NECNECソリューションイノベータ

人事・タレントマネジメント、給与、経理システムの特設サイト

DX(デジタルトランスフォーメーション)コラム 戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏・第11回 デジタルトランスフォーメーション成功の条件とは何か 第2回目: デジタルトランスフォーメーションが進まない日本の現状 コラム執筆者:戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏  掲載日:2020年6月15日

前回の第1回目では、「デジタルトランスフォーメーションの原点」と称して、変革の目的である“企業が継続的に経済成長するための新しいビジネスモデル”を策定し、そこに向かうために変革が必要である、とまとめました。今回の第2回目では、「デジタルトランスフォーメーションが進まない日本の現状」について、著者の米国と日本でのプロジェクトの経験を通して紹介したいと思います。

デジタルトランスフォーメーションが進まない日本の現状

デジタル変革の前に事業変革の検討

デジタル変革は、デジタル技術による新ビジネスモデルを検討し、現状モデルとのギャップ(差異)に対して変革します。しかし、これは必要条件ですが、実は、十分条件ではありません。
では、デジタル変革の必要十分条件とは何か、を理解していきたいと思います。これを理解しておかなければデジタル変革は成功しないと思われるからです。

企業にとって変革を起こす必要性については、デジタル変革のみならず、7つの以下の優先的理由が存在します。

  1. ① 少子高齢化と労働人口の減少
  2. ② 労働者の仕事観の変化と雇用の多様化
  3. ③ 雇用の流動化の加速(人材の流出)
  4. ④ 顧客の価値観の多様化(十人十色から、一人十色へ)
  5. ⑤ デジタル技術の進化と新技術の加速
  6. ⑥ グローバル化と新興国の台頭
  7. ⑦ 異常気象や災害の増加、今回の感染症の増加も含みます

さて、上記の①と②、③への取り組みで始めたのが、みなさんもご存じの「働き方改革」です。これは「残業を減らし、定時に帰る」のが目的ではありません。「働き方改革」も今では、⑤や⑦も含めた対応が必要となっています。同様に、⑤への取り組みが「デジタル変革」となります。でも、その変革の目的が⑤だけに絞られてしまうと、目的と手段があべこべになります。デジタル変革も、「変革する」のが目的では決してありません。変革は手段です。変革を通して、第1回のコラムでも解説しました「新しいデジタル技術(手段)を活用し、企業が長期的に経済成長できるように(目的)、今のビジネスモデルを変革(手段)する」のが目的です。

米国企業は、デジタル変革のプロジェクトを始めるにあたり、少なくとも①から⑦のすべての範囲で検討します。その検討の価値は高く、全社で全体最適化と、変革の一貫性を検討することができるからです。さらに、変革する大義名分も明確にすることができます。

デジタル変革は、第1回目のコラムのピラミッド図でも示したように、経営改革そのものです。その位置付けであることを、特に、経営陣や上級管理職の方は理解しておかなければなりません。しかし、日本企業では、経営改革という感覚が弱いのではないかと感じています。
それでは、なぜ経営改革という感覚が弱いのか、その理由を探ってみたいと思います。

情報システム部門が担当?

社内で、デジタル変革を進めようとすると、いきなり、デジタル技術や関連するインフラや通信技術というように、あまりにも多くの理系の技術系の専門用語が多く出てきます。これは仕方がありません。

著者は経営と人事のコンサルティングという仕事をしており、多くの経営陣や上級管理職の方とお会いしています。そして、残念ながらその多くの方は、ITに関する技術的な専門用語が分からない、理解できていない、という人は決して少なくありません。パソコン操作といえば、メールぐらいです。MS-WordやExcel、パワーポイント操作は苦手だという人も少なくありません。そのためか、ITの技術的な内容については、苦手意識が強く、技術系の問題は情報システム部門に任せて、敢えて避けてきた経緯もあります。

トップ層がこのような状態の日本企業では、デジタル変革に取り組むにあたり、やはり、「経営」ではなく、「情報システム部門」となっているのが大半のように思えます。

日本企業のある上場企業の金属系のメーカーでコンサルティング支援をした際、デジタル変革への取り組みをすでに開始していました。情報システム部がプロジェクトマネジメントを担当していました。プロジェクトリーダーは情報システム部(以下、IT部)の部長でした。
コンサルティングの依頼の理由は、プロジェクトが空中分解した、つまり、プロジェクトが頓挫したのが理由でした。
その状況を分析してみると、3つ大きな事実が確認できました。

  1. ① プロジェクトの目的が曖昧であった。
  2. ② 経営陣は、プロジェクトの責任をIT部に押し付けた(最新技術の難しい単語や専門技術の中身がまったくと言っていいほど理解できなかったので)。
  3. ③ IT部長の口からは、デジタル技術ばかりの話題で、企業の戦略やビジネスモデルの変更性の話題は1つも出てこなかった。

IT部長も、何のためにデジタル変革をするのかが明確ではなかったため、とりあえず、デジタル技術のなかで、自社に導入した方がいいものに偏って情報収集をしていました。IT部長の経営陣への報告も、新技術の活用法であり、導入の必要性を強調したため、経営陣はデジタル変革の本質を理解しないまま、システムの導入検討に明け暮れていました。

