持っていたポーラの社風の一つではあるのでしょうか?
大城さん:初期の初期は化粧品の販売といえば男性の仕事で、女性はほとんど前例がなかったところ、1937年の京都で、セールスマン募集の張り紙を見た女性が「女性ではあきまへんやろか」と扉を叩いたことで女性の販売が始まり、今やほとんどのオーナーやビジネスパートナーが女性となりました。そういった意味で、“常識にとらわれずに時流に沿って変えていかなければならない”との思いは、90年以上企業に通底しているといえるかもしれません。
スローガンを具体化するために目標・評価と連動
―S&Iの具体的な施策についても教えてください。
大城さん:まず社員一人ひとりが達成すべき、評価対象となる通年目標の10%を、「S&I目標」として据えました。その中で、S&Iがどのように育まれているのかを見える化することが必要だと考え、S&Iの精神に根ざしたプロジェクトをみんなで称える「POLAブランディングアワード」という全社イベントを開催しました。
さらにブランディングアワードでは紹介しきれない細かな取り組みや、海外の現地法人でのプロジェクトなども細かく網羅した冊子「POLAブランディングレポート」を発行し、加えて動画や記事などでも社内に発信しました。
―「POLAブランディングアワード」では具体的にどんなプロジェクトが表彰されたのでしょうか?
大城さん:2017年度は、地域の人を元気にしたいという思いからスタートした「秋田県との包括連携協定プロジェクト」が受賞しました。これは、秋田県の女性を対象に就活メーク講座やハンドマッサージを行うといった、ポーラの持っている美の知識を通じて地域活性化へと繋げていく取り組みです。このプロジェクトによって、市場における秋田県の企業好意度が同月の前年比較で20%も上がりました。
―こういったプロジェクトは、同時多発的にあちこちで立ち上がっていったのですか?
大城さん:そうですね、プロジェクトの総トータル数は把握できていないのですが、2016年から2020年の間でのアワードのエントリー数は245件でした。
―そんなに多いのですね!これほど積極的に取り組む社員が多い理由はどこにあるのでしょうか?
大城さん:ひとつはS&Iが個人の目標に入っていることだと思います。これによって業務外活動をしているという意識ではなく、あくまで仕事の一環として新規プロジェクトに携わる、という共通認識がありました。 もうひとつ、部署ごとにS&Iリーダーを立て、積極的に指揮を取る役割を作ったことも大きいです。立ち上げからこれまで約400人、全社員の約1/4にあたる人数がS&Iリーダーを経験しているので、S&Iの意味をより深く理解する社員が物理的にも多くなり、活動に拍車かかったのだと思います。もちろん経営陣も新規プロジェクトにかんして肯定的に見ています。
―新規プロジェクトは部門ごとに推進されるのですか?
大城さん:最初は部門ごとに行われていました。ただ、部門で分かれすぎていると「結局このプロジェクトについて通貫して考えている人は誰?」と責任者不在になったり、「この仕事はどっちの部門が持つの?」と押し付けになったりしがちで。これをなくしていくためには部門を横断したチーム作りをすべきだと、まずは、部門横断で目標を持ちました。
最初は部門長同士が集まって「横断目標、達成できる?」なんて話し合いにもなったようですが(笑)。とはいえスタートしなければならないので、まずはかかわりの深い部門での連携から始まり、徐々に垣根を越えた繋がりへと発展していきました。
各地域での取り組みを積極的に発信。ポーラ香港でも快挙
―「POLAブランディングレポート」についても教えてください。
大城さん:年1回の冊子の発行とともに、プロジェクトの取り組みの背景を社員本人が語る動画や記事を配信し、どんな思いで活動をしているのかをしっかりと伝えています。「なるほど、そんな気持ちだったのか」と具体的に知ることで、ほかの社員の刺激になればと考えての取り組みです。
―冊子や動画に対する社員のリアクションはいかがでしたか?
大城さん:冊子には、本社だけでなく海外の現地法人をはじめ本当に様々な地域の多様な活動が載っているので、S&Iの活動においてとても参考になったと思います。「中国って今こんなことになっているんだ」とか、「この地域ではこんな新しいプロジェクトが進んでいるんだ」などいろんな声が届き、良い事例を共有し合うことは意味があるなと改めて思いました。
―S&Iは海外の現地法人も含めて取り組まれているとうかがいました。海外においても行動の変化はありましたか?
