会計コラム 公認会計士・税理士 横山 公一氏・第5回取締役会議事録の電子化について(会社法〜総務〜) コラム執筆者:公認会計士・税理士 横山 公一氏 掲載日:2018年8月29日
電子化・ペーパーレス化の動向について、これまで「税務関係書類の電子化」(電子帳簿保存法)、「契約行為・契約書の電子化」(電子署名法)というテーマで論じてきましたが、昨今話題に挙がっているものとして、会社法にて保存を義務付けられている書類(株主総会議事録、取締役会議事録といった会議体の議事録、定款、B/S,P/L 等)の電子化があります。今回のコラムではその中でも、電子化の要望が多い「取締役会議事録」の電子化について言及したいと思います。

1)背景
会社法の書類に関しても、2005年のe文書法の施行に合わせ、「電磁的手法による作成・保管」並びに「書面で作成した書類を電子化し、保存・保管」が可能になりましたが、経営陣の認識不足や電子保存に関する知見の不足、技術的な基盤の未整備等で電子化が進んでいませんでした。
しかし、昨今、平成26年の会社法の改正により、「社外取締役の設置義務」「株主権の強化」が叫ばれ、株主に対するディスクロージャー・コンプライアンス強化等が求められてきています。さらには、同年の閣議決定「世界最先端IT国家創造宣言の変更について」より、ITの徹底活用が叫ばれ、また、電子帳簿保存法の規制緩和、電子化を実現する技術的基盤としての「クラウドサービス」の普及なども相まって、電子化のためのハードルは、技術的にもコスト的にも軽減してきています。そこで、取締役会議事録を電子化したいというニーズが大きくなってきています。

2)「取締役会議事録」を電子化するメリット
「取締役会議事録」を電子化するメリットとして、「書類作成のためのコストの大幅な削減」が挙げられます。特に上場企業では、社外取締役設置の義務化により、署名・捺印作業にかかるコストが大幅にかかっています。社外取締役が海外にいるというケースも珍しくなくなり、その場合の署名・捺印を持ち回りで集めるのに1か月以上かかることも稀ではありません。それを電子化することで、書面作成後の印刷・郵送といったコストが一切かからなくなり、議事録完成までのコストを大幅に削減できるようになります。
3)「取締役会議事録」を電子化するための法的要件
取締役会議事録の作成手段に関しては、会社法上、以下の通り定められています。
作成手段
- 会社法第371条第1項
- 書面でも電磁的記録でも作成可能
- 会社法施行規則第101条第2項
- 書面又は電磁的記録をもって作成しなければならない
電磁的手法にて作成された議事録への署名方法
- 会社法第369条第4項
- 法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置を取らなければならない。
- 会社法施行規則第225条第1項第6号
- 「代わる措置」とは電子署名である
作成手段としては、書面でも“電磁的記録”でもどちらの方法でも良いことになっており、電磁的手法(電子データ)で議事録を作成する場合は、記名押印に代わる措置として「電子署名」を付すことが求められています。
電子署名の要件としては、
(1) 署名を行った者が本人、すなわち、出席取締役であることが確認できること。
(2) 議事録が改ざんされていないことを確認できること。
が、電子署名法第2条1項 並びに会社法施行規則第225条第1項にて定められており、この2つの要件を満たすことで「電子署名」がされたと見做されます。
4)どの証明書が必要になるのか
「電子署名を行う証明書」に関しては、用途として、1)社内文書として保存する場合 と 2)登記・申請等で行政機関等に提出する場合 で異なってきます。
まず、1)の用途であれば、電子署名法2条第3項で定める技術的要件を満たしている電子証明書であれば、利用は可能ですが、2)の登記申請が必要な書類の場合は、代表者の場合は「商業登記に基づく電子認証制度」により発行された代表者印に相当する電子証明書が必要です。また、役員に関しても「認定認証業者」が発行する電子証明書 または、マイナンバーカードに内蔵されている電子証明書 による署名が必要になり、難易度が上がります。
5)その他求められる要件
その他の要件としては、電子帳簿保存法と同様に、書類データの見読性の確保が求められており、モニターで鮮明に表示され、読むことが可能であれば足ります。(会社法施行規則第234条第25号)
ただし、取締役会議事録の閲覧請求に関しては、社内にて印刷したものを見せるか、モニターで表示したものを見せる ということで限られており、インターネットでの閲覧に関しては、まだ認められていません。
また、保存要件に関しても書面同様に10年保存が求められていますので、電子署名に加え、タイムスタンプを利用することで、長期署名を行うことが義務付けられています。(会社法施行規則224条)また、データ消失リスクを回避するために、複数のデータセンターにてバックアップを取る等により保存を行う必要があります。(会社法施行規則第233条第1項)
6)最後に:電子化による内部統制強化のススメ
既述の通り、取締役会議事録の電子化に関しては、技術的な要件(電子署名を行う基盤)並びにコスト要件(電子証明書/タイムスタンプに掛かるコスト)などが大幅に軽減され、企業にとって電子化を取り組みやすい環境が整ってきました。
特に、企業としての意思決定の記録として、重要な書類である取締役会議事録のような書類は、書類自体の真実性や作成プロセスの的確性をいかに確保するのかということが内部統制上重要です。組織内の情報のやりとりでは“紙”による決裁・保存に代え、電磁的記録による決裁・保存に置き換えていくことが、組織としての透明性、信頼性を高めていくうえで、益々必要になってくるのではないでしょうか?