人事・総務コラム 村松 鋭士氏・第3回社会保険電子申請義務化から1年、更改が進むe-Govでの電子申請などで何ができるのか?コラム執筆者:村松 鋭士氏 掲載日:2021年9月10日
2020年4月から特定の法人において社会保険電子申請義務化がスタートしました。義務化された背景には、主として行政手続きの作業削減を目的としており、社会保険や労働保険などの一部の手続きのオンライン申請を義務化した新しい申請ルールです。
現在、義務化され1年が経ちますが、e-Govを始めgBiz-IDなどポータルサイトが充実してきましたので、義務化された企業以外も活用の検討をはじめてみてはいかがでしょうか。

社会保険電子申請義務化と届出の種類
2020年4月から資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人などは社会保険の手続きに関して、電子申請が義務化されました。一方で、対象ではない企業は、引き続き紙での申請が可能ですので、ご安心ください。ただし、電子申請は事務作業時間の短縮化が図れますので、現状を把握しておくと良いでしょう。
特定の法人において、義務化された電子申請の種類は、以下の通りとなります。
○健康保険・厚生年金保険
- 健康保険・厚生年金保険被保険者 報酬月額算定基礎届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者 報酬月額変更届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者 賞与支払届
○雇用保険
- 被保険者資格取得届
- 被保険者資格喪失届
- 被保険者転勤届
- 高年齢雇用継続給付支給申請
- 育児休業給付金支給申請
○労働保険
継続事業(一括有期事業を含む)を行う事業主が提出する以下の申告書
- 年度更新に関する申告書(概算保険料申告書、確定保険料申告書、一般拠出⾦申告書)
- 増加概算保険料申告書
以上のこれらの手続きは、必ず電子申請で処理する必要がありますのでご留意ください。
e-Gov電子申請の準備について
電子申請の義務化により対象となった企業は、基本的にe-Gov電子申請を利用して、上記の種類の届出を電子申請します。e-Govとは、政府の行政情報ポータルとしてさまざまな情報を発信しているサイトで、その中に電子申請のサービスがあります。e-Gov電子申請を利用するには、基本的に電子証明書が必要となります。ただし、gBiz-ID(ジービズ-アイディ)のアカウントがある場合は電子証明書が不要となります。
電子証明書は、ICカード形式とファイル形式の2つがあり、ICカード形式は、マイナンバーカードを活用する方法で、ファイル形式は法務省のサイトから商業登記電子認証ソフトをパソコンにインストールしてから電子証明書の発行に必要なファイルを作成し、会社の管轄登記所に発行申請して電子証明書をもらうことで活用できる方法です。
電子証明書が準備できたら、e-Gov電子申請をするためのe-Govアカウントを準備します(gBiz-IDアカウントとは別となります)。e-Govサービス共通で利用できるアカウントで、e-Govサイトで仮登録からはじめてアカウント設定をします。アカウントの準備ができたら、パソコンのポップアップロックの解除や許可するWeb サイトのアドレスにe-Gov を追加し、信頼済みサイトへの登録などブラウザの設定確認をして、最後にe-Gov電子申請アプリケーション(ウィンドウズ版とマック版があります)をインストールして準備は完了となります。
e-Gov電子申請をする際には、インストールしたアプリケーションを毎回、起動させて利用することとなります。なお、アプリケーションを起動するとe-Govアカウントのログイン画面が出てきますが、同画面で他のアカウントでログインできるものとしてgBiz-IDアカウントでのログインボタンも出てきますので、gBiz-IDの方は、そちらからログインすることも可能です。
電子申請義務化と行政情報ポータルサイト「e-Gov」の利用における準備などの情報は、こちらのページでもまとめております。ぜひご覧ください。
電子申請義務化とは?2020年から開始した各種手続きと申請方法を解説
e-GovとgBiz-IDの違いと手続き範囲について
社会保険の電子申請は、主にe-GovとgBiz-IDのそれぞれのアカウントから利用できますが、e-Govに比べるとgBiz-IDのほうが、電子申請できる対象範囲が少ないです。特に社会保険については、gBiz-IDで申請できない手続きが多いです(以下のリンク、参照)。
■日本年金機構:社会保険の電子申請対象申請書等一覧表(令和3年7月1日現在)
とはいえ、gBiz-IDは電子証明書が不要なため、電子申請を気軽に始めるには、e-Govに比べ、ハードルは低いといえます。gBiz-IDのアカウントを取得して、頻度が高く主要な手続きの取得・喪失手続きなどの申請だけでも活用するのも電子申請未経験者には良いかと思います
e-Govで電子申請ができる手続きの種類
e-Govで電子申請ができる各保険関係の手続きで、主なものを以下にピックアップしました。
○電子申請ができる社会保険関係手続き(主なもの)
- ①健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- ②健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届
- ③健康保険被扶養者(異動)・国民年金第3号被保険者関係届
