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人事・総務コラム 戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏・第3回コンピテンシー基軸の人材開発 コラム執筆者:戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏  掲載日:2018年2月6日

研修ベンダーの言いなりにならないために

経営人事コンサルティング業が私の本業ではあるものの、顧客の要望によって研修も行っている。その研修は、階層別研修が圧倒的に多い。たとえば、新任管理職研修、課長研修、部長研修、役員研修、役員候補研修などである。研修を実施するにあたり、必ず人事の方に確認させてもらっていることがある。それは、研修の目的と対象者への期待レベルである。回答を聞いても非常に曖昧な場合がある。たとえば「新任管理職としての心構えを習得させるのが目的で、新任管理職として自覚をもってマネジメントができるように期待している」という内容は多い。

一般論としての気持ちは十分に理解をしているが、これだけでは研修の企画は厳しい。そのため、具体的な内容を確認するために深堀の質問をしてみる。それでも、具体的な悩みや課題が出てこないことがある。そうなると、そもそも人材開発戦略があるのだろうかと不安を感じてしまう。明確な回答が返ってくるのは2割に満たない印象がある。

日本企業の強い横並び主義の特徴が、研修にもしっかりと出ている感じがある。各個人の力量分析が不明瞭のままでは、研修のコンテンツもその実施後の成果も測りにくい。このような企業は、悪い言い方かもしれないが、外部の研修ベンダーの餌食になっているのではないかと不安を覚える。

研修ベンダーの言いなりにならないために

コンピテンシーの人材開発がされているか

経営戦略を長期に渡って継続的に実現してくためには、各現場の管理職は、タレントマネジメント(人財マネジメント)を必死に行うことが求められる。すなわち、新たな“人を動かす”手法のマネジメントを行い、目標達成が求められているのだ。

タレントマネジメントでいう能力とは、顕在能力(スキル、コンピテンシー)と潜在能力(将来に顕在化する能力)の両方を意味している。そして、タレントマネジメントにおける人材育成は、教育と研修を明確に分けている。研修は「わかる」レベルから、「できる」レベルをめざすのは当たり前だが、「できる」レベルも現場で長い時間をかけて育成するのではなく、研修にアクションラーニングやロールプレイ、ビジネスゲームなどを多く取り入れ、いったんは、即効レベルを習得する。「できる」レベルとは実践で使える、という意味である。1回の研修でこの「できる」レベルを習得するのは困難な場合も多いため、現場の管理職との強力で綿密なコミュニケーションが必要となる。習得する能力は、必ず実践に必要なものなので、コンピテンシーの定義と連動していなければならない。

コンピテンシーとは、「特定の職務において高い業績を継続的に上げている社員に固有に見られる行動特性」のことを意味している。もっと簡単に言うと「できる社員の行動ノウハウ」、あるいは「優秀な社員の行動パターン」と理解してもいいだろう。このコンピテンシーを明文化させ、共有化させることで、従業員はどのコンピテンシーを優先的に習得しなければならないのか、その理解が容易となる。
社内の有能なできる社員のコンピテンシーを全従業員が理解し、それを習得することにより、多くの従業員ができる社員になれる、というものである。

客観的なコンピテンシー診断の勧め

人事戦略、とりわけ人材開発戦略には、従業員の力量(能力とその度合い)分析は必須ではないだろうか。従業員の能力の棚卸しをし、現状を知らなければならない。あわせて経営戦略、組織戦略も“ひと”の側面で分析をする必要がある。

部門戦略は基本的には1年単位が多い。一方、経営戦略は3年から5年という範囲が多い。もちろん、部門戦略も中期計画があるし、経営戦略も期ごとのものもある。言葉の違いはあるものの、本質的には、コンピテンシーの種類により習得の難易度があることを理解しておく必要がある。さらに、難易度の高いコンピテンシーは、研修ではなく外部調達(キャリア社員の採用、外部専門機関に委託など)の選択もある。これらのコンピテンシー別の育成検討が必要となる。そして、実際の社内の従業員の力量分析、とりわけコンピテンシーのアセスメントにより、各個人のコンピテンシーの力量が分析できる。

客観的な診断結果から、経営陣も人事部も現場の管理職、さらには本人自身も現状の力量を理解することができる。経営陣と人事部はさらに、研修効果のあるコンピテンシーの習得の具現化策、習得が困難なコンピテンシーに対する対応策を講じて、人材開発戦略に組み込む内容と、採用戦略に組み込む内容を明文化させる必要がある。

人材開発の第一歩は、コンピテンシー診断を行うことである。診断結果から、客観的に現状を知ることができる。誰に何が足らないのか、役職別、職種別に分析し、経営戦略のインパクトにおける課題を的確に把握する。その対策の要因に人材開発がある。それと同時に従業員別の強みを活かした適材適所の戦略的な配置がタレントマネジメントなのである。さらに、“人を動かす”新たな3つの要素である個人の成長感、達成感、満足感をタレントマネジメントでは重要視している。

執筆者プロフィール

鬼本 昌樹

鬼本 昌樹戦略人財コンサルタント 代表

京都大学理学部、カルフォルニア州立大学ロングビーチ校理学部卒。
日本オラクル、GEキャピタル、米国ニューバランスにて、人事部長、経営企画部長、人事役員、取締役副社長を経験。強い企業を作る人材の活性化、人事部の役割の高度化で貢献する。
現在、人材活性マネジメント、労働生産性、人事部の戦略的役割への変革支援を経営人事コンサルタントとしておこなっている。
タレントマネジメントは10年以上の実績を持つ。
社会保険労務士、ファシリテーター(米国資格)、行動心理学(米国資格)