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人事・総務コラム 特定社会保険労務士 菊地 加奈子氏・第5回いまなぜ「健康経営」が求められているのか? 〜戦略的導入のメリット〜コラム執筆者:特定社会保険労務士 菊地 加奈子氏  掲載日:2018年11月2日

健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することを経営戦略として捉え、従業員の健康保持・向上のために積極的に投資することによって企業全体の生産性の向上、従業員の能力アップ、企業イメージの向上といった大きな効果につなげることを目的としたものです。
健康への投資は企業にとっても従業員にとっても、そして社会全体にとってもメリットが大きいことから、今とても大きな期待がかかっています。

いまなぜ「健康経営」が求められているのか?

健康経営が注目されるようになった背景

企業は常用雇用労働者に対しては1年に1回の定期健康診断を受診させることが義務付けられています。従業員が大きな病気をしていることが発覚するのはおそらくこの定期健康診断によるものが多いといえるでしょう。しかし、定期健康診断の受診は費用負担も含めて義務であるものの、そこで万一精密検査の受診を指摘された場合は以後の受診・治療等については労働者本人に任されるため、業務多忙によって症状が悪化し労務不能に至ってしまうケースもあります。
また、問題視されている長時間労働についても産業医の面談といった措置を義務付けているものの、「対処」にすぎません。
このような状況の中、問題を未然に防ぐための取り組みと、さらなる健康増進に「投資」する必要性が見えてきたのです。
健康への投資が企業の経営上の効果があるという大きな期待の高まりとともに健康経営というものが経営戦略の一つとして位置づけられるようになってきました。

健康経営に期待される効果

①従業員の生産性向上
職場における生産性向上に大きな影響をもたらすのは人間関係と健康状態の二つで、これらは報酬ややりがいといったものを上回るともいわれています。健康向上への投資は福利厚生の充実という点だけでなく経営的なメリットが大きいといえます。

②従業員の健康は健全な経営につながる
労働力人口が減少する中、ますます自社の従業員の育成と定着を重視していくことが求められています。優秀な従業員が病気になってしまうことは経営上の大きなリスクであり、健康にいきいきと働くことができる職場づくりを行っていくことが企業の使命ともいえるでしょう。

③企業イメージの向上
経産省主導の「健康経営銘柄」というものが日本再興戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に対する取組の一つとして生まれました。企業の健康経営の取組が株式市場等において、適切に評価されるしくみが構築されています。
また、日本政策投資銀行がDBJ健康経営(ヘルスマネジメント)格付けを融資制度に加えています。
これは、従業員の健康配慮への取り組みに優れた企業に対して、その評価に応じて優遇した融資条件を設定してくれるものです。

健康経営の施策

①従業員向け ②顧客・社会への貢献

①従業員向け

【体力増進】
ウォーキングの促進、社内にスポーツ施設を設置、スポーツクラブの費用補助
【ワーク・ライフ・バランス】
ノー残業デー、長時間労働者の指導、有給休暇の取得促進、勤務間インターバル制度
【食事、食習慣】
食堂での健康メニュー提供
【禁煙推進】
禁煙外来の費用補助、社内禁煙の実施
【疾病予防】
人間ドッグ受診の義務付け
婦人科検診の費用補助
要精密検査の場合の受診義務付け
【メンタルヘルス】
ストレスチェックの強化
産業医との面談
メンタル不調者に対する復職支援プログラムの構築

②顧客・社会への貢献

【情報提供】
健康情報提供
健康セミナー開催
【啓発活動】
禁煙、がん検診受診の推奨
(一般社団法人 日本経済団体連合会「健康経営」への取り組み状況 参照)

企業の取り組みに求められていくもの

上記のようにさまざまな取り組みが考えられます。他にも健康商品の開発・提供という自社のビジネスそのものに健康というキーワードを盛り込むことも意義ある取り組みといえるでしょう。
そして重要なのは、取り組みを長い視点でとらえ、健康経営の施策の実施結果を数値分析していくことです。
健康銘柄に選ばれた企業の中では健康診断・精密検査の100パーセント受診、有給休暇の取得率向上、残業削減などに取り組む企業がその数値・推移を把握しそれが企業利益にどう結びついているかまで分析・公表しています。
ある企業は職場環境に目を向け、デスクの高さを自動調整する装置を導入し、適度に「立ち仕事」をする時間を作りました。
さらに運動機能検査と生活習慣施策との相関分析による効果検証を実施。ICT技術を用いて健康データを管理・活用し、個人・組織それぞれに効果的な施策を行うことで、プレゼンティーイズム測定では、生産性・時間管理・集中力・対人関係および仕事の結果がいずれも前年度より改善したことを確認。一人あたりの年間総実労働時間・年間所定外労働時間の減少も認められました。
 このように健康を経営戦略として捉えることで従業員の健康保持だけでなく永続的な企業の発展、そして医療費の削減や健康寿命の伸長など、社会的なインパクトも大きいのが健康経営が注目される理由でもあります。

執筆者プロフィール

菊地加奈子氏

菊地 加奈子特定社会保険労務士

早稲田大学商学部卒。社会保険労務士法人ワーク・イノベーション代表。
企業における両立支援を実現するための人事制度構築や労務管理を行う一方で、企業内保育施設の導入支援・運営委託を全国に展開。
自らも1男4女、5人の子どもを育てる母として自社内に企業内保育施設を設置し、短時間勤務者の専門職種が多数活躍する組織を運営している。
厚生労働省 中央介護プランナー、神奈川県ワーク・ライフ・バランスコンサルタント。

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