- ④健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届
- ⑤厚生年金保険70歳以上被用者月額変更届
- ⑥健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届
- ⑦厚生年金保険70歳以上被用者賞与支払届
- ⑧健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者申出書
- ⑨健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者終了届
- ⑩健康保険厚生年金保険産前産後休業取得者申出書
- ⑪健康保険厚生年金保険産前産後休業取得者変更(終了)届
- ⑫健康保険・厚生年金保険賞与不支給報告書
- ⑬健康保険・厚生年金保険事業所関係変更(訂正)届
- ⑭厚生年金保険(船員)被保険者住所変更届
- ⑮厚生年金保険(船員)70歳以上被用者該当・不該当届
- ⑯健康保険・厚生年金保険被保険者氏名変更(訂正)届、船員保険・厚生年金保険被保険者氏名変更訂正届
- ⑰健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届
- ⑱厚生年金保険70歳以上被用者算定基礎届
- ⑲国民年金・厚生年金保険老齢給付裁定請求書(厚生年金保険)
- ⑳国民年金・厚生年金保険老齢給付裁定請求書(国民年金)
- ㉑健康保険・厚生年金保険被保険者生年月日訂正届
- ㉒国民年金・厚生年金保険老齢基礎・厚生年金裁定請求書(65歳支給)(厚生年金保険)
- ㉓国民年金・厚生年金保険老齢基礎・厚生年金裁定請求書(65歳支給)(国民年金)
- ㉔年金手帳再交付申請書(厚生年金保険)(国民年金)
○電子申請ができる雇用保険関係手続き(主なもの)
- ①雇用保険適用除外申請書
- ②雇用保険被保険者資格取得届
- ③雇用保険被保険者資格喪失届
- ④雇用保険被保険者証の再交付の申請
- ⑤雇用保険被保険者転勤届
- ⑥雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書/所定労働時間短縮開始時賃金証明書の提出
- ⑦雇用保険の事業所設置の届出
- ⑧雇用保険の事業所廃止の届出
- ⑨雇用保険の事業所の各種変更の届出
- ⑩雇用保険被保険者関係届出事務等代理人選任・解任届
- ⑪雇用保険受給資格者氏名・住所変更届
- ⑫高年齢雇用継続基本給付の申請
- ⑬雇用保険高年齢雇用継続給付(高年齢再就職給付金)の申請
- ⑭雇用保険育児休業給付(育児休業給付金)の申請
- ⑮雇用保険介護休業給付(介護休業給付金)の申請
- ⑯雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書の提出及び高年齢雇用継続給付受給資格確認
- ⑰雇用保険被保険者離職票の再交付の申請
- ⑱受給期間・教育訓練給付適用対象期間・高年齢雇用継続給付延長申請
- ⑲個人番号登録・変更届
○電子申請ができる労働保険関係手続き(主なもの)
- ①労働保険保険関係消滅
- ②労働保険継続事業一括認可申請(新規ほか)
- ③労働保険概算保険料の申告(継続ほか)
- ④労働保険増加概算保険料の申告(継続ほか)
- ⑤労働保険確定保険料の申告(継続ほか)
- ⑥労働保険年度更新申告(継続ほか)
- ⑦労働保険事務処理委託解除
- ⑧労働保険口座振替納付書送付依頼(新規ほか)
- ⑨労働保険保険関係成立(継続ほか)
- ⑩労働保険任意加入
- ⑪労働保険下請負人を事業主とする認可
- ⑫労働保険名称、所在地変更
- ⑬労働保険代理人選任・解任
- ⑭労働保険指定事業の変更
- ⑮労働保険被一括事業の名称等変更
- ⑯労働保険料の還付請求
- ⑰労働保険事務組合報奨金交付
電子申請の利便性はますます向上が期待できる
話はまたe-Govに戻りますが、e-Govなどの電子申請を利用するにあたり、e-Govのポータルサイトから直接電子申請をするのが基本の姿ですが、最近では労務会計ソフトウェアなどに入力してあるデータからそのまま電子申請ができるe-Gov外部連携API(Application Programming Interface)に対応したソフトウェアが多く出ていますので、より効率的に電子申請をすることができます。
電子申請が義務化された特定企業(資本金1億円超えなど)は、社員数も多く申請数も多いと思いますのでAPI対応ソフトウェアによるe-Gov電子申請で効率良く管理・運用し、申請の機会がさほどない場合の零細・中小企業はgBiz-IDで電子申請の活用をスタートしてみるのが良いでしょう。
また、電子申請を活用すると返戻の決定通知書などはすべてデータで届きますので、そのままデータ保管ができるため、紙での保管が不要になってきます。かさばる紙の保管の悩みも消え(オフィスのスマート化)、また書面が紛失した際もデータから再出力できますので、メリットはかなり高いです。
昨今は、デジタル・ガバメント(電子政府)により官民協同でサービス設計12箇条を出しており、行政手続きのデジタル化、利用者の利便性の向上を目指したワンストップサービスの推進、行政間でのサービス連携など、電子申請の利便性はますます上がっていきますので、発展途上ではありますが、今からe-Govなどの電子申請を一部分でも良いので活用をスタートしてみるといいでしょう。
執筆者プロフィール
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