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人事・総務コラム 戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏・第7回第1回目:デジタルトランスフォーメーションの本質を知らなければ変革はできない コラム執筆者:戦略人財コンサルタント 鬼本 昌樹氏  掲載日:2019年11月28日

日本企業における「デジタルトランスフォーメーション時代における人事の価値」をコンセプトに、全3回で解説してまいります。

筆者の仕事は、経営における人事コンサルティングの支援です。経営に最も近い場所で、経営資源の一つである“ヒト”におけるコンサルティング活動を行っています。顧客の7割が米国企業です。そのため、米国企業と日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みの違いをハダで感じています。しかも、その取り組みを比較すると、違いの大きさだけでなく、変革への対応の遅れも感じます。企業を取巻く外部環境の変化とデジタル技術による“脅威”に対する対策の違いと遅れは、危機的であると感じています。

日本企業の場合は、デジタル技術に対する大きな期待、淡い期待も感じながら、デジタル技術の導入は加速しているようです。しかし、その導入が目的になってしまう企業も少なくありません。本質的には導入後の先にある、技術を応用した「事業の継続的な経済成長」のためのビジネス・モデルを描く、「労働生産性の抜本的な見直し」を行い、将来の「ありたい姿の働き方」を描き、変革を起こして具現化させることが本質的な目的となります。

人事部は、このDX時代における企業の未来構想に対して、人事として何を使命として果たさなければならないか、DX時代における人事の価値とは何か、を明確にする、その分岐点にいると思います。
第1回目では、DXの本質と現状をまず理解して、第2回目、第3回目で人事における導入事例や導入効果、成功要因などを紹介してまいります。

変革できなければ破綻!?

今日、グローバル規模で、DXに乗り遅れている、対策が不十分な企業は、容赦なく破綻に向かっているように思えます。
今まで欧米優良企業500社(Fortune 500)と言われた企業が、この10年未満でゲームチェンジが相次いでいます。例えば、カジュアル衣料の米国フォーエバー21社が2019年9月29日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請し経営破綻し、ニュースになりました。昨年では、米国トイザらス社 (Toys“R”Us)も、2018年3月15日に経営破綻しました。もっと古いニュースでは、全米DVDレンタル業のトップだった米国ラジオシャック社も2015年2月5日に経営破綻しました。ゲームチェンジして台頭したのが、米国アマゾン社や米国ネットフリックス社などです。破綻したいずれの企業も、全米を代表する優良企業と言われていました。“強み”がいつの間にか“弱み”に変わってもそれに対処できなかった様子がうかがえます。
「デジタル化の対応」と、「デジタル技術を活かした新たな価値を創造するビジネス・モデルを構築する対応」は、別物です。この大きな違いを知っておく必要があります。

日本企業においては、特に、上場企業の一部のグローバル企業を中心に、2016年ごろからデジタル技術を使ってビジネス・モデルの改革に取り掛かっています。それを具現化させる組織として、例えば、デジタル企画部やデジタル推進部なども設置されています。配属・異動、採用活動も倍々に活発になっています。
人事部は、この採用と登用、適材適所のタイムリーな異動、昇格、教育研修など、全社のみならず、連結子会社も含めた対応が求められるようになりました。

DXとは何か

DXによる企業の内部・外部環境を見てきました。そもそもDXの言葉の定義を理解しておきます。
英語では、Digital Transformationと表記します。Digitalは、デジタルです。Transformationとは、改革/変革を意味します。DXの定義は、実は、多種あります。その中でも、経済産業省が2018年に定義している内容を紹介します。
『企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること』(出典:「ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開」経済産業省
何度も読み返してみないと理解は深まらないと思います。要は、DXの本質は、デジタル技術を活用して、新たな価値を生み出すための変革です。新たな価値で仕事をする働く人たちの意識や働き方の変革も必要であることを言っています。

もっと理解を深めるために、米国マッケンジー社が2012年に定義しているものを紹介します。オリジナルの英語表記を載せています。

  • ●Creating value at the new frontiers of the business world(ビジネスの世界における新しい最先端技術で価値を創造する)最先端技術とは、①モバイル技術、②ソーシャル技術、③ビッグデータ技術、④クラウト技術を言う。
  • ●Optimizing the processes that directly affect the customer experience(カスタマーエクスペリエンスに直接影響を与えるプロセスを最適化する)カスタマーエクスペリエンスとは、顧客が商品やサービスを利用・体験することによって得られる価値を重要視した手法を言う。
  • ●Building foundational capabilities that support the entire overall business initiative(全体的なビジネスへの新たな取り組みをサポートする基本的な能力を構築する)基本的な能力とは、DXをマネジメントする能力を言う。

