会計コラム

経理システム導入を成功させるための
5ステップ

-プロが教える、経理部門担当者必見のシステム導入成功術-

コラム執筆者:中尾 篤史氏掲載日:2025年6月2日

経理システム導入を成功させるための5ステップ-プロが教える、経理部門担当者必見のシステム導入成功術-

多くの企業にとって、経理業務は日々の運営に不可欠なバックオフィス機能ですが、同時に、属人化や非効率なプロセスが残りがちな領域でもあります。そこで、経理システムの導入は、業務効率化や内部統制の強化、経営判断の迅速化を実現するための有効な手段となります。本稿では、多くの企業の経理システム導入に関与してきた経験に基づき、経理システム導入を成功させるための5つのステップを詳しく解説します。

ステップ1:現状分析と理想の明確化 - 自社の課題と目指す姿を明確にする

システム導入を検討する初期段階で最も重要なのは、現状の経理業務における課題を洗い出し、目指すべき理想の姿を明確にすることです。現状分析をするとついつい目先の改善で終わってしまうことも多いです。仮に今会社をスタートさせたらどのような仕組みが良いのかといったくらいに、ゼロベースで考えることで真に理想の形に近づけることができることも多いです。

現状分析では、以下の点に着目しましょう。

  • 業務プロセス:各業務の手順、担当者、所要時間、利用システム、帳票などを洗い出し、可視化します。
  • 課題:業務のボトルネックとなっている箇所、非効率な作業、属人化している業務、ミスが発生しやすい箇所などを特定します。
  • リスク:内部統制上の問題点、情報セキュリティ上の脆弱性、業務継続性に関するリスクなどを評価します。

理想の明確化では、現状分析の結果を踏まえ、以下の点を具体的に検討します。

  • 目標:システム導入によって達成したい具体的な目標(例: 業務効率〇%向上、コスト〇%削減など)を設定します。
  • 要件:目標達成のために必要なシステムの機能や要件を明確にします。
  • 業務プロセス:システム導入後の理想的な業務プロセスを設計します。

現状分析と理想の明確化は、ゼロベース思考で、既存の業務プロセスにとらわれず、あるべき姿を追求することが重要です。

ステップ2:プロジェクト体制の構築 - 全社的な協力体制を築く

経理システムの導入は、経理部門だけの問題ではなく、全社的なプロジェクトとして捉える必要があります。そのため、経営層の理解と協力を得ながら、適切なメンバーを選出し、プロジェクト体制を構築することが重要です。プロジェクトチームは、以下のメンバーで構成されることが望ましいでしょう。

  • プロジェクトリーダー:プロジェクト全体の責任者として、進捗管理や意思決定を行います。
  • 経理部門担当者:経理業務に精通した担当者として、システム要件の定義やテストなどに参加します。
  • 情報システム部門担当者:システム導入・運用に関する技術的なサポートを行います。
  • 関連部門担当者:営業、購買、人事など、経理業務と連携する部門の担当者として、業務要件の調整やテストに参加します。

プロジェクトはできれば全社公認のものとして設置をするとよいです。全社公認のプロジェクトとなれば、当チームが社長や役員直下の体制となることもあり、経営陣の深い関与によって全社的な業務改善を進められるのがメリットです。
メンバー選定で悩ましいのが、「抵抗勢力」をメンバーに含めるかという点です。経理業務のデジタル化に否定的な社員をメンバーに加えるべきか、迷うことはよくあります。たとえば、経理部門での経験が長いメンバーの中にいるExcelや手書き書類の使用に慣れた社員は「現状維持」を望むことが多いです。判断はケースバイケースですが、キーパーソンであれば参加させるのが得策です。特に、長年独自の方法で業務を進めている社員は、システム導入に抵抗する可能性が高いです。それでも、経理業務のブラックボックス化を防ぐためにも、情報を持つ社員をプロジェクトに加えて、意見を吸い上げつつ、スムーズに改革を進める体制を整えることが重要です。

プロジェクトチームは、定期的な会議を開催し、進捗状況の共有や課題の解決を図ります。また、全社員への情報共有や説明会などを通じて、プロジェクトへの理解と協力を得ることも重要です。

ステップ3:システム選定のポイント - 自社に最適なシステムを選ぶ

システム選定では、自社の目標達成に合致する機能要件を明確化し、複数のベンダーのシステムを比較検討します。
システム選定のポイントとしては、以下の点が挙げられます。