大城さん:とくにポーラ香港において強く感じます。香港は当社に限らず人の流動性が激しく離職率も高いのが一般的なのですが、S&Iに取り組むことで社員のエンゲージメントが大きく向上し、2019年のオフィスメンバーの離職もゼロになりました。また香港政府が選出する「ケアリング・カンパニー賞」も受賞し、社内外で大きな成果に繋がりました。
具体的な施策としては、感性を磨くためのアート教室の開催や、社内提案コンテストの立ち上げなどですね。コンテストにおいては採用された案を実際に実行にも移しています。 当時は民主化デモの最中で、社員の安全を担保することと隣り合わせで進めていたのですが、実際に動き出し変わっていくのを如実に見た社員たちが「これは単なる理想論じゃない、本当に実現できるんだ」と改めて感じられた瞬間だったと思います。
個人起点の「やりたい」から、メンバーを集めてチーム化へ
―今後もS&Iのスローガンは続いていくのでしょうか?
大城さん:S&Iは2020年でいったん終了し、2021年からは「尖れ、つながれ」をスローガンに掲げています。ベースとしては同じ考えなのですが、社会的な部分も鑑みて変更することになりました。
部門を越えたチーム、私たちはこれを“ワーキンググループ”と呼んでいるのですが、こういったグループがどんどん出来てくると、組織にしばられるような働き方ではなくなり、より個が立つと考えていて。まずは個人の「やりたい」思いがあって、そこに企業がかかわっていく流れを作りたい、そういう意味での「尖れ」。ただし、大きなことであればあるほどひとりではできないので、周りに思いを共有していこうという「つながれ」です。
2020年までは個人目標の10%が“S&I目標”に設定されていましたが、2021年からは個人目標の25%が“中長期変革目標”となりました。25%というとかなり大きいので、ポーラのリソースを使って何ができるのか、私たちも今試行錯誤している段階です(笑)。
―どのような形でプロジェクトがスタートするのでしょうか?
大城さん:それぞれ、まずは個人の「やりたい」という思いから始まり、次に社内に展開して共感してくれる人を探し、手を挙げた人がチームにジョインしてワーキンググループを作る、という流れができてきています。
―社員に呼びかけるためのコミュニケーションツールなどがあるのですか?
大城さん:定期的にビジネスアイデアコンテストを開催しているので、そういった場所でプレゼンをし、仲間を募ることが多いですね。
ほかには、「こういうアイデアがあるけれど、具体的にどう行動すべきか分からない」という社員のために、“ポーラテーブルトーク”という座談会も行っています。そこには幅広い年齢層の社員が参加していて、悩める人に対して「だったら誰々と一緒にグループを組めばいいんじゃない?」と仲介したり、参加者全員の中長期変革目標を一覧化し「つながりリスト」として仲間作りに役立ててもらったりしています。若い世代から、50-60代の方まで、多くの従業員が部門を超えて積極的に参加する流れができているのは、私自身もびっくりしたことのひとつでした。
―社員同士がつながるための、さまざまな施策があるのですね。そんな中での課題などはあったりするのでしょうか?
大城さん:2021年度は「尖れ、つながれ」のスローガンの元、思いの強い社員が手を挙げいいスタートが切れましたが、その次となると難しいのかなと感じています。「何をやったらいいのかわからない」「自信がない」といった声もよく聞くので、少しでもそういった声があればハブになって繋いでいく、ということは意識的にやりたいなと。細かな積み重ねが必要なのかなと思っています。
―理念やスローガンを具体的な施策に落とし込むことにすごく長けていらっしゃると感じるのですが、何かコツなどはあるのでしょうか?
大城さん:コツというと難しいのですが、「なぜこういうことを今しなければならないのか」については、人事部がいちばん腹落ちし、言語化できるようにしています。それがないと、ただただ「お願いします、やってください」になる。
実際私も、最初は言葉だけで伝えていたようにも思います。だけど、リアルに社員のパワーや主体性を、アワードを通じて感じていく中で、主体性のある人の変革力って何ものにも代えがたいものがあるなと素直に思えましたし、こういう人がたくさんいる会社は楽しいし、絶対に結果が出るだろうと。人事部においては、その“腹落ち感”はすごく大事にしています。
まとめ
S&Iは単なるやりがい創出のための施策ではなく、経営マターのひとつとして経営陣も強くコミットしているのが特徴です。そのため、全社員が当事者として日々の行動で実践できるよう、適切な目標設定と評価を設定。S&Iの思想が広く浸透した結果「社員同士の日常会話でもS&Iやありたい姿についての話題が頻繁に飛び交うようになってきました」と大城さんは話します。理念を自分事として捉えるための仕組みの設計が具体的な行動へと促し、確かな変革へと繋がっています。