人事・総務コラム 特定社会保険労務士 菊地 加奈子氏・第3回間接部門のスリム化
グループ人事管理をシェアードサービスへコラム執筆者:特定社会保険労務士 菊地 加奈子氏 掲載日:2018年3月15日
シェアードサービスとは、その名のとおり、サービス(業務)をシェアするという意味です。
一般的には企業グループにおいて人事や総務、経理、情報システムなどの間接部門に多い傾向があり、管理機能を一箇所に集約し、コスト削減や業務効率及び品質の改善を図る経営手法のことをいいますが、アウトソーシングする方法もあります。
人手不足や長時間労働削減への対応が急務となっている今、このシェアードサービスに企業の注目が集まっています。

シェアードサービス広がりの背景
経理の月次処理や人事部門の給与計算・入退社手続きなどは1か月の間に業務が平準化されておらず、一定期間に業務が集中します。
そのような中で現状の組織内で残業ゼロにするため、①繁忙期だけ人員を増やすこと、②変形労働時間制を導入して繁閑に合わせた労働時間を設定することが考えられますが、①は繁忙期の1週間から10日のみだけ集中して勤務してくれるというような特殊な条件にピッタリあった優秀な人材に巡り合うチャンスが少ないこと、②は1か月の中で繁忙期の勤務時間を10時間、それ以外は6時間、というような調整をすることによって1か月における勤務時間の帳尻を合わせる手法ですが、繁忙期の長時間労働の負荷というそもそもの問題は解消されません。
そこでシェアードサービスの活用を考えてみます。たとえば給与計算の場合、グループ企業内で給与計算の締日がA社=15日締め、B社=末日締めと異なる場合、業務の山がずれる特性を利用してA社とB社の給与計算機能を集中させることで業務を平準化します。つねに繁忙期状態になるわけですが、業務の繁閑がない分、適正な人員配置をすることで負荷のない対応が可能になります。
アウトソーシングする場合は繁忙期そのものが会社からなくなります。
BPOとの違い
ところで業務の効率化という観点では、よく一緒に議論されるサービスにBPOがあります。BPOとは、経理や総務など間接部門の全てを外部の企業や子会社に委託することで、業務の効率化とコストの削減を図る経営手法で、ビジネス・プロセス・アウトソーシングの略称です。
一方、シェアードビジネスは分散しているグループ内業務を一箇所に集約させ、業務の効率化とコストの削減を図る経営手法です。委託先がグループ会社か、外部会社かによって、使い分けられる点で異なります。
シェアードサービスのメリット
①コスト削減
グループ会社が分散してそれぞれに間接部門を設けている場合よりも機能を集約することで人件費のコストが削減できます。アウトソーシングした場合はコスト増になるのではないかと思われがちですが、人材育成コストや割増賃金コストなどを考慮すると結果的にはコストを抑えることが可能です。
②クオリティーの均質化
人材不足に加えて雇用の流動化が進む中、スキルにばらつきが出ることは業務時間にも影響します。シェアードサービスの担い手はグループ企業内であれば安定した体制で業務も平準化されており、アウトソーシングの場合はプロが担い手となるため、高いクオリティーのサービスを常に受けることができます。
シェアードサービスのデメリット
①グループ企業内で導入する場合
もともと一つの会社が分社化した場合であれば業務手順や使用するシステムなどが統一されている場合がほとんどであるため、さほど手間はかかりませんが、合併などでグループ化した場合はそれぞれのやり方が全く異なるため、統一することに大きな労力を要します。間接部門だけでなく社内全体を巻き込むことになるため、周知説明や意識改革にも時間をかけなければならず、そう簡単に導入できない場合があります。
②アウトソーシングする場合
社内独自の分かりにくいルールが浸透してしまっていたり、看過できない程度のコンプライアンス違反を黙認している状況が長く続いているような会社の場合はアウトソーシングに至らない場合があります。もちろんこのような状況はあってはならないことですが、気づかぬところで根深い問題が続いていることもありますので注意が必要です。
シェアードサービスを上手く活用するには
シェアードサービスを導入するためには、いきなりすべての組織の業務を集約するのではなく、まず全体を俯瞰した上で業務の平準化、適正化を図ることが重要です。
それによってどのくらいの生産性向上が見込まれるのか、もっとも効率的に移管できる方法は何かを探ることにもつながります。
そして、何といっても情報システムがとても重要です。既存の複数のシステムの中からベストなものを選択・統合することも可能ですが、全体を再構築した上でシステム自体を変更することも根本的に業務改善を検討する場合においては有効といえます。
このように、業務改善のためのシェアードサービスは、簡単に導入できるものではない場合があります。だからといって現状維持に甘んじるのではなく、これからの労働環境の大きな変化を見越したとき、業務改善はいつか必ず取り組まなければならない問題であることに気付くはずです。広く長期的な視点で最適な方法を見つけることが重要です。
シェアードサービス成功事例
シェアードサービスを導入したことによって40%以上の業務工数削減率を達成した企業(小売業)の例を取ってみます。
グループ会社としてシェアードサービスセンターを設置した同企業は、通常、シェアードサービス導入前に準備段階として業務平準化・効率化を進めることが多い中でセンター設置と同時に業務改善に着手しました。ある程度業務が集約できるようになってからは、業務工数調査を定期的に実施することによって、品質管理に力点を置いたことが特徴です。そのため設立後改善・定着が進み、課題の解消や改善活動が継続的に行われています。40%もの業務工数削減率を達成できたのも最初に工数把握のしくみを作ったことが要因と考えられます。また、グループ全体で業務改善を一つのプロジェクトとして捉えるのではなく、継続的に改善を重ねることへの動機付けがしっかりと行われたことも大きな効果につながったといえるでしょう。