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インタビュー

UPDATE : 2022.03.23
アウトドアには、屋外ならではの開放感や自然の息吹が間近に感じられることなど多くの魅力があります。業界をリードし続けるアウトドア総合ブランド「スノーピーク」のグループ企業、株式会社スノーピークビジネスソリューションズは、そんなアウトドアのメリットを仕事の場にも活かすべく新たな取り組みを進めている企業です。
果たして、アウトドアが企業や仕事に与える効果とはどのようなものでしょうか。同社でプロジェクトの推進を担う山本さんに詳しく伺いました。

インタビューに答えてくれた方
山本 真道(やまもと まさみち)さん
株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 経営戦略室 室長
和歌山県出身。2007年にハーティスシステムアンドコンサルティング(現:スノーピークビジネスソリューションズ)に新卒入社しシステム開発部に配属。その後、開発部責任者を経て、スノーピークへ出向し社長室として現会長の山井太をサポート。
帰任後、アウトドアを活用した働き方改革を推進する。全営業部の統括する責任者として、サービスの全国展開をリードした。現在は、更に事業を拡大するため戦略立案を行う。
INDEX
アウトドア体験は、社員同士を繋げるきっかけ作りに最適
―まず御社の取り組みについて教えてください。
山本さん:現在は働き方改革におけるコンサルティングをしていますが、1999年の設立当初よりシステム会社として、製造業向けのデータ管理システムをはじめとする情報システムの開発・販売をして、企業の業務効率化や生産性向上を支援していました。そんな中、せっかくシステムを導入しても現場では定着しにくい、ということがよく起こっていたんです。そこで現場の方々が本当に使いやすいのは何かと追求していったときに、単に“モノ”を完成させるだけでなく、小さなアクション一つひとつを現場と一緒に進めていく過程こそが大事であると気づきました。
これって、働き方改革にも通ずるなと。単に「働き方改革をします」と宣言して、勤務時間の短縮やコミュニケーションの活性化を図ろうとしても、なかなか定着しない。今や企業の経営者が先頭に立って会社を動かす時代ではなくて、これからは自分たちの会社を自分たちがつくるという意識や、会社の経営を自分事にできるかどうかが重要だと我々は考えました。
そこで、まずは社員が会社に深くコミットできるようなきっかけづくりができればと、屋外で働くことができる場を提供し、アウトドア体験によるコミュニケーション活性化を図りながら、主体性を磨くことに結びつけています。
―具体的にはどのような事業をされておられるのですか?
山本さん:大きな柱としてはアウトドア研修と空間改善が挙げられます。例えばオフサイトミーティングとして地方のキャンプ場や弊社が展開する施設に行ってワークショップや会議をすることを提案したり、またオフィス内にアウトドアの要素を取り入れて開放感のある空間を演出したり、ということですね。
―コミュニケーション活性化にはアウトドアが向いているのですか?
山本さん:向いているというよりも、まずは働く環境を変える、という要素が大きいです。コンクリートに囲まれたいつもの会議室でミーティングをするよりも、ちょっと外に出るだけでアイデアが生まれた、という経験は誰しもあると思います。人間はそもそも自然の中に存在しているので、香りや風など五感で感じ取る部分から良い影響を受けているのだと思います。
また自然の中だと、人と人との距離が近づきやすいとも感じています。実際に企業研修のアテンドをさせていただく中でも、最初は「外でミーティングをするの?」と懐疑的だった方も、ミーティングを終えると「いつもと違う会話ができた。アウトドアでやってよかった」とおっしゃっていただけます。

勝手知ったる場でないからこそ育まれるコミュニケーション
―ワークショップはどのように行われるのですか?
山本さん:アイスブレイクとして、会議室にするテントを張るところからスタートします。大型のテントですのでひとりで張るのは難しく、どのようにしたらうまく張れるのかを仲間と試行錯誤し、自然な流れでチームビルディングがなされます。また体を動かすことってすごく楽しいので、緊張もほぐれて自然と笑顔も出てきます。
テントを張って環境が整ったら、企業様側が議題を持ってミーティングを始める場合もありますし、弊社側がテーマに沿ってファシリテートする場合もあります。夜はバーベキューや鍋などのアウトドア料理を楽しみ、最後は焚火を囲んで参加者同士で語り合う、という流れが定番です。
―非日常な場を設けることが大事なのでしょうか?
山本さん:そうですね、普段の会話ではわからない一面が垣間見えるので別の角度からコミュニケーションが図れる、という利点はあると思います。
とある統計によると日本のキャンプ人口は全国民の約7%で、まだそれほど多くはないんですね。キャンプ経験があるのは20人のうち1人ぐらいですので、弊社のアウトドア研修でも参加する大抵の人が何もわからない状態からのスタートです。“テントを張る”という行為においては社長・上司・若手という関係がいったんフラットになり、協力して作業を進めなければならない。その中で、「この人ってこういうところがあるんだ」と新たな発見があったりします。
―焚火に関してはどのような効果があると考えられていますか?
山本さん:焚火は、上長が部下にビジョンを伝えたいときによく用いられます。普通の会議室で、上長が若手に対して「会社のビジョンに対して分からないことはあるか?」と尋ねたところで、若手からはなかなか出にくいですよね。
でも焚火を囲んで話していると距離が近くなったように感じられ、若手から意見が自然と出てくるようになります。焚火のパチパチ音も常に聞こえていて黙っていても心地良いですし、会話のリズムもちょうど良くなる感覚ですね。