日本において、初めてデジタルトランスフォーメーションが記事になったのは、筆者が調べる限り、2015年11月12日の日経新聞でした。そこで記載されたDXの補足説明として、“デジタル化による事業変革”とありました。
一方、米国においては、2000年に、米国KPMG社のコンサルタントであり役員のKeyur Patel氏が、その著者「Digital Transformation: The Essentials of E-Business Leadership」で紹介しています。1999年にも論文発表でカスタムエクスペリエンスを具現化する必要性を、DXで紹介しています。日本は米国より15年の差があります。

DXの現状と将来

DXを具現化するためには、代表的なデジタル技術を知っておく必要があります。

  • ●AI (Artificial Intelligence:人工知能)
  • ●RPA (Robotic Process Automation:ロボティック・プロセス・オートメーション)
  • ●IoT (Internet of Things:モノのインターネット)
  • ●SaaS (Software as a Service:サース)
  • ●クラウドコンピューティング (Cloud Computing)
  • ●ビッグデータ (Big Data)
  • ●ブロックチェーン(Blockchain)
  • ●イーラーニング(e-Learning)
  • ●タレントマネジメント(Talent Management)

日本企業においても、人事業務のRPA化や、AIを利用したタレントマネジメントの導入も進んできました。2018年5月に、経済産業省は有識者を集め「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置しました。さらに、同年にDXレポートやガイドラインを発表し、その注目度は徐々に拡大しています。参画企業の取り組みも紹介しています。

DXの将来において、これまでの優良企業がゲームチェンジして新興企業によって、逆転し始めています。例えば、銀行です。これまで銀行の最大の強みとも言われている与信機能や送金機能などがあります。与信では、独自の分析手法などを持っており、聖域とまで言われていた強みの業務です。近年、フィンテックが加速し、AIやブロックチェーンを使って、顧客はもはや銀行を当てにしなくても同じような機能やサービスが、新興企業のサービスによって実現されてきました。
フィンテックはほんの一例です。業界・業種を問わず、企業にとって、最大の課題はトランスフォーメーションです。先延ばしできない課題です。時間も手間もかかる取り組みです。組織やビジネス・モデルをどのように抜本的に変える必要があるのか、という課題に取り組まなければ事業の将来は厳しくなるかもしれません。

DXで何が変わるのか

DXの時代では、最新のデジタル技術によって、あらゆる業種においてこれまで存在していない新たな価値を提供する商品・製品やサービス、コミュニケーション、ビジネス・モデル、ソリューションが登場してきています。これを提供する新興企業や新規参入企業も、国や業界、業種を超えていろいろな世界から続々と登場しています。今後は、もっと加速的に登場すると言われています。

顧客の価値観も時代と共に、世代と共に、変化しています。身近な例では、“所有”することに価値を感じていた世代から、“利用”に価値を感じる世代への変化があげられます。車社会である米国でも、また、日本においても、大きな社会現象が起こっています。車そのものに魅力を持ち、その所有に価値を持っている世代は減少傾向にあります。“利用”に価値を持つ世代にパラダイムシフトが加速しています。カーシェアリングはそのような価値を持つニーズと、それを具現化させるデジタル技術によって一気に拡大しました。
2019年10月24日の日経新聞朝刊の第一面でも、ソフトバンク社がシェアーオフィスの米国ウィーワーク社(WeWork)に対して1兆円の事業投資を発表しました。同じ一面には、米国グーグル社が量子コンピュータを開発し、IBMのスーパーコンピュータと比較したAIの優位性の実験結果を発表しました。

技術革新は分針秒歩の世界です。装置やインフラ、アプリケーションを“所有”するより、“利用”するサービスにゲームチェンジが始まっています。新たな価値に対応するビジネスを実現するために、デジタル技術と“ヒト”は不可欠です。“ヒト”において人事部の果たす新たな役割、人事部の新たな働き方が求められます。

次回は、「DX時代における人事の働き方はどのように変わるのか」を紹介します。

執筆者プロフィール

鬼本 昌樹

鬼本 昌樹戦略人財コンサルタント 代表

京都大学理学部、カルフォルニア州立大学ロングビーチ校理学部卒。
日本オラクル、GEキャピタル、米国ニューバランスにて、人事部長、経営企画部長、人事役員、取締役副社長を経験。強い企業を作る人材の活性化、人事部の役割の高度化で貢献する。
現在、人材活性マネジメント、労働生産性、人事部の戦略的役割への変革支援を経営人事コンサルタントとしておこなっている。
タレントマネジメントは10年以上の実績を持つ。
中小企業診断士、社会保険労務士、ファシリテーター(米国資格)、行動心理学(米国資格)