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会計コラム 公認会計士 須藤 修司氏・第4回 収益認識会計基準の概要コラム執筆者:公認会計士 須藤 修司氏  掲載日:2020年4月16日

日常において業務を行うなかで、売上計上に関する手続は厳格に定められているものと思います。これらは、経営管理上及び税務上の要請で、恣意的な売上計上が行われないよう、内部統制をしっかりさせるためです。一方で、会計基準としては収益認識(売上計上)に関して包括的に定めた会計基準は存在していませんでした。金融商品や工事契約に関するものが定められていただけです。
2018年3月30日に公益財団法人財務会計機構 企業会計基準委員会から「収益認識に関する会計基準」並びに適用指針など(収益認識会計基準)が公表され、2021年4月1日以降開始する事業年度には強制適用されることになっています。今回は、この会計基準の概要を説明します。業務システムの変更が必要なこともあるので、早めの検討が必要です。
なお、現時点においても早期適用することは可能です。また、会社法や金融商品取引法などに基づいて会計監査を受けなければならない会社でない場合は、適用することは強制されません。

1. 収益認識の原則

収益認識会計基準は、IFRS(国際会計基準)第15号「顧客との契約から生じる収益」をそのまま取り入れています。ただし、各国によって税務上の規定の違いや商慣行の違いなどがあるので、一部に追加的な規定が用意されます。また、金融商品会計基準などにより定めがある場合はそちらが優先です。「工事契約に関する会計基準」は、収益認識基準が定められたことにより廃止となります。現状、工事契約がある会社においては「工事契約に関する会計基準」が適用されていますが、収益認識会計基準が適用されることで「工事契約に関する会計基準」の適用は終了となります。

さて、収益認識会計基準においては5つのステップを踏んで収益を認識します。

  1. ① 顧客との契約の識別
    「契約」とは、「法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取り決め」のことです。これが存在することを確認することを「識別」と言っています。通常の取引であればそれほど難しいことではありません。ただし、法律上は複数の契約が会計上は一つの契約に見做されること(契約の結合)があるので注意が必要です。
  2. ② 契約における履行義務の識別
    「履行義務」とは、「顧客に財又はサービスを移転すると言う顧客との約束」のことです。収益認識の単位はこの「履行義務」になります。契約の結合とは逆で、契約上は一つであっても、履行義務は複数存在することがあるので注意が必要です。
  3. ③ 取引価格の算定
    「取引価格」は、「『財又はサービスの顧客への移転』と交換に『企業が権利を得ると見込む対価の額』」のことです。値引きやリベート、インセンティブなどが存在することで取引価格に変動性がある場合は、これらを見込んで取引価格を算定することが必要です。
  4. ④ 履行義務への取引価格の分配
    ②において履行義務が複数識別された場合には、③において算定された取引価格を識別された各履行義務に分配します。多くの場合は、それぞれの履行義務を単独で行った場合の販売価格(独立販売価格)をもとに計算された比率が用いられると思います。その他には、それぞれの履行義務を履行することで得られる利益を見積もるなどの方法もあります。
  5. ⑤ 履行義務の充足による収益の認識
    履行義務が充足される(義務が果たされる)ことによって収益が認識されます。「認識する」とは、例えば売上を計上することです。収益の認識においては、「一定の期間にわたり充足される履行義務」と「一時点で充足される履行義務」があります。「一定の期間にわたり充足される履行義務」は、建設工事やコンサルティングサービスなどで、「一時点で充足される履行義務」は、物品の販売などがあります。一定の期間にわたるものとして売上を計上していた取引が、基準に照らしてみると一時点に充足するものになるかもしれません。その逆もあるかもしれないので確認が必要です。

なお、以上のステップにおいては重要性の考慮が認められています。

2. 税金(法人税や消費税)との関係

法人税では、収益認識会計基準に基づく会計処理が、法人税法の規定には該当しない場合があります。例えば、③取引価格の算定において、取引価格に変動性がありこれを見込んで取引価格とする場合です。法人税の計算においては、「見込み」の金額を使うことを好みません。それは、恣意性が入ることで課税所得金額を操作できる可能性が生じるからです。

しかしながら、会計基準においてこれを強制する以上、まったく認めないわけにも行きません。取引価格に変動性を反映する場合、法人税基本通達2-1-1の11において規定した一定の要件を満たすことで税務上も認められます。下記にある一定の要件をすべて満たす必要があります。

  1. (a) 値引きなどを行うこととなる事実が発生することにより減額(又は増額)する金額の客観的な算定基準が顧客などに対して明示されていること。
  2. (b) 過去の実績を利用するなどの合理的な計算方法を継続的に適用して減額(又は増額)する金額を計算していること。
  3. (c) (a)を明らかにする書類や計算根拠となる書類が保存されていること。

このように、法人税法においてはある程度収益認識会計基準に沿った取り扱いを認めるようになりました。
一方で、消費税法は収益認識会計基準に対応するような改正は行われていないため、従来の会計処理とは違った会計処理になる場合、消費税計算の基礎となる課税標準の金額は変更前の会計処理を前提としなければならない場合があるので、要注意です。

3. 変更が必要となる会計処理

収益認識会計基準を適用することによって、現状採られている会計処理を変更することが求められるものがあります。例えば,下記の会計処理が挙げられます。

  • ●ポイント引当金
    「契約」とは、「法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取り決め」のことです。これが存在することを確認することを「識別」と言っています。通常の取引であればそれほど難しいことではありません。ただし、法律上は複数の契約が会計上は一つの契約に見做されること(契約の結合)があるので注意が必要です。
  • ●商社などが企業間の取引を仲介する場合(代理人取引)
    「契約」とは、「法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取り決め」のこと現状の会計基準においては会計処理が明確に規定されていないため、売上高と仕入高を総額で計上する会計処理が採られることがあります。収益認識会計基準では、企業間の取引を仲介すると認められる場合は、代理人取引として会計処理し、仲介手数料相当額(粗利相当額)のみを売上計上します。
  • ●出荷基準の見直し
    物品の販売の場合、倉庫等からの出荷をもって売上計上する「出荷基準」が採られていることが多いと思います。収益認識会計基準では、顧客が物品を支配することで所有権が移転するので、倉庫などからの出荷と顧客への到着に相当の期間を要する場合には、出荷基準による売上計上は認められないこととなります。

以上のような、会計処理への影響が懸念されますが、この他にも業種や取引形態によって影響を受ける会計処理がいくつも考えられます。また、会計処理を変更するためには、会計処理を行う基礎データを提供する業務システムも変更する必要がある場合も多く、その場合単なる会計処理の変更では済まされません。早めの対応が求められるところです。

執筆者プロフィール

須藤 修司宏氏

須藤 修司公認会計士

公認会計士 須藤修司事務所 所長。早稲田大学大学院 経営管理研究科 非常勤講師。会計監査並びに株式公開支援業務での見識を生かし、会計アドバイザリー業務に携わり、公開準備会社の監査役や大学の講師としても活動。業務の効率化や制度対応のための体制整備などに関する専門家であるとともに、統合報告書に関する専門家でもある。