  • 機能:自社の業務に必要な機能が網羅されているか、将来的な業務拡大に対応できるかなどを確認します。
  • 使いやすさ:経理担当者がストレスなく利用できる操作性やインターフェースであるかを確認します。
  • 連携:他のシステム(販売管理システム、給与計算システムなど)との連携がスムーズに行えるかを確認します。
  • 保守・サポート:システム導入後の保守・サポート体制が充実しているかを確認します。
  • 費用:システム導入費用だけでなく、運用費用や保守費用も含めて、費用対効果を検討します。
  • ベンダー:ベンダーの実績や信頼性、サポート体制などを確認します。

システム選定は、デモンストレーションやトライアルなどを通じて、実際にシステムを触ってみることをお勧めします。

ステップ4:導入準備とマスタ設定 - システムを最大限に活用するための準備

システム導入が決定したら、データ移行やマスタ設定などの導入準備を行います。データ移行では、既存システムから新システムへデータを移行します。データ移行の際には、データの整合性や正確性を確保することが重要です。マスタ設定では、勘定科目や取引先情報、税率などの情報を設定します。マスタ設定は、システムの効率的な運用に不可欠であり、経理業務に精通した担当者が中心となって行う必要があります。例えば、経費と会計で異なるシステムを使用している場合、勘定科目のマスタ設定を統一することが必須です。設定がずれると、毎回データを修正してインポートする手間が発生し、システムの利便性を十分に活かせません。特に、複数システムを連携させる場合は、マスタ設定を正しく合わせることが効率化の鍵となります。これにより、システム導入のメリットを最大限に引き出すことが可能です。導入準備では、テスト環境でシステムを実際に稼働させ、問題点を洗い出すことも重要です。

ステップ5:導入後の効果検証と継続的な改善 - システムの効果を最大限に引き出す

システム選定や導入をゴールとするのではなく、導入後に掲げた目標が達成できたかを検証することが非常に重要です。多くの企業は導入時の目的を見失い、目標未達に気づかないままシステムを使い続けているケースも見受けられます。
M&Aにおいて投資後の統合プロセス(PMI: Post Merger Integration)を通じて投資の効果を確認し、課題を解決するのと同様、システム導入でも投資効果を検証することが不可欠です。
システム導入後、目標達成度を評価し、必要があれば改善策を検討します。
効果検証では、以下の点に着目します。

  • 業務効率:業務時間の短縮、処理件数の増加、人員削減などを評価します。
  • コスト:システム導入費用、運用費用、人件費などを比較します。
  • 内部統制:内部統制レベルの向上、不正リスクの低減などを評価します。

効果検証の結果を踏まえ、システムの使い方や業務プロセスを改善することで、システムの効果を最大限に引き出すことができます。
また、システムのバージョンアップ情報にも注意し、最新の機能を活用することも重要です。システムは導入後も進化し、導入時には予定していなかった機能が追加されることもあります。しかし、「できない」と思い込むことで、システムの性能を十分に活かせない企業も少なくありません。導入後もベンダー担当者と定期的に連絡を取り、最新情報を把握することが大切です。プロジェクト解散後は最新情報を見落としがちになるため、「月に一度バージョンアップ情報を確認する」「ベンダーからの案内メールを定期的に読む」といったルール化も効果的です。これにより、システムのパフォーマンスを最大限に引き出し、業務の効率化に貢献できます。

まとめ - 経理システム導入を成功させるために

経理システムの導入は、業務効率化や内部統制強化、経営判断の迅速化など、多くのメリットをもたらします。
しかし、導入を成功させるためには、適切な計画と実行が不可欠です。本稿で紹介した5つのステップを参考に、自社の課題を明確にし、最適なシステムを選定し、綿密な導入準備を進めることで、経理システム導入が貴社の発展を力強く後押しすることを願ってやみません。

経理システム導入にあたってのステップ別の重要ポイント

執筆者プロフィール

中尾 篤史

中尾 篤史

CSアカウンティング株式会社 代表取締役社長

本公認会計士協会 租税政策検討専門委員会 専門研究員。上場企業グループから中堅・中小企業まで幅広く経理・人事のアウトソーシング・コンサルティング業務に従事。
著書に『DX時代の経理部門の働き方改革のススメ』『経理・財務お仕事マニュアル入門編』など多数。

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