人事・総務コラム 戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏・第1回人財マネジメントを実現するタレントマネジメントコラム執筆者:戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏 掲載日:2017年12月8日
人材から人財のマネジメントへパラダイムシフト
“人財マネジメント(Human Capital Management)”は、今では、欧米の多くの企業で一般的に使われている言葉となった。これまでの“人材マネジメント”という言葉は、表面上は慣用として残している企業もあるが、 そのような企業でもマネジメントの本質は人財であるとコメントしている。
では、人財と人材の本質の違いはどこにあるのだろうか。
人財マネジメントは、人(社員)を企業の資産、財産とみなすマネジメント手法であり、これまでの人材マネジメント(Human Resource Management)を大きく進化させたマネジメント手法といえる。これは、単に社員を資産や財産とみなすか、資源とみなすかという意味の違いではなく、社員に対する経営の考え方の進化の違いといえる。すなわち、“人を動かす”基本的な思想の違い、たとえば、物や金、ルールや制度で人を動かすことより、ビジョンや理念・志という心で人を動かすことを重視し始めたということである。
業績重視のマネジメントを最も大切にして成長してきた欧米企業が、いまでは、人間重視のマネジメントへとパラダイムシフトし、シフトしてから10年以上も経過している。
人間重視のマネジメントの実践を行う手法をタレントマネジメントともいう。この定義は米国の各団体やITパッケージ企業によって複数の定義があるが、ここでは、人財マネジメントをタレントマネジメントとして使いたい。
これまでの人材マネジメントにおける労働生産性の向上は、仕事や作業のしくみや環境、手順やルール、労務管理などといった外面的要素の改善で達成してきたが、すでに限界点に達した。これ以上に生産性を改善するためには、もっと人の内面的要素である個人の特性や資質、才能、やる気、そして自己実現の欲求を取り入れる必要性、重要性に気づいたようだ。これをタレントマネジメント手法に組み込んでいる。

■ タレントマネジメントは経営戦略と人事戦略の共通言語でありツールである
タレントマネジメントは、従業員の労務管理や目標管理・業績評価、教育研修、処遇制度などの人事制度を運用管理する、単なる人事ツールでない。
経営の三大資源である“ひと”、“もの”、“かね”の“ひと”に係わる課題のすべてにタレントマネジメントは対応しようとしている。もちろん、経営だけの課題ではなく、また人事だけでもなく、現場の管理職、そして従業員本人におよぶ広範囲で重要なテーマを取り扱っている。
経営戦略を実行するには、社員の力の結集が必要なのはあたりまえ。大切なのは戦略を実行するために必要な社員の確保であり、実行できる社員とは誰か、その社員は社内にいるのか、どこにいるのか、どの程度の実行可能性を持っているのか、その社員のいまの力量や職務状態はどうか。また、配置の検討では、本人自身の適性・資質、やる気の源泉に合っているのか、などの重要な情報もタイムリーに正確に確認しなければならない。このようなやり取りを、経営と人事、経営と現場、人事と現場、さらに、社員との間で共通言語になっている必要がある。そして、これらの情報が一元管理され戦略的に使用されるためのITツールがなければ、タレントマネジメントは実現できない。タレントマネジメントはマネジメント手法でありマネジメントツールでもあり、社内の共通言語でもあるが、アプリケーションツールではない。
タレントマネジメントを実現するには規模に応じたITツールが不可欠
タレントマネジメントを実現させるには、企業の規模や目的に応じたITツールが必要となる。タレントマネジメントの対象者は、優良な従業員のみとする時代もあったが、いまでは全従業員を対象とする。従業員とは、日本国内だけでなく海外も含めた関連会社や子会社を含めた従業員となる。最低必要条件の従業員は、連結決済の全企業で役員も含める。
従業員の情報では、人事の基本情報以外に、個人の特性・資質、保有するコンピテンシー、適材適所、やる気の源泉(仕事に対する欲求の内容など)の把握は必須となる。適性検査、性格診断、能力アセスメントなどの外部機関の診断結果をExcelに変換し、タレントマネジメントのアプリケーションで一元管理できる機能は必要。
一方、経営においては、成長戦略や差別化戦略、さらに、縮小・撤退戦略を実現させる、いわゆる戦略に応じた「求める人物像」を定義し、登用し、配置するしくみ作りを人事と管理職を巻き込んで構築しておく。特に、M&A後のPMIで相手従業員の個別の把握ができなければ、シナジー効果も期待できない。
人事は、全従業員のタレントマネジメントによる情報を、タイムリーに経営と現場に戦略的に提案する役割が求められている。いかにITツールを使ってその戦略的な役割を果たすかは、人事部門の存在価値でもある。
次回のタイトル:新たな人事部の使命