人事・総務コラム 特定社会保険労務士 菊地 加奈子氏・第6回平成30年4月から無期転換権発生 〜無期転換ルールと企業側の留意点〜コラム執筆者:特定社会保険労務士 菊地 加奈子氏 掲載日:2019年2月13日
無期転換ルールは、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合、有期契約労働者(契約社員、パートタイマー、アルバイトなど)からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。
平成25年の労働契約法改正でできたルールなので、平成30年4月1日以降に契約更新が通算5年を超える方々に無期転換権が発生することになります。

無期転換のルール
契約期間が1年の場合、5回目の更新後の1年間に、契約期間が3年の場合、1回目の更新後の3年間に無期転換の申込権が発生します。
契約が一日も空くことがなく反復更新されていれば問題はありませんが、契約と契約の間が6か月以上空いてしまうと「クーリング期間」といってリセットされます。後々のトラブルを回避するためにもこの点はしっかりと有期契約者にも説明する必要があるでしょう。
また、契約が5年を超えたら自動的に無期契約に転換されるわけではなく、無期転換の申し込みをする権利が生じるということになります。よって、本人からの申し出が必要です。
そして、有期契約労働者が使用者(企業)に対して無期転換の申込みをした場合、無期労働契約が成立します。(使用者は断ることができません)
方法については定めはありませんが、書面で行うようにするのがおすすめです。
無期転換後の契約内容
よく無期契約=正社員になる、と考えてしまいがちですが、契約期間の定めがなくなるだけで、職務内容や待遇については変更する必要はありません。
ただし、正社員でもなく有期契約でもないという立場の社員はこれまでなかったと考えられますので、新たに無期雇用者用の就業規則を整備する必要はあるでしょう。
1.休職
有期契約者が傷病等で休業を余儀なくされた場合、通常は次の契約更新時に治癒していなかったら契約は更新されないのが一般的ですのでパートタイマーや契約社員には休職の規定が適用されていません。無期契約になったことで長期の休業の際に労働義務を免除する休職制度を適用することは検討すべきでしょう。
2.定年
有期契約者には定年の概念がありません。(一定年齢に達したら契約更新はおこなわないという定めをすることができますが、高年齢者雇用安定法の観点から60歳を下回った年齢設定にするのはリスクがあります。)無期契約になることで、定年年齢の定めを設けることが必要になります。
3.賞与・退職金
有期契約の時と労働条件を変更する必要はありませんが、長期雇用を見据えて賞与や退職金の適用を検討してもよいでしょう。
4.解雇
有期契約の場合は雇止めのルールを定めていますが、雇用契約の終了は解雇となります。
雇止めとは異なる事由を設定しなければならない場合のルールを確認します。
限定正社員という選択肢も
もちろん「無期契約社員」という取り扱いがあってもよいですが、勤務時間や職務内容によってはより正社員に近づく従業員も出ることが考えられます。正社員のようにあらゆる職務・勤務地・労働時間を無限定に設定されることは難しいけれども「限定正社員」として一定の制限をつけることによって安定を保証すれば、今後の採用・定着にも効果が出てきます。
①職務限定正社員・・・専門職や非管理職層限定など
②勤務地限定正社員・・・転勤せず、自宅からの通勤圏内のみとする
③勤務時間限定・・・短時間正社員、時間外労働を制限する正社員など
無期転換ルールの注意点
雇止めが有効か否かは、労働契約法第19条の「雇止め法理」に基づき判断され、有期労働契約が次の①、②のいずれかに該当する場合に、使用者が雇止めをすることが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、その雇止めは無効とされます。雇止めが無効とされた場合、従前と同一の労働条件で、有期労働契約が更新されます。
①過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
②労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの
(例1)無期転換ルールの適用を避ける目的で、無期転換申込権が発生する有期労働契約の満了前に、一方的に、使用者が更新年限や更新回数の上限などを就業規則上設け、当該ルールに基づき、無期転換申込権が発生する前に雇止めをする場合
(例2)無期転換ルールの適用を避ける目的で、6ヶ月後、再度有期労働契約を締結するとの前提で、一旦雇止めをする場合等については、雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠くものとされる可能性もあると考えられます。
なお、上記の①②に該当するか否かは、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待を持たせる使用者の言動の有無などを総合考慮して個別事案ごとに判断されます。
まとめ
無期転換はしっかりとした対策や制度整備ができないまま適用した場合はリスクになりますが、人材不足が深刻化していく中、雇用の安定を図っていくという視点で考えると重要なポイントも見えてきます。
無期転換をきっかけに、多様な働き方、柔軟な働き方というものを検討し、働きやすい職場について検討していくことが大切です。