会計コラム

令和5年消費税インボイス制度導入で変わったこと

コラム執筆者:金子 真一氏掲載日:2023年12月15日

令和5年消費税インボイス制度導入で変わったこと

1.インボイス通達の廃止と消費税基本通達の改正

「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達の制定について(法令解釈通達)」、通称インボイス通達は令和5年10月1日をもって廃止され、消費税法基本通達に編入されました。
とはいえ、国税庁ホームページ上は消費税法基本通達の新旧対照表が表示されているほか、廃止となったインボイス通達もまだ掲載され閲覧が可能なので、当面はそこでも確認できます。消費税インボイス制度導入に伴う実務上の混乱が収まるまでの間は、利便性を維持頂けるよう配慮いただけることを期待します。

2.適格請求書等保存方式に関するQ&Aの改訂

平成28年税制改正にて軽減税率と消費税インボイス制度の導入が決まりましたが、当時は初めての複数税率制の導入を中心に、軽減税率導入による請求書等保存方式から区分記載請求書等保存方式への変更が説明されていました。改めて平成28年度税制改正のお知らせを見ると良く分かります。
そして消費税インボイス制度はというと、参考情報として小さく紹介されています。

その後施行が延期され、軽減税率導入は令和元年10月に、そして消費税インボイス制度導入は令和5年10月となりました。

消費税インボイス制度導入に際しては、平成30年6月に国税庁消費税軽減税率制度対応室が、「事業者が令和元年 10 月1日に実施された消費税の軽減税率制度への対応とともに適格請求書等保存方式にも対応いただけるよう、適格請求書等保存方式について、わかりやすく解説したもの」として適格請求書等保存方式に関するQ&Aが公表されました。80ページ、80問に及ぶものでしたが、その後国税庁軽減税率・インボイス制度対応室に名前を変えて以降令和3年7月、令和4年4月、令和4年11月、令和5年4月、そして令和5年10月と改訂が重ねられ、最後は164ページ、130問にまでなりました。
「今後、寄せられた質問や頂いた疑問点を踏まえて、随時、追加や掲載内容の改訂を行っていく予定です」との言葉の通りこれまで改訂が重ねられており、今後も注意する必要があります。

3.高速道路利用に係るインボイス対応(ETCクレジットカード)

適格請求書等保存方式に関するQ&Aの令和5年10月の改訂版では、実務上影響の大きいETCクレジットカードに係るインボイスについて、インボイス保存の弾力運用が明示されました。これまでクレジットカード会社が発行する利用明細書はインボイスにならないとされていましたので、毎回高速道路会社がHP上で設けるETC利用照会サービスからダウンロードした利用証明書を入手する必要があり、その事務負担の大きさに利用者から何とかならないのかという声があがっていました。

今回の改訂で簡便な取り扱い(高速道路会社等ごとの任意の一取引の利用証明書をクレジットカードの利用明細書と併せて保存すれば、インボイスの保存があるものとすることができる)が認められました。具体的には、高速道路の利用が多頻度にわたるなどの事情により、全ての高速道路の利用に係る利用証明書の保存が困難なときは、

  • クレジットカード会社から受領するクレジットカード利用明細書(個々の高速道路の利用に係る内容が判明するものに限ります。また、取引年月日や取引の内容、課税資産の譲渡等に係る対価の額が分かる利用明細データ等を含みます)
  • 利用した高速道路会社及び地方道路公社など(以下「高速道路会社等」)の任意の一取引(複数の高速道路会社等の利用がある場合、高速道路会社等ごとに任意の一取引)に係る利用証明書をダウンロードしたもの

を併せて保存することで、インボイスのある取引と認められます。

こういった事業者に寄り添った簡便な取り扱いは、事業者の事務負担軽減の視点から大歓迎ですが、今回なぜ高速道路利用に係るETCクレジットカードに限定しているのかという点が明確ではありません。クレジットカードを決済手段とする取引はETCだけではなく、携帯電話、水道光熱費関係、公共料金、インターネットサービスやインターネット取引等様々なものがあります。このロジックが適用されるのであれば、クレジットカードを決済手段としている取引についても同様の取り扱いが認められないのだろうかと考えます。ETC限定で認められる特例なのか、それともETCクレジットカードに類する取引まで認められるのか、我々納税者側でも適切な判断ができるよう判断基準が示されることを期待したいと思います。

4.自治体も混乱か!?

