人事・総務コラム

第2回 「人的資本開示義務」を人的資本
経営に繋げ成果を挙げるためには?

コラム執筆者:小寺 昇二氏掲載日:2024年1月10日

第2回 「人的資本開示義務」を人的資本経営に繋げ成果を挙げるためには?

前回(第1回)では、今年度よりスタートした人的資本開示の義務化の日本企業における意義、そして、開示がきっかけとなって人財育成が進み経営が変わっていく未来について展望しました。2回目である今回では、前回を受けて、より具体的に「開示」をどのように行い、経営を変えていく方法について述べたいと考えています。

1.人的資本開示の状況

2023年3月期決算企業から始まった上場企業の「人的資本開示の義務化」については、以下の状況かと思います。

  • まだ開示が済んでいない企業(概ね10月~1月決算期企業)も既に有価証券報告書での開示内容はほぼ固まり、「開示義務化元年」は一巡した感じになっている。
  • 開示には対応し、「とりあえず対応した」という安堵感はあるものの、「どのように開示すれば良いか」といった混乱、戸惑いはまだまだ続いている。
  • 但し、開示された内容を俯瞰すると、企業の裁量に委ねられた開示内容はおろか、定められた数値での開示ですら対応が満足に出来ていない企業もあり、ペナルティはないとしても今後の開示に関する浸透などが望まれるところとなっている。
  • 本来の開示対象である「投資家」目線で言うと、投資家が満足するような、今後の経営改善に繋がるような人的資本に関する運営状況を明確に示せている企業は極めて稀と言って良さそう。
  • ただ、当局としても、徐々に開示内容のレベルアップが図られ、人的資本経営に近づいていくことを目論んでいると思われ、企業における今後の取り組みへのプレッシャーは増していくものと想像される。

一言で言って、「まだまだ模索中」と言ったところでしょうか。

2.2回目開示において求められる方向性

では、今後2年目に入っていく「開示」については、どのようにレベルアップを図っていけば良いのでしょう?

まずは、人財を大事に考え、人を起点に経営を改善していく「人的資本経営」に関して、自社のイメージを、従業員と一緒に明確にしていくことがスタートポイントとなります。実際問題として、今年度の「開示」が確たるものになっていないのは、単に「開示の方法、テクニック」が見いだせないということだけではなく、その背後にある根本的な問題、すなわち各社が「自社ならではの人的資本経営」に関してイメージを描き切れていないことが主因ではないでしょうか。今年度の開示にあたっても、「グッド・プラクティス」と讃えられた企業群は、皆以前より人的資本経営を推進していて、その実体が明確になっている会社ばかりです。

今一度、この「開示の義務化」に関して、「なぜ政府・取引所、そして投資家」が求めているのかという原点に還り、自社の人的資本に関する現状を見つめ、その変革のあり方を描くための努力が重要なのだと思います。

そうした自社の「人的資本経営の姿」が明確になれば、次に、それを投資家に示していく開示の方法の改善について検討していくことになります。 「自社の人的資本の姿」が明確になっておらず、それは今後徐々に詰めていくとしても、開示は毎年継続する必要があるので、「どのように継続していくか」「継続しながら改善していくのか」は全上場企業の2年目の課題となってきます。

ポイントは以下の2点です。

  • ①KPIの設定と、そのKPIを改善していく方法についてのコンセンサスの形成と施策
  • ②KPIを継続的に開示していく上でのデータの整備、KPIのレビューのためのロジックとデータの手当て

KPIの設定は、そのこと自体が経営戦略とも言えるわけであり、毎年の開示の際にPDCA的に改善度合いについて、投資家を始めとするステークホルダーに示していかなければなりません。人事や経営に関する、しっかりしたデータベースやシステムの存在が重要になってきます。そして同時に、表面的なデータの背後にある経営の実態を都度分析し、レベルアップを図っていくことになります。

3.実効性のある開示に向けて

今年度から始まった人的資本開示は、「義務化」されているので、上場企業であれば否応なしに対応をしていかなければいけないわけですが、開示という「手段」が「目的化」することなく、経営の改善と従業員のウェルビーイングに資するものとなるような「実効性のある」形での、「開示」そしてその継続的な運営が必要なのです。

執筆者プロフィール

小寺 昇二

小寺 昇二

(株)ターンアラウンド研究所 共同代表 主席研究員

1955年生まれ、都立西高校、東京大学経済学部を経て、1979年第一生命入社。企業分析、ファンドマネジャー、為替チーフディーラー、マーケットエコノミスト、金融/保険商品開発、運用資産全体のリストラクチャリング、営業体制革新、年金営業などを経験。
2000年ドイチェ・アセットマネジメントを皮切りに、事業再生ファンド、CSRコンサルティング会社(SRI担当執行役員)、千葉ロッテマリーンズ(経営企画室長として球団改革実行)、ITベンチャー(取締役CFO)、外資系金融評価会社(アカウントエグゼクティブ)、IT系金融ベンチャー(執行役員)、旅行会社(JTB)と転職を重ね、様々な業務を経験し、2015年より埼玉工業大学教授(現在、非常勤講師)
(公社)日本証券アナリスト協会認定アナリスト、国際公認投資アナリスト。
著作に「実践スポーツビジネスマネジメント~劇的に収益性を高めるターンアラウンドモデル~(2009年、日本経済新聞出版)、「徹底研究!!GAFA」(2018年 洋泉社MOOK 共著)など。
HR関係のウェブメディア「HRプロ」(下記URL)で連載中
https://www.hrpro.co.jp/column_list.php?series_id=181

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