人事・総務コラム 村松 鋭士氏・第1回働き方改革法の「同一労働同一賃金の原則」の概要と注意事項コラム執筆者:村松 鋭士氏 掲載日:2021年5月28日
2020年4月から「同一労働同一賃金」制度が始まりました。
中小企業の場合は、2021年の4月から開始され、「正社員と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指すのもの」とされています。
「同一労働同一賃金」制度の概要と企業の人事労務担当者で対応にあたり、注意しなければならない事項を紹介します。

「同一労働同一賃金」制度の概要 ~理想と現実のギャップ~
2018年6月に働き方改革関連法が成立し、その中で非正規労働者がその仕事ぶりや能力を適正に評価され、意欲をもって働けるよう、正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指し導入されたのが同一労働同一賃金です。
また、2020年4月に労働契約法とパートタイム労働法が改正・統合され、パートタイム・有期雇用労働法として新法が施行されています(中小企業は猶予期間があり2021年4月から適用)。そのため企業は、同一労働同一賃金を検討する際、パートタイム・有期雇用労働法に則った対応が不可欠となります。
新法のパートタイム・有期雇用労働法(以下、パート有期法)で、企業が対応しないといけないポイントが大きく分けて3つあります。
- ① 不合理な待遇差の禁止(パート有期法8条)
正社員と非正規雇用労働者の間で、基本給や賞与、その他の待遇について待遇の性質・目的に照らして不合理な待遇の相違を禁止しています。 - ② 待遇の説明義務(パート有期法14条)
非正規雇用労働者を雇用した時や説明を求められた時は、企業は正社員との間の待遇差の内容や理由について説明する義務があります。 - ③ 行政による実行確保措置の整備と紛争解決手段の整備(パート有期法18条、23~25条)
パート有期法を企業に遵守させる手段として、行政による助言、指導、勧告や紛争における行政ADRの手続き(紛争解決の援助、調停)の利用を定める規定が整備されています。
多くの企業においては正社員と非正規雇用労働者を雇用するケースがありますが、今まで何となくパートだから、有期雇用労働者だからという雇用形態の違いによる理由で、正社員と賃金や福利厚生で差をつけていた場合、今後はそれらの差はどうしてあるのかを明確にし、説明できる状態にしていかないといけないということになります。正社員ではないのだから差があっても当然でしょ、という考えは危険であるということです。パート有期法や厚生労働省が出している「同一労働同一賃金のガイドライン」を参考にしながら、企業の求める理想の合理的な待遇差の設定とパート有期法などで定めている同一労働同一賃金の対応の現実とのギャップをしっかり比較検討することは、今後、企業にとって必至といえます。
不合理な待遇差の具体的な中身
では、現実とのギャップとして、同一労働同一賃金でいう正社員と非正規雇用労働者との待遇差において、どういったことが不合理となってしまうのかを見ていきます。
厚生労働省の同一労働同一賃金のガイドラインでも明記がありますが、正社員と非正規雇用労働者との間で賃金に相違がある場合において、その要因として賃金の決定基準・ルールの違いがあるときは 、「正社員と非正規雇用労働者は将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」という主観的・抽象的説明ではなく、賃金の決定基準・ルールの相違は、 ①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情 の客観的・具体的な実態に照らして、不合理なものであってはならない、とうたっています。この3つの具体的な中身は以下のようになっています。
- ① 職務内容
職務内容は、「業務内容」+「責任の程度」の2つから構成されています。業務内容は、例えば営業職や経理職などをいい、責任の程度は、権限や求められる成果、トラブルの対応、ノルマなどです。同じ業務をしていても求められる責任の程度が違うということを明確にしておくことが重要なポイントとなります。 - ② 職務内容・配置の変更範囲
転勤の有無や範囲(全国、エリア限定など)、人事異動による配置転換の有無、昇格などの企業における人材活用の仕組が違う場合は合理性があると考えます。 - ③ その他の事情
職務の成果、能力、経験や労働組合との労使交渉の経緯、定年後の継続雇用、正社員登用制度の有無なども待遇差の判断要素となります。
つまりは、同じ業務をしていても上記の3つのポイントに照らして待遇差の理由付けをしっかり行っていれば、正社員と非正規雇用労働者との間で待遇の差を設けていても、その待遇差は許容されるということになります。
続いて、具体的に基本給や賞与、手当をピックアップし、待遇差に関して問題となる例と問題にならない例を表にしましたので、待遇差の許容範囲を検討する際の参考としてみてください。
問題とならない例 | 問題となる例 | |
---|---|---|
基本給 | A社においては、同一の職場で同一の業務に従事している有期雇用労働者であるXとYのうち、能力又は経験が一定の水準を満たしたYを定期的に職務の内容及び勤務地に変更がある通常の労働者として登用し、その後、職務の内容や勤務地に変更があることを理由に、Xに比べ基本給を高く支給している。 | 基本給について、労働者の能力又は経験に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXが有期雇用労働者であるYに比べて多くの経験を有することを理由として、Xに対し、Yよりも基本給を高く支給しているが、Xのこれまでの経験はXの現在の業務に関連性を持たない。 |
賞与 | A社においては、通常の労働者であるXは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っており、当該目標値を達成していない場合、待遇上の不利益を課されている。その一方で、通常の労働者であるYや、有期雇用労働者であるZは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っておらず、当該目標値を達成していない場合にも、待遇上の不利益を課されていない。A社は、Xに対しては、賞与を支給しているが、YやZに対しては、待遇上の不利益を課していないこととの見合いの範囲内で、賞与を支給していない。 | 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。 |
手当 | 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く短時間労働者であるYに、所定労働時間に比例した役職手当(例えば、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者にあっては、通常の労働者の半分の役職手当)を支給している。 | 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く有期雇用労働者であるYに、Xに比べ役職手当を低く支給している。 |
企業の対応手順
上記の基本給や賞与、手当の問題となる例・ならない例にあるように、問題があるのかどうか比較検討するためには、企業において支給している賃金を一つひとつ洗い出し、点検することが必要となります。
厚生労働省では、賃金を含め待遇差の点検の手順書として「パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書」や「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(業界共通編)」を点検用に案内していますので、是非活用してみてください。
企業の対応としては、①雇用形態(正社員、パートなど)ごとの賃金の洗い出し②雇用形態ごとの賃金額、支給基準などの確認③待遇差がある場合の妥当性の検証と待遇差の是正④待遇差の説明ができるよう一覧化する、といったような手順が理想的です。
点検はとても大変なことではありますが、企業内における非正規雇用労働者の活躍機会の創出という面もありますので、前向きな取り組みとして同一労働同一賃金への対応をしてみてはいかがでしょうか。