IT部は、確かにデジタル技術を始めとするテクノロジーには強いです。しかし、“デジタル改革 = デジタル技術を導入する”と、間違った認識、思い込みがありました。そのため、デジタル技術の検討を最優先にしてしまいました。長期的な経済成長をするために、どのような重要な経営課題があるのか、社内外の環境や状況、想定される将来のリスクは何か、などの検討をすることはありませんでした。会社がIT部にすべてを丸投げし、経営陣も本質的な課題に触れることがなかった。そこに、頓挫した大きな原因がありました。

このようなケースは、実は、他の企業も同様なことが起こっています。これは、デジタル変革が進んでいない企業の共通項目として、3つあります。まず、情報システム部門に任せてしまうこと。これは、最初の共通項目だと思っています。2つ目の共通項目も、さらに深刻だと感じています。

チェンジマネジメントの経験がない

情報システム部門に任せて、途中で頓挫しそうになっても、何とか挽回しながら頑張った企業もあります。そのような企業でも、さらなる次の壁で頓挫することもありました。
それは、自社のなかで“変革”の経験がない、自社には変革を任せられる人材がいない、また、変革を起こす人材も育っていない、そのような人材を意識して育てる取り組みもなかった、ということに気付いたことです。

変革をリードする人を“チェンジリーダー”と言い、チェンジリーダーを中心に、関係者を巻き込んで企業変革を実行することを“チェンジマネジメント”と言います。経営改革、事業改革、風土改革、社員の意識改革といった全社的な改革を推進するには、経験者が必要です。新しいビジョンを描いて、新しいビジネスモデルを描いても、それが実現できなければ意味がありません。

“チェンジマネジメントの成功=企業改革の成功”

著者が米国企業に勤務していたとき、チェンジリーダー養成プログラムがありました。
チェンジリーダーは、通常、執行役員クラスや部長クラスがその役割を担います。リーダーへの道は短くありません。経験上ですが、10年はかかると感じています。

チェンジリーダー養成プログラムでは、まず、プロジェクトのメンバーからのスタートとなります。それから、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)と言って、プロジェクトを円滑に進めるための事務的手続きの担当を果たし、次に、リーダー補佐を経験させます。
役職でいうと、中堅社員や課長補佐などの人を対象に、変革プロジェクトに参加してもらいます。変革プロジェクトに参加し、経験を増し、役職が上がるとともに、変革プロジェクトでもその果たす役割を高度化させていきます。このようなプログラムを通して、変革のノウハウ(プロジェクトの進め方、関係者の巻き込み方など)や必要な能力、意識付けを徐々に開発していきます。座学と実践を繰り返しながら実力をつけていきます。

自分が所属している企業で、各種の変革がドンドン行われることはありません。そのため、養成プログラムに乗った社員は、外資のグローバルネットワークを使った他国の変革プロジェクトに参画する、または、国内外のグループ企業の変革プロジェクトに参画をし、変革への実力を上げていく、という仕組みがありました。

外資系の企業にも、このように選抜された人材がチェンジリーダー養成プログラムに参画する仕組みがあります。チェンジリーダーになる研修プログラムでは、チェンジリーダーの経験者がトレーナーを務めることもあります。リアルな体験談は育成においては非常に重要です。しかしながら、日本企業には、このようなプログラムや仕組みがほとんどありません。チェンジリーダーを養成するための社内のトレーナーもほとんどいません。

著者は、外資系と日本企業の両方に勤務したときでも感じていましたが、日本企業では、“改善運動”に強くても、“改革”、“イノベーション”を起こすことは苦手でした。これは、単に、経験がない、能力がない、人材がないだけの問題ではなく、もっと根深い問題、“デジタル変革”には直接的な要因ではないものの、強い影響を与えている問題、3つ目の問題を感じています。現在、コンサルティングをしていても、他社でも同じような状態の企業は多いです。

日本独特なコミュニケーション

3つ目の問題、それは、コミュニケーションです。つまり、社内における良好なコミュニケーションができていない問題です。「良好」とは、役職を超えた上下間のコミュニケーションがある、横の部門や立場の壁を越えたコミュニケーションがある、というようにコミュニケーションの質と量もある状態です。

コミュニケーションの質とは、人間関係や信頼関係がある状態での「相互の対話」です。「言わなくても分かるよね」「1を聞いて10を悟れ」「空気を読め」などの言葉は出てきません。コミュニケーションの量とは、ちょっとしたことでも質問、確認ができる状態です。「何度も言わせるな」「1回言ったら分かるよね」「何度言ったら分かるんだ」などの言葉も出てきません。このような言葉が、頻繁に聞かれる企業では、なぜか、“デジタル変革”が頓挫しています。逆に、このような言葉がない企業は、“デジタル変革”に勢いが感じられます。

次回の第3回目は最終回となります。「デジタルトランスフォーメーション成功の条件」では、デジタル変革の本質の理解もでき、プロジェクトが頓挫する原因も理解できたところで、成功させるための条件、秘訣について解説したいと思います。

執筆者プロフィール

鬼本 昌樹

鬼本 昌樹戦略人財コンサルタント 代表

京都大学理学部、カルフォルニア州立大学ロングビーチ校理学部卒。
日本オラクル、GEキャピタル、米国ニューバランスにて、人事部長、経営企画部長、人事役員、取締役副社長を経験。強い企業を作る人材の活性化、人事部の役割の高度化で貢献する。
現在、人材活性マネジメント、労働生産性、人事部の戦略的役割への変革支援を経営人事コンサルタントとしておこなっている。
タレントマネジメントは10年以上の実績を持つ。
中小企業診断士、社会保険労務士、ファシリテーター(米国資格)、行動心理学(米国資格)