人事コラム 戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏・第13回 データードリブン人事 第1回目: 人事がいつまでも公平な制度・仕組みが作れない理由 コラム執筆者:戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏 掲載日:2020年11月12日
読者のみなさんの会社の人事制度は、「公平」さのある制度となっているでしょうか。
例えば、職務や役割のそれぞれに応じた等級レベルで、目標管理や業績評価、人事評価が「公平」にマネジメントされているでしょうか。
著者は、30年以上、外資系と日本企業において人事に携わり、その経験から独立して人財マネジメントのコンサルティングを行っています。企業の業界・業種や規模、国内外を問わず、人事制度や人材マネジメント、組織マネジメントの構築、再構築を支援しています。実は、依頼されるすべての企業から、必ず「公平」さのある人事制度作りがしたいと言われます。

「公平」さのある人事制度とは何か
まず、広辞苑で「公平」を調べてみると、「かたよらず、えこひいきのないこと」とあります。
人事制度での「公平」とは、
- • すべての従業員に対して、会社も人事もえこひいきなく、同じように扱うことができる制度
- • 一部の従業員だけが有利になったり、不利になったりしない制度
- • 従業員を評価し処遇を判断する際、特定の主観や一部の思い込みで決めることがない仕組みのある制度
これらは、どの企業からも要望として言われます。そして「頑張った人が頑張った分をもらえる仕組みを作りたい」のでと、依頼されます。
顧客から「公平さのある人事制度を目指したい」と言われたら、必ず、公平さを具体的に語ってもらい、公平さの必要性も説明をしていただきます。これは、公平さを制度だけで実現しようとしているのかを確認しています。依頼企業の8割はこの制度を導入すれば完成と思っています。そこで、人事における運用や経営や現場での運用、それと、従業員本人が「公平な判断だ」と感じてもらえる仕組みについての意見、要望も確認します。しかし、この確認に明確に回答をくださるのは、全体の2割に満たない企業と感じています。公平について真剣に検討しているかが分かります。その内容は、2回目のコラムで説明をします。
人事制度を新規の構築ではなく、再構築したいと要望される企業のほとんどが、どこも公平な制度を検討して制度化されています。
その公平な人事制度とは、
- • これまでの年功序列制度から成果主義(実力主義、業績主義などの名称の)制度へ移行した制度で、成果や実力に応じた人事制度
- • 成果や実力で評価する基準を設定し、評価手順も明文化している
- • 目標管理制度もあり、その設定の手順、設定シート、上司と部下との設定面談や中間面談、最終面談、フィードバック面談が年間スケジュールと共に設定され
- • 面談方法や目標設定のサンプルまでも添え説明会や評価者訓練も実施しており
- • 評価に不服の場合のルールまで設定している
一見、完璧な人事制度と思えるものです。書店に並ぶ人事制度導入書籍に標準的に載っている制度です。しかし、そのような制度に対して従業員からの批判は厳しく、人事としての手の打ちようが見当たらないようです。
問題は、その「公平さ」の人事制度であっても、その運用に問題があるようです。そのような企業は、意外に多いと感じています
原因はどこにあるか
制度の規程だけで公平さを実現するのは、実は無理があります。依頼企業の8割の人事は、制度、すなわちハード的アプローチだけで公平さを社内に浸透させて、公平という仕組みを実現しようします。そして、共通した人事の責任者には、公平な人事制度を導入することが目的となっています。まず、ここに最初の大きな原因があります。手段が目的になっています。公平な人事制度といえども、仕組みであり社内ルールです。手段が目的になっている要望される企業は、制度だけで完璧な公平さを実現させようとする理由がここにあります。
主な原因を、以下の5つに整理をしてみました。
- • ハード的アプローチだけで公平さのある人事制度を導入しようとする
- • 公平さのある人事制度の導入が目的になっており、真の目的が具体的になっていない
- • 運用面において、どのような手順やルールで納得感のある公平さが実現できるのか、を十分に検討しているとはいえない
- • 公平さを実証するものが不十分になっている
- • 運用をするのは人間なので、それぞれの立場、例えば人事、経営陣、現場の管理職、従業員のアナログ思考とデジタル思考を考慮しているとはいえない
読者のみなさんの会社でも、当てはまるものが1つでもあれば、これ以降のコラムを参考にしていただきたいと思います。
人事の課題
「公平な処遇と感じてもらえる仕組み」「公平感のある対応」「公平性のある人事評価」を実現するためには、人事は、それぞれの場面を想像しておく必要があります。特に、評価の場面は、視点を変え、視座を変え、視野を広めたうえで想定をしておくことが重要です。この想定した事柄を具現化する“ありたい姿”を明確に文章化します。さらに、公平さの人事制度の導入目的と一致しているかも確認をします。“ありたい姿”が目標となります。ここで、現状の人事制度、社内の仕組み、対応の仕方、人事情報などを分析します。
分析した結果が課題となりますが、多くは以下の課題が共通して散見されます。
- • 人事ポリシーがないまま、人事制度を構築している(人事ポリシーとは、通常、経営陣と人事とで作成します。「この会社は、どのような人材を大切にしたいのか、その大切な人材に対してどのような処遇をしたいのか」を定義したものです)
- • 求める人材像がない
- • 適材適所の配置、登用が経験値や勘によるものになっている
- • 目標設定能力の問題や目標そのものに不適な項目がある(制度が理解されていない等の課題)
- • 評価者の評価能力にバラツキが目立つ
- • 管理職が部下を評価するときの根拠となるエビデンスがない
- • そのため、バイアス(思い込みや評価者の特性的傾向など)が払拭できない
- • 最終評価の経営陣も従業員の評価の検証を上司に任せたままにしている
- • 最終的には社内政治になり、人事は関与できない(人事が、経営の戦略的なパートナーとなっていないのが原因)
- • 人事に全社的傾向や個人別傾向の分析がされていない
企業のなかには、経営陣や人事、中間管理職が、従業員の顔を名前が分かるようにタレントマネジメントのシステムを導入しても機能していないケースも少なくありません。それどころか、特に経営陣の傾向として、従業員の顔写真を見て、「この人はね・・・」と強い印象や直近の印象の話を持ち出して、評価内容のちゃぶ台をひっくり返す傾向があるようです。
システムを導入しても、科学的で客観的な“エビデンス”もないまま、適材適所の配置とか、能力開発、昇格・昇進、人事評価、組織開発に至るまで勘と経験、さらには印象というバイアスで判断されているのは驚きです。
人事も、そもそも人を採用する、評価する、制度を作る場面で、仮説が十分に検討されていないことも多く、検証もしていない事実は実に多いと感じます。例えば、採用の場面では、募集要項を作成するためにだけ“求める人材”を定義し、採用試験をSPIなどで候補者を絞り込み、面接で判断して、採用しています。性格診断、価値診断、ストレス診断なども実施している企業もあります。しかし、採用時にいわゆる優秀と判断しても、入社後1年、3年、5年でも仮説通り、期待通りに優秀なのか、という検証はしていません。もちろん、3年目で転職したとしても、その検証は、採用時点に遡ることもなく、現場の問題と片付けてしまいます。
人事には客観的なエビデンスがないので、検証もできない、分析もできないのです。これを何年も、何十年も繰り返しています。平均年齢や男女構成比、平均勤務年数、平均給与などの分析の領域から抜け出して、もっと個人に焦点を当てた客観的な対応ができる人事が必要ではないでしょうか。