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RPAコラム(会計部門) 池邉 竜一氏・第4回デジタルレイバーがコケる日コラム執筆者:池邉 竜一氏  掲載日:2019年7月22日

思考停止の原因は「顧客ファースト」から!?

管理部門の業務は、時として、法律上のルール変更に即応しなければならない必要性に迫られる特性がある。そして、その対応においては、時間的制約のもと、つい「仕方がない」「いいからやれ」というような業務の指示が出やすいことは憂慮すべき点である。

もちろん法律に従うことやその先にいる顧客が“最優先”であり「仕方がない」ことなので、「やれ」という号令に対して、皆その対応に取り組む。しかし、これが連発されると、さすがに何を言っても「ムダ」という意識が根付いてくる。それがさらに強化されていくと常に前例、原則に基づいた規則主義が王道となる。すなわち、次にくる「やれ」に対して受け身の態勢となる。そして、いつしか自ら業務の「改善」に着手する発想・意欲は枯れていく。

一方で、世間の話題に耳を傾けてみると、まさにデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せている。AI、IOT、RPA、ビッグデータを活用した統計解析など、デジタルレイバーと協働した業務改革の取り組み事例や成功事例は、コスト削減のネタを探している担当者にとっては、とても魅力的で心躍る話に見える。

デジタルレイバーがコケる日

デジタルレイバーがコケる日

そこに人手不足の話題が加われば、デジタルレイバーを活用した業務の自動化について、興味が湧いてくるのは自然のながれといえる。

しかし、ここで気が付いてほしいのは、これまで自ら「改善」活動を行っていない受け身の職場がデジタルレイバーの導入を検討し始めたら、どんな問題が起きるのかということだ。

業務の「改善」を積極的に行ったことがない職場に突然「改善」を迫ることは、スポーツに例えるならば、一度もゴルフをしたことがない人をゴルフ場に連れ出して、いきなり90切りのスコア目標を掲げさせ、その目標に向かって、すぐさまラウンドに向かうようなものである。もちろん、初めから出来ないと決めつけてしまうことは失礼かもしれないが、かなりハードルが高い挑戦であることは間違いない。

デジタルレイバーを味方につけるには

やはり、「仕方がない・いいからやれ」の呪縛による負の連鎖を断ち、「業務改善の意欲」を解き放つ意識改革から始めなければ、デジタルレイバーを導入しても期待する「業務の改革」にはたどり着けない。まずは、経営の考える目的・目標をしっかりと把握して、それを実現するための業務改善の方向性(QCD※1)を定めることが重要である。

そして、それを実現させるために、ペーパーレスによるデジタル化を前提とした「ローコスト」「スピードアップ」「リアルタイム」の設計を心掛けることが重要である。

このペーパーレスにおいて、すぐにも着手できる改善は、紙ベースで処理される帳票や資料について、まずは紙で保存する方法をやめることはできないか考えてみること。もちろん、これまでずっと紙ベースで業務を続けてきたわけだから、すぐにやめられないのも理解できる。しかし、そこでつい「OCR化で凌いでしまおう」なる甘い囁きに乗っかってしまえば、改善の機運は一向に高まらない。旧資料の“保存・保管”のためのOCR化ならばともかく、業務改善においては心を鬼にして、「廃止」「削減」を前提に簡素化することにまい進するべきである。

紙ベース処理の代替案となるのが、「ワークフロー化による印鑑の廃止」「デジタル契約書による印紙レス」「キャッシュレス」「領収書の電子化」なる合わせ技である。

むろん、これらアプリ連携は、RPAのお手の物である。特にワークフロー化は、ルールに基づいて申請が回ってくるので、イレギュラー以外はRPAに承認させてしまえばよい。もちろん、RPAは妥協もネゴも受け付けないので、けん制機能(ガバナンス)も向上される。

RPAでやって成せないことはない!?

ペーパーレスによるRPA化に併せて切り込んでいただきたいのが、思考業務の“見える化”である。

「思考をRPA対応するのは無理だ」と思う方もいるかもしれない。しかし、どんな思考業務でもまっさらなところから始まっている業務だけとはかぎらない。どこからか参考資料、情報を引っ張ってきているケースも存在する。
例えば、過去の対処事例のまとめ・作業手順メモ・作業時間メモ・ケーススタディ・マニュアルなど、「どこから何をもってきて、どのように活用し思考業務が成立したのか?」を詳細に追求していけば、その思考業務の中に、一定の割合でルーティン業務が存在することに気づくはず。そこをRPA化することによって、空いた時間で更なる思考の平準化に取り組んでいくと、やがて、AIやディープラーニングを導入できるような素地が出来上がる。

デジタル手続法(デジタルファースト法)とは

行政手続きを原則デジタル化する「デジタル手続法(デジタルファースト法)」が2019年5月24日、参院本会議で可決、成立した。内容を簡単にまとめると、政府および役所関連はBCP※2対策含めペーパーレス化して、すべてデジタルで完結できる世界に移行することを目論んでいる。その具体的な取り組みとしては、印鑑レス、印紙レス、役所情報のAPI連携、各種証明書の電子化、キャッシュレスなどだが、デジタル移行への並々ならぬ覚悟が見てとれる。

いずれにせよ、「ローコスト」「スピードアップ」「リアルタイム」の設計をデジタルに仕掛けていく必要性が出てきたことは確かである。

※1 Quality(品質),Cost(人件費),Delivery(納期)

※2 Business Continuity Planning:事業継続計画。災害など緊急事態への備え。

執筆者プロフィール

池邉 竜一氏

池邉 竜一一般社団法人日本RPA協会 理事

キューアンドエーワークス株式会社代表取締役社長。
1971年12月生まれ。大分県出身。慶應義塾大学経済学部卒業。
1999年7月、人材派遣業の株式会社アークパワー設立。2001年4月、同社代表取締役就任。2013年4月、キューアンドエーグループ傘下(NECネッツエスアイ連結対象会社)となり、2015年7月、キューアンドエーワークス株式会社に社名変更。エンジニア育成・派遣事業を中心に、テクニカル系コールセンターへの派遣、RPA市場においては業務改革(BPR、BPM)を通じてさまざまな人材の活躍の場を作り、新たな労働力の創出に取り組む。2016年7月、一般社団法人日本RPA協会の理事に就任。