自治体の行政サービスの中にも有料のものがあります。たとえばゴミ袋や粗大ごみ処理券、そして水道料金等がその代表と考えられます。市町村指定のゴミ袋や粗大ごみ処理券はコンビニ等の小売店にて購入しますが、これがインボイスに該当するかどうかで戸惑うことになります。

適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和5年10月改訂版)では、仮にその販売が非課税取引や不課税取引となるものであったとしても、ごみ袋等の販売により収受する金銭は、各自治体におけるごみ処理という役務の提供(課税資産の譲渡等)の対価(ごみ処理手数料)をコンビニ等が自治体に代わって収受するという側面を有するものと考えられるため、媒介者交付特例を活用し、小売店等の名称や登録番号を記載した適格請求書等をもってインボイスのある取引と取り扱うとされました。

また水道料金では、検針票をインボイスにする自治体もあれば、インボイスが必要な事業者にアプリを通じてインボイスを交付する自治体もあります。またこれら公共料金についての支払い代行業者が自らの登録番号を記載し、媒介者特例によりインボイスを交付するケースもあるようですので、各自治体が発信する情報に注意して判断ください。

5.インボイスの要件を満たさない場合の対応

明らかに適格請求書発行事業者に該当する取引先であるにも関わらず、受領した請求書等がインボイスの要件を満たさない場合にどうするか、税務担当者を悩ませる要因となります。

販売側が9月分売上を10月に請求する場合はインボイス不要ですし、継続的短期前払費用に該当するような取引で9月以前に支払ったものについてインボイスは不要だったりしますので、単純にインボイスの交付依頼をする訳にもいきません。結局受け手側が判断し、どこまでインボイスの徴求を追求するのかという判断を求められることになります。

また、Tで始まる13桁の登録番号の記載はあるものの、それ以外の消費税インボイスの要件を満たさない請求書等の取り扱いも難しいです。税率が記載されていない事例も散見されます。例えばタクシーの領収書は簡易インボイスですが、領収書に「税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率」の記載がなく、適格簡易インボイスの要件を満たさないケースもあります。どこまでだったらインボイスとして取り扱うか、判断が必要になります。この論点については税理士も答えを持っていません。正解は明らかですが、その正解に至るまでの猶予期間、弾力運用があるのではないかと、希望的観測を排除できないためです。本当に難しい論点だと思います。

6.商取引以外にも影響を及ぼすインボイス制度

交流のある会社が数社集まり会合を行う場合、幹事会社が会費を徴収して会場費や飲食費に充当するケースがあります。ゴルフコンペでプレー代とは別に懇親会費用を徴収するケースもあります。インボイス導入前は幹事会社が自社名で領収書を作成し、参加者や会員会社に交付し、会員会社はそれを確証として経費処理していました。消費税インボイス制度が導入された後はどうなるのでしょうか。これまでと同様、幹事会社が自社の登録番号を記載したインボイスを交付するのか?という論点が発生します。

幹事会社がインボイスを交付するということは、消費税上、幹事会社が売上を認識することになると考えられますが、このようなケースで売上を認識するのは会計的にも税務的にも適切ではありません。そうなると会場や飲食店から提供されるインボイスの写しと、会員会社が負担すべき金額を記載した立替精算書を交付することでインボイスのある取引にすることが考えられますが、この場合は実費を按分することになり、費用の徴収が混乱します。会費制とすることは難しく、事後に立替精算書に基づき回収するとなると入金確認から社内処理に至るまでの幹事会社の手間が増えます。会員は飲食代等のインボイスの写しを登録番号として使用し、経費処理するというのが、実務的な落としどころのように思えます。

  • 幹事会社が立替精算書を作成して会員に交付
  • 飲食代等のインボイスの写しを会員に交付する(あるいは全て幹事会社が保管する)
  • 端数等会費との差額は幹事が収受する

消費税インボイス制度は、こういった通常の商取引とは異なるところでも影響が発生することになります。

執筆者プロフィール

金子 真一

金子 真一

金子真一税理士事務所代表
合同会社ピナクル・コンサルティング代表

1992年東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社、2002年から住友信託銀行(現三井住友信託銀行)に移る。両社では殆どを会計・税務業務に従事。2019年に退職し金子真一税理士事務所を開業。TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員。現在、気軽に相談できる専門家として税務課長のサポートを行うほか、外資系・非日系企業のインバウンドビジネスのサポートにも取り組む。

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