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人事コラム 前田 良平氏・第1回新型コロナが変えた ―中小企業でもテレワークが浸透、働き方の未来が見えたコラム執筆者:前田 良平氏  掲載日:2020年8月18日

新型コロナウイルスは、いろいろな意味で社会を一変させた。特に人の移動が制限され、経済活動の停滞を余儀なくされたことは、この社会のもろさを見事に衝かれた形だ。しかしながら、災い転じて福となす、この災禍が未来への変革の恰好のきっかけとなる可能性も見えてきた。そのことを考えたい。

これまで先進国内で最低と言われてきた日本のホワイトカラーの生産性だが、その対策として「テレワーク」の有効性は以前から言われてきたものの、一部の大企業や先進的なITベンチャーなどの取り組みにとどまってきた。オフィスの分散やIT環境の整備にコストがかかる一方で、その実行性が今一判然とせず、実際の商慣習や社会様式の厚い壁にも阻まれ大々的な導入や改革には程遠い状況が続いてきた。それが今回の新型コロナによって、有無を言わさず「テレワーク」、在宅やサテライトオフィスでの勤務が、強制的にさまざまな職種で実施される結果となった。東京商工会議所が今年5月末から6月初めにかけて行った調査によると、テレワークの実施率は、従業員300人以上の企業では90%に達し、300人未満100人以上が77%、30人未満でも45%の実施率となっているそうだ。問題は、これが単なる感染症からの一時避難となるのか、未来への変革のきっかけとなるのか、ということだ。

新型コロナが変えた ―中小企業でもテレワークが浸透、働き方の未来が見えた

私が顧問を務める会社での事例を紹介したい。従業員約100名超のまさに中小企業だが、社長の英断により感染症リスクが健在化した時点で、東京本社はもとより地方の拠点も含め、全員テレワーク・在宅勤務の実施を決定。わずか数週間後には、一部の経理・総務担当が事務所の留守番もかねて出社する以外は、完全テレワークを実現した。

短期に実現できた背景には、以前からITインフラの整備に力を入れ、基幹業務システムはもちろん、勤怠管理や工数管理、ワークフローによる決済、グループウェアの活用、FAXのデータ処理などが進められていて、ほとんどの事がネット上で完結できるように構築が済んでいたことが大きかった。営業、技術、事務部門のほとんどはノートパソコンをベースとし、保守部門はタブレット型パソコンを導入済みであった。一部の顧客管理部門がデスクトップ型であったが、これはそのままパソコンを自宅に移すことにした。自宅にネット環境のない者には、無線LANを貸与した。まったくやればできる、である。当然すべての会議は、オンライン、リモート参加に切り替えた。その結果起こったことは、想像以上だ。

時間ロスの軽減

例えば会議開催の都度、会議室を探し、参加者の時間を調整し、会議室に全員物理的に集まるのを待つ、ということがなくなり、当然打ち合わせのための移動時間もない。結果、出席率が向上、地方からの参加も増えた。オンライン会議をスムーズに行うため、皆電子ファイルで事前準備をするようになり、タイムマネジメントも良くなった。

全員のITリテラシーを一気に底上げ

すべてがネット環境になることで、否応なしにITツールに慣れることとなり、全員のITリテラシーが向上することになった。外部とのコミュニケーションも積極的にオンライン、リモート実施を提案できるようになり、コロナ禍でも多くの商談を日本全国に対してテレワークで進めることができている。この経験は、今後の営業活動、外部コミュニケーションに大変なインパクトになる。

お付き合い残業の解消

従来、横にいる先輩が残業していると帰りにくかったり、周囲から話しかけられたりして仕事を中断することも往々にしてあっただろう。テレワークは、周囲の人の目を気にすることなく自分の業務に集中できる。また、会社帰りの飲み会がなくなったことを寂しく思うお父さんも多いかもしれないが、単なるお付き合いでの飲みニケーションは、真の職場コミュニケーションにはなり得ない。家族や友人との時間を犠牲にしてきた日本のサラリーマンが、自らのワークライフバランスを考えより健全になれる、ということではないだろうか。

