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会計コラム國井 隆氏・第1回 IFRSの最新動向コラム執筆者:國井 隆氏  掲載日:2021年7月15日

2021年5月現在、日本ではIFRS(国際財務報告基準:International Financial Reporting Standards)適用済会社数は220社(他にIFRS適用決定会社数12社)であり、約3,700社の上場会社の1割も満たない状況ですが、他方で東証上場会社の時価総額に占める割合は4割を超えているともいわれています。グローバル企業の基準ともいえるIFRSですが、中国の台頭、米中の対立や英国のEU離脱という混沌としたなかでのIFRSの最近の動向も踏まえながら、長い年月のかかった「保険契約」の基準を解説します。

IFRSの最新動向

IFRSの最近の動向(議長の交代など)

IFRSの設定機関であるIASB(国際会計基準審議会:International Accounting Standards Board)は、2021年7月からアンドレアス・バーコウ(Andreas Barckow)氏がIASB議長に就任します。バーコウ氏はドイツ出身で2015 年以来ドイツの会計基準委員会の委員長を務めていた方で、前任のハンス・フーガーホースト氏がオランダ出身であったため、連続してヨーロッパ大陸出身者が議長を務めることになっています。

実は議長の任期は5年ですが、2001年にIASC(国際会計基準委員会:International Accounting Standards Committee)[N1]より改組されたIASBでは、2001年のデイビッド[N2]・トゥイーディー議長(英国出身)以降、すべてヨーロッパ出身者になっています。現在のIASBボードメンバー(理事)について定款で地理枠が決められており、16名の構成は原則として、北米、欧州、アジア・オセアニアの3地域から各4名、アフリカおよび南米地域から各1名、その他2名となっているのですが、独自路線を行く米国やアジア・オセアニアから議長が選出されていないことは大変残念な気がします。

IFRS財団への拠出額の上位国でもある日本ですが、IFRSが任意適用であるため、主要ポストや発言権の確保に一定の限界があるのも現実のようです。最近は、中国のIFRS財団への拠出額が増えており、今後の発言権強化の布石という気もしていますので、動向に注目しましょう。

そんななかで、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて、IASBは2つの対応策を公表しています。まず、感染拡大の初期の段階でIFRS基準の一貫した適用を支援するためにIFRS第9号「金融商品」およびIFRS第16号「リース」に関する教育文書を公表し、IFRS第16号の一部修正を行っています。具体的には、新型コロナウイルス感染症の影響下でリース料の減少(免除など)がリースの条件変更によるものではない、または、救済措置が選択された場合には、借手はリース料の変更を負の変動リース料として、その事象が発生する期間の損益として会計処理をすることができることなどの修正が公表されています。

次に、IASBは、利害関係者が現在進行中および今後開始されるコンサルテーションに対応するための時間がより多くとれるように、作業時間の修正を行っています。平時ではない新型コロナウイルス感染症によるパンデミックに適切に対応することで、混乱を抑えようという狙いがあると思われます。

IFRS第17号「保険契約」

(1) IFRS第17号「保険契約」の概要

IASBは、2017年5月18日にIFRS第17号「保険契約」を公表しました。IFRS 第 17 号は、暫定基準であったIFRS 第 4 号「保険契約」に置き換わるものでありましたが、公表後、さまざまな意見が寄せられ、より多くの保険会社が同時に適用できるように、IASBは2020年6月25日に「IFRS第17号『保険契約』の修正」を公表しています。

保険契約会計に関する国際的な会計基準の開発プロジェクトは、最終基準化までになんと 20 年余りかかっています。当初IASB が、保険契約会計に対して、金融商品的な側面に注目し、いわゆる公正価値モデル(資産・負債の公正価値の評価より利益を算出するモデル)の適用を目指していました。しかしながら、公正価値モデルが「契約の履行」という保険業のビジネスモデルから乖離し、金融取引の側面があると同時に保険引受取引の側面がある保険契約についての会計基準として、関係者の理解を得られなかったためといわれています。IFRS 第 17 号では、保険契約負債は、現在価額ベースで再測定されていますが,収益の認識にはストックの評価差額を反映しないようになっています。

(2) 適用範囲など

IFRS第17号は、生命保険、損害保険、元受保険および再保険などすべてのタイプの保険契約に適用され、それらを発行する企業の種類は問われていません。保険契約の定義は、「一方の当事者(発行者)が、他方の当事者(保険契約者)から、所定の不確実な将来事象(保険事故)が保険契約者に不利な影響を与えた場合に保険契約者に補償することを同意することにより、重要な保険リスクを引き受ける契約」とされています。

(3)IFRS第17号の保険負債測定モデル

IFRS第17号では、保険負債の測定に関して、ビルディング・ブロック・アプローチ(以下、BBA)、変動手数料アプローチ(以下、VFA)、保険料配分アプローチ(以下、PAA)の3つのアプローチにより測定することが求められます。

