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人事・総務コラム 特定社会保険労務士 菊地 加奈子氏・第1回大介護時代到来!企業は介護離職をどう防ぐかコラム執筆者:特定社会保険労務士 菊地 加奈子氏  掲載日:2017年8月31日

はじめに

年間約10万人いるといわれている介護離職者。深刻な大介護時代が到来したことを物語る数字ですが、10万人もの人たちがなぜ離職せざるを得なかったのかという離職理由に目を向けてみると意外なことが見えてきます。
介護離職者のうち、対象家族が施設に入れなかったことにより離職した人は1.5万人。では残りの8.5万人は?というと、「介護保険のしくみを知らなかったり職場の理解がなく、介護と仕事を両立できなかったケース」なのです。すなわち、正しい知識や情報があれば多くの人は辞めずに済んだ、ということがいえます。こうした事実に対して企業は何をすべきでしょうか。介護離職を防ぐための考え方と具体的な手順を解説します。

大介護時代到来!企業は介護離職をどう防ぐか

企業はなぜ介護離職者を出してしまうのか

介護を抱えた社員の多くは会社に相談することなく、両立策が見つからないまま離職してしまうといわれています。
そういった「隠れ介護」をなくしていくためにも日ごろから相談しやすい職場づくりを目指すことが重要なのですが、では社員から家族を介護する必要が生じたと相談を受けたら会社はまず何をすべきでしょうか。

ここで多くの企業は「育児介護休業規程」を確認し、介護休業や介護休暇、残業制限や時間短縮などの措置を講じようとします。しかしながら、いきなり社内規程を持ち出すことが実は介護離職に陥る大きな原因でもあるのです。休業や時短というものを「社員自らが家族の介護をする前提」で使用してしまっては必ず限界が来るからです。法律で定められた介護休業の最低日数は「93日」。これに対し、平均的な介護期間というのは5年といわれています。

休業期間が終わり、給付金の支給も止まってしまったらその後はどうしたらよいでしょう?会社に休業を申請することもできず、給付金も得ることができず、まだまだ介護は続いていく中で経済的な基盤が崩れてしまっては、その社員も介護される家族も生活していくことすら難しくなってしまいます。これが介護離職で最も問題視されている「情報不足」です。

介護サービスを活用する

介護が必要になったときに、まず相談すべきはケアマネジャー(介護支援専門員)と呼ばれる人です。対象家族の方がお住まいのエリアの地域包括支援センター(おおよそ中学校区にひとつ設置されています)に行くと無料で相談を受けられます。65歳以上であれば介護保険被保険者証というものが市区町村から届いているはずなので、介護保険のサービスを活用します。

しかし、医療保険のように保険証を持っているからといってすぐに介護サービスを受けることはできず、「介護認定」を受ける必要があります。どのくらい介護が必要な状態なのかを判定してもらうのです。ここで認定(要支援1,2、要介護1〜5)を受けてはじめてそれぞれの段階に合わせたサービスが使えるようになります。デイサービスやヘルパーなど、うまく活用することで仕事も続けることができるようになります。

意外と知らない「介護休業93日」の使い方

では社内規程にある「介護休業」は何のために使えばよいのでしょうか。
それは、「介護をするための準備」に活用するのです。前述のとおり、介護サービスを受けるためには介護認定を受けなければなりませんが、認定が下りてからケアマネジャーに「ケアプラン」を立ててもらい、さまざまなサービスを組み合わせていきます。デイサービスの見学、住宅の改修など、介護の環境を整えるための準備期間に93日の介護休業を充てるのです。これが「自分で介護をしない」大きなポイントです。

平成29年1月より育児介護休業法が改正され、93日の介護休業を3分割して取得することが可能になりました。これによって「初動」といわれる最初の介護の準備に1回、介護の状態が変わったときに再び認定を受けてサービスを変更していくときに1回、最後にターミナルケア(看取り)に1回、という分割取得ができ、より使いやすくなりました。

さらに、介護サービスではカバーできない部分を時短や残業制限、介護休暇というもので補っていくのです。

サービスと制度を生かすための「働き方改革」で介護離職ゼロへ

介護サービスと介護休業制度の活用法を解説してきましたが、最後に、これらを活用するうえで最も重要なことがあります。それが「働き方改革」です。

介護サービスと休業制度を組み合わせて何とか仕事と介護の両立が可能になりますが、社内に理解がなかったり、長時間残業を前提とした働き方をしている企業で、就業時間後に重要な会議が行われたり、業務が属人化していて周囲の協力を仰げない環境にあったら、いくらサービスや制度を活用しても両立していくことへの心理的負担はかかり続けることになります。常に情報共有できる環境を整えて、時短や突然の休みに対しても業務に支障が出ない状況をつくること、在宅勤務やフレックス勤務といった柔軟な働き方を検討すること、そして何より理解し合える関係を構築することで仕事と介護を円滑に両立できるようになります。

実際に対象者が出る前の早い段階から、企業はこうした対策を取っておくとよいでしょう。

次回のタイトル:超高齢化時代におけるシニア雇用の課題とポイント

執筆者プロフィール

菊地加奈子氏

菊地 加奈子特定社会保険労務士

早稲田大学商学部卒。社会保険労務士法人ワーク・イノベーション代表。
企業における両立支援を実現するための人事制度構築や労務管理を行う一方で、企業内保育施設の導入支援・運営委託を全国に展開。
自らも1男4女、5人の子どもを育てる母として自社内に企業内保育施設を設置し、短時間勤務者の専門職種が多数活躍する組織を運営している。
厚生労働省 中央介護プランナー、神奈川県ワーク・ライフ・バランスコンサルタント。