通勤からの解放

特に都市圏で公共交通機関を利用して通勤する人は、人ごみのなかでの感染リスクを抱えながら長時間を密閉空間で過ごすことになる。もともと、長時間の通勤にはストレスも大きく、人生の貴重な時間を有効に活用しているとは言えなかった。テレワークで在宅勤務をすれば、これが一気にゼロになる。また、先般の東日本大震災では、東京の街は帰宅難民で溢れた。実際に関東地方で大地震などの災害があれば、この時以上の惨事となることが懸念される。そうしたBCPの観点からも、テレワークすることのメリットは計り知れない。

子育てや介護支援

在宅勤務は、子育てや介護が必要な家庭にとっては、いろいろな意味でフレキシブルな対応を可能にする。在宅勤務ですべてが解決されるわけではないが、家にいることによる安心感は計り知れないし、そうした制約のある人にも就労の機会を増やすことは間違いないだろう。

具体的な経営数字としての成果も上がっている。テレワーク実施以降の単純な経費削減だけ見ても、新型コロナによる経済停滞の影響と思われる部分を除いて、前年比で実質3割程度となっていて、大変な効果である。

もちろん課題もある。完全テレワークの実施数力月後に行ったヒアリングでは、テレワーク自体の継続実施に否定的な意見はなかった(このこと自体が有効性を物語っている)が、問題も挙げられた。実際日本の住宅はテレワークを想定した住居設計がされていないので、仕事用の書斎を持っているような人は稀だろう。小さなお子さんがいれば、気を取られて集中できないし、家族にとっても24時間一緒にいるのは、時としてストレスの原因となる。逆にコミュニケーションの相手が側にいないことによる、漠然とした不安を口にする者。同じ場所にいないことで業務をうまく分散できなかったり、さまざまな手続きに紙とハンコが残っていて、そのための出社が避けられない、等々。今後の改善は必要だが、いずれも大きな変化への適応の問題であり、得られるメリットを打ち消すものではない。

会社は、新型コロナの自粛要請解除後もテレワークの継続を決め、継続実施中である。ただし、完全テレワークではなく、各部門がそれぞれの業務の特性を考えながらルールを決め、後は自主性にまかせる選択的テレワークとしている。

事務所に出社をする必要がなく、顧客ともオンラインで常に話ができるとなると、勤務地がそれほど重要ではなくなり、人数分のオフィスフロアを確保する必要もない。リクルートの考え方も根本から変わるだろう。そうなると、東京一極集中にメスが入る可能性や、地方活性化へも良い影響があるはずだ。さらには、日本人にとっての豊かさ、QOLの再考ということにもつながるだろう。

私は、機動力が求められる中小企業にこそテレワークは向いていて、その恩恵をすぐに受けられると感じている。ITサービスは、今や初期投資のいらない使い勝手の良いクラウド型サービスが充実していて、すぐにも活用可能である。また国や自治体も、中小企業のテレワークの導入へ助成金を用意して、積極的に後押ししている。

新型コロナをただの災禍として過ぎるのを待つか、これを千載一遇のチャンスとして日本の未来を見据えた改革のトリガーとするか、経営者の決断が求められている。

BCP: Business Continuity Planning
QOL: Quality Of Life。

執筆者プロフィール

前田 良平

前田 良平Value Business Creation 代表

(略歴)
1957年生まれ
1979年早稲田大学理工学部機械工学科卒業、NEC社入社
1989年米国Purdue大学IE学科修士課程修了
NECにて生産技術、事業計画部門等を幅広く経験。その後、米国系日本法人(製造業)2社で社長を15年務める。
現在、日本ボールドウィン社顧問を務めると共にValue Business Creation 代表として、主に中小企業の経営ならびに人材育成コンサルタントとしても活動。

日本印刷産業機械工業会 理事
東京労働福祉協会 理事
DiSCコミュニケーション認定トレーナー