ビルディング・ブロック・アプローチ(BBA)

BBAは、IFRS第17号の一般モデル(原則的な方法)として位置づけされており、保険契約に基づいて将来生じることが予想される保険料および保険金、給付金などのキャッシュ・フローを見積ることにより保険負債を測定するアプローチで、主に無配契約などに適用されます。BBAでは、保険負債は将来キャッシュ・フロー、割引計算、非金融リスクに係わるリスク調整および契約上のサービス・マージン(CSM)の4つのビルディング・ブロックから構成されます。

変動手数料アプローチ(VFA)

VFAは、変額年金などの直接連動型の有配当契約に適用するアプローチで、特殊的な方法という位置づけです。具体的には保険契約が次の3つすべての要件を充足した場合、直接連動しているとされ適用されます。

  1. ① 契約条項において、保険契約者が基礎となる項目の明確に特定されたプールの持分に参加する旨が規定されている。
  2. ② 基礎となる項目から生じる公正価値リターンの重要な持分と等しい金額を保険契約者に支払うことが予想される。
  3. ③ 保険契約者に支払われる金額の変動のうち、重要な部分が、基礎となる項目の公正価値の変動と連動することが予想される。

BBAにおけるCSMでは、直接連動型の有配当契約が生み出す経済的実態が適切に反映されないことから、BBAとは異なるアプローチであるVFAが適用されます。保険料を原資とした金融商品などの公正価値(基礎となる項目)と保険契約者に支払う義務のある金額との差額は、基礎となる項目を管理する対価とされ、当該対価は変動手数料とされます。VFAにおいては、この変動手数料がCSMということになります。

保険料配分アプローチ(PAA)

PAAは、BBAの簡便法であり、受領した保険料を基礎として残存カバーに係わる保険負債(未経過保険料に基づく保険負債)を測定するアプローチで、契約グループが以下の適格性要件のいずれかを充足する場合に適用することができるとされています。

  1. ① IFRS第17号が定義する契約の境界線に従って算定されたカバー期間が1年以内
  2. ② PAAを用いて測定された残存カバーに係わる負債の額が、一般モデル(BBA)を適用した結果と大きく異ならない(すなわち、合理的な近似値となる)場合

(4)表示・開示

IFRS第17号では、財政状態計算書および財務業績計算書における表示方法を規定しており、保険契約の要素に区分した要素が求められています。また、保険契約に起因して認識された金額やリスクの性質や程度など、広範囲な開示規定が設けられています。

(5)IFRS第17号の修正

公表当初から3年半の導入期間が設けられていましたが、2020年6月25日に、さらにIFRS第17号の適用日を2023年1月1日以後に開始する事業年度へと2年延期することが公表されました。また、IFRS第4号におけるIFRS第9号適用の一時的免除の失効日も2023年1月1日以降に開始する事業年度に延期されています。

今回の修正では、適用時期の延期だけでなく、新たに以下の論点について追加および修正されています。

  1. ① IFRS第17号の適用範囲に関する追加的な例外措置
  2. ② 更新契約に係わる保険獲得キャッシュ・フロー
  3. ③ 一般的な測定モデルにおける保険収益の認識および境界線内のキャッシュ・フロー
  4. ④ リスク軽減オプションの拡充および会計上のミスマッチの低減
  5. ⑤ 再保険契約における会計上のミスマッチの低減
  6. ⑥ 直接連動有配当契約(VFAアプローチ)の適用要件
  7. ⑦ 保険契約資産・負債に係わる財政状態計算書上の表示の簡便化
  8. ⑧ 期中財務報告における会計上の見積りの変更
  9. ⑨ 移行措置に関する要求事項の緩和など

上記のように、IFRS適用に向けてさまざまな取り組みをする一方で、混沌とする世界情勢が会計世界のバランスにも影響することも予想され、基準だけでなく設定主体であるIASB自体にも注目していく必要がありそうです。

執筆者プロフィール

國井 隆

國井 隆公認会計士・税理士・ファイナンシャルプランナー・公認システム監査人

株式会社オフィス921 代表取締役
税理士法人オフィス921・双研日栄監査法人 代表社員
一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構 理事
筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻前期博士課程修了

日本公認会計士協会監査委員会監査委員(平成11年より平成14年)
日本公認会計士協会監査・保証実務委員会専門委員(平成11年より平成28年)
公益財団法人日本オリンピック委員会加盟団体審査委員会調査チームメンバー(平成24年)
新国立競技場整備計画経緯検証委員会(第三者委員会)委員(平成27年)
スポーツ庁スポーツ審議会スポーツ・インテグリティ部会 専門委員(平成31年)
独立行政法人の評価等に関する有識者会合 メンバー(令和3年)