会計コラム 公認会計士 須藤 修司氏・第3回 DXによる業務プロセス改革の必要性コラム執筆者:公認会計士 須藤 修司氏 掲載日:2020年3月13日
日常生活のなかには意識することもなくICT技術が入り込んでいます。しかも、なくてはならないものとなっています。
多くの企業でスマートフォンを全社員に配布し、時間を問わず連絡がとれるようになっています。さらに、スマートフォンを使って場所を選ばす会議を行うこともできる状況です。電話でのコミュニケーションは話の行き違いの原因となるという理由でe-Mailを使用するのは当たり前になってきています。今では、さまざまなアプリケーションを利用してチャットを行うのも普通です。2020年春から5G の使用が開始されれば、オフィスを必要としない会社が増えていくことでしょう。

1. なぜDX(デジタルトランスフォーメーション)が問題となるのか
DXに関する定義は必ずしも決まっておらず、人によっていろいろな説明をします。このコラムでは、DXとはICTなどのデジタル技術が進歩することで、ビジネス環境や日常生活・企業の業務活動における基盤が激変していることを言います。
個人レベルではIoTが進んでいることが良い例です。例えば、Amazonが提供するAlexaやEchoのようなスマートスピーカーは、話しかけることで質問に答えたり必要に応じてニュースや天気予報を教えてくれるだけではなく、インターネットにつながっていれば、外出先から明かりやエアコンを付けたりできます。
ビジネスの世界では、自社の業務プロセスのなかにクラウドを利用した既存のアプリケーションを利用するのも普通になって、開発に必要なコストが削減されるとともに開発期間も短くなっています。また、GAFAで代表されるプラットフォーマーの用意したサービスなどを利用することで、かつては難しかったシステム開発も簡単に行えるようになってきています。さらに、ブロックチェーンや仮想現実、拡張現実などの新たなデジタル技術の活用が広がるなかで、デジタル・ディスラプションというゲームチェンジがあらゆる産業分野で起きています。デジタル・ディスラプションとは、例えば、Amazonのように電子媒体の書籍であれば、いつ、どこでもすぐに書籍を手に入れることができるようになったことで、書店の存在価値が変わらざるをえなくなり、存在価値の変化に気付かず環境変化に対応しないでいる書店は破綻につながっています。
このようにデジタル技術の進歩により、ビジネス環境が激変しています。これらのビジネス環境の変化に対応し積極的に新技術を取り入れ業務プロセスを改革し、さらには自社のビジネスモデルさえも変えていかないと、長期的には存在できないのです。さらに、デジタル・ディスラプションが起き、かつてであれば金額的にも時間的にも大きな投資をしないと参入できなかった業界に、金額的にも時間的にもそれほどの投資をせずに参入が可能となっています。
2. 「2025年の崖」問題
「2025年の崖」問題とは、2018年9月7日に経済産業省から公表されたレポート「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」に由来します。
DXレポートでは、主に日本企業における基幹システムのレガシー化を問題点として取り上げ、なぜレガシー化しているかを検討しています。そのなかで、日本企業に多く導入されているSAP ERP(旧バージョン)が2025年にサポート終了となることで、DXに対応できない企業は破綻していくことを指摘しています。SAPがレガシー化する理由は、本来パッケージシステムであるものの、日本における導入企業は、周辺システムとの連携を高めるためや当時のユーザーの使い勝手を高めることを理由に大幅なカスタマイズをしていることに由来します。さらに、このときの導入過程などについての知識を持つ人材が定年退職などでいなくなっていることにより、中身がブラックボックスとなり、DXに対応するための改修などができなくなっているのです。
そして、既存システムのなかには膨大でかつ有用なデータがあり、このデータを有効に使用することが、DXによるビジネス環境の変化に対応するには重要なことなのに、既存システムがレガシー化していることでこのデータを利用できない状況となっています。
DXレポートでは、政策的にDXを展開していくため、「共通言語」となるガイドライン等を策定し、関係者間の意思疎通をサポートすることを目的としています。
3. 業務プロセス改革の必要性
以上のように、DXによってビジネス環境は大幅に変化しており、これに対応することは企業の生死に関わります。一方で、既存の基幹システムはレガシー化しDXに対応することは難しい状況です。
これに対応するためには、経営者がDXの状況を真摯に受け止め企業の戦略的対応として、基幹システムの改修などを進めることが必要です。例えば、クラウドを利用した全社(企業グループ全体)の業務効率化を行った事例や、RPA(ロボティックス・プロセス・オートメーション)導入による単純業務の自動化の事例などもあり、これらを参考にすることは重要です。
しかし、DXレポートにもあるとおり、簡単なことではありません。また、AIやRPAなどの業務効率化の推進は、現場サイドではユーザー達の仕事を奪うものとして歓迎されないこともあり得ます。
どのような状況であるにしても、最終的には経営トップによる強力な推進力が欠かせないのは事実です。