―アウトドア研修を行った企業からはどのような感想が聞かれますか?
山本さん:まずは「楽しかった」という感想が圧倒的に多いです。自然は、雨や風など何ひとつ自分のコントロールがきかない環境ですので、思い通りにいかないことも多い。そこで、メンバーの中で自分や周りの人たちがどのように立ち回るのかが如実に感じられ、関係性にも自然と変化が生まれていきます。
若手社員の多い企業さんから、「ワークショップ後はコミュニケーションがより活発化し、強固なつながりができた」とも伺いました。
―アウトドアでのワークショップに向く業種や部門などはありますか?
山本さん:大企業から中小企業までさまざまな会社からご依頼をいただきますが、どういった会社であってもコミュ二ケーションの活性化は図れると思っています。業種もIT、金融、航空、サービス、製造など本当にさまざまで、皆さん「やってよかった」とおっしゃっていただける。“普段と違った環境で何か作業をする”ということは本当に大事なことなのだと我々も実感しています。
スノーピーク流オフィスの作り方
―御社内も、やはりアウトドアを軸にオフィスを作っておられますよね。どのような雰囲気なのでしょうか?
山本さん:オフィスのフロアを2つに分けていて、1Fフロアはコワーキングスペースとして開放し、アウトドアを存分に堪能できる空間作りをしています。一方2Fフロアはヘッドオフィスとして、地元の木材を使ったテーブルや植栽などを置いて自然のぬくもりを感じながらコミュニケーションが取りやすい空間となっています。人工芝を敷いたスペースに焚火台やテントが設置されていたり、個室ブースなども設け、社員はその時々の好きな場所で仕事をしています。
個室ブースとはいえ完全に遮断されてはおらず、集中できる環境でありながら開かれた雰囲気です。テントも個室感はありますが、メッシュになっているので完全に閉じられているわけではありません。
―意図的に開放感を演出したオフィスなのですね。勤務中はどんな雰囲気ですか?
山本さん:会議ではシビアな数字の話題もありますが、どんな会議であっても笑い声が聞こえてくるような和気あいあいとした雰囲気です。環境がそうさせている部分ももちろんあるし、普段からメンバー同士がコミュニケーションを積極的に取る風土があり、お互いの意見をしっかり取り入れているので、若手も上長も、誰もが発言しやすい場になっているのではないでしょうか。
―発言しやすくするための具体的な施策などはあるのでしょうか?
山本さん:そうですね、毎日お昼に行う「昼礼」という全社ミーティングは特徴的な取り組みかもしれません。今自分が仕事でどのような活動をしているのかや、日々どんな気づきがあったのか、また私生活での面白い発見などを発信し、各社員の現状を全員で共有しお互いを知ることができます。
昼礼の運営は若手の社員が主体的に行っています。進行についてある程度の軸はあるけれど、やり方は日々変えていいことになっているので「自分たちの考えがしっかり反映されるのだ」という自信にも繋がっています。
―社内コミュニケーションの活性化を担っている部門はあるのですか?
山本さん:いえ、決まった部門が行っているわけではありません。我々は昼礼を大切にしていて、ここで出てきた気づきやアイデア、課題や改善点に関しては、それにかかわる担当者が積極的に拾うようにしています。若手でもベテランでも社歴に関係なく徹底して意見を汲み取っていくので、社員それぞれが「自分が会社を作る」という意識づけができていて、会社について主体的に考えられているのではと思っています。

社員同士の関係性が良好な企業こそ成長する
―お話しを伺っていて、一貫して「人と人との繋がり、関係性の構築」を大切にされていると感じます。やはり今の時代には社員同士の繋がりは大事だとお考えですか?
山本さん:弊社はシステム会社から始まっており、プロジェクトをスムーズに運営するには良好な関係性が育まれていることがいちばん重要だと、様々な現場から感じていましたし、それが良好な企業は実際に成長しているようにも思います。
デジタルが普及し働き方も多様化する中で、「これだ」と決めても、翌年には違うやり方にトライしなければならない状況も多いです。そんな時代だからこそ、社員一人ひとりが働くことと主体的に向き合い、企業も社員一人ひとりの個性を尊重した上で一緒に会社を作り上げるようにならないといけない。多様化する社会では、そうでないと生き残っていけないと思います。
我々としては、社員同士の繋がりが強く、主体的になって物事に取り組める会社を増やしていきたいと考えています。
―そのきっかけとして、“まずは環境を変えてみる”ということですね。
山本さん:そうですね。我々が提供するのは「こうすれば正解」という答えではなく、あくまで一企業として変革するための環境作りです。変革のためにはまず“気づき”を得る必要があり、その入り口が体験だと思っています。実際に体を動かして体験すれば、物事に関わっている実感が得られ、主体性が増す。そんな社員が増えれば、おのずとさまざまな意見が出るような社内風土になっていくと思うのです。
そういった会社が各地で増えれば地域の活性化にも繋がり、日本全体の生産性も上げられる。これからの時代を生き残っていける企業が増えるよう、我々も事業を進めていきたいと考えています。
まとめ
トップダウンの時代でないからといって、多様な意見が容易に出てくるわけでもない。そんな難しい現代において、スノーピークビジネスソリューションズは、アウトドアを切り口に、まずは社員同士の関係性を育もうと提案します。頭で考えるのではなく、まずは体を動かす。そんな、ある意味シンプルな“体験”こそが、後に実態となって強い社員が育ち、企業の変革へと結びついていくのかもしれません。