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会計コラム 公認会計士 須藤 修司氏・第2回 「統合報告書」って何?コラム執筆者:公認会計士 須藤 修司氏  掲載日:2020年1月15日

「統合報告書」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
世界中で検討されており、イギリスでは「統合報告」の実践である「戦略報告書」の作成が法令で規定されています。日本の経理の状況を除いた有価証券報告書や株主総会招集通知に添付される営業報告のようなイメージです。なお、世界で最初に法定開示書類に「統合報告」を導入したのは南アフリカです。
日本ではまだあまり知られていませんが、毎年「統合報告書」を作成し公表している企業は増えています。企業価値レポーティングラボが公表している2019年2月8日時点の「国内自己表明型統合レポート発行企業リスト」によれば、2018年においては414社が統合報告書を作成公表しており、前年と比較して79社増えています。同じリストによれば、2004年時点では1社のみであったそうです。法令で強制されていないにもかかわらずこれだけの数の会社が公表しているのは、他の国の方からすると信じられない数のようです。

1. 「統合報告書」とは一体何でしょう?

形式的には、財務諸表に表れる財務情報とその他の企業情報(非財務情報)とを統合することをいいます。つまり、財務諸表と環境報告書やCSR報告書などとを1つの冊子にすることです。ただし、これは形式的な側面でしかありません。
「統合報告」に関して国際的なフレームワークや「統合報告書」の作成基準を作成している組織であるInternational Integrated Reporting Council(IIRC)によれば、「統合報告書」は「統合報告」の成果物であるとしています。「統合報告」とは「統合思考」に基づいて行われる企業とステークホルダーとのコミュニケーションのことで、日に日に複雑になっていく経営環境のなかで、企業がどのように価値を創造しようとしているか、さらには創造された価値をどのように維持するかを分かりやすく伝えることをいいます。

2. なぜ「統合報告書」が必要になるのでしょうか?

「統合報告書」が発行されていなくても、現在多くの企業が「CSR報告書」や「サスティナビリティ報告書」などを作成・公表しています。一部の企業では「知的財産報告書」なども作成・公表しています。いずれも法令などで作成が強制されているものではありません。
企業は、自分の持っている本当の価値を投資家を代表とするステークホルダーに理解してほしいと思っています。でも、黙っていても理解してもらえないのです。

一方で、法定開示書類による情報は法定書類であるがゆえに、法令に規定された情報は細かく記載しますが、法令に規定されていない情報は記載が困難です。例えば、知的資産の将来価値を何らかの形で計算できたとしても、そのようなことは記載する場所がありません。また、GHGに関連した情報も記載する場所がありませんが、その削減状況などは企業としては公開したい内容です。
これらの企業のアピールポイントを積極的に開示するためには、他の報告書を作成するしかありません。そのための報告書は従来であれば、「CSR報告書」や「サスティナビリティ報告書」などです。これらの報告書は、今や「普通作ってますよね!」といえるほど一般的です。

3. 従来の任意の報告書ではだめなのか?

ならば、“従来公表されている報告書で十分ではないか”と思えます。“財務情報と一緒になっていれば「統合報告書」であろう”と・・・。
ただ、アピールポイントが満載の報告書ではステークホルダーには物足りないはずです。企業の将来はアピールポイントが全てうまくいき発展していくことはほとんどなく、多くの障害が存在しています。また、“できれば知られたくないような欠点”もあるはずです。現時点でも分かるようなマイナスポイントもアピールポイントと同じように偏りなく公表してこそ、ステークホルダーの役に立つ報告書です。IIRCの目指す「統合報告書」では、これが重要な点になっています。

現状公表されているほとんどの「統合報告書」は、IIRCのガイドラインに則って作成されているものではなく、「参考にしている」や「参照している」程度なので、本当の「統合報告書」ではないと考えています。企業価値のアピールとして作成しているのであれば、アピールポイントに偏って開示されているのではないでしょうか。
多くの場合、どのようなマイナスポイントがあるかも、公表されないと知りようがないのです。あるかないかさえも知ることができません(“ない”はずはありませんが・・・)。だからこそ、積極的に開示する必要があるし、ステークホルダーもこのような姿勢を高く評価し安心して投資などをするはずです。その結果、株価が少しでも上昇することがあれば、これに越したことはありません。

4. 今後はどうなっていくでしょう?

「統合報告書」が、突然法定開示書類になるわけはありません。しかしながら、国際的な流れからも、現状の法定開示書類が「統合報告」的な要素を盛り込む傾向にはなると考えられます。
ただし、このような考え方で追加されると開示内容が増えるばかりで、報告書は読み辛くなるばかりです。何より、作成するのが大変すぎます。この点、IIRCの「統合報告」では、簡潔・明瞭に報告するものが「統合報告」で、不必要な情報を削減することも必要であるといっています。
簡単に作れて、分かりやすくて、必要な情報が十分に入っている、これが「統合報告書」です。なんとなく、名称の和訳がイケていないような気もします。

執筆者プロフィール

須藤 修司宏氏

須藤 修司公認会計士

公認会計士 須藤修司事務所 所長。早稲田大学大学院 経営管理研究科 非常勤講師。会計監査並びに株式公開支援業務での見識を生かし、会計アドバイザリー業務に携わり、公開準備会社の監査役や大学の講師としても活動。業務の効率化や制度対応のための体制整備などに関する専門家であるとともに、統合報告書に関する